
- 相続税申告時に税務署に目をつけられる人の特徴
- 相続税申告時に税務署に目をつけられないようにする方法
故人に遺産が多い場合や借金を遺していた場合は、税務署から目をつけられやすく税務調査のリスクが上がってしまいます。
相続税の税務調査では、相続税を正しく申告しているか、すべての遺産が正確に申告されているかを確認するからです。
加えて、相続税の税務調査が行われると、高確率で申告ミス・漏れや無申告を指摘されるのでご注意ください。
相続税の税務調査を避けたいのであれば、税務署に目をつけられないように相続税申告を税理士に依頼するのも良いでしょう。
本記事では、相続税申告で税務署に目をつけられやすい人の特徴を解説します。
1章 相続税の税務調査とは
相続税の税務調査とは、相続税申告書の内容が正確であるかを税務署が確認するために行われる調査です。
相続税の税務調査では、①相続税が正しく計算されているか、②資産や負債が正確に申告されているかを主に確認します。
本章では、相続税の税務調査の内容や調査が入る確率、入りやすい時期を確認していきましょう。
1-1 調査内容
相続税の税務調査では、①相続税が正しく計算されているか、②資産や負債が正確に申告されているかを中心に調査します。
具体的には、下記の内容を調査することが多いです。
- 遺産の全容について
- 故人が遺した債務の有無、金額について
- 相続税の控除や特例の適用状況
なお、相続税の税務調査は①任意調査と②強制調査に分けられます。
行われるのは原則として任意調査ですが、悪質な脱税が疑われる場合は、強制調査となるのでご注意ください。
1-2 調査が入る確率
相続税の税務調査が入る確率は決して低くなく、申告件数に対して約10~20%程度行われることが多いです。
例えば、令和4年の相続税の申告状況および税務調査件数は、下記の通りです。
①相続税の申告書の提出に係る被相続人の数 | 150,858人 |
②相続税の実地調査件数 | 8,196件 |
③簡易な接触件数 | 15,004件 |
②+③/① (相続発生件数に対する相続税の税務調査が行われる割合) | 約15.3% |
参考:令和4年事務年度における相続税の調査等の状況
参考:令和4年分 相続税の申告実績の概要
簡易な接触件数とは、電話や文書などで行われる相続税のお尋ねです。
なお、相続税の税務調査が行われた場合、申告漏れや無申告が指摘される可能性は非常に高いです。
①相続税の実地調査件数 | 8,196件 |
②申告漏れ等の非違件数 | 7,036件 |
②/① (相続税の実地調査が行われた際に申告漏れ等を指摘される割合) | 約85.8% |
1-3 調査が入りやすい時期
相続税の税務調査は毎年8月から12月頃に行われることが多いです。
理由としては、税務署のスケジュールが関係しており、下記のように8月から12月は税務署の業務が比較的落ち着いている時期だからです。
時期 | スケジュール |
1月から3月 | 確定申告 |
6月 | 年度末 |
7月 | 年度の切り替え 人事異動 |
8月から12月 | 比較的落ち着いていて、税務調査を行いやすい |
上記のように、1月から4月にかけては税務署は確定申告業務や人事異動によって忙しい時期が続きます。
税務調査まで手が回らないのが現状であり、比較的業務が落ち着いてい8月から12月に税務調査が実施される傾向にあります。
2章 相続税申告時に税務署に目をつけられる人の12の特徴
相続税の税務調査が入る確率は10~20%であり、中でも税務署に目をつけられる人や状況はある程度決まっています。
相続税申告書に不備があるケースや遺産が多い場合は、税務署に目をつけられやすいのでご注意ください。
具体的には、下記の特徴に該当する場合は、税務署に目をつけられやすいと理解しておきましょう。
- 相続税の申告書に不備がある
- 相続した遺産の金額が大きい
- 遺産に預貯金・現金が多く入出金が多い
- 遺産に多額の借金が含まれる
- 亡くなった人が暦年贈与を繰り返していた
- 名義預金が疑われる
- 遺産に海外資産が多い
- 亡くなった人の生前の所得と相続税申告の内容が合わない
- 家族や親族に資産が多い場合
- 亡くなった人が上場企業社長や重役だった
- 相続人が相続税申告した
- 相続税を申告していない
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 相続税の申告書に不備がある
相続税申告書に記載ミスや計算間違いがある場合、税務署からのチェックが厳しくなる可能性があります。特に、以下のようなケースは税務署に目をつけられる可能性が高くなってしまいます。
- 不動産や株式の評価額が過小申告されている
- 必要な添付書類が不足している
- 明らかに誤った控除や特例を適用している
なお、申告書の不備が単なるミスではなく、遺産隠しなどの脱税が疑われる場合はペナルティが重くなるのでご注意ください。
相続税の申告をミスなく行うには、相続に精通した税理士に申告を依頼することも検討しましょう。
2-2 相続した遺産の金額が大きい
相続財産の総額が大きいほど、税務署の関心を引く可能性が高くなると理解しておきましょう。
遺産が高額であればあるほど、相続税申告にミスが発生しやすい、評価額の計算に不備がある可能性が高いと考えられるからです。
下記のケースは、相続税の税務調査のリスクについて注意しておきましょう。
- 数億円以上の遺産を相続した場合
- 複数の不動産や多額の金融資産を所有している場合
不動産や非上場株式など評価が難しい遺産を相続した場合、相続に精通した税理士に申告を依頼するのがおすすめです。
2-3 遺産に預貯金・現金が多く入出金が多い
遺産に占める預貯金や現金の割合が高い場合も、税務署が注目する理由のひとつとなります。
特に、故人の口座に多額の入出金が記録されていると、不自然な取引がないか遺産隠しがないかを疑われる恐れがあります。
- 故人の死亡直前に高額な現金が引き出されている
- 不明な送金先への出金履歴がある
このような場合、取引の正当性を証明する記録や領収書を提出できるように準備しておきましょう。
2-4 遺産に多額の借金が含まれる
遺産に多額の借金が含まれている場合も、税務署は「虚偽申告」を疑う場合があります。
故人の借金は相続税の債務控除の対象になり、借金が多ければ多いほど相続税の負担を軽減できるからです。
特に、下記の場合は税務署に目をつけられやすいのでご注意ください。
- 借金の目的が不明である
- 借金の内容、金額が他の遺産と矛盾している
例えば、多額の預貯金があるにもかかわらず、故人が借金をしている場合、借金を多く申告しようとしているのではないかと疑われます。
相続税申告で債務控除を適用する場合は、税務署からの指摘に備え、借入金の証拠書類を用意しておきましょう。
2-5 亡くなった人が暦年贈与を繰り返していた
故人が生前に多額の暦年贈与を行っていた場合も、税務署が目をつけやすくなります。
暦年贈与を繰り返すことは合法ですが、下記の可能性があるからです。
- 実質的にひとつの贈与であり、定期贈与とみなされるケース
- 贈与の一部が未申告である
税務署は、暦年贈与が複数の贈与の繰り返しではなく、ひとつのまとまった贈与として判断されると、暦年贈与ではなく定期贈与として扱われます。
定期贈与の場合、贈与税の基礎控除を110万円しか適用できなくなるのでご注意ください。
過去の贈与について税務署から指摘を受けるのを避けるためには、当時の記録や贈与契約書を保管しておくことが大切です。
2-6 名義預金が疑われる
故人が名義預金を作成していたと疑われるケースも、税務署から目を付けられる可能性が上がります。
名義預金とは、形式的には他人名義になっているものの、実際には故人が管理していた銀行口座です。
名義預金は、口座名義人の資産ではなく故人の資産として扱われます。
したがって、名義預金が発見された場合、高確率で相続税の申告漏れも指摘されてしまいます。
名義預金と判断されるケースは、主に下記の通りです。
- 亡くなった人が預金の資金源だったケース
- 預金の管理者が亡くなった人だったケース
- 名義人や親権者が預金の存在を知らなかったケース
- 名義人や親権者が贈与を受けたと認識していなかったケース
名義預金とされないようにするには、贈与後の預金管理を故人ではなく受贈者本人が行う必要があります。
2-7 遺産に海外資産が多い
遺産の中に海外資産が含まれる場合、税務署に目をつけられやすくなるのでご注意ください。
相続税の負担を軽くするため、遺産を隠すために海外に資産を移しているのではないかと疑われてしまうからです。
なお、1回あたり100万円を超える海外への送金、海外からの入金が行われると、金融機関から税務署に対して情報が共有されます。
したがって、日本の資産を海外に移転させて遺産を隠すことはできません。
故人が生前、海外へ送金しているにもかかわらず、相続税申告書に海外資産についての記載がないと遺産隠しを疑われ、税務調査の対象になりやすくなります。
2-8 亡くなった人の生前の所得と相続税申告の内容が合わない
故人の生前の所得に対して、相続税申告書に記載された遺産の金額が余りに少ない場合も、税務署から目をつけられやすくなります。
他にも、故人の生前の所得の種類と、相続税申告書に記載されている遺産の種類が合わないときも税務調査の対象になりやすいです。
例えば、故人が不動産所得を生前申告していたにもかかわらず、遺産に不動産が含まれないケースなどが該当します。
2-9 家族や親族に資産が多い場合
故人だけでなく、家族や親族に資産が多い場合も、相続税申告の内容が詳しく見られます。
相続税の節税対策として、生前贈与が行われているのではと疑われるからです。
この場合、過去の生前贈与の有無について調査され、贈与税が無申告だった場合、贈与税もしくは相続税の追徴課税が課されます。
2-10 亡くなった人が上場企業社長や重役だった
故人が上場企業の社長や役員だった場合も高収入のケースが多いため、税務署から目をつけられやすくなります。
2-11 相続人が相続税申告した
相続税申告を税理士に依頼せず、相続人が自ら申告書を作成した場合も、税務調査の可能性が上がります。
相続税の計算や申告には、専門的な知識が必要になるときも多いからです。
特に、不動産や非上場株式の評価は複雑であり、相続や税金についてそれほど詳しくない人が計算するとミスしてしまう可能性も高いです。
そのため、税理士が相続税申告を行った場合よりも、税務署に目をつけられやすくなってしまいます。
2-12 相続税を申告していない
相続税申告が必要なのに、相続税を申告していないケースも、税務調査が行われる可能性が高いです。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されており、遺産総額が基礎控除内であれば相続税の申告や納税は不要です。
- 相続税の計算を間違えており、基礎控除内に収まると勘違いしてしまったケース
- 小規模宅地等の特例や相続税の配偶者控除を適用して、相続税が0円になり申告不要だと思ってしまったケース
上記のように、遺産隠しや脱税をするつもりがなくても、相続税を申告しないでいるケースもあり得ます。
相続税が必要かどうかわからない場合、本当に不要か心配な場合は、一度相続に精通した税理士に相談してみるのが良いでしょう。
3章 相続税申告時に税務署に目をつけられないようにする方法
相続税申告時に税務署に目をつけられないようにするには、申告書をミスなく作成する、そもそも自分で申告せず税理士に依頼するなどの対策をしておきましょう。
税務署に目をつけられないようにするには、下記の対策がおすすめです。
- 相続税を正しく申告する
- 相続税申告を税理士に依頼する
- 相続財産調査を漏れなく行う
- 相続・贈与に関するやり取りは記録として残しておく
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 相続税を正しく申告する
当たり前の話になりますが、税務署から目を付けられたくなければ、相続税を正しく申告しましょう。
- 申告漏れがないように、相続財産調査を念入りに行う
- 計算ミスがないように、何度も確認をする
上記の工夫で相続税の申告ミスを減らせるはずです。
3-2 相続税申告を税理士に依頼する
相続税申告を自分で行うのではなく、税理士に依頼するのもおすすめです。
相続税申告を税理士に依頼すると、相続税の申告書に担当税理士の署名を入れてもらえます。
「署名入りの申告書=相続税の申告ミスの可能性は低い」と税務署に判断してもらえるため、税務調査が入る確率を下げやすくなります。
ただし、税理士の業務範囲は多岐にわたるため、中には相続税申告に詳しくない税理士もいます。
相続税申告を税理士に依頼するのであれば、ホームページなどを確認し過去の相続税申告実績などを確認しておきましょう。
3-3 相続財産調査を漏れなく行う
相続税申告に漏れがないようにするには、申告書作成の前段階である「相続財産調査」を漏れなく行いましょう。
例えば、下記の理由などで相続財産調査に漏れが発生してしまう場合もあります。
- 故人が若いときに使用していた地方銀行の口座を遺族が把握していなかった
- 自宅の前の私道を遺産に含めていなかった
- 故人の父親が死亡したときに田舎の山林を相続したことを遺族が知らなかった
相続財産調査を漏れなく行いたいのであれば、相続に詳しい司法書士や行政書士に相続財産調査を依頼するのもおすすめです。
3-4 相続・贈与に関するやり取りは記録として残しておく
相続対策として生前贈与を受ける場合、贈与契約書などの記録を残しておきましょう。
記録が残っていないと、本当に贈与が行われたのか、単なる名義預金ではないのかなどと疑われるリスクがあるからです。
家族間の贈与や贈与税がかからない贈与であっても、必ず贈与契約書を残しておくことで将来トラブルを回避しやすくなります。
まとめ
相続税の税務調査に入られる確率は例年10~20%程度であり、税務調査が入ると高確率で申告漏れ・ミスや無申告を指摘されて今います。
そのため、ミスなく相続税申告を行うことや税理士に申告業務を依頼して、そもそも税務署に目をつけられないように工夫することが大切です。
また申告漏れが起きないようにするためには、相続財産調査を漏れなく行う、過去の贈与の記録を残しておくなども重要となってきます。
相続財産調査には専門的な知識や経験が求められる場合もあるので、ミスなく確実に行いたい場合は、相続に詳しい司法書士や行政書士に相談してみましょう。
グリーン司法書士法人では、相続財産調査についての相談をお受けしています。
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