相続税の時効は「申告期限から5年」であり、時効を迎えるまでは税務調査が来る可能性があります。
しかし、相続税の税務調査が来やすい時期はある程度決まっており、税務調査が最も来やすい時期は「申告書を提出した後の8月から12月」です。
8月から12月は税務署の人事異動や確定申告に関する業務が落ち着くため、税務調査を行いやすい時期とされています。
また、申告書提出から時効を迎えるまでは徐々に税務調査が来る確率は下がる傾向にあります。
そのため、相続税の申告書を提出して1~2年間は税務調査が来る可能性を考慮しておくと良いでしょう。
なお、相続税の税務調査は令和3年は6,317件も行われ、その内の約87%が申告漏れなどを指摘されています。
税務調査が来て追徴課税を受けるのを避けたいのであれば、相続税申告を税理士に依頼する、財産調査を漏れなく行うなどの対策も必要です。
本記事では、相続税の税務調査が来やすい時期について解説します。
目次
1章 相続税の税務調査時期は8月から12月頃が多い
一般的には、相続税の税務調査は毎年8月から12月頃に行われることが多いです。
税務調査が8月から12月に行われやすい理由は、税務署のスケジュールが関係しており、年間スケジュールは下記の通りです。
時期 | スケジュール |
1月から3月 | 確定申告 |
6月 | 年度末 |
7月 | 年度の切り替え 人事異動 |
8月から12月 | 比較的落ち着いていて、税務調査を行いやすい |
上記のように、1月から4月にかけては税務署は確定申告業務や人事異動によって忙しい時期が続きます。
税務調査まで手が回らないのが現状であり、比較的業務が落ち着いてい8月から12月に税務調査が実施される傾向にあります。
1-1 時効が近づくにつれ税務調査が来る可能性は下がる
相続税には「申告期限より5年以内」の時効が設定されています。
そのため、相続税の時効が近づくにつれ、税務調査が来る可能性も下がってくると予想できます。
具体例とともに確認してみましょう。
時期 | 備考 |
2023年4月1日 | 相続発生日(死亡日) |
2024年2月1日 | 相続税の申告期限 |
2024年2月2日から2029年2月1日 | 税務調査が来る可能性がある期間 |
2024年8月1日から2024年12月31日 | 税務調査が来る可能性が最も高い時期 |
上記のケースのように、申告書を提出して最初に向ける8月から12月は最も税務調査が来る可能性が高いといえます。
しかし、相続税の時効を迎える「申告期限から5年間」までは税務調査が来る可能性を否定できないので気が抜けません。
また、わざと相続税の申告漏れをしているケースや脱税をしているケースでは時効が5年から7年に延長される点にも注意が必要です。
2章 相続税の税務調査の流れ
相続税の税務調査は連絡を受けた後、1~2日で行われます。
調査終了後は結果を受け取るまで3週間ほどかかるため、トータルで1ヶ月程度かかると見積もっておきましょう。
ただし、調査財産が多い場合や調査内容が多い場合は、税務調査完了までさらに時間がかかる可能性もあります。
相続税の税務調査は下記の流れで行われます。
- 税務調査の連絡を受ける
- 調査当日
- 調査結果を受け取る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
STEP① 税務調査の連絡を受ける
脱税の疑いがない一般的な税務調査の場合は捜査官が突然やってくる「強制捜査」ではなく、「任意調査」が行われます。
そのため、税務調査が行われる際には、税務署から連絡が届き日時と場所の調整をします。
税務署からの連絡は、相続税申告を税理士に依頼した場合は担当税理士宛、自分で行った場合は相続人宛に届きます。
調査は故人の自宅で行われることが多く、連絡を受けた段階では日時と場所を決定するのみとなります。
具体的な調査内容が明かされることはありません。
STEP② 調査当日
調査当日は午前中は相続人へのヒアリング、午後は財産の実物の調査が一般的です。
相続税の税務調査は1日で行われることがほとんどですが、調査状況によっては2日間にわたって行われることがあります。
午前と午後の調査内容について、詳しく見ていきましょう。
午前
調査当日は午前10時に税務署の職員が来て、相続人へのヒアリングを行います。
具体的には、下記の内容をヒアリングされることが多いです。
- 亡くなった人の家族関係
- 出生から亡くなるまでの居住地
- 趣味
- 仕事
- 生活費
- 相続人に関する情報
緊張してしまうかと思いますが、嘘をついても午後の財産調査でバレてしまう可能性が高いので絶対にやめましょう。
また税務調査はあくまでも故人の財産に関する調査であり、相続人ではわからない内容は「知らない」と回答して問題ありません。
相続税の税務調査で質問される内容については、本記事の3章で詳しく解説しています。
午後
午後の調査は通帳や金庫、印鑑などの貴重品や遺産の現物確認を中心に行います。
通帳に関しては細かく内容を確認され、通帳に書かれているメモや預貯金の動きから、税務署の職員が相続税や贈与税の申告漏れを発見しようとします。
相続人が把握していなかった贈与や名義預金が発見されることを防ぐためにも、相続人は税務調査の前や申告時点で故人の通帳の中身は確認しておくと安心です。
STEP③ 調査結果を受け取る
実地調査の完了後は税務署の職員が申告内容に誤りがないか、最終的な確認をします。
確認完了までは3週間程度かかるケースが多く、完了後は税務署から連絡が届きます。
申告内容に誤りがあった場合は修正申告書の作成および提出をし、提出後は税務署から届く延滞税や過少申告加算税を支払いましょう。
万が一、税務調査の内容に納得がいかない場合は、相続人が税務署に異議申し立てを行うことも可能です。
異議申し立てにより解決できない場合は、国税不服審判所へ審査請求、訴訟と手続きを進める必要があります。
自分で異議申し立てや審査請求を行うのは現実的ではありませんので、相続税に詳しい税理士に相談しながら行うのが良いでしょう。
3章 相続税の税務調査で質問される内容
税務調査では通帳や金庫の確認などの実地調査だけでなく、相続人に対しても質問が行われます。
税務調査時に職人から行われる質問で多いものは、主に下記の通りです。
- 亡くなった人がどのように財産を築いたか
- 亡くなった人の出身地や職業、家族構成や結婚時期
- 亡くなった人の居住歴
- 亡くなった人の生活費
- 亡くなった人の趣味
- 亡くなった人の印鑑が保管されている場所
- 亡くなった人の貸金庫の有無や場所、中身
- 亡くなった人が両親の相続を受けていたか
- 亡くなった人の介護、入院費用
- 亡くなった人が生きていたときの財産管理方法
- 相続開始前に亡くなった人の預貯金を引き出した場合はその使い道
- 亡くなった人の配偶者の出身地や職業
- 亡くなった人の配偶者の生活費
- 亡くなった人の配偶者の資産状況
- 相続人(配偶者以外)の職業や家族構成
- 相続人(配偶者以外)の資産状況
- 相続人(配偶者以外)の不動産の購入歴や売却歴
- 生前贈与の有無や内容、時期
上記の質問に関しては、あらかじめ回答を用意しておくと税務調査当日もスムーズに対応できるでしょう。
また、相続人と亡くなった人の関係によっては回答できないものもあるはずです。
亡くなった人しか知り得ない情報は無理して回答する必要はなく、聞かれた質問以外には答えず余計な情報を与えないようにすることも大切です。
4章 相続税の税務調査が来やすい人の特徴
相続税申告を税理士に依頼せず相続人が行った場合など、税務調査が来やすい人の特徴はある程度決まっています。
相続税の税務調査が来やすい人の特徴は、主に下記の通りです。
- 相続税申告を自分で行った
- 相続税がかかるのに申告をしていない人
- 相続税納税額や遺産が多い人
それぞれ見ていきましょう。
4-1 相続税申告を自分で行った
相続税申告を税理士に依頼せず、相続人が自分で行った場合は申告書の不備も起きやすいため、税務調査の対象になりやすいです。
税務調査が来る確率を少しでも軽減したいのであれば、相続税申告を税理士に依頼するのが良いでしょう。
また、税理士に相続税申告を依頼すれば、利用できる控除や特例を漏れなく適用できるため、相続税を最大限節税できる点もメリットです。
4-2 相続税がかかるのに申告をしていない人
相続税が発生しているのに対し、申告書を提出していない人も税務調査の対象になりやすいです。
相続税は固定資産税などの税金と異なり、自分で申告書を作成、提出する必要があります。
相続税には「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」など節税効果が大きい控除や特例があります。
このような控除や特例を使用して相続税額が0円になった場合も、申告は必要なのでご注意ください。
相続税の申告をしていない場合は、下記のように税務署が疑い税務調査が行われやすいです。
- 相続財産に漏れがないか
- 控除や特例の計算方法を間違えていないか
- 申告が必要な控除や特例を使用したにもかかわらず、申告を忘れていないか
相続税の申告漏れや申告忘れを防ぐためには、相続税に精通した税理士に相続税申告を依頼するのが確実です。
税理士であれば、控除や特例の計算から申告書作成や提出まで一括で対応可能です。
4-3 相続税納税額や遺産が多い人
提出した申告書に目立った問題がなくても、遺産が多いケースや相続税の納税額が高いケースでは税務調査が行われる可能性があります。
相続税は累進課税制度が採用されているため、遺産や納税額が多い人の申告書の不備を指摘すれば追徴課税の金額も大きくなるからです。
また、遺産が多い人は相続財産の漏れも発生しやすく、計算ミスが起きる可能性も上がります。
このような理由から、遺産が多い人や相続税の納税額が高い人は相続税の税務調査の対象になりやすいです。
5章 相続税の税務調査を避ける方法
相続税の税務調査は年間数千件程度行われ、税務調査を受けると約8~9割は申告漏れなどの指摘を受けます。
税務調査の手間や追徴課税などのペナルティを避けるためには、相続税申告を税理士に依頼するなどの対策も必要です。
相続税の税務調査を避ける方法を詳しく見ていきましょう。
5-1 相続税に詳しい税理士に申告を依頼する
相続税の申告書は自分で作成もできますが、相続に詳しい税理士に作成してもらった方が税務調査が来る確率を減らせます。
相続税申告書を税理士が作成した場合は、計算ミスも防げますし、申告書に税理士の署名を記載してもらえます。
また万が一、税理士に依頼したにもかかわらず税務調査の対象になった場合も、税理士が相続人のかわりに職員への対応を行ってくれます。
このように、税理士に相続税調査を依頼すれば税務調査のリスクを減らせるだけでなく、税務調査対応まで一括して任せられるのがメリットです。
5-2 相続財産調査を漏れなく行う
相続税の税務調査をできるだけ避けたいのであれば、相続財産の調査を漏れなく確実に行いましょう。
相続財産に漏れが発生すると、申告書の内容や相続税額に不備が生じ、税務調査の対象となりやすいからです。
相続税の申告期限は「相続開始から10ヶ月以内」であり、故人が遺した財産の種類や金額によっては相続人が漏れなく調査を行うことが難しい可能性もあります。
その場合は相続を専門とする司法書士や行政書士に依頼すれば、相続財産調査やその後の遺産分割協議まで一括で対応してもらえます。
まとめ
相続税の税務調査が来やすい時期はある程度決まっており、8月から12月頃は税務調査が多くなりやすいです。
そのため、相続税の申告書を提出した後の最初の8月から12月は税務調査が来る可能性を考慮しておくと良いでしょう。
なお、相続税の申告書を相続人が作成した場合や申告書自体を提出していない場合は、税務調査の対象となりやすいです。
税務調査が来る可能性を少しでも下げたいのであれば、税理士に申告書の作成を依頼する、相続財産の調査を漏れなく行うなども大切です。
グリーン司法書士法人では相続財産の調査に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料ですし、信頼できる税理士の紹介も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。