相続税の債務控除とは?対象になるもの・ならないものを紹介

相続税の債務控除とは?対象になるもの・ならないものを紹介
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司法書士中川 徳将

 監修者:中川 徳将

この記事を読む およそ時間: 6

相続税の債務控除とは相続税を計算する際に、亡くなった人が遺した借金を遺産から控除して課税対象額を算出することです。
相続税は累進課税制度を採用しており、課税対象となる遺産が高額になればなるほど税負担が重くなります。

相続税の負担を少しでも軽くするために、故人が遺した借入金や未払費用は漏れなく債務控除するのが良いでしょう。
ただし、故人名義の支払いであっても債務控除できない費用も中にはあるのでご注意ください。

本記事では、相続税の債務控除とは何か、対象になる費用、ならない費用を解説します。

なお、相続税や債務控除の計算をする際には、相続財産調査を行う必要があります。
相続財産調査については、下記記事で詳しく解説しているのでご参考にしてください。

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1章 相続税の債務控除とは

相続税の債務控除とは相続税を計算する際に、亡くなった人が遺した借金を遺産から控除して課税対象額を算出することです。
相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金や葬式費用などマイナスの財産も含まれます。

例えばプラスの相続財産が預貯金5,000万円であり、故人が遺した借入金が1,000万円であれば、債務控除により相続税の課税対象額は「5,000万円-1,000万円=4,000万円」と計算可能です。

なお、故人が遺したすべての借金や未払費用が債務控除の対象になるわけではなく、債務控除できる費用や借金に関しては細かくルールが設定されています。
次の章では、相続税の債務控除の対象となる費用を詳しく見ていきましょう。

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2章 債務控除の対象になる費用

相続税を計算する際に債務控除できる借入金や費用は「相続開始時点で存在し、確実に認められるもの」と限定されています。
具体的には、下記の借入金や未払費用は債務控除の対象です。

  1. 借入金
  2. 未払費用
  3. 葬式費用
  4. 未払税金
  5. 預かっていた敷金
  6. 家族信託による借入金

それぞれ詳しく見ていきましょう。

2-1 借入金

金融機関や知人などからの借入金は相続開始時点で確実に債務として存在しているため、債務控除の対象になります。
なお、故人の借入金を債務控除する場合は相続開始日(死亡日)時点の残高および未払利息が対象になります。

一方で、下記に該当する借入金は債務控除の取扱いが複雑になるので、ご注意ください。

借入金の種類債務控除の取扱い
連帯債務
  • 亡くなった人が負担すべき金額のみが債務控除の対象となる
  • 残りの連帯債務者が返済不能な状況になった場合は残りの負担部分も債務控除の対象となる
保証債務
  • 原則として債務控除できない
  • 主たる債務者が返済不能であり、保証人である故人が返済義務を負う場合かつ主たる債務者から返還見込みがなければ債務控除できる
団体信用保険(団信)付の住宅ローン故人が亡くなった時点で団信により住宅ローンの返済義務がなくなるため、債務控除できない

連帯債務とは1つの債務に対して債務者が複数人いて、それぞれが独立して全責任を負う債務です。
他の債務者が返済可能な場合は、故人が負担すべき金額のみが債務控除の対象となります。
一方で、他の債務者が返済不能となった場合は故人が残りの返済義務を負うので、残りの部分に関しても債務控除可能です。

保証債務とは、主たる債務者が債務を返済できなくなったときに、故人が保証人として返済義務を肩代わりする債務です。
主たる債務者が滞りなく返済できている場合は、故人に返済義務はないため債務控除できません。
ただし、主たる債務者が返済不能になると保証人である故人が返済義務を負うため、故人の借入金として債務控除できます。

このように、故人が借入金を遺していた場合、借金の種類を見極め債務控除できるかの判断をしなければなりません。
また、故人の借入金の金額が大きい場合は相続放棄も含め検討しなければならないため、早い段階で相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。

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2-2 未払費用

故人が亡くなる前に治療、入院していた場合にかかった医療費などの未払費用も、債務控除の対象となります。
他にも、下記の未払費用などは債務控除の対象です。

  • 故人にかかった治療費や入院費
  • 故人が生前使用していた水道光熱費、電話料金
  • 故人が利用したクレジットカードの未払分

これらの費用は一つひとつは金額が小さいですが、債務控除の対象になるため支払明細や領収書などを保管しておきましょう。

また、これらの費用は遺産から支払うのではなく、遺族が自分の資産から支払うケースも珍しくありません。
遺族が支払ったこれらの費用を他の相続人と精算する、相続財産に上乗せしてもらうためにも、明細を保管しておくことが大切です。

2-3 葬式費用

葬式費用は亡くなった後に発生する費用ではあるものの、相続税の債務控除に含めることが認められています。
葬式費用として控除できるのは、亡くなってから葬儀、納骨までにかかる下記の費用などです。

  • お通夜や告別式にかかった費用
  • 葬儀の料理代
  • 火葬料や埋葬料、納骨料
  • 遺体の搬送費用
  • 葬儀場までの交通費
  • お布施や読経料、戒名料
  • 運転手への心付け
  • 手伝いをしてくれた人へのお礼
  • その他、通常の葬儀に伴う費用

一方で、下記の葬式費用は債務控除の対象にならないのでご注意ください。

  • 香典返し
  • 生花や盛籠など
  • 位牌や仏壇、墓石の購入費用
  • 法事(初七日や四十九日も含む)の費用
  • その他、通常の葬儀に伴わない費用

香典は故人のものではなく喪主のものとされているため、香典返しを債務控除の対象に含めることはできません。
また、位牌や仏壇、墓石に関しては葬儀に関する費用ではなく、遺族の供養に関する費用として扱われるため債務控除できません。

葬式費用の相場は約195万円と言われており、高額です。
漏れなく債務控除するためにも、葬式費用の請求書や領収書などは必ず保管しておきましょう。

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2-4 未払税金

故人にかかっていた税金に関しても、債務控除の対象となります。
具体的には、下記の税金を未払税金として遺族が支払い、債務控除するケースが多いです。

  • 固定資産税、都市計画税
  • 住民税
  • 所得税
  • 消費税(故人が自営業者の場合)

固定資産税は、1月1日時点で土地や建物などの不動産を所有している人に課せられる税金です。
そのため、年の途中に亡くなり相続が発生したとしても、未納分を債務控除できます。

住民税は所得税と異なり、前年の所得に応じて課せられる税金です。
年の途中に故人が死亡し相続が発生したとしても、納税義務が相続人に引き継がれ、債務控除の対象となります。

所得税および消費税は、年の途中で故人が亡くなり相続が発生した場合、相続開始から4ヶ月以内に相続人が準確定申告を行い、故人の所得税や消費税を計算、納税しなければなりません。

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2-5 預かっていた敷金

亡くなった人が不動産を賃貸していた場合、借主から預かっていた敷金は債務控除の対象となります。
敷金は債務であり、賃貸契約終了時に借主に返還するお金だからです。

なお、故人が不動産管理会社に賃貸経営を委託していて、敷金も不動産管理会社が預かっていた場合は、敷金を債務控除の対象に含めることはできません。

2-6 家族信託による借入金

家族信託を用いて借入をしていた場合、家族信託の契約内容によって債務控除できるかの取扱いが下記のように変わります。

契約内容債務控除の適用可否
受益者連続型信託債務控除できる
一代限り信託債務控除できない恐れがある

受益者連続型信託とは、委託者が亡くなっても家族信託の契約が終了せず、第二受益者が受益権や収益を生み出す資産、負債を相続したと考えられます。
そのため、通常の相続と同じように負債を受け継いだと判断され、借入金は債務控除可能です。

一方で一代限り信託では、委託者が亡くなると家族信託の契約が終了し、受託者が信託財産の清算手続きを行います。
清算手続き後は、契約によって決められた帰属権利者などに信託財産を分配します。

ただし、2023年時点の法律では清算手続き後の信託財産の分配では債務がないことを前提とされており、負債の相続については明記されていません。
そのため、一代限りで終了する家族信託では債務控除が認めてもらえない可能性があります。

このように、家族信託による借入金であっても、家族信託の内容によって債務控除を適用できるかが変わってきます。
家族信託は非常に専門的な知識が必要な分野なので、契約締結時から家族信託に精通した司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。


3章 債務控除の対象にならない費用

借入金や未払費用の多くが債務控除の対象となる一方で、故人の負債だったとしても下記に該当する費用は債務控除できません。

  1. お墓や仏壇を購入したときの未払費用
  2. 遺言執行費用
  3. 火災保険料

それぞれ詳しく見ていきましょう。

3-1 お墓や仏壇を購入したときの未払費用

お墓や仏壇などは祭祀財産に該当し、相続税の課税対象には含まれません。
そのため、故人が購入したお墓や仏壇の代金未納分に関しては債務控除の対象にならないのでご注意ください。

お墓や仏壇を購入するのであれば、未納分が債務控除できないことを踏まえ、生前のうちに現金一括購入しておくのが良いでしょう。

お墓には相続税がかからない!お墓購入で相続税対策するときの注意点

3-2 遺言執行費用

遺言執行費用は相続人が負担すべき費用とされ、相続税の債務控除の対象になりません。
遺言書に書かれた内容を実現するための遺言執行費用は、故人が亡くなり相続が発生した後にかかるお金だからです。

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3-3 火災保険料

亡くなった人が自宅や所有している不動産の火災保険に加入していた場合、支払った火災保険料は債務控除の対象になりません。
保険料は通常は前払いで支払うため、債務には該当しないからです。


4章 債務控除できない人

故人の遺産を受け継いだ人は原則として相続税の計算時に債務控除できますが、下記に該当する人物は債務控除できないのでご注意ください。

  1. 相続放棄をした人
  2. 制限納税義務者
  3. 特定受遺者

それぞれ詳しく見ていきましょう。

4-1 相続放棄をした人

相続放棄をすると相続人としての地位を失い、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなります。
そのため、相続放棄した人が葬式費用を支払っていたとしても、債務控除できないのでご注意ください。

ただし、相続放棄した人が葬式費用を負担しており遺贈によって財産を受け継いだ場合は、遺贈により取得した財産から葬式費用を債務控除できます。
相続放棄した人が葬式費用を債務控除できるケースは限定的であり、自分で判断するのが難しい場合もあります。

また葬式費用の金額によっては、葬式費用を遺産から支払うと相続放棄できなくなる恐れもある点にも注意しなければなりません。
このように、相続放棄については判断が難しく、間違えてしまうとデメリットが非常に大きいので相続放棄に精通した司法書士や弁護士に相談しながら対応を進めることをおすすめします。

葬儀代を負担すると相続放棄できない?知っておくべき3つの注意点

4-2 制限納税義務者

制限納税義務者とは、相続や遺贈によって財産を取得し、日本国内で保有されている財産に対してのみ相続税の納税義務が生じる人です。
具体的には、故人および相続人が相続発生から10年間にわたり日本国内に住んでいなかったケースなどが該当します。

制限納税義務者は日本国内の財産にのみ相続税がかかります。
そのため、国内財産に係る債務以外や制限納税義務者が負担した葬式費用以外は債務控除できません。

国内財産に係る債務とは、相続した日本の不動産にかかっている固定資産税の未納分などが該当します。

4-3 特定受遺者

特定受遺者とは、遺言などで「不動産〇〇を譲る」など書かれていて、特定の財産を受け継いだ人物です。
一方で、包括受遺者とは「相続財産の2分の1を相続させる」などのように、受け継ぐ財産を割合で指定されていた人物です。

包括受遺者は債務控除できるのに対し、特定受遺者は支払った葬式費用をなどを含め一切の債務控除ができません。

特定遺贈とは?メリット・デメリットや包括遺贈との違いを簡単解説
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まとめ

相続税の債務控除をすれば、相続税の課税対象財産を減らせるため、相続税の負担を軽減可能です。
漏れなく債務控除を行うためにも、相続発生後に行った故人名義の支払いに関する明細は大切に保管しておきましょう。

なお、故人の借入金が多い場合や連帯債務や保証債務を負っている場合は、相続人が返済義務を負わなくてすむように相続放棄を検討するべきケースもあります。
相続放棄をするには、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てを行う必要があり、非常にタイトなスケジュールとなります。

故人の借金を受け継ぎたくない、故人が借金をしていたかわからない、といった場合は相続放棄に精通した司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。

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