- 相続放棄をしても払わないといけないもの・払わなくて良いものは何か
- 相続放棄をする際の注意点
相続放棄とは、故人のプラスの遺産もマイナスの遺産も一切相続しなくなる手続きです。
相続放棄をすれば、故人の借金を相続せずにすみます。
ただし、相続放棄をしても相続財産の管理費用や故人の葬儀費用などは払わなければならない恐れがあるのでご注意ください。
また、故人の生命保険金などを受け取ってしまうと、相続放棄したとしても相続税がかかります。
本記事では、相続放棄をしても払わないといけないものは何か解説していきます。
相続放棄については、下記の記事で詳しく解説しているので、よろしければ合わせてお読みください。
1章 相続放棄しても払わないといけないものは?
相続放棄をすると故人の遺産を一切受け継がなくなるため、借金などを相続しなくてすみます。
一方で、下記の費用や借金は払わなければならない恐れがあるので注意しましょう。
- みなし相続財産にかかる相続税
- 相続財産の管理費用
- 相続財産管理人の選任費用
- 葬儀費用
- 相続人が保証人・連帯保証人になっていた借金
- 故人の未払費用・入院費用
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 みなし相続財産にかかる相続税
故人の生命保険金や死亡退職金を受け取った場合、相続放棄をしても相続税がかかる場合があります。
前提として、生命保険金や死亡退職金は受取人固有の財産として扱われるため、相続放棄をしても原則受け取り可能です。
しかし、生命保険金や死亡退職金は故人の死亡により発生するお金のため「みなし相続財産」として相続税の課税対象に含まれます。
したがって、相続放棄をした人が生命保険金や死亡退職金を受け取った場合、受け取った金額に応じて相続税がかかるのでご注意ください。
なお、生命保険金や死亡退職金については相続人が受け取ると「500万円×法定相続人の数」を適用できます。
しかし、相続放棄をした人は最初から相続人ではなかった扱いになるため、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を活用することはできません。
1-2 相続財産の管理費用
相続放棄後も遺産の管理義務を負う場合、管理費用を負担しなければならない可能性があります。
相続放棄後に遺産の管理義務については令和5年の民法改正によって「相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人が管理義務を負う」と明記されました。
例えば、相続放棄時点に故人が所有していた住宅に相続人が住んでいたケースなどでは、相続放棄をしたとしても遺産の管理義務が残るものと考えられます。
このようなケースでは、相続放棄をしたとしても自宅の修繕費用やその他管理費用を負担しなければなりません。
一方、相続放棄時点で遺産を現に占有していたといえない場合は、相続放棄後は遺産の管理費用を支払う必要はありません。
1-3 相続財産管理人の選任費用
相続放棄後に遺産の管理義務から逃れるために相続財産管理人を選任する場合、費用は申立て人が負担しなければなりません。
相続財産管理人とは、故人に相続人がいないとき、相続財産(遺産)を管理する人です。
ただ先ほど解説したように、相続放棄後の遺産の管理義務については「相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人が管理義務を負う」と明記されています。
したがって、相続発生時点で遺産を現に占有していなかった相続人は管理義務を負わないため、そもそも相続財産管理人を選任する必要もありません。
1-4 葬儀費用
相続放棄した相続人も、故人の葬儀費用を支払わなければならない可能性があります。
葬儀費用を支払う人物は法律では決められていないため、喪主が払うケースや相続人同士で分担しあうケースなどが多いです。
ただし、葬儀費用や葬儀の規模が一般的な常識の範囲内であれば、相続放棄をする場合でも遺産から支払うことが可能です。
とはいえ、自己判断で遺産から葬儀費用を支払ってしまうと相続財産の処分とみなされる恐れもあります。
最悪の場合、相続放棄が認められなくなってしまいます。
そのため、遺産から葬儀費用を支払いたいのであれば、事前に司法書士や弁護士に相談して問題がなさそうか確認してもらうことを強くおすすめします。
1-5 相続人が保証人・連帯保証人になっていた借金
相続人が故人の借金の保証人や連帯保証人になっていた場合、相続放棄をしても返済義務を負ってしまいます。
相続放棄をすると「相続人としての返済義務」はなくなりますが、保証人・連帯保証人としての地位は残り続けてしまうからです。
したがって、故人の借金の保証人や連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をしても意味がない可能性もあります。
相続放棄をすべきかどうか悩んだ場合は、相続放棄や借金問題に詳しい司法書士や弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
1-6 故人の未払費用・入院費用
故人の配偶者は相続放棄をしたとしても、故人が遺した未払費用や入院費用を支払わなければならない場合があります。
配偶者には「日常家事債務の連帯責任」と呼ばれる義務があり、夫婦のどちらかが日常生活を送る上でした支出は配偶者も連帯責任を負うとされているからです。
例えば、故人名義の未払光熱費や入院費用、携帯電話料金などについては、故人の配偶者は相続放棄をしても支払わなければならない可能性があるでしょう。
また、配偶者だけでなく同居人についても故人の光熱費の支払い義務を負う可能性がありますし、遺族が故人の入院時に保証人になっていた場合は、入院費用を支払う必要があります。
故人の未払費用や入院費用を支払うべきかはケースバイケースですので、支払いに悩んだ場合は司法書士や弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
2章 相続放棄をしたら払わなくて良いもの
相続放棄をするとプラスの遺産もマイナスの遺産も一切受け継がずにすむので、原則として故人の借金や未払税金などは支払う必要がなくなります。
相続放棄をしたら払わなくてすむものは、主に下記の通りです。
- 故人の借金・未払税金
- 故人の入院費
- 故人の未払費用
それぞれ詳しく紹介していきます。
2-1 故人の借金・未払税金
相続放棄をすれば、故人の借金や未払税金の返済義務を受け継がずにすみます。
ただし、故人の借金の保証人や連帯保証人になっていた場合、返済義務を負ってしまうのでご注意ください。
2-2 故人の入院費
相続放棄をすれば、故人が亡くなるまでに発生した入院費用も払わなくてすみます。
ただし、本記事の1章で紹介したように、故人の配偶者や故人が入院するときに保証人になった遺族は相続放棄をしても入院費用を払わなければならない可能性があります。
2-3 故人の未払費用
電話代や光熱費、家賃など故人名義の未払費用も、原則としては相続放棄後は相続人の支払い義務が免除されます。
ただし、故人の配偶者や同居人は支払い義務が発生する場合もあるので注意しましょう。
3章 相続放棄をするときの注意点
相続放棄をするのであれば、遺産から故人の借金や未払費用を払うのは絶対にやめましょう。
遺産の使用、処分と判断され、相続放棄が認められなくなる恐れもあるからです。
相続放棄時の注意点は、主に下記の通りです。
- 遺産から故人の借金・未払費用を払うと相続放棄が認められない恐れがある
- 自分の資産から故人の借金を払っても相続放棄後に返還してもらえない
- 相続放棄すると生命保険金の非課税枠を適用できなくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 遺産から故人の借金・未払費用を払うと相続放棄が認められない恐れがある
遺産から故人の借金・未払費用を支払ってしまうと、相続放棄が認められない恐れもあるのでご注意ください。
遺産から故人の借金などを支払う行為は、遺産の使用、処分にあたり「相続する意思がある」と判断されてしまうからです。
他にも、遺産の使用・処分とみなされる行為には、下記のものがあります。
- 遺品整理や形見分け
- 故人の携帯電話の使用、解約
- 故人名義の車の使用
- 故人の自宅の片付け
上記の中には、家族や親族が亡くなったときの一般的な手続きや片付けとして行ってしまいそうな行為も含まれています。
そのため、相続放棄をする場合は上記の行為を自己判断で行うのではなく、相続放棄に精通した司法書士や弁護士に相談した上で進めることをおすすめします。
3-2 自分の資産から故人の借金を払っても相続放棄後に返還してもらえない
遺産から故人の借金を支払うと相続放棄が認められなくなる一方で、相続人が自分の資産から故人の借金を支払う行為そのものは問題ありません。
ただし、自分の資産から故人の借金を支払い、その後に相続放棄が認められたとしても、返済を取り消すことや債権者に返済したお金を取り戻すことは原則としてできません。
相続放棄をすれば故人の借金を返済する義務はないので、債権者から返済を要求されても「相続放棄する予定である」と伝えるだけに留めておくことをおすすめします。
相続放棄に精通した司法書士や弁護士であれば、こういった債権者への対応もアドバイスできるので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
3-3 相続放棄すると生命保険金の非課税枠を適用できなくなる
想像放棄をしても生命保険金や死亡退職金は受け取り可能ですが、相続放棄をした人は生命保険金・死亡退職金の非課税枠を利用できません。
生命保険金や死亡退職金を相続人が受け取ると「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を適用できます。
しかし、相続放棄をすると最初から相続人ではなかった扱いになるので、非課税枠を利用できず相続税の負担が重くなる恐れもあるのでご注意ください。
まとめ
相続放棄をすると故人の借金を受け継がずにすみますが、自分が保証人・連帯保証人になっていた故人の借金や葬儀費用などは支払わなければならない場合があります。
相続放棄すべきかの判断や相続放棄後に支払わなければならない費用を把握するには、故人が亡くなったときに相続財産調査を漏れなく行う必要があります。
相続財産調査を行うのが難しい場合は、司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
また、相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、相続放棄の手続き代行だけでなく、遺品整理や各種支払い・返済対応についてのアドバイスも可能です。
確実に相続放棄を完了させたい、債権者とのトラブルを減らしたい場合は、相談することを強くおすすめします。
グリーン司法書士法人では、相続放棄についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。