「使う予定のない空き家を相続したが管理に困るので、相続放棄しよう」と考える人も多いでしょう。
しかし、相続放棄の時点で相続人が占有状態だった不動産は、相続放棄後も相続人に管理義務が残り続けてしまいます。
相続放棄後も空き家の管理義務が残る場合、相続財産管理人を選任するしか管理義務から解放される手段はありません。
なお、相続放棄後の管理義務については令和5年に民法改正が行われ、管理義務を負う人や内容が具体的に明記されるようになりました。
本記事では、空き家を相続放棄した場合管理義務が残るのか、相続放棄するとどうなるのかを解説します。空き家を相続したときの問題点については、下記の記事でも詳しく解説しています。
目次
1章 空き家は相続放棄できる
相続放棄とは、不動産や預貯金などのプラスの財産も借金などのマイナスの財産も一切相続しない制度です。
相続放棄をすればすべての財産を相続しなくてすむので、故人が住んでいて今後は使う予定がない空き家も相続しなくてすみます。
相続放棄を行うには、自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所での申し立て手続きを行う必要があります。
申し立て方法の概要および必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
手続き先 | 故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続き費用 |
|
必要書類 |
など |
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなる手続きです。
そのため、使う予定のない空き家や田舎にあって価値がほとんどない土地など、個別の財産だけを相続放棄することはできません。
故人が空き家だけでなく多額の預貯金や株式を遺して亡くなった場合には、空き家を相続したくないからといって相続放棄すると結果的に損をしてしまう恐れもあります。
相続放棄は一度行うと、原則として撤回できないので慎重に判断しなければなりません。
なお、2023年から相続土地国庫帰属制度が開始され、相続した土地のみを国に返却できるようになりました。
ただし、制度利用時には要件を満たす必要があり、すべての土地で利用できるわけではありません。
土地を相続すべきか、相続土地国庫帰属制度を利用できるかどうかなどお悩みの場合には、司法書士などの専門家に一度相談するのも良いでしょう。
2章 空き家を相続放棄するとどうなる?
いらない空き家を相続放棄すると、次の相続順位の相続人に相続権が移ります。
また、相続放棄の時点で空き家を占有していた人は、相続放棄をしても空き家に対して管理義務が残るので注意が必要です。
空き家を相続放棄した後の取り扱いは、主に下記の通りです。
- 相続放棄すると次の相続順位に相続権が移る
- 空き家を相続放棄しても管理義務が残る
- 相続財産管理人を選任すれば管理義務がなくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 相続放棄すると次の相続順位に相続権が移る
相続放棄後に自分と同じ相続順位の相続人が誰もいない場合には、次の相続順位の相続人に相続権が移ります。
相続順位は法律によって、下記のように定められています。
配偶者 | 常に相続人になる |
子供(孫) | 第1順位 |
両親(祖父母) | 第2順位 |
兄弟姉妹(甥・姪) | 第3順位 |
例えば、配偶者と子供全員が相続放棄をした場合には、両親が存命であれば両親が相続人になります。
両親が亡くなっている場合には、第3順位である兄弟姉妹もしくは甥、姪が空き家を相続します。
2-2 空き家を相続放棄しても管理義務が残る
空き家を相続放棄したとしても、次の相続順位の相続人が誰もいないケースや次の相続順位の人が財産を受け継ぐまでは、空き家の管理義務が残ります。
相続放棄した不動産の管理義務は、長年にわたり明記されていませんでしたが令和5年より民法改正で具体的な部分まで定められるようになりました。
民法改正前と後の比較は、下記の通りです。
民法改正前 | 民法改正後 | |
管理義務を負う相続人 | 相続放棄をした相続人 | 相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人 |
相続放棄後の管理義務はいつまで負うのか |
|
|
相続放棄後の管理義務は誰に対して負うのか |
| 相続放棄後に財産を受け継ぐ後順位の相続人 |
相続放棄後の管理義務の内容 | 管理義務 | 保存義務 |
民法改正前と改正後で大きく判断が変わった点は、相続放棄後も管理責任を負う相続人です。
民法改正後は管理義務を負うのは「相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人」と明記されたので、相続放棄者が占有していなかった財産に関しては管理責任が発生しません。
「相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人」に該当するのは、主に下記のケースと考えられます。
- 故人が所有する自宅に一緒に住んでいたケース
- 故人死亡後は相続放棄して引っ越すケース
民法改正により相続放棄後の管理責任を負わなくて良くなります。
2-3 相続財産管理人を選任すれば管理義務がなくなる
相続放棄後も故人が所有していた空き家の管理義務が残る場合、トラブルが起きるのを防ぎたい、管理義務から解放されたいと考える人もいるでしょう。
相続放棄後に相続財産管理人を選任すれば、空き家の管理義務がなくなります。
相続財産管理人とは、故人に相続人がいないとき、相続財産(遺産)を管理する人です。
ただし、相続財産管理人を選任するときには家庭裁判所への申し立て手続きが必要です。
また、申し立て時には予納金が数十万円かかるケースもあります。
予納金の金額によっては相続してしまい、固定資産税や管理費用を払った方が安くすむケースもあるでしょう。
相続財産管理人の選任方法や必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
手続き先 | 故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続き費用 |
|
必要書類 |
など |
3章 いらない空き家を相続したときの対処法
自分で使う予定のない空き家を相続した場合、相続放棄以外にも売却や活用など様々な選択肢があります。
具体的には、下記の方法を検討するのが良いでしょう。
- 相続放棄する
- 空き家の売却・活用を検討する
- 隣家にもらってもらえないか交渉する
- 自治体への寄付を検討する
- 更地にして相続土地国庫帰属制度を活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 相続放棄する
本記事で解説したように、相続放棄すれば空き家の管理に悩まなくてすみます。
ただし、相続放棄時点で相続財産である空き家を占有していた人は、相続放棄後も管理義務が遺り続けてしまいます。
また、相続放棄をする際には、下記の点にも注意が必要です。
- 相続放棄には「自分が相続人と知ってから3ヶ月以内」という期限がある
- 相続放棄は空き家だけでなく、預貯金や株式などの財産も一切相続できなくなる
相続放棄しても空き家の管理義務が残りそうなケースや故人が空き家以外にも多額の財産を遺して亡くなった場合には、相続放棄以外の方法を検討しましょう。
3-2 空き家の売却・活用を検討する
空き家の立地や状態が良いのであれば、空き家を相続した後に売却や活用をするのも良いでしょう。
空き家を売却するのであれば建物付きでそのまま売却しても良いですし、建物が古く買い手が見つからないのであれば更地にして売却する手もあります。
また、売却以外にも下記の方法で空き家を活用するのもおすすめです。
- 空き家をリフォームして賃貸や民泊として活用する
- 取り壊して駐車場経営をする
- 空き家管理サービスを利用して維持管理をする
空き家の活用に成功すれば、継続して賃貸収入や駐車場の売上を得ることも可能です。
相続した空き家を売却、活用するときには事前に相続登記が必要な点にご注意ください。
故人が遺した空き家はそのままの状態では、売却や活用ができません。
相続した空き家を売却、活用する際には、故人から相続人へ名義変更手続きを行う必要があります。
不動産の名義変更手続きは、法務局にて相続登記を行いましょう。
また、2024年4月から相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科されます。
相続登記の義務化は過去に発生した相続に関しても適用されるので、相続したものの名義変更手続きをすませていない空き家や不動産をお持ちの人はお早目に手続きしましょう。
相続登記は自分で行うこともできますが、司法書士に数万円程度で依頼することも可能です。
3-3 隣家にもらってもらえないか交渉する
空き家の相続も管理もしたくない場合には、空き家の隣家に買い取ってもらえないか、もしくは土地をもらってもらえないか交渉を持ちかけるのも良いでしょう。
交渉を持ちかけられた隣家にとっては、敷地が広がれば建物や庭も広がるのでメリットが大きいと感じる可能性もあります。
住宅が密集している地域や隣家が不整形地の場合には、購入もしくはもらってもらえるケースもあるでしょう。
3-4 自治体への寄付を検討する
隣家が空き家を購入もしくはもらってくれなかった場合には、自治体に寄付を検討するのも良いでしょう。
ただし、自治体もすべての土地の寄付を受け付けているわけではなく、利用価値のある土地でないと寄付を断られる可能性も高いです。
3-5 更地にして相続土地国庫帰属制度を活用する
2023年から相続土地国庫帰属制度が開始され、相続によって手に入れたいらない土地を国に返却できるようになりました。
相続土地国庫帰属制度を活用すれば、相続した空き家や土地を手放せます。
ただし、相続土地国庫帰属制度を利用する際には、下記の点に注意しなければなりません。
- すべての土地が相続土地国庫帰属制度を利用できるわけではない
- 建物が建っている土地は利用できないので、空き家を壊して更地にする必要がある
- 制度の利用前には相続登記が必要
- 10年分の土地管理費用相当額の負担金がかかる
相続土地国庫帰属制度は必ず利用できる制度ではないことや費用がかかることを念頭に置き、他の対処法も同時に検討しておく必要があるでしょう。
まとめ
相続放棄時点の状況によっては、相続放棄したとしても故人が所有していた空き家の管理義務が残ってしまう恐れがあります。
管理義務から逃れたい、余計なトラブルに巻き込まれたくないと思って、相続放棄を検討している場合には相続放棄後の管理義務についても確認しておく必要があるでしょう。
なお、今後住む予定のない空き家を相続した場合、相続放棄以外にも売却や活用など様々な選択肢があります。
空き家の立地や状態、他の相続財産の状況によって相続放棄すべきかの判断も変わってきますので、まずは相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのもおすすめです。
gグリーン司法書士法人では、相続放棄や相続登記に関する相談をお受けしています。
相続した不動産の売却に強い不動産会社の紹介も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
相続放棄したら不動産の管理義務は残る?
相続放棄をするとプラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなります。
令和5年4月以降は、相続放棄をした場合、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは相続放棄後も管理義務を負うとされています。