故人が所有していた不動産を相続した場合、「相続税がいくらかかるのだろう」と不安になる人も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、土地を相続したからと言ってすべてのケースで相続税がかかるわけではありません。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されていて、土地を始めとする相続財産の合計額が基礎控除内に収まる場合は相続税がかかりません。
また、基礎控除以外にも相続税には控除や特例が用意されていて、利用すれば相続税がかからなく可能性も十分にあります。
ただし、不動産を相続したときには名義変更手続きが必要であり、手続き時には相続税とは別に登録免許税がかかります。
本記事では、土地に相続税がかからないケースや相続税を計算する流れをわかりやすく解説します。
土地を相続したときの流れについては、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 土地に相続税がかからないケース
相続財産の課税対象額の合計額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除内に収まる場合は、土地に相続税がかかりません。
例えば、相続財産が土地しかなく評価額が3,600万円を下回る場合には、相続税を納税する必要はありません。
また、相続税には控除や特例が用意されており、利用すれば相続税がかからなくなる可能性もあります。
土地に相続税がかからないケースは、主に下記の3つです。
- 相続財産の合計額が基礎控除内に収まるとき
- 小規模宅地等の特例を利用すれば基礎控除内に収まるとき
- 相続税の配偶者控除を利用すれば基礎控除内に収まるとき
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 相続財産の合計額が基礎控除内に収まるとき
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されており、基礎控除内に相続税の課税対象合計額が収まれば相続税の申告や納税は必要ありません。
例えば、法定相続人が故人の配偶者および子供2人の場合、基礎控除は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」で計算可能です。
相続財産が下記しかないケースでは、基礎控除内に相続財産が収まるので土地に対しても相続税はかかりません。
- 土地:2,000万円(相続税評価額)
- 預貯金:1,000万円
1-2 小規模宅地等の特例を利用すれば基礎控除内に収まるとき
相続した土地に対し小規模宅地等の特例を利用し、土地含む相続財産の課税対象合計額が基礎控除内に収まる場合も相続税はかかりません。
小規模宅地等の特例とは、相続した土地の相続税評価額を最大8割減額できる制度です。
相続税評価額を減額できる割合や面積は、土地の種類によって下記のように決められています。
用途 | 区分 | 限度面積 | 減額割合 |
自宅 | 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
収益物件 (賃貸アパートやマンションなど) | 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
事業用地 | 特定事業用宅地等 (特定同族会社事業用宅地等) | 400㎡ | 80% |
相続財産の大半を土地が占めるケースで小規模宅地等の特例を利用できれば、土地の相続税評価額が大幅に下がり相続税がかからなくなる可能性も高いです。
ただし、小規模宅地等の特例は土地の用途だけでなく、相続人に対しても適用要件が定められているので、相続したすべての土地で利用できるわけではありません。
また、小規模宅地等の特例を利用して相続税がかからなくなったとしても、相続税の申告自体は必要なのでご注意ください。
1-3 相続税の配偶者控除を利用すれば基礎控除内に収まるとき
配偶者が財産を相続した場合、相続税の配偶者控除を利用すれば下記のいずれか高い方の金額まで相続税が非課税になります。
- 1億6,000万円
- 法定相続分による相続
配偶者が土地などの財産を相続した場合、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからなくなります。
故人がよほど資産を遺していない限り、相続税がかからない可能性も高いでしょう。
なお、相続税の配偶者控除を利用した場合、相続税がかからないケースでも相続税の申告が必要です。
小規模宅地等の特例や相続税の配偶者控除以外にも、相続税の控除や特例はいくつかあります。
それぞれの控除や特例は適用要件が定められているので、利用できるものがないか確認してみるのも良いでしょう。
どの控除や特例を利用できるかわからない場合やできるだけ相続税を節税したい場合は、相続に精通した税理士に相談するのもおすすめです。
2章 相続税を計算する流れ
相続税は土地や預貯金など相続財産別に計算するのではなく、すべての相続財産の課税対象額を合計して計算します。
具体的には、下記の流れで相続税を計算可能です。
- 財産を評価する
- 遺産の総額から基礎控除額を引く
- 基礎控除額を引いたあとの遺産を法定相続分で分ける
- 法定相続分で分けた遺産から相続税の総額を計算
- 相続税の総額を実際の相続割合で分けなおす
- 控除・加算で最終的な納付税額を求める
上記のように、相続税がかかるかはすべての相続財産の評価額によって決まります。
土地の相続税評価額だけでは、相続税がかかるかどうかの判断やいくらかかるかどうかはわからない点にご注意ください。
相続税の計算や申告を期限内に行うには、相続人調査や相続財産調査をスムーズに行うことも大切です。
相続人調査や相続財産調査は自分で行うこともできますが、司法書士などの専門家への依頼も可能です。
3章 土地を相続したときの注意点
土地を相続したときには、相続税の計算や申告の他に名義変更手続きや遺産分割方法など注意しなければならないことがいくつかあります。
具体的には、下記の4点に注意しましょう。
- 土地の共有分割にはリスクがある
- 土地の相続した際には名義変更手続きが必要
- 相続税の申告期限は10ヶ月以内
- 相続税は現金一括納付が原則
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 土地の共有分割にはリスクがある
複数の相続人で土地を共有分割するのは、将来的にリスクがあるので避けることをおすすめします。
共有分割とは、土地など分割しにくい遺産を相続人同士で共有名義で受け継ぐ遺産分割方法です。
共有分割を行えば公平に遺産分割を行えると考えるかもしれませんが、共有分割には下記のリスクやデメリットがあります。
- 将来所有者がどんどん増えていってしまう
- 共有持分のみを買い取ってもらえるケースは少ない
- 土地のすべてを売却するには所有者全員の同意が必要
- 土地を自由に活用しにくい
上記のように、共有分割で取得した土地は活用や売却もしにくく、将来的には権利関係者が増えてより問題が複雑になってしまう恐れがあります。
自分の子や孫が土地の相続トラブルに巻き込まれないようにするためにも、共有分割で土地を相続することは避けましょう。
土地の遺産分割方法で揉めてしまい相続人同士で解決が難しい場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのもおすすめです。
専門家であれば、資産や相続人の状況に合った遺産分割方法や第三者の立場から見た公平な遺産分割方法を提案できます。
3-2 土地の相続した際には名義変更手続きが必要
土地や建物など不動産を相続したときは、相続税の計算や申告だけでなく不動産の名義変更手続きも必要です。
不動産の名義変更手続きは、法務局にて登記申請を行います。
なお相続した土地や建物を自分で利用せず、売却や活用を考えている場合も相続登記を行い名義を故人から相続人に移さなければなりません。
相続登記の手続き方法や必要書類は、下記の通りです。
申請する人 |
|
申請先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
費用 |
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必要書類 |
|
これまで相続登記は相続人の意思によって行われるものとされていました。
しかし、2024年4月1日からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続に対しても適用されます。
まだ、相続登記がおすみでない土地をお持ちの人は、早めに手続きをすませるのが良いでしょう。
相続登記は自分で申請も可能ですが、必要書類の数や種類が多く非常に大変です。
司法書士であれば数万円程度で代行できるので、自分で手続きをするのが難しい場合は依頼もご検討ください。
グリーン司法書士法人では相続登記に関する相談をお受けしています。
3-3 相続税の申告期限は10ヶ月以内
相続税の申告期限は、故人が死亡してから10ヶ月以内とされています。
本記事の2章で解説したように、相続税の金額は各相続人が実際に相続した割合によって、一人ひとりの相続人が納める税額が決まってきます。
そのため、相続税の申告期限までに遺産分割協議が完了していないと、下記のデメリットもあるので早めに遺産分割協議や相続税の計算をすませましょう。
- 各相続人の納税額を計算できない
- 相続税の控除や特例を利用できない恐れがある
遺産分割協議を行う際には、事前に相続人調査や相続財産調査もすませなければなりません。
相続手続きを順序良く行いたいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士、税理士などへの相談もご検討ください。
3-4 相続税は現金一括納付が原則
相続税の納付期限は申告期限と同様に「故人が死亡してから10ヶ月以内」とされています。
また、相続税は原則として現金一括納付しなければなりません。
ただし、相続税を現金一括納付することが難しい場合は下記の方法も用意されています。
方法 | 概要 |
延納 |
|
物納 |
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上記のように、相続税は延納や物納も用意されていますがデメリットも大きいですし、適用要件も定められているのですべてのケースで利用できるわけではありません。
「相続税を現金で払いたくないから延納、物納をすればいいや」と安易に考えるのではなく、納税資金を用意するのが難しいのであれば、まずは税理士などの専門家や税務署に相談してみましょう。
3-5 不動産の評価額は複数ある
不動産の評価額は相続税の計算で用いる「相続税評価額」以外にも複数あり、それぞれ下記の通りです。
土地評価額 | 概要 | 使用目的の例 |
実勢価格 | 過去に実際に取引された価格 |
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公示価格 | 国土交通省が発表する1㎡あたりの標準価格 |
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路線価(相続税評価額) | 相続税や贈与税の計算に使用される評価額 |
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固定資産税評価額 | 固定資産税の計算に使用される評価額 |
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基準地価 | 各都道府県が発表している1㎡あたりの標準価格 |
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不動産鑑定評価額 | 不動産鑑定士が経済価値を鑑定した評価額 |
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上記のように、不動産の評価額は目的ごとに設定されています。
亡くなった人が所有していた土地の分割方法を決定する場合は、相続税評価額ではなく時価を用いることが一般的ですのでご注意ください。
他にも、相続した土地の名義変更手続きの際に支払う登録免許税を計算する際には固定資産税評価額を使用します。
相続税の申告やその他の相続手続きをする際には、どの不動産の評価額を用いるのか正確に把握する必要があります。
まとめ
土地などの財産を受け継ぐと相続税がかかりますが、相続財産の課税対象合計額が基礎控除内に収まる場合は相続税がかかりません。
また、小規模宅地等の特例や相続税の配偶者控除を利用して課税対象合計額が基礎控除内に収まった場合も相続税の納税は不要です。
ただし、控除や特例を利用して相続税がかからなくなった場合、申告自体は必要な点に注意が必要です。
相続税の計算は複雑であり、土地や預貯金など相続財産ごとにかかるのではなく、すべての相続財産の課税対象合計額に基づいて計算されます。
土地を受け継いだものの相続税がかかるかわからない、できるだけ相続税を節税したい場合は相続に詳しい税理士に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料ですし、相続に精通した税理士の紹介も可能ですのでまずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
土地に相続税がかからないケースとは?
相続した土地に相続税がかからないケースは、主に下記の3つです。
①相続財産の合計額が基礎控除内に収まるとき
②小規模宅地等の特例を利用すれば基礎控除内に収まるとき
③相続税の配偶者控除を利用すれば基礎控除内に収まるとき
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