預貯金など評価額がわかりやすい財産は遺産分割をしやすいですが、不動産など評価方法が複数ある財産は遺産分割時にどの評価額を用いるか決定する必要があります。
遺産分割時に用いる評価方法は法律などで決められていないため、相続人同士で自由に設定可能です。
不動産の場合は、時価(実勢価格)で評価して各相続人の取り分を決定するのが一般的です。
とはいえ、相続税評価額や不動産鑑定評価額などを用いることも認められています。
相続財産の種類や相続人の状況によっては遺産の評価方法で揉める可能性があるので、状況によっては相続に詳しい司法書士や弁護士に依頼し公平な立場から遺産分割方法を提案してもらうのも良いでしょう。
本記事では、遺産分割の際に用いる不動産の評価方法や相続人同士で評価方法に揉めたときの対処法を解説します。
遺産分割に関しては、下記の記事で詳しく紹介していますので、ご参考にしてください。
目次
1章 遺産分割に用いる不動産の評価額は時価が原則
遺産分割によって各相続人が受け継ぐ分を決定する際に用いる評価額は決められていませんが、不動産の場合は時価で評価することが原則です。
しかし、遺産分割における財産の評価方法は法律で決められているわけではないため、相続人同士の話し合いで決定可能です。
そのため、時価で評価せず相続税評価額や固定資産税評価額などを基準として遺産分割することも認められています。
遺産分割の内容は相続人全員で合意する必要がありますが、相続人の1人が単独で不動産を受け継ぐケースなどでは評価方法に揉める恐れがあるのでご注意ください。
例えば、不動産を受け継いだ相続人が他の相続人に対して代償金を支払う場合は、不動産の評価方法によって代償金の金額も変わります。
代償分割の場合はそれぞれの相続人が下記のように考えるケースも多いです。
- 不動産を受け継ぐ相続人:相続する不動産の評価額をできるだけ低くしたい(代償金を安くしたい)
- 不動産を受け継がない相続人:相続する不動産の評価額をできるだけ高くしたい(代償金を高くしたい)
上記のケースでは、それぞれの意見が対立し評価方法がなかなか決まらない場合もあります。
不動産の評価方法が決まらず遺産分割を行えない場合も相続税の申告期限は延長できないので、状況によっては遺産分割調停や司法書士や弁護士に依頼し公平な遺産分割を提案してもらうことも検討しましょう。
遺産分割時に相続人同士で不動産の評価方法に揉めたときの対処法は、本記事の3章で詳しく解説しています。
不動産を相続したときには、亡くなった人から相続人へ名義変更手続きをしなければなりません。
不動産の名義変更手続きは、法務局にて登記申請を行う必要があります。
なお、これまで相続登記は義務化されておらず、相続人の意思によって行うとされていました。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続においても適用されます。
そのため、まだ相続登記がおすみでない土地をお持ちの人は早めに手続きをすませましょう。
相続登記は自分でも行えますが、司法書士に依頼すれば数万円程度で代行可能です。
グリーン司法書士法人でも相続登記に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
2章 遺産分割に用いる不動産の評価額
不動産の評価額には複数の種類があり、それぞれ金額や用途が異なります。
遺産分割の際に用いる不動産の評価額は、主に下記の5種類です。
- 時価(実勢価格)
- 不動産鑑定評価額
- 公示地価
- 相続税評価額
- 固定資産税評価額
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 時価(実勢価格)
遺産分割の際には不動産を時価(実勢価格)で評価することが一般的です。
相続した不動産を現金化するといくらになるのか?といった評価額が相続人にとって、最も公平な分割方法であると考えられるからです。
なお、相続人同士で遺産分割方法を決定できず、遺産分割調停や遺産分割審判を行う場合でも不動産を時価で評価します。
相続した不動産の時価は国土交通省が提供している土地総合情報システムにて下記の流れで確認可能です。
- 土地総合情報システムにアクセスする
- 「不動産取引価格情報検索」を選択する
- 地域や時期など検索条件を絞り込む
- 相続した不動産に近い内容の取引価格を探す
ただし上記の方法はあくまでも、過去に行われた地域や面積が似ている不動産の取引情報を検索する方法です。
そのため、相続した不動産の正確な時価ではありませんし、相続した不動産の近隣地域で土地取引が少ない場合はそもそも情報を集めることも難しい可能性があります。
相続した不動産の時価をできるだけ正確に知りたいのであれば、不動産会社に査定依頼を出してみるのも良いでしょう。
ただし、不動産会社による査定結果は各社で金額が大きく異なる場合もあるので、より正確な金額を知りたいのであれば複数社に査定依頼を出すことをおすすめします。
2-2 不動産鑑定評価額
相続した不動産の正確な評価額を知りたいのであれば、不動産鑑定士に評価を依頼するのも良いでしょう。不動産の時価(実勢価格)と異なり、不動産鑑定士は売主や買主の事情などを除いた不動産の正確な評価額を測定してくれるからです。
しかし、不動産鑑定士に評価を依頼すると数十万円程度の費用がかかりますし、評価完了までには2週間程度かかります。
「不動産鑑定士に評価を依頼したものの一部の相続人が納得しない」などとならないように、不動産鑑定士に依頼するのであれば、事前に依頼や不動産鑑定評価額を遺産分割に使用することを相続人全員で同意しておくのが良いでしょう。
2-3 公示地価
公示地価とは、国土交通省が発表しているその年の1月1日時点の全国の標準値の土地価格です。
発表された公示地価は土地取引や相続税評価、固定資産税評価の目安になります。
公示地価は毎年発表されることや他の評価額の基準になる価格であり、信頼性が高いのがメリットといえるでしょう。
しかし、遺産分割の際に公示地価を基準とするのであれば、下記の点にも留意しましょう。
- 全国すべての土地に公示地価が設定されているわけではない
- 毎年3月下旬に発表されるため、直近の価格変動も考慮する
なお、公示地価は国道交通省の「土地総合情報システム」にて確認可能です。
2-4 相続税評価額
相続人全員が合意すれば、時価ではなく相続税評価額を基準として遺産分割を行うことも認められています。
相続税評価額とは相続税や贈与税の計算に使用する評価額であり、公示地価の80%程度の価格となることが多いです。
相続税評価額は路線価方式もしくは倍率方式で決定され、いずれも国税庁の「路線価図・評価倍率表」にて確認できます。
相続税評価額のうち路線価方式は毎年7月頃に公表されるため、遺産分割の基準にする際には直近の価格変動も考慮することをおすすめします。
2-5 固定資産税評価額
固定資産税評価額とは固定資産税の計算をする際に用いる評価額であり、公示地価の70%程度の価格となることが多いです。
なお、建物を相続したときには相続税評価額ではなく固定資産税評価額をもとに相続税を計算します。
そのため、相続した不動産のうち建物の占める割合が多いのであれば、固定資産税評価額をもとに決定しても良いでしょう。
ただし、固定資産税評価額の見直しは3年に1度しか行われません。
そのため、相続が発生した時期によっては過去1~2年の価格変動や不動産取引の実態を遺産分割に反映しにくい恐れがあります。
3章 遺産分割時に不動産の評価額で揉めたときの対処法
遺産分割協議を行う際に用いる不動産の評価方法は法律では決められていなく、相続人同士で自由に選択可能です。
遺産分割方法や相続財産、相続人の状況によっては、相続人同士で不動産の評価方法を決定できず揉めてしまうケースもあるでしょう。
遺産分割時に不動産の評価額で揉めたときには、下記の方法で対処しましょう。
- 相続人同士で話し合う
- 遺産分割調停を行う
- 遺産分割審判を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 相続人同士で話し合う
遺産分割時に不動産の評価方法で揉めたときには、まずは相続人同士で話し合い、解決を目指しましょう。
不動産の評価額で相続人同士で揉めてしまうケースの多くは、代償分割を行うケースのはずです。
代償分割とは、本来の相続分以上に財産を取得した相続人が他の相続人に代償金を支払う方法です。
不動産を取得する相続人は「代償金を安くしたい」、代償金を受け取る相続人は「代償金を高くしたい」と考えるため、不動産の評価額で揉めてしまいます。
遺産分割時の不動産の評価額は時価を用いることが一般的ですが、相続財産や相続人の状況によっては相続税評価額や公示地価を用いることも検討しましょう。
というのも、時価で代償分割を行って代償金を高くできたとしても、不動産を受け継ぐ相続人が代償金を用意できない場合は本末転倒になってしまうからです。
その場合は代償金を確実に支払ってもらうため、不動産の評価を公示地価や相続税評価額を基準にする方が良いケースもあります。
相続人同士で解決が難しい場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談すれば、資産や相続人の状況に合った遺産分割方法を第三者の立場から提案してもらえます。
3-2 遺産分割調停を行う
相続人同士の話し合いでは不動産の評価方法を決定できない場合は、遺産分割調停にとって遺産分割方法や相続財産の評価方法を決定しましょう。
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
遺産分割調停では調停員が相続人の間に入ってくれ、解決を手助けしてくれます。
当事者同士が直接話さなくて良いため落ち着いて話し合いができる一方で、遺産分割調停はあくまで話し合いであり相続人全員で合意できず解決できない可能性がある点に注意が必要です。
遺産分割調停で解決できなかった場合は、遺産分割審判へと手続きが進み裁判所が遺産分割方法や不動産の評価方法を決定します。
3-3 遺産分割審判を行う
遺産分割調停で相続人全員の合意ができなかった場合は、遺産分割審判を行います。
遺産分割審判では、相続人それぞれが自分の主張を証明する証拠を提出し裁判官に審判を下してもらいます。
遺産分割審判では裁判官が遺産分割方法や不動産の評価方法を決定し、相続人はその通りに遺産分割をしなければなりません。
そのため、遺産分割審判を行っても自分にとって良い条件で遺産分割できるとは限らない点に注意が必要です。
一般的には遺産分割審判では、法定相続分による遺産分割と不動産鑑定評価額を用いて土地を評価することと決まるケースが多いです。
遺産分割審判には費用もかかりますし、不動産鑑定士に不動産の評価をしてもらう際にも費用がかかります。
そのため、遺産分割審判まで進む前に相続人同士で納得のいく解決方法を見つけるのが理想といえるでしょう。
まとめ
相続税の計算とは異なり、遺産分割の際には不動産の評価方法を相続人が自由に決定できます。
遺産分割の際に用いる不動産の評価額は時価が一般的ですが、相続人全員が合意すれば相続税評価額や公示地価、固定資産税評価額を用いることも可能です。
代償分割を行う場合は相続人同士で不動産の評価方法について揉めてしまうケースがあるので、ご注意ください。
遺産分割調停や審判を行うと手間と時間、費用がかかりますし、その後の相続人同士の関係性も悪くなってしまいます。
そのため、トラブルが泥沼化する前に相続に詳しい司法書士や弁護士に相談し、第三者の立場から公平な遺産分割方法を提案してもらうのも良いでしょう。
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