相続が発生したときに、亡くなった人の財産が土地しかないときには遺産分割で揉めやすくトラブルに発展しやすいので注意が必要です。
現金や預貯金と異なり、土地は分割しにくいため、遺産分割時にどうしても偏りが生じて不平等になってしまいます。
結論から言うと、土地しか財産をがない場合には、遺言書の作成や生前贈与などで相続対策をしておくのが良いでしょう。
本記事では、相続財産が土地しかないときの遺産分割方法や起きやすいトラブル、おすすめの相続対策を解説します。
不動産の相続手続きに関しては、下記の記事で詳しく解説していますので合わせてご参考にしてください。
1章 相続財産が土地しかないときの遺産分割方法
相続が発生したときには、相続人で亡くなった人が遺した財産を分割する必要があります。
相続財産が土地しかないときの遺産分割方法は、主に下記の5種類です。
遺産分割方法 | 特徴 |
法定相続分による遺産分割(共有分割) | 相続人ごとに持分を決め、共有状態で相続する |
代償分割 | 土地を取得した相続人が他の相続人に代償金を支払う |
換価分割 | 亡くなった人が遺した土地を売却し、各相続人で分配する |
現物分割 | 広い土地を分筆する、もしくは2筆以上ある土地をそのまま分ける |
遺言書通りの分割 | 亡くなった人が遺言書を作成していた場合には、遺言通りに土地を承継する |
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 法定相続分による遺産分割(共有分割)
共有分割とは、法定相続分や相続人全員で決定した割合に応じて、相続した土地の持分を各相続人が受け継ぐ方法です。
1-1-1 メリット
共有分割のメリットは、相続した土地を売却せずに公平に相続できる点です。
土地がひとつしかなく売却して現金化もしたくない、相続人同士公平に遺産分割を行いたい場合には共有分割をせざるを得ないケースもあります。
1-1-2 デメリット
共有名義で土地を相続すると下記のデメリットやリスクがあるので、基本的にはおすすめできません。
- 将来所有者がどんどん増えてしまう
- 共有持分のみを買い取ってもらえるケースは少ない
- 土地のすべてを売却するには所有者全員の同意が必要
- 土地を自由に活用しにくい
土地の共有持分も相続財産に含まれるので、相続が繰り返されるたびに共有持分の所有者が増え権利関係が複雑になってしまうことが予想されます。
また、共有状態で所有している土地は所有者全員が同意しないと土地全体を売却できません。
他にも、土地を賃貸物件として貸し出す、土地に建物を建てるなどの際にも共有者の過半数の同意もしくは善人の同意が必要です。
このように、共有状態での相続は土地の売却や活用を思うように行えず管理コストだけかかる恐れがあるので可能な限り避けましょう。
【相続した土地は名義変更手続きが必要】
土地を相続した際には、遺産分割方法に関わらず名義変更手続きが必要です。
相続した土地の名義変更手続きは、法務局にて相続登記を行います。
これまで相続登記は義務化されておらず、放置していても大きなデメリットはありませんでした。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科されてしまいます。
なお、相続登記の義務化は、過去に発生した相続に関しても適用されるのでご注意ください。
まだ、相続登記がおすみでない土地をお持ちの人は早めに手続きをするのがおすすめです。
相続登記は自分で行うことも可能ですが、司法書士に数万円程度で依頼もできます。
1-2 代償分割
代償分割とは、遺産を他の相続人よりも多く相続した人が、多く相続した分を現金などで補填(代償)する遺産分割方法です。
1-2-1 メリット
代償相続をするメリットは、主に下記の通りです。
- 相続人間で取得分の平等性が保てる
- 不動産を売却せずに済む
- 不動産の共有名義を避けることができる
- 所得税・相続税の節税になる
代償分割は相続した土地を売却せずにすむので、先祖代々受け継いできた土地を手放したくないケースなどに向いています。
1-2-2 デメリット
代償分割を行うには、下記のデメリットに注意が必要です。
- 代償金を用意しなければいけない
- 不動産の評価額でトラブルになる可能性がある
- 相続税の納税資金を用意する必要がある
- 遺産分割協議書に「代償分割した旨」を必ず明記する
代償分割は土地を相続した人が自分の資産から代償金を支払う必要があります。
そのため、資産に余裕がない人が土地を相続した場合には、代償金の捻出ができない恐れもあるでしょう。
また、代償分割を行う際に遺産分割協議書に明記しておかないと、代償金の支払いに対して贈与税が課税される可能性があります。
1-3 換価分割
換価分割とは、相続した土地を売却し、売却代金を各相続人で分け合う遺産分割方法です。
1-3-1 メリット
換価分割のメリットは、主に下記の4つです。
- 相続人同士で公平に財産を分けられる
- 代償金を用意しなくてすむ
- 相続税の納税資金を用意できる
- 相続税を節税しやすい
換価分割では、相続した土地を現金化するので相続人同士で公平に分けられますし、納税資金が用意できず困る心配もありません。
また、土地の相続税評価額は公示価格(売値)の約7~8割程度なので、亡くなった人が相続発生前に土地を現金化するより、相続発生後に土地を売却した方が相続税を節税できる可能性が高いです。
1-3-2 デメリット
換価分割には、相続した土地をそのままの形で遺せないなどといった下記のデメリットがあります。
- 相続財産をそのまま残せない
- 売却益には譲渡所得税がかかる
- 相続財産を売却する手間と時間がかかる
- 希望通りのタイミング・価格で売却できない場合もある
換価分割では、先祖代々受け継いできた土地や亡くなった人が住んでいて思い入れのある自宅や土地も手放さなければなりません。
また、相続した土地の立地や大きさ、形状によっては希望のタイミングや価格で売却できない可能性もあります。
換価分割での売却は相続人全員が売却条件に合意する必要があるので、相続人のうち一人でも反対する人がいると売却を進められません。
1-4 現物分割
現物分割とは、亡くなった人が遺した土地をそのままの形で受け継ぐ遺産分割方法です。
1-4-1 メリット
現物分割のメリットは、主に下記の2つです。
- 相続財産が土地しかないケースでも遺産分割できる
- 相続手続きや遺産分割協議がシンプルですむ
現物分割は財産が土地しか遺されていなかったケースでも、下記のように遺産分割可能です。
- 広い土地を分筆して各相続人に分ける
- 亡くなった人が遺した土地が2筆以上あり、各相続人で分ける
例えば、亡くなった人が土地A、土地Bなどのように複数の土地を遺していた場合には「土地Aは長男C」「土地Bは次男D」と相続することも可能です。
【分筆とは】
分筆とは、ひとつの土地を複数部分に分けて登記することであり、法務局での登記手続きが必要です。
亡くなった人が遺した土地の面積が広く、相続人ごとに分けたとしても利用価値がそれほど落ちない場合には分筆を検討しても良いでしょう。
なお、相続した土地の分筆を行う場合には、手続きが複雑なので土地家屋調査士に依頼するのがおすすめです。
1-4-2 デメリット
2筆以上ある土地を各相続人でそれぞれ受け継いだ場合には、どうしても土地ごとに評価額が異なるので不平等感が生まれる点が現物分割のデメリットです。
相続トラブルが起きやすくなりますし、公平に遺産分割したい場合には不向きといえるでしょう。
1-5 遺言書通りの分割
これまで紹介した4つの遺産分割方法は、亡くなった人が遺言書を遺していなかった場合の方法です。
亡くなった人が遺言書を作成していた場合には、遺言書に書かれた内容通りに遺産分割が行われます。
遺言書を作成すれば、相続人以外の人物に土地を遺すように指定できますし、複数の土地を所有している場合にはそれぞれの土地を誰がどのように受け継ぐのかも指定可能です。
相続人に土地を遺したい場合でも遺言書を用意しておけば、遺族が遺産分割方法を決める必要もなくなり、不要な相続トラブルを回避できます。
また、遺言書があれば土地の名義変更手続き時に必要な書類の数や種類も少なくてすむので、遺族に相続手続きの負担をかけたくない人も作成するのがおすすめです。
遺言書の作成を始めとする相続財産が土地しかない人の相続対策は、本記事の3章で詳しく解説します。
2章 相続財産が土地しかないときに起きやすいトラブル
土地は現金や預貯金などの財産と比較して分割しにくいので、相続時に不公平感が生まれトラブルに発展しやすいです。
また、亡くなった人が遺した土地の立地や形状によってもトラブルが起きる恐れがあります。
具体的には、相続財産が土地しかないときには、下記の3つのトラブルが起きやすいです。
- 代償分割できない
- 誰も土地を相続したがらない
- 遺産分割が難航し共有状態で相続してしまう
- 意見の相違で換価分割できない
それぞれ解説していきます。
2-1 代償分割できない
相続人の一人が土地を残したがっている場合の遺産分割方法には、代償分割が考えられます。
しかし、以下のケースでは代償分割を行えない可能性があり、遺産分割協議が難航してしまいます。
- 土地を取得する相続人にお金がなく代償金を払えない
- 相続した土地の評価や査定金額で揉めてしまい、相続人全員が合意しない
代償分割では、土地を取得する相続人は、他の相続人に対して代償金を支払う必要があります。
しかし、代償金の金額や土地を取得する相続人の資産状況によっては代償金を用意できず、他の相続人が納得しないケースもあるでしょう。
土地を取得する相続人が代償金を現金で用意するのが難しい場合には、以下の対処法もご検討ください。
- 代償金の分割払いを提案する
- 現金以外の資産を代償金として渡す
- 不動産投資ローンを借りる
また、代償分割を行う際には土地を取得する相続人とそれ以外の相続人では、下記のように希望が異なることが予想されます。
- 土地を取得する相続人:土地の評価額を下げて代償金をできるだけ抑えたい
- それ以外の相続人:土地の評価額を上げて代償金をできるだけ高くしたい
上記のように、相続人同士で利害関係が対立すると、代償分割する土地の評価額をどのような方法で計算するのかトラブルに発展する恐れがあります。
2-2 誰も土地を相続したがらない
亡くなった人が遺した土地が田舎にあって価値が今後も上がらなさそう、相続人全員がすでに自宅を所有しているなどのケースでは、相続人全員が土地を相続したがらない可能性もあります。
本当に相続財産が土地しかなく、相続したくないと考える場合には相続放棄を考えてみても良いでしょう。
相続放棄とは、相続人としての地位を失い、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなる手続きです。
相続放棄をする場合には、自分が相続人だと知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申立てをしなければなりません。
また、相続放棄は一度してしまうと撤回できないので、手続きをする際には本当に相続財産が土地しかないかの調査をしておくのがおすすめです。
相続放棄以外にも、誰も相続したがらない土地は下記の対処もご検討ください。
- 土地がある市区町村に寄付する
- 複数の不動産会社に査定依頼を出す
- 土地の隣人に購入の意思がないか、タダでもらってくれないか相談する
2-3 遺産分割が難航し共有状態で相続してしまう
相続人同士のトラブルが長引いてしまい「とにかく遺産分割協議や相続手続きを完了させてしまいたい」と考えると、法定相続分による共有分割を考えてしまう人もいるでしょう。
しかし、土地を共有状態で相続すると下記のリスクがあります。
- 将来所有者がどんどん増えてしまい、権利関係が複雑になる
- 相続した土地の売却や活用が難しくなる
- 共有持分のみの売却も難しくなる
相続した土地を共有状態で遺産分割すると、自分が亡くなった後の相続で、子供や孫が遺産分割協議を始めとする相続手続きや土地の処分で悩まされるかもしれません。
また、共有持分で相続した土地を活用し賃貸アパートなどを建設する際には、共有名義人全員の合意が必要です。
相続人同士で「故人の自宅をそのままの形で遺したい」「収益性の高い賃貸物件を建てたい」などと揉める恐れもあります。
安易に共有状態で相続するのは避け、可能であれば代償分割や換価分割、現物分割など他の方法で遺産分割を行いましょう。
2-4 意見の相違で換価分割できない
相続した不動産を換価分割で分けようとしたときに、売却に関する意見が相続人同士で異なり揉めてしまうケースも多いです。
例えば、下記のように相続人同士で意見が割れると売却活動が長期化しやすく、遺産分割にも時間がかかります。
- 一部の相続人が相続した土地をできるだけ早く売却したがる
- 相続人同士で売却希望額がまとまらない
土地の売却は買手が見つからないと成立しないですし、できるだけ早く売ろうとしてしまうと不動産会社に安く買いたたかれてしまう恐れもあります。
また、換価分割のために相続した土地を売却するためには、相続人全員の合意が必要です。
相続人全員が売却条件に納得できるようにするために、信頼できる不動産会社を見つける、複数の不動産会社に査定依頼を申し込むなどの工夫も大切です。
3章 土地しか遺せないときにしておきたい相続対策
本記事の2章で解説したように、相続財産が土地しかないときには相続人同士でトラブルが起きやすいです。
相続人同士のトラブルを回避する、遺された家族の手続きや遺産分割協議の負担を少しでも減らすために下記の相続対策を検討するのが良いでしょう。
- 遺言書の作成
- 生前贈与
- 生命保険の活用
- 家族信託
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 遺言書の作成
遺言書を作成しておけば、誰がどのように土地を受け継ぐのか決めておけます。
相続した土地の名義変更手続きをする際にも、亡くなった人が遺言書を用意しておけば必要書類の数と種類を減らせるので遺族の負担を減らせます。
例えば「土地はすべて妻であるAに相続させる」といった内容を遺言書に記載しておけば、土地の分割方法で相続人が揉めるリスクを下げられます。
ただし、亡くなった人の配偶者や子供、親には遺留分という遺産を最低限度受けとれる権利が用意されています。
遺留分は遺言書よりも優先されるので、上記のように遺言書を作成していても子供たちは遺留分を主張可能です。
子供たちが遺留分を主張した場合、土地をすべて相続する配偶者が子供たちに対して遺留分侵害相当額の金銭を支払わなければなりません。
相続トラブル回避目的で遺言書を作成するのであれば、あわせて遺留分対策もしておきましょう。
3-2 生前贈与
土地を生前贈与してしまえば、相続財産そのものを減らせるので相続トラブルも起きにくくなります。
相続と異なり、生前贈与は贈与者と受贈者が合意したタイミングで行えるので、子供が自宅を建てるタイミングで土地を贈与できるなどのメリットもあります。
ただし、相続人への生前贈与は特別受益に該当する可能性があるので注意が必要です。
特別受益とは、ある相続人が亡くなった人から特別に受けていた利益です。
特別受益が他の相続人の遺留分を侵害していた場合には、生前贈与を受けた相続人が他の相続人に対し遺留分侵害相当分の金銭を支払わなければなりません。
生前贈与を行ったことで特別受益の持ち戻し、遺留分を主張されないようにするには、下記の対策もあわせて行いましょう。
- 遺言書を作成し、遺留分を遺留分権利者に相続させる
- 遺留分の生前放棄をしてもらう
3-3 生命保険の活用
土地を相続させたい人を受取人にした生命保険に加入しておけば、代償分割時に支払う代償金を用意できます。
また、遺言書や生前贈与で特定の人物に土地を受け継ぐ場合も、生命保険を活用すれば他の相続人に支払う遺留分を用意可能です。
生命保険を代償金や遺留分の支払い目的で活用するメリットは、主に下記の通りです。
- 生命保険は遺産分割や遺留分侵害額請求の対象にならない
- 生命保険金は死亡後すぐに支払われることが多い
3-4 家族信託
家族信託とは、自分の家族に契約した範囲内で財産の管理や運用、処分を任せることです。
家族信託の契約を結んでおけば、自分が認知症となり土地の管理ができなくなったときに子供に土地の管理や運用、処分を任せられます。
例えば、複数の土地を所有していて他人に貸していたものの老いてきて、不動産の管理が大変だと感じる人もいるでしょう。
- 委託者:自分
- 受託者:長男
- 受益者:自分(自分が亡くなったら配偶者)
上記のように家族信託の契約を結べば、土地の管理や運用、処分は長男に任せ、借地料などの収益は自分が受け取れます。
また、家族信託では自分が亡くなったときに土地を受け継ぐ人を指定できるだけでなく、その次の相続発生時に受け継ぐ人物まで指定できます。
このように、家族信託は相続対策だけでなく認知症に対策にも活用できる制度です。
自由度が高く、柔軟な財産管理ができる点がメリットですが、家族信託の手続きには専門的な知識や経験が必要になります。
自分で希望通りの信託契約書を作成するのは難しく現実的ではないので、家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
まとめ
相続財産が土地しかないときの遺産分割方法はいくつかありますが、それぞれメリットとデメリットがあります。
相続人間のトラブルを避けたい、どの遺産分割方法が向いているのか知りたい場合には相続に詳しい司法書士や弁護士などの専門家に相談するのも良いでしょう。
また、自分は財産を土地しか遺せそうにないと現段階で予想できるのであれば、遺族の相続トラブルや相続手続きの手間を減らすために遺言書の作成や生前贈与などの相続対策を行うのがおすすめです。
相続対策も複数の方法があり、資産状況や相続、贈与の希望によってベストな選択肢が変わってきます。
自分に合う相続対策を知りたい、ミスなく手続きしたい場合には専門家に相談しましょう。
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