- 成年後見人ってどんな仕事するの?
- 誰でも成年後見人になれるの?
- どのような費用がかかるの?
- 成年後見人ってどんな時に必要なの?
「成年後見人」について、何となくイメージ出来ている方も、気になることやわからない部分が沢山あると思います。
成年後見人とは、判断能力が不十分な人が社会生活をするうえで、不利益を被らないよう代わりに様々な判断を行う人です。
「未成年者にとっての親」に近い存在と言えるでしょう。
本記事では、現役の成年後見人をしている司法書士が皆様の疑問にお答えしたいと思います。
1章 成年後見人とは
成年後見人とは、認知症や知的障がいなどにより、判断能力が不十分な状態にある方が生活をしていく上で、不利益を被らないよう、代わりに様々な判断を行う人のことを言います。
このように判断能力が不十分な方を支援する法律上の制度を「成年後見制度」と言い、成年後見制度は、主に詐欺や悪徳商法、不利益な契約などから本人を保護し、本人の代わりに成年後見人が適切な財産管理や契約行為などの支援を行う目的で利用されます。
なぜなら、判断能力が不十分な状態で行った契約などの行為は「法律上無効」になる可能性があるので、不動産の売却や預貯金の解約、遺産分割協議を行う際には成年後見人が本人に代わって契約する必要があるのです。
なお、成年後見人になるには家庭裁判所の手続きが必要で、その後も家庭裁判所の監督のもと、本人のために様々な行為や判断を行うことになります。
1-1 成年後見制度は2つのタイプがある
成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」の2つのタイプがあり、成年後見制度を利用したい方の判断能力の有無によって、利用できる成年後見制度のタイプは異なります。
- 法定後見制度・・・すでに判断能力が不十分な方の保護・支援のため家庭裁判所に申立てを行う。
- 任意後見制度・・・まだ元気だけど将来が不安な方が、将来支援してくれる人と事前に契約しておく。
したがって、すでに判断能力が不十分な場合は法定後見制度しか利用できず、反対にまだ元気で判断能力が十分ある場合は任意後見制度しか利用することができません。
法定後見制度で選ばれる人を「法定後見人」、任意後見制度で選ばれる人を「任意後見人」と呼びます。
また、法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型があり、それぞれの類型に応じて選ばれる法定後見人を詳しくは「成年後見人」「保佐人」「補助人」と呼びます。
本記事では法定後見制度の3類型のうち最も利用者が多い「成年後見人」について、詳しく解説をすすめていきたいと思います。
「任意後見制度」もしくは「任意後見人」について詳しく知りたい方はこちら
1-2 成年後見人の役割と仕事内容
成年後見人の役割は大きく分けて次の2つです。
- 財産管理・・・本人の財産(預貯金、不動産など)を管理する。
- 身上監護・・・本人の生活や健康・療養に関する支援をする。
次にそれぞれの役割と仕事内容について詳しく見ていきましょう。
1-2-1 財産管理(本人の財産を管理すること)
財産管理とは、預貯金、有価証券、不動産など本人の財産を代わりに管理することです。
具体的な財産管理の仕事内容は次のとおりです。
- 自宅等の不動産の管理
- 預貯金、有価証券の管理
- 年金の管理
- 税金や公共料金の支払い
- 社会保障関係の手続き
- 本人が行うべき法律行為(遺産分割協議、売買契約、賃貸借契約など)
1-2-2 身上監護(本人の生活に関する法律行為を行うこと)
身上監護とは、医療、介護、施設入所に関する契約など、本人の生活に関する法律行為を行うことです。
具体的な身上監護の仕事内容は次のとおりです。
- 入院手続き、医療費の支払い
- 生活費の送金
- 要介護認定の申請などの手続き
- 介護サービスの契約手続き
- 施設入所手続き、介護費用の支払い
1-2-3 成年後見人の役割や仕事に含まれないもの
成年後見人の仕事は財産管理や契約行為など、事務的に行うものがメインとなり、食事や入浴のお世話など、介護サービスを自ら提供する行為は成年後見人の仕事ではありません。
成年後見人の仕事には含まれないものを次の表でまとめていますので、確認しておきましょう。
なお、ご家族などが成年後見人となられる場合は、成年後見人の「仕事」としてではなく、家族として食事や入浴のお世話を行うことになります。
1-3 成年後見人を選ぶ方法
家族や親戚に判断能力が不十分な方がおり、自分が成年後見人になってあげたい、もしくは、司法書士や弁護士などに成年後見人になってほしい場合は、家庭裁判所へ「成年後見人選任の申立て」を行う必要があります。
家庭裁判所へそのような申立てをできる権限のある人と、申立てをする家庭裁判所は次のとおりです。
具体的な手続きは次の手順ですすめる必要があります。
成年後見人選任の申立て手続きについて、くわしく知りたい方はこちら
1-4 成年後見人になれない人
後見人になるため特別な資格は必要ありません。しかし、以下に該当する人は法律で成年後見人になれないことが決まっているので注意が必要です。
- 未成年者
- 破産者
- 行方不明者
- 家庭裁判所から法定代理人などを解任されたことがある人
- 本人に対して裁判をしたことがある人、その配偶者と直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある人
立候補した成年後見人候補者(家族など)が上記に該当しない場合であっても、家庭裁判所の判断で第三者(司法書士や弁護士など)が選任されるケースが増加しています。とくに本人が所有している財産が多い場合は、職業後見人と呼ばれる司法書士、弁護士、社会福祉士が選任される可能性が高くなります。
1-5 成年後見制度の費用
成年後見制度を利用する際にかかる費用は主に次の3つです。
- 申立手続きにかかる費用
- 専門家に申立て手続きを依頼するときの費用
- 成年後見人へ支払う費用
それでは、順に見て行きましょう。
1-5-1 申立て手続きにかかる費用
家庭裁判所の申立て手続きにかかる費用は次のとおりです。
なお、④は本人の判断能力の状態を専門医に調べてもらう「鑑定」という手続きにかかる費用ですが、実施されるのは全体の1割~2割程度と言われています。
なぜなら、申立時に提出する診断書により、一切の意思表示ができない状態と判断できれば、鑑定を行う必要がないからです。
診断書について詳しく知りたい方はこちら
1-5-2 専門家に申立て手続きを依頼するときの費用
申立て手続きの際には、相当量の書類を書いたり、集めたりする必要があります。また、裁判所へ提出する書類であるため、正確性が求められることになります。
そこで、自分で書類を作る自信のない方や仕事などで忙しい方は、司法書士などの専門家に依頼することも検討しましょう。
司法書士へ依頼した場合の報酬の目安は10~20万円程度です。
1-5-3 成年後見人へ支払う費用
成年後見人から家庭裁判所に「報酬付与の申立て」の手続きをすれば、行った仕事内容に応じて、本人の財産から「報酬」を受け取ることができます。
家族などが成年後見人になっている場合は、あえて報酬の付与を求めないケースもありますが、司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人になった場合は、必ず報酬がかかります。
報酬の目安は次のとおりです。
基本報酬として【月額2~6万円】
付加報酬として【特別な行為の都度30~100万円など】
基本報酬は、本人の所有する財産の額、種類によって増減します。
付加報酬とは、不動産売却や遺産分割協議など、特別な行為を行った場合にかかる報酬です。
なお、これらの具体的な報酬額は、成年後見人の申立てにより、家庭裁判所が決定することになります。
成年後見人の報酬について詳しくしりたい方はこちら
2章 成年後見人が必要になる6つのケース
成年後見人が必要になるケースは、主に本人の判断能力が不十分であるため
「必要な契約や手続きが行えないケース」と「詐欺被害や親族の財産使い込みなどの財産管理が心配なケース」の2つのパターンに分かれます。
詳しくは以下のとおりです。
具体的に「成年後見人が必要なケース」をイメージしていただくために、6つの事例をご紹介させていただきます。
すべてのケースにおいて、本人が認知症や障がいなどにより、判断能力が不十分な状態にあるという前提で見ていただければと思います。なお、登場人物の氏名、年齢など全て(仮)となっています。
2-1 銀行手続きをしたいケース
【登場人物】
母:Aさん(本人) 85歳
長男:Xさん 60歳
【ケース】
AさんはXら家族の支えで、今まで自宅療養していたが、来月から特別養護老人ホームに入居することになった。入居一時金が500万円かかるので、母の定期預金を一部解約しようと銀行に行ったが、代理ではなく直接本人が解約手続きを行う必要があるとのこと。本人が寝たきりで話もできないの状態であることを銀行に伝えると「成年後見人」を立ててくださいと言われた。
【成年後見人の役割】
成年後見人が本人に代わって銀行の解約手続きなどを行い、その後も引き続き本人の財産管理を行う。
2-2 不動産売却したいケース
【登場人物】
母:Aさん(本人) 80歳
長女:Yさん 55歳
【ケース】
母は長期入院しており、退院の目処はついたが自宅には戻れず、そのまま介護施設に入居することになった。今後、自宅に戻れる可能性はないため、自宅は売却して母の介護費用に充てようと考え、不動産会社へ相談に行き事情を伝えたところ、不動産売却するには「成年後見人」が必要になる可能性があると言われた。
【成年後見人の役割】
成年後見人が本人に代わって適正な売買契約を行い、その後も引き続き本人の財産管理を行う。
2-3 遺産分割したいケース
【登場人物】
亡夫:Bさん 享年89歳
母:Aさん(本人) 88歳
長男:Xさん 62歳
【ケース】
父Bが先月亡くなった。
介護施設に入居している母へ父が亡くなったことを伝えたが、いまいちよく理解していない様子。
亡父の遺産(不動産や現預金)について名義変更の手続きが必要と考え、司法書士事務所へ相談に行った。
母の状況を伝えると、遺産分割協議を行い財産の名義変更をするには「成年後見人」が必要になる可能性が高いと言われた。
【成年後見人の役割】
成年後見人が本人に代わって適正な遺産分割協議を行い、その後も引き続き本人の財産管理を行う。
2-4 詐欺被害に合わないか心配なケース
【登場人物】
母:Aさん(本人) 75歳
長女:Yさん 50歳
【ケース】
父を早くに亡くしてから、母は実家でひとり暮らしをしている。
先日、帰省したときに新しい羽毛布団があったので母に聞いたところ、自宅によく知らない会社から電話があり、その後、営業マンが訪問してきたことまでは覚えているが、何でこんな高価のもの買ったのか自分でもよくわからないとのこと。詳しく聞いてみると、ひとり暮らしの母に羽毛布団を2セットを購入させ、品代が100万円もしたとのこと。今後もこのような詐欺被害に合わないか心配。
【成年後見人の役割】
成年後見人が本人に代わって適正な財産管理を行い、詐欺などの犯罪から守る。
2-5 家族による財産の使い込みが疑われるケース
【登場人物】
母:Aさん(本人) 75歳
長男:Zさん 52歳
長女:Yさん 50歳
【ケース】
母は15年ほど前から、長男Zと同居している。
母は認知症がはじまっているようで、話が噛み合わないこともしばしばある。
先日、実家に行った時に母から「長男Zに預金の管理を任せているけど、通帳残高見せてと言っても、全然見せてくれないのよ。」と聞いた。
兄Zは昔からギャンブルが好きで、何度も父や母に迷惑をかけ、元妻にも三くだり半を突きつけられた人だ。
もしかすると、母の財産を勝手に使い込んでいる可能性があり心配。
【成年後見人の役割】
成年後見人が本人に代わって適正な財産管理を行い、家族などが本人の財産を使い込むことを防ぐ。
2-6 障がいを持つ子が心配なケース
【登場人物】
母:Aさん 78歳
長男:Zさん(本人) 52歳
【ケース】
長男のZは、産まれたときから障がいを抱えており、自分自身で財産の管理などを行うことができない。現在は身の回りの世話から、障がい年金(手当)の管理まで、すべて私が行っている。
私も78歳になったので、万が一、病気になったり、死んだりすると長男がどうなるかを考えると心配。
【成年後見人の役割】
成年後見人が本人に代わって適正な財産管理を継続的に行い、詐欺などの犯罪から本人の財産を守る。
3章 成年後見制度を利用するときに知っておくべき5つの注意点
成年後見制度の利用を検討されている方が知っておくべき注意点をまとめました。
それぞれ重要な注意点ですので、事前に確認しておきましょう。
3-1 必ずしも候補者が成年後見人に選ばれるとは限らない
成年後見人選任の申立てを行う際には、家族や知人などが「後見人候補者」として立候補することができます。しかし、候補者として立候補するだけなので、本人の財産額や財産の種類、本人との関係や今までの経緯などを総合的に判断し、家庭裁判所が成年後見人となる人を選任することになります。
なお、一定額の金融資産(目安として預金1000万円以上)を保有している場合や、他の家族から反対の意見が出ている場合は、司法書士や弁護士などの第三者が成年後見人に選任されることが多くなります。
3-2 第三者が成年後見人に選任されると一定額の費用がかかる
家族や知人などが成年後見人になった場合は、報酬を請求しないケースも多いですが、司法書士や弁護士など第三者が後見人に選任された場合は、本人の財産から報酬を受領することになります。
月額報酬だけでみても、仮に月3万円とすると年間36万円、10年継続すれば360万円の費用がかかることになります。
3-3 後見制度を一度利用すると本人が亡くなるまで続く
預金口座の解約、不動産の売却など、後見制度を利用することになった目的が達成されても、後見制度の利用を終了することはできません。
したがって成年後見人に選任されれば、本人が亡くなるまで成年後見人として活動しなければならず、病気や転勤など後見人業務を継続しがたい事情がなければ辞任することはできません。
3-4 家庭裁判所への報告や手続きは負担が大きい
成年後見人になれば、家庭裁判所の監督下におかれるため、定期的に後見業務や財産状況の報告を行う必要があります。裁判所への報告や各種手続きは、書面で行うことになるため、事務手続きや法律用語が苦手な方にとっては負担が大きくなります。
また、裁判所は平日しか開庁していないため、お仕事をされている方にとっても負担は大きいと言えるでしょう。
3-5 成年後見人でも出来ることには制限がある
成年後見人になると本人の財産管理を一手に引き受けることになります。
しかしながら、成年後見人であっても、本人の財産を減少させる行為やリスクのある行為はやってはいけません。
具体的には以下のような行為は、それらに該当する可能性があります。
- 本人の法定相続分を割り込むような分配方法での遺産分割
- 本人にとって差し迫った必要のない不動産売却
- 株や不動産への投資行為
- 相続税対策のための生前贈与、不動産活用
まとめ
本記事をお読みいただき成年後見人ついて、ご理解いただけましたでしょうか。
成年後見人を選ぶには家庭裁判所での手続きが必要なこと、成年後見人になると家庭裁判所の監督下に置かれるため、様々な制限や報告義務があることはご理解いただけたかと思います。
また、成年後見人に司法書士や弁護士などの専門家が選任されると、少なくない費用がかかることになります。
判断能力が不十分になる前であれば、
【家族信託】
【任意後見】
など他の選択肢もありますので早めに対策・検討されることをオススメいたします。