成年後見制度は認知症や障がいを持つ人の生活をサポートする制度です。
認知症になり判断能力を失った人は、自分で財産管理や法的手続きを行うことができず、定期預金の解約や施設の入居などの際には成年後見制度の利用が必要になります。
成年後見制度は認知症になった人の生活に必要不可欠な制度ともいえますが、問題点も多く利用時には慎重な判断が必要です。
具体的には、申し立てに手間や費用がかかること、家族信託など他の制度と比較して柔軟な財産管理を行えないなどのデメリットがあります。
本記事では、成年後見制度の問題点や回避方法、問題が起きたときの対処法を解説します。
高齢者の認知症対策については下記の記事でも紹介していますので、ご参考にしてください。
1章 成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や知的障がいによって判断能力が不十分な人が生活をする上で不利益を被らないよう、「成年後見人」が本人の代わりに適切な財産管理や契約行為の支援を行うための制度です。
なお、成年後見制度は下記のように2つの種類に分類できます。
ただし、実務上は「成年後見制度=法定後見制度」として扱われていることが多いです。
2章 成年後見制度の問題点8つ
成年後見制度は認知症などで判断能力を失った人の財産管理を行える制度です。
メリットの大きい制度ですが、一方で下記の問題もあるので利用するかの判断は慎重に行いましょう。
- 申立てに手間と時間・費用がかかる
- 柔軟な財産管理を行えない
- 親族間で不公平感やトラブルに繋がりやすい
- 成年後見人の負担が大きい
- 専門家が成年後見人になると費用がかかる
- 成年後見人が不祥事を起こす恐れがある
- 相続対策を行えない
- 成年後見制度の利用は途中でやめられない
成年後見制度の利用が必要な状況になったときは、自己判断するのではなくまずは相続や認知症対策に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 申立てに手間と時間・費用がかかる
成年後見制度を利用する際には家庭裁判所への申立て手続きが必要ですし、手続きには時間や費用がかかります。
成年後見制度の申立てにかかる費用相場は約16~47万円程度です。
また申立て時には様々な資料の収集や作成が必要であり、資料を準備して後見人を選任するまで3~6ヶ月ほどかかることが多いです。
- 認知症になった親が施設入居するので自宅を売却したい
- 認知症の親が相続人になってしまい他の家族も遺産分割協議が進められない
- 認知症の親が一人で暮らしているが詐欺などに引っかからないか心配している
上記のように、すでにトラブルや心配事が発生しているケースでも成年後見制度の利用を開始するまでに時間がかかってしまいます。
成年後見人の選任まで時間がかかったことにより、問題が深刻化してしまう恐れもあるでしょう。
2-2 柔軟な財産管理を行えない
成年後見制度は家族信託や任意後見制度と比較して、柔軟な財産管理を行いにくいです。
成年後見制度では、成年後見人が被後見人の財産の管理や運用、処分を行う際に家庭裁判所への報告や許可をもらう必要があります。
例えば、被後見人が施設に入居した後に空き家になった自宅を売却しようとしても、被後見人に預貯金があるケースでは売却が認められない可能性も高いです。
一方で、家族信託や任意後見制度は利用開始前に委託者や被後見人と契約を結ぶので、契約内容によっては自宅の処分なども行えます。
2-3 親族間で不公平感やトラブルに繋がりやすい
家族や親族の関係性が悪い場合、成年後見制度を利用したことでトラブルに発展する恐れもあります。
具体的には、下記のようなトラブルが起きることが多いです。
- 成年後見人に選ばれた家族が財産を使い込んでいないか、他の家族や親族に疑われる
- 成年後見人に選任されなかった家族や親族が被後見人に「頼られていない」と感じ不公平感を持つ
- 成年後見人と関係が悪い家族や親族が被後見人との面会を拒否されてしまう
被後見人の財産が多いケースや元々家族や親族間の関係が悪い場合は、トラブルが起きるリスクを考慮して専門家に成年後見人を任せるのも良いでしょう。
ただし、成年後見人に専門家が選ばれると月額報酬がかかり続けます。
2-4 成年後見人の負担が大きい
家族や親族が成年後見人に選ばれると負担が大きく、成年後見人に選ばれたことを不満に思う可能性もゼロではありません。
成年後見人は被後見人の生活をサポートすることが役割であり、具体的には下記の役割や責任があります。
- 家庭裁判所に成年後見人の業務を定期的に報告する
- 家庭裁判所の指示や注意に従って被後見人のために行動する
- 被後見人の意思を尊重した上で、心身と生活に配慮して財産管理を行う
家族や親族が成年後見人になる場合、本業や家事育児に加えて後見人業務をこなさなければならないケースも多いです。
負担も大きい中、後見人の業務をこなしているにもかかわらず、他の家族や親族に被後見人の財産の使い込みを疑われたり、文句を言われたりした場合は割に合わないと感じる人もいるでしょう。
2-5 家族・親族以外が後見人に選ばれることが増えている
近年では、被後見人の家族や親族以外が成年後見人として選ばれることが増えています。
専門家が後見人として選ばれた場合、家族や親族の意向と合わない恐れもありますし、報酬がかかってしまいます。
2-6 専門家が成年後見人になると費用がかかる
司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人になれば、家族や親族間のトラブルも起きにくく、財産の使い込みなどの不祥事のリスクも減らせます。
一方で、専門家が成年後見人になると月額報酬や業務によっては付加報酬がかかります。
専門家が成年後見人になったときの月額報酬の相場は約2~6万円であり、付加報酬の相場は下記の通りです。
認知症発症後の平均生存年数は5~12年という結果も出ています。
専門家が成年後見人に選ばれた場合、長期間にわたり費用がかかり続けることは想定しておかなければなりません。
2-7 成年後見人が不祥事を起こす恐れがある
成年後見人が被後見人の財産を使い込むなどの不祥事が起きる可能性もゼロではありません。
成年後見人などによる不正報告件数や被害額は減少傾向にありますが、令和4年は下記の件数および被害額が報告されています。
専門職以外 | 専門職 | |
不正報告件数 | 171件 | 20件 |
被害額 | 約5億4,000万円 | 約2億1,000万円 |
上記のように成年後見人などによる不祥事の約9割弱は、専門職以外の一般後見人が起こしたものです。
成年後見制度を利用していれば絶対安心ということはなく、制度利用後も被後見人の意思を尊重した暮らしができているか、財産の使い込みが行われていないかの確認は必要といえるでしょう。
2-8 相続対策を行えない
成年後見制度は認知症などで判断能力を失った被後見人本人の財産管理や生活のサポートを行う制度です。
そのため被後見人に直接の利益をもたらさない相続対策に関しては、成年後見人は行うことができません。
- 養子縁組
- 生前贈与
- 不動産購入や生命保険の加入
具体的には、相続対策を目的とした上記の行為は家庭裁判所が認めない可能性が高いです。
一方で、すべての生前贈与が認められないわけではなく家族間の扶養義務を果たすために、家族に対し少額の生前贈与を行う場合は許可がおりる可能性があります。
2-9 成年後見制度の利用は途中でやめられない
成年後見制度は原則として途中でやめることは認められず、被後見人が死亡するまで後見人業務は続きます。
- 専門家に支払う報酬が高い
- 柔軟な財産管理を行えず不便
- 家族が後見人になったが業務が負担
上記の理由でも制度の利用はやめられないので、申し立て時には本当に成年後見制度の利用が必要か、他に選択肢はないのかの判断が必要です。
なお、後見人が不祥事を起こした、業務を続けられない事情が発生した場合に後見人をやめさせることはできますが、別の後見人が選ばれ制度の利用自体は続きます。
認知症対策に詳しい司法書士や弁護士であれば、成年後見制度を利用すべきかの判断も行えますので、家族が認知症かも?と思ったときはまず相談してみるのがおすすめです。
3章 成年後見制度による問題を回避する方法
成年後見制度には様々な問題がありますが、制度の利用を開始してしまうと途中でやめることはできず、問題を回避するのが難しくなってしまいます。
そのため、成年後見制度のデメリットやリスクを回避したいのであれば、そもそも成年後見制度以外の制度を活用できないか検討するのがおすすめです。
具体的には、下記の4つの制度の利用をご検討ください。
- 家族信託を利用する
- 任意後見制度を利用する
- 後見制度支援信託・後見制度支援預金を利用する
- 日常生活自立支援事業を利用する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 家族信託を利用する
家族信託を利用すれば、成年後見制度より柔軟な財産の管理や運用、処分を行えます。
家族信託とは信頼できる家族と契約を結び、財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
成年後見制度と比較したときの家族信託のメリットは、主に下記の通りです。
- 二次相続対策まで行える
- 柔軟な財産管理を行える
- 家族間の信託契約なので家庭裁判所が介入しない
- 家族に財産の管理や運用、処分を委託するので月額報酬がかからない
一方で、家族信託の契約を結ぶ際には判断能力が必要であり、認知症の症状が進行している人は利用できない恐れがあります。
軽度の認知症であれば家族信託を利用できる可能性もあるので、まずは家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
3-2 任意後見制度を利用する
認知症の症状が軽度の場合は、任意後見制度を利用できる可能性があります。
任意後見制度とは元気なうちに自分で選んだ後見人と任意後見契約を結び、財産の管理や療養看護を任せる制度です。
任意後見制度は自分で後見人を選べるだけでなく、任せたい後見業務の内容を契約によってある程度自由に決められます。
そのため、成年後見制度よりも柔軟な財産管理を行いやすいです。
ただし、任意後見制度を利用する際は任意後見監督人の選任が必要であり、利用開始後は任意後見監督人への報告が必要になります。
また家族信託同様に、任意後見制度も被後見人の認知症の症状が進み判断能力を失うと、制度を利用できません。
3-3 後見制度支援信託・後見制度支援預金を利用する
後見制度支援信託や後見制度支援預金を利用すれば、成年後見人が管理する財産額を減らせるので、後見人業務の負担軽減や後見人による財産の使い込み防止に役立ちます。
後見制度支援信託および後見制度支援預金の概要は、下記の通りです。
後見制度支援信託 | 後見制度支援預金 | |
概要 | 日常生活で使用する財産のみを成年後見人に管理してもらう 残りの資産は信託銀行に預ける | 日常生活で使用する財産のみを成年後見人に管理してもらう 残りの資産は金融機関に預ける |
専門職後見人の必要可否 | 必要 | 不要 |
3-4 日常生活自立支援事業を利用する
日常生活自立支援業務を利用すれば、認知症になり一人で生活するのに不安がある人の暮らしをサポートしてもらえます。
日常生活自立支援業務は地域の福祉協議会などによって運営されている制度であり、認知症などで判断能力を失った人も生活できるようにサポートする制度です。
- 金銭の管理や公共料金の支払いサポート
- 通帳などの重要書類の管理
- 生活の見守り
- 利用できる福祉サービスの紹介、手続きサポート
日常生活自立支援業務は行政が運営しているサービスなので、成年後見制度と違って担当者が仕事をしてくれない、財産を使い込むなどのトラブルが起きにくいのがメリットです。
4章 成年後見制度で問題が起きたときの対処法
成年後見制度をすでに利用しているものの成年後見人による財産の使い込みが疑われるなど、問題が起きているときは成年後見人の解任請求を申立てる、成年後見人に訴訟を起こすなどの対処もご検討ください。
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 家庭裁判所に解任請求を申立てる
成年後見人が後見人業務をしてくれない、財産の使い込みが疑われる場合は、家庭裁判所に対し成年後見人の解任請求を行えます。
ただし、解任請求が認められるかの最終判断は家庭裁判所が行います。
家庭裁判所が解任請求を認めるだけの証拠を揃えて申立て請求を行うのが良いでしょう。
4-2 成年後見人に不当利得返還請求・損害賠償請求を起こす
成年後見人による被後見人の財産の使い込みが発覚した場合は、不当利息返還請求や損害賠償請求などの訴訟も起こせます。
訴訟で勝てれば使い込まれた金額を返還してもらえますが、裁判所が納得するだけの証拠が必要になります。
まとめ
認知症になり判断能力を失った人の財産を管理するには、成年後見制度の利用が必要です。
しかし、成年後見制度には申立て費用がかかる、柔軟な財産管理を行えないなどの問題点もあります。
そのため、本当に利用すべきなのか、成年後見制度以外の選択肢はないのかを判断しなければなりません。
認知症の症状が軽度で判断能力が残っているとされれば、家族信託や任意後見制度を利用できる可能性がありますし、家族や親族の認知症が疑われる、様子がおかしいと思ったときは認知症対策に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
グリーン司法書士法人では、認知症対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料ですし、オンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
成年後見人はやめられる?
やむを得ない事情がある場合、成年後見人を辞任できますが、簡単にやめることはできません。
「面倒になった」「忙しい」などの理由は認められないのでご注意ください。成年後見制度にかかる月額報酬はいくら?
成年後見人に司法書士や弁護士などの専門家が就いた場合は、月額2~6万円の費用がかかります。
財産額が5,000万円を超える場合は、基本報酬額が更に高額になります。