- 成年後見人ができないこと
- 成年後見人が状況によって行えること
- 成年後見人ができない行為への対処法
成年後見人とは、認知症や知的障がいなどで判断能力が不十分な人の生活をサポートし、かわりに財産管理や契約行為、法的手続きを行う人物です。
成年後見人として選ばれると認知症や知的障がいの人のかわりに財産管理や生活サポートを行う一方で、日用品の買い物や介護など成年後見人では行えない業務もいくつかあります。
認知症対策として成年後見制度を利用する際には、成年後見人ができることとできないことを把握し、自分の希望や状況に合う制度を利用することが大切です。
本記事では、成年後見人ができることやできないこと、対処法を解説します。
成年後見制度については、下記の記事でも詳しく解説しているのでご参考にしてください。
1章 成年後見人とは
成年後見制度とは認知症や知的障がいによって判断能力が不十分な人のかわりに、成年後見人が財産管理や契約、法的手続きを行う制度です。
成年後見制度において、支援をしてもらう人を「被後見人」、支援をする人を「成年後見人」と呼びます。
1-1 成年後見人ができること
成年後見人は、被後見人の財産管理から日常の生活サポートにいたるまで幅広い役割を果たします。
具体的には、不動産や貯金などの資産管理や被後見人が適切な福祉サービスや医療を利用できるようサポートします。
成年後見人が行える業務は、主に下記の2つに分類可能です。
財産管理では被後見人のかわりに預貯金や有価証券、不動産などの管理を行い、具体的には下記の業務を行います。
- 自宅等の不動産の管理
- 預貯金、有価証券の管理
- 年金の管理
- 税金や公共料金の支払い
- 社会保障関係の手続き
- 本人が行うべき法律行為(遺産分割協議、売買契約、賃貸借契約など)
身上看護とは医療や介護、施設入所などの契約を本人のかわりに行うことであり、具体的には下記の業務を行います。
- 入院手続き、医療費の支払い
- 生活費の送金
- 要介護認定の申請などの手続き
- 介護サービスの契約手続き
- 施設入所手続き、介護費用の支払い
成年後見制度では被後見人の財産管理を行えますが、賃貸用不動産の運用やリフォームなど柔軟な財産の管理や運用、処分は行えません。
柔軟な財産管理を行いたいのであれば、家族信託や任意貢献制度の利用を検討しましょう。
家族信託や任意後見制度では、委託者や被後見人とあらかじめ結んでおいた契約に基づき財産の管理や運用、処分を行えます。
ただし、家族信託や任意後見制度は本人が重度の認知症になり判断能力を失うと、制度を利用できないのでご注意ください。
2章 成年後見人ができないこと
成年後見人は被後見人のために財産管理や身上監護を行いますが、一方で下記の行為は行うことができません。
- 事実行為
- 身分行為
- 一部の医療行為の同意
- 日常生活上の消費の取り消し・同意
- 被後見人の保証人になること
- 成年後見人と被後見人の利益相反となる行為
それぞれ具体例とともに解説していきます。
2-1 事実行為
成年後見人は財産管理および身上監護を行うこととされており、事実行為は行えません。
事実行為とは、被後見人の生活や健康管理のために直接的に行う行為であり、具体的には下記の行為が該当します。
- 送迎
- 日用品の買物
- 掃除や洗濯などの家事
- 介護や入浴介助
被後見人が認知症で上記を1人で行えず支援を必要としているのであれば、成年後見人が直接行うのではなく介護タクシーの手配や介護サービスの利用契約を結ぶなどをしてサポートをします。
2-2 身分行為
成年後見人は身分行為と呼ばれる法律上の身分関係の効力を発生、変更、消滅させる行為を被後見人のかわりに行うことはできません。
身分行為の具体例は、下記の通りです。
- 養子縁組
- 婚姻届や離婚届の提出
- 子の認知
身分行為は代理人がかわりに行うことができず、本人の意思が最大限尊重されるべき行為と考えられています。
そのため、成年後見人であってもかわりに行うことは認めれていません。
なお、同じく本人の意思が必要になる遺言書の作成も成年後見人が行うことはできません。
2-3 一部の医療行為の同意
一般的な治療行為への同意や入院手続きのサポートは成年後見人でも行えますが、下記の行為は本人の意思が尊重されるため成年後見人はかわりに同意できません。
- 手術など苦痛や危険を伴う医療行為への同意
- 延命治療の拒否や中止
- 臓器提供の意思表示
そのため延命治療や臓器提供に関して何らかの意思表示をしたいのであれば、元気で判断能力がしっかりしているうちに行わなければなりません。
2-4 日常生活上の消費の取り消し・同意
被後見人が日常生活を営む中で購入したものに関しては、成年後見人が同意や取り消しを行うことができません。
日常生活の中で購入したものを取り消せない理由は、下記の2つです。
- 本人の意思を尊重するため
- 日用品の購入金額は高額ではないため
そのため、衣料や日用品、食品などを被後見人が購入したとしても成年後見人は取り消せません。
なお、どの範囲が日常生活の中で購入したものに該当するかは被後見人の収入や資産状況、購入した品の必要性から個別に判断されます。
2-5 被後見人の保証人になること
成年後見人は、被後見人のかわりに行動する役割を持つ人物であるため、保証人になることはできません。
- 病院への入院や施設入所時の保証人や身元引受人
- 債務の保証人
上記を行うことはできませんし、成年後見人が勝手に行うと解任事由に該当する恐れがあります。
2-6 成年後見人と被後見人の利益相反となる行為
成年後見人と被後見人の利益が対立してしまう「利益相反」にあたる行為は行うことができません。
利益相反となるケースは、主に下記の通りです。
- 成年後見人と被後見人が相続人になってしまう
- 被後見人が所有している不動産を成年後見人が購入する
- 成年後見人が銀行から融資を受ける際に被後見人の不動産を担保にする
成年後見人と被後見人がそれぞれ相続人になったときには、被後見人のかわりに成年後見監督人もしくは特別代理人が遺産分割協議に参加します。
成年後見監督人とは、成年後見人が行う業務を監督する役割を持つ人物です。
成年後見監督人は必ず選任されているわけではないので、いない場合は特別代理人を選任しなければなりません。
遺産分割協議を行うための特別代理人の選任方法は、下記の通りです。
申立てできる人 | 成年後見人 |
申立て先 | 被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
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必要書類 |
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3章 成年後見人が状況によって行える行為
成年後見人は被後見人の財産管理や身上監護を行いますが、下記の行為はすべてのケースで認められるわけではありません。
- 被後見人の自宅売却
- 被後見人の死後事務手続き
上記を行う際には家庭裁判所の許可が必要であり、成年後見人が行わなければならない理由がない限り認められません。
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 被後見人の自宅売却
成年後見人が被後見人の自宅を売却するときには、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立てをしなければなりません。
自宅の売却は被後見人にとって影響度が大きく、個別の判断が必要と考えられるからです。
売却時に居住用不動産処分許可の申立てが必要な不動産は、下記の通りです。
- 被後見人が現在住んでいる自宅
- 今は施設に入所している被後見人がかつて住んでいた家
- 被後見人が将来住むために購入した家
居住用不動産処分許可の申立ておよび家庭裁判所の許可を得ずに行った売却は無効になります。
また、売却だけでなく施設入所して空き家になった自宅を他人に貸し出す場合なども家庭裁判所の許可が必要です。
被後見人の自宅を売却する際の居住用不動産処分許可の申立て方法や必要書類は、下記の通りです。
申立てできる人 | 成年後見人(保佐人・補助人) |
申立て先 | 被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
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必要書類 |
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3-2 被後見人の死後事務手続き
成年後見人は被後見人の死後に事務手続きを行うことはできず、原則として相続人が行うものとされています。
成年後見人の後見業務は被後見人の死亡時まで続くとされており、死後事務手続きは後見業務の範囲外と考えられるからです。
しかし平成28年に法改正が行われた結果、成年後見人は下記の死後事務手続きを行えるようになりました。
- 相続財産の保存に必要な行為(被後見人の自宅の屋根の修繕など)
- 被後見人の借金の返済や入院費用、公共料金の支払い
- 被後見人の火葬や埋葬に関する契約
- 遺体の引き取りや葬儀手配
ただし、被後見人の火葬や埋葬に関する契約を結ぶ、被後見人の借金返済のために預貯金を払い戻す場合などは事前に家庭裁判所の許可が必要です。
また、成年後見人が死後事務手続きを行う際には、下記の要件を満たさなければなりません。
- 成年後見人がその事務を行う必要がある
- 被後見人の相続人が相続財産を管理できない状態にある
- 成年後見人が死後事務を行うことが被後見人の相続人の意思に反していない
4章 成年後見人ができないことへの対処法
本記事の2章や3章で解説してきたように、成年後見人は被後見人のための手続きや財産管理をすべてサポートできるわけではありません。
そのため、自分が認知症になったときにしてもらいたいサポート内容によっては成年後見制度以外も利用を検討するのがおすすめです。
成年後見人ができないことに対処するには、下記の4つの方法が良いでしょう。
- 家族信託・任意後見制度を活用する
- 判断能力があるうちに自分の意思を示しておく
- 認知症の人が相続人になりそうなときは相続対策をしておく
- 身元保証サービスを活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 家族信託・任意後見制度を活用する
成年後見制度では自宅の売却やリフォーム、賃貸用不動産の管理や運用を行いにくいので、柔軟な財産管理をしたいのであれば家族信託や任意後見制度を利用するのがおすすめです。
家族信託とは、信頼できる家族にあらかじめ定めた契約の範囲内で財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
任意後見制度とは自分が元気なうちに後見人になってくれる人物と契約を結び、認知症などで判断能力を失ったときに後見業務を行ってもらう制度です。
任意後見制度でもあらかじめ後見人と被後見人で契約を結んでおくので、成年後見制度よりも柔軟な財産管理をしやすいメリットがあります。
ただし、家族信託や任意後見制度は利用開始前に契約を結ぶ必要があり、判断能力が求められます。
すでに認知症の症状が進行していて判断能力が失われている人は、成年後見制度しか利用できないのでご注意ください。
認知症の症状や契約内容によっては、家族信託や任意後見制度を利用できる可能性もあるので、制度を利用したいと思ったときには司法書士や弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
4-2 判断能力があるうちに自分の意思を示しておく
臓器提供や延命治療に関する希望があるならば、元気で判断能力が残っているうちに自分の意思を示しておきましょう。
本記事の2章で解説したように、臓器提供や延命治療に関する意思表示は成年後見人は行うことができないからです。
特に延命治療に関しては、成年後見人が決められないだけでなく家族間でも意見が割れ揉めてしまうケースも多いです。
家族の負担を減らすためにも、現時点の希望で良いのでエンディングノートなどにまとめておきましょう。
4-3 認知症の人が相続人になりそうなときは相続対策をしておく
すでに成年後見制度を利用している家族がいる、認知症になりそうな高齢の家族がいる場合は、相続対策をして遺族の負担を減らしましょう。
認知症になり判断能力が失われた人は、遺産分割協議に参加できず残りの相続人も相続手続きを進められなくなってしまいます。
また、成年後見人と被後見人の両方が相続人となっているケースでは、特別代理人の選任が必要で遺産分割協議や相続手続きに時間がかかることが予想されます。
そのため、認知症の人が相続人になると予想できる場合には、下記の方法で相続対策を行うのがおすすめです。
- 家族信託を活用する
- 遺言書を作成する
- 生前贈与する
- 生命保険に加入しておく
例えば、遺言書を作成し遺言執行者も選任しておけば、認知症の人が相続人に含まれるケースでも遺言執行者が単独で相続手続きを進められます。
4-4 身元保証サービスを活用する
成年後見人は被後見人の保証人や身元引受人になることはできないので、身寄りがいないのであれば身元保証サービスの利用を検討しましょう。
身元保証サービスとは、高齢者の日常支援や病院への入院、施設への入居をする際に保証人になってくれるサービスです。
身元保証サービスが提供するサービス内容は、主に下記の通りです。
- 日常生活のサポート
- 入院や入居時の身元保証
- 緊急時の駆けつけサポート
- 亡くなる前後のサポート
身元保証サービスによって提供サービスが異なりますので、利用前に確認しておくと良いでしょう。
まとめ
成年後見人は財産管理や身上監護を行う一方で、介護などの事実行為や養子縁組などの身分行為はできません。
また、臓器提供や延命治療の意思表示など一部の医療行為への同意も成年後見人は行えないので、制度利用前によく確認しておきましょう。
認知症対策を万全にしておきたい、自分の希望通りの老後や最期を迎えたいと考えるのであれば、成年後見制度以外の利用を検討するのがおすすめです。
例えば家族信託や任意後見制度であれば、成年後見制度よりも柔軟な財産管理を行えます。
認知症対策には様々な方法があり、本人の希望や状況によってベストな対応が異なるので、まずは司法書士や弁護士などの専門家にご相談ください。
グリーン司法書士法人では、成年後見制度などの認知症対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
成年後見人ができないことは何?
成年後見人ができないことは、主に下記の通りです。
・事実行為
・身分行為
・一部の医療行為の同意
・日常生活上の消費の取り消し・同意
・被後見人の保証人になること
・成年後見人と被後見人の利益相反となる行為
▶成年後見人ができないことについて詳しくはコチラ成年後見人の報酬は誰が払う?
成年後見制度の利用が開始された後に、成年後見人に支払う報酬を負担するのは制度利用者本人(被後見人)です。
▶成年後見人の報酬について詳しくはコチラ成年後見人はどこまでできる?
成年後見人として選ばれた後は、被後見人のために下記の業務を行います。
・身上監護:被後見人の生活や健康
・療養に関する支援をする財産管理では被後見人のかわりに預貯金や有価証券、不動産などの管理を行い、具体的には下記の業務を行います。
身上看護とは医療や介護、施設入所などの契約を本人のかわりに行うことであり、具体的には下記の業務を行います。