- 法定相続人がいない場合の基礎控除の金額がわかる
- 法定相続人以外に財産を遺す方法がわかる
- 法定相続人以外に財産を遺すときの注意点がわかる
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されています。
相続税の基礎控除は法定相続人の数によって決まり、法定相続人がいない場合、基礎控除は3,000万円のみとなります。
また、法定相続人がいない場合は、遺言書などで指定された受遺者や故人と生前特別な関係にあった特別縁故者が財産を受け継ぎます。
そして、受遺者や特別縁故者がいない場合は、遺産は最終的に国のものとなってしまうのでご注意ください。
身寄りがなく法定相続人がいない場合、遺産を希望の人物に受け継いでもらうために元気なうちに相続対策をしておくのが良いでしょう。
本記事では、法定相続人がいない場合の基礎控除や遺産を受け継ぐ人物について詳しく解説します。
法定相続人がいない場合の相続については、下記の記事で詳しく解説しているのであわせてご参考ください。
目次
1章 法定相続人がいない場合の基礎控除は3,000万円
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が用意されており、遺産が基礎控除内に収まるのであれば、相続税はかかりません。
上記のように、相続税の基礎控除は法定相続人の数によって決まり、法定相続人がいなければ相続税の基礎控除は3,000万円となります。
法定相続人とは、法律によって決められた相続人であり、下記のように優先順位が決められています。
常に相続人となる | 配偶者 |
第一順位 | 子供・孫 |
第二順位 | 両親・祖父母 |
第三順位 | 兄弟姉妹・甥姪 |
故人に身寄りがなく兄弟姉妹や甥、姪もいないケースや両親祖父母がすでに他界しているケースでは、法定相続人が存在しません。
このようなケースでは、相続税の基礎控除は3,000万円のみとなります。
2章 法定相続人がいない場合は遺産を誰が受け継ぐ?
法定相続人がいない場合、相続税の基礎控除が3,000万円のみになるだけでなく、遺産を受け継ぐ人物も存在しません。
法定相続人がいない相続では、下記の順位で遺産を受け継ぐ人物が決められています。
- 債権者・受遺者
- 特別縁故者
- 最終的に国のものになる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 債権者・受遺者
相続人がいない場合、まずは「債権者」や「受遺者」に遺産が支払われます。
債権者は、亡くなった人にお金を貸していた人物や賃貸マンションの大家などが該当します。
受遺者とは、遺言などによって遺産を受け継ぐ権利を持った人物です。
2-2 特別縁故者
債権者や受遺者がいない場合は、特別縁故者が遺産を受け取れます。
特別縁故者とは、亡くなった人と特別に親しい関係にあった人であり、例えば以下の人物が特別縁故者にあたります。
- 養子縁組せず同居していた子どもや親(息子の嫁など)
- 内縁の配偶者
- 介護でお世話になった人
裁判所が特別縁故者として認めると、遺産のうち裁判所が決めた金額が分与されます。
特別縁故者は裁判所が認める必要があり、申立てから認められるまでには数ヶ月以上かかることも多いのでご注意ください。
2-3 最終的に国のものになる
特別縁故者がいない場合や特別縁故者に遺産を分与しても余る場合は、遺産は最終的に「国のもの」となります。
このように、相続人がいない場合、遺産は最終的に国のものになってしまいます。
希望の人物に確実に財産を遺したいのであれば、相続対策をしておきましょう。
次の章では、具体的な相続対策の方法を解説します。
3章 法定相続人以外に財産を遺す方法
法定相続人以外に確実に財産を遺すのであれば、家族信託や遺言書の作成などを活用するのが良いでしょう。
相続対策の方法は、主に下記の通りです。
- 家族信託を活用する
- 遺言書を作成する
- 生前贈与をする
- 養子縁組をする
- 生命保険を活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 家族信託を活用する
家族信託を利用すれば、自分が亡くなったとの財産を内縁の妻や夫、信頼できる人物に任せられます。
家族信託とは、①財産の所有者(受託者)と②財産の管理や運用、処分をする人(委託者)と③財産によって生じた利益を受け取る人(受益者)をそれぞれ設定できる制度です。
家族信託では、自分が亡くなった後に財産を受け継ぐ人物だけでなく、さらにその次の相続の承継先まで指定可能です。
先祖代々受け継いできた財産がある人や相続人にはあたらない内縁の妻や夫に財産を遺したい場合にも、おすすめできます。
3-2 遺言書を作成する
遺言書を作成しておけば、相続人以外の第三者にも自分の財産を受け継いでもらえます。
相続対策で用いられる遺言書にはいくつか種類がありますが、その中でも形式不備による無効リスクが少なく、原本を公証役場で保管してもらえる公正証書遺言を作成しておくのが良いでしょう。
遺言書を作成する際には、あわせて遺言執行者も選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておけば、単独で遺産の名義変更手続きを行えますし、相続人に遺言書の内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人がなることもできますが、遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を選任すれば、作成時の意図や遺志も伝えてもらえます。
3-3 生前贈与をする
生前贈与を行えば、希望する人物に自分の財産を受け継ぎます。
生前贈与は相続と異なり、贈与者と受贈者が合意したタイミングで行えるため、相続発生を待たずに自分の財産を受け継げるのもメリットといえるでしょう。
ただし、1年間で110万円を超える贈与を受けると、贈与税がかかるのでご注意ください。
したがって、生前贈与を行う際には贈与税についてあらかじめシミュレーションしておくことをおすすめします。
3-4 養子縁組をする
財産を遺したい人物と養子縁組すれば、法律上の親子関係が生じ、養子に財産を受け継げます。
養子は実子同様に相続人になれるので、遺産を受け継ぐことができますし、法定相続人として生命保険や死亡退職金の非課税枠も利用できます。
ただし、一度行った養子縁組を解消するには双方の同意が必要になるため、養子による相続対策をする際には慎重に判断しなければなりません。
3-5 生命保険を活用する
内縁の妻や夫に財産を遺したいケースであれば、生命保険を活用することも検討しましょう。
通常、生命保険の受取人として指定できるのは配偶者および二親等以内の血族です。
ただし、保険会社によっては条件を満たした内縁の妻や夫を生命保険の受取人として指定できる場合があります。
何らかの理由があり事実婚状態のパートナーがいる場合には、生命保険会社に確認して保険金の受取人として設定できないか確認してみるのもおすすめです。
4章 法定相続人以外に財産を遺すときの注意点
先ほどの章で解説した方法で、法定相続人以外に財産を遺すのであれば、相続税や登録免許税の負担が増える点に注意しなければなりません。
法定相続人以外に遺産を相続させるときの注意点は、主に下記の通りです。
- 法定相続人以外が財産を受け継ぐと相続税が2割加算になる
- 不動産を受け継いだときの登録免許税の税率が上がる
- 不動産取得税がかかる場合がある
- 法定相続人以外は生命保険の非課税枠を適用できない
- 長年疎遠・行方不明の相続人も相続権を持つ
- 相続人が相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 法定相続人以外が財産を受け継ぐと相続税が2割加算になる
法定相続人以外が財産を受け継ぐ場合、相続税が2割加算となるのでご注意ください。
亡くなった人の配偶者や子供、両親以外が遺産を受け継ぐと、相続税が2割加算となるからです。
相続税の負担を軽減しつつ、特定の人物に遺産を遺したい場合は、その相手と養子縁組することも検討しましょう。
養子縁組すれば、法律上の親子関係が生じるため、相続税が2割加算になることもありません。
4-2 不動産を受け継いだときの登録免許税の税率が上がる
法定相続人以外の人物が不動産を受け継ぐと、名義変更時の登録免許税の税率も上がるのでご注意ください。
登録免許税とは、不動産の名義変更手続きをしたときに払う税金であり、相続による名義変更では下記のように税率が設定されています。
相続人が不動産を受け継ぐ場合 | 固定資産税評価額×0.4% (土地2,000万円の場合、8万円) |
相続人以外の人物が不動産を受け継ぐ場合 | 固定資産税評価額×2% (土地2,000万円の場合、40万円) |
上記のように、相続人以外が遺贈によって不動産を受け継ぐと、登録免許税の税率が5倍に上がってしまいます。
受け継ぐ不動産の価値が高ければ高いほど、登録免許税の負担も上がってしまうのでご注意ください。
4-3 不動産取得税がかかる場合がある
法定相続人以外が財産を受け継ぐと、不動産取得税がかかる恐れがあるのでご注意ください。
不動産取得税とは名前の通り、不動産を取得したときにかかる税金ですが、相続によって不動産を取得した際には不動産取得税は課税されません。
しかし、不動産を「特定遺贈」によって取得した場合は、「固定資産税評価額×3%」の不動産取得税がかかります。
特定遺贈とは、個別の財産を遺贈することであり、遺言書に「〇〇の土地を遺贈する」などと指定することです。
一方で、「全財産を内縁の妻に相続させる」など相続させる割合を指定する遺贈は「包括遺贈」と呼びます。
包括遺贈によって土地を遺贈された場合は、相続と同様に不動産取得税が課税されません。
4-4 法定相続人以外は生命保険の非課税枠を適用できない
法定相続人以外を生命保険金の受取人にした場合、生命保険の非課税枠を適用できないのでご注意ください。
相続人が故人の死亡により生命保険金を受け取った場合「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を適用できます。
4-5 長年疎遠・行方不明の相続人も相続権を持つ
相続人になる人物は法律によって決められており、長年疎遠である人物や行方不明である人物も相続人になる恐れがあるのでご注意ください。
例えば、前妻の子とは離婚したっきり会っていないケースでも、相続が発生すれば前妻の子が相続人になります。
このようなケースで相続対策をしていなかった場合、これまで会っていなかった前妻の子が遺産を受け継ぎ、長年一緒に暮らしていた内縁の妻が遺産を受け取れなくなる恐れもあります。
このような事態を防ぐために、元気なうちに遺言書の作成や相続対策をしておくことが大切です。
また、遺言書を作成するのであれば、相続人と受遺者によるトラブルを避けるため、遺言執行者を選任しておくことをおすすめします。
4-6 相続人が相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る
同順位の相続人全員が相続放棄した場合、法定相続人がいなくなるのではなく、次の優先順位の相続人に相続権が移ります。
相続人になる人物および優先順位は法律によって決められているからです。
例えば、故人の子供全員が相続放棄した場合、両親が生きていれば両親、他界していれば故人の兄弟姉妹や甥、姪が相続権を持ちます。
単純に子供だけが相続放棄すれば、法定相続人がいなくなるわけではないのでご注意ください。
相続放棄する際には、自分の次に相続人になる人物はいるのかを確認し、次に相続人になる人物に相続放棄の理由を伝えてあげるのが良いでしょう。
まとめ
法定相続人がいない場合の相続税の基礎控除は3,000万円のみとなります。
例えば、故人に身寄りがいなく内縁の妻がすべての遺産を受け継いだケースなどでは、法定相続人が1人もいないため相続税の基礎控除が3,000万円のみとなるのでご注意ください。
また、法定相続人がいない場合、生命保険や死亡退職金の非課税枠を利用することもできません。
加えて、故人が相続対策をしていないと、遺産を受け取る人物がいなく、遺産が最終的に国のものになってしまう恐れもあるので注意しましょう。
自分が希望する人物に遺産を受け継いでほしいのであれば、元気なうちに相続対策をしておくのが良いでしょう。
相続対策には複数の方法があり、それぞれメリットとデメリットがあるので、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。
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