
- 嫡出否認とは何か
- DNA鑑定で父子関係が否定されたら嫡出否認できるのか
- DNA鑑定で血縁関係がないとわかった子供に遺産を譲らない方法
DNA鑑定は高い精度で親子関係の有無を明らかにできますが、日本の法律では科学的事実よりも一度法的に成立した親子関係が優先される仕組みになっています。
父親と子供の血縁関係がなく、法律上の親子関係を解消したい場合には嫡出否認の訴えをしなければなりません。
父親が嫡出否認の訴えを起こす場合には、子供の出生を知ってから3年以内という期限が設定されています。期限を過ぎた場合には、親子関係不存在確認の訴えを起こすことも検討しましょう。
本記事では、嫡出否認の訴えとは何か、血縁関係のない子供に遺産を譲らないようにする方法を解説します。
目次
1章 嫡出否認とは
嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)とは、法律上の父親と子に親子関係がないことを主張する手続きです。
法律では、婚姻中の妻が出産した子供は、特別な事情がない限り「夫の子」として扱われると決められています。
しかし、実際にはDNA鑑定の結果から、夫と子供の間に生物学的な血縁関係が存在しないことが判明する場合があります。
その際に、夫が「自分は父親ではない」と主張したり、母親や子供が「この人物は父親ではない」と主張したるための手続きが「嫡出否認の訴え」です。
本記事では、以降、父から嫡出否認の訴えを起こすケースに限って説明します。
2章 DNA鑑定で父子関係が否定されても嫡出否認できるとは限らない
DNA鑑定をすれば、非常に高い精度で血縁関係の有無を科学的に判断できます。
しかし、鑑定結果により自動的に法律上の父子関係が解消されるわけではないと理解しておきましょう。
DNA鑑定により、父親と子供の血縁関係が否定されたとしても、嫡出否認の訴えが認められなければ法律上の親子関係は解消されません。
また、嫡出否認の訴えを父親が提起する場合は、子供の出生を知ったときから3年以内に家庭裁判所に提起しなければなりません。
この期間を過ぎてしまうと、たとえDNA鑑定で父子関係が否定されたとしても、法律上は「夫の子」としての地位が確定してしまいます。
これは、子供の立場を早期に安定させることが子供の福祉や社会的に重要とされているからです。
実際には、3年という期限は非常に短く、嫡出否認の訴えをしようとしても間に合わないケースもあります。
そのため、自分が本当の父親か疑念を抱いたらできるだけ早く専門家に相談することをおすすめします。
3章 親子関係不存在確認の訴えには期限がない
嫡出否認の訴えを父親が提起する場合は「子供の出生を知ってから3年以内」という期限があり、期限を過ぎてしまうと提起することができません。
嫡出否認の訴えの期限を過ぎてしまった場合の選択肢としては、親子関係不存在確認の訴えがあります。
親子関係不存在確認の訴えとは、法律上の親子関係が存在しないことを確認するための訴えであり、嫡出否認とは異なり提訴期限が設けられていない点が大きな特徴です。
しかし、期限がないからといって、いつでも簡単に親子関係不存在確認の訴えが認められるわけではありません。
裁判所は「子供の利益」と「社会的な実態」を重視するため、実際には厳格な判断が行われます。
親子関係不存在確認の訴えでは、DNA鑑定など科学的な証拠があれば有利に働くものの、それだけで直ちに認められるとは限りません。
裁判所は、鑑定結果だけでなく、以下のような点も考慮して父親と子供の間に親子関係が存在しているかを判断します。
- 夫婦の同居状況や生活実態
- 社会的な親子関係の有無
- 子供の福祉
親子関係不存在確認の訴えは、嫡出否認ができなかった場合に利用されることもありますが、実際には容易に認められないケースが少なくありません。
特に、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときには、訴えが棄却されることもあります。
そのため、訴訟を検討する際には、DNA鑑定の実施や夫婦の生活状況に関する証拠収集など、入念な準備が必要です。
4章 DNA鑑定で血縁関係がないとわかった子供に遺産を譲らない方法
これまで解説してきたように、DNA鑑定の結果だけでは、法律的な親子関係を解消できない可能性がゼロではありません。
法律的な親子関係を解消できなかった場合には、以下のような方法で血縁関係のない子供に遺産を譲らないことも検討しましょう。
- 遺言書の作成
- 生前贈与
- 家族信託の利用
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 遺言書の作成
最も一般的で確実性の高い方法が、遺言書の作成です。
遺言書を作成すれば、希望の人物に希望の遺産を譲れるようになります。
例えば、血縁関係のない子供には遺産を譲らず、他の子供に受け継いでもらうことも可能です。
ただし、血縁関係のない子供に遺産を譲らない遺言書を作成する場合には、遺留分について考慮しなければなりません。
遺留分とは、故人の配偶者や子供、両親などに認められる最低限度の遺産を受け取れる権利です。
遺留分は遺言書の内容より優先されるため、子供に一切遺産を取得させないと遺言書に記載するとトラブルに発展する恐れがあります。
遺留分を考慮した遺言書を作成したい場合には、相続対策に精通した司法書士や弁護士に遺言内容について相談することを強くおすすめします。
4-2 生前贈与
もうひとつの方法は、生前に信頼できる相続人や第三者へ財産を贈与してしまうことです。
生前贈与によって自分の財産を減らしておけば、死亡時に相続対象となる財産自体が少なくなり、血縁関係のない子供に渡る遺産も減らせます。
ただし、生前贈与の時期や相手、内容によっては贈与財産も遺留分の計算対象に含まれる場合があるのでご注意ください。
また、年間110万円を超える贈与を受けた場合、贈与税がかかることも理解しておきましょう。
生前贈与を行う際には、将来的な相続対策や贈与税についてシミュレーションしておくと安心です。
4-3 家族信託の利用

相続対策と認知症対策をあわせて行いたいのであれば、家族信託の利用を検討しましょう。
家族信託とは、自分が信頼する家族に財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
例えば、家族信託を利用すれば自分が行きているうちから財産の管理や運用を信頼できる親族や血縁関係がはっきりしている家族に任せられます。
家族信託では、遺言のように自分が亡くなった後の財産の承継先を指定することも可能です。
柔軟な財産管理をしたい場合や、自分が認知症になった後の財産管理も任せたい場合には、家族信託を利用するのが良いでしょう。
まとめ
DNA鑑定によって血縁関係が否定されたとしても、法律上の親子関係を完全に消すことは容易ではありません。
嫡出否認や親子関係不存在確認の訴えが認められない限り、父親と子供の法律上の関係は残り続けます。
万が一、法律上の親子関係を解消できなかった場合には、遺言書の作成や生前贈与などで相続対策することも検討しましょう。
相続対策には複数の方法があり、自分に合う方法を知りたい場合には司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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