不動産の生前贈与を行えば、自分が希望する人物に土地や建物などの財産を渡せます。
また、贈与税の控除や特例を活用すれば、将来発生する相続税も節税できる可能性があります。
その一方で、生前贈与を行う際には不動産取得税などの費用もかかるので、事前にシミュレーションしておくのが重要です。
そのため、不動産の生前贈与を検討中の人は、司法書士や税理士などの専門家に相談し、発生する税金やデメリットを確認しておきましょう。
本記事では、これまで数多くの「不動産の生前贈与」に携わってきた司法書士が手続きの流れやかかる費用、税金について解説していきます。
生前贈与時の注意点や手続きについては、下記のページで詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 不動産の生前贈与を行うメリット・デメリット
不動産を生前贈与すると、贈与した分の財産が減るため将来課税される相続税が減るメリットがあります。
また、生前贈与した不動産に関しては相続人間で遺産分割協議を行う必要がなくなるため相続トラブルを回避しやすいです。
その一方で、不動産の生前贈与には贈与税がかかるなどのデメリットもあります。
まずは不動産の生前贈与のメリット・デメリットについて確認していきましょう。
1-1 不動産の生前贈与を行うメリット
不動産の生前贈与を行うメリットは、主に以下の通りです。
- 希望する相手に確実に不動産を渡せる
- 相続税を節税できる可能性がある
- 比較的短期間に不動産を贈与できる
それぞれ詳しく解説していきます。
希望する相手に確実に不動産を渡せる
不動産を生前贈与すれば、自分が土地や建物を渡したい人物に確実に不動産を引き継げます。
生前贈与なら、生きているうちにあらかじめ不動産を誰に贈与させるのかを自由に決めて、名義変更しておくことができるからです。
仮に生前贈与や遺言をしていなければ、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。ご自身が亡くなった後の手続きなので、誰が不動産を取得することになるかはわかりません。
相続税を節税できる可能性がある
不動産を生前贈与すれば、将来発生する相続税を節税できる可能性があります。
不動産を生前贈与すると、不動産の評価額分の相続財産をその分減らせるからです。
ただし、不動産を生前贈与をすると相続税よりも税率が高い贈与税がかかります。
そのため、相続税対策で生前贈与をするのであれば、贈与税の控除や減税の制度を利用できるかどうかが重要となります。
比較的短期間に不動産を贈与できる
不動産の生前贈与は比較的短期間で完了するのも、メリットのひとつです。
贈与者と受贈者が不動産の贈与契約を締結して、直ちに法務局で名義変更を行えば、1ヶ月以内に手続きを終えることも可能です。
それに対して、生前贈与や遺言をしていなければ相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
さらに、遺産分割協議後に不動産の名義変更を行う際には、戸籍謄本など必要な書類も多くなっていまいます。
相続手続きと比べると、生前贈与は短期間のうちに不動産を引き継ぐことができるといえるでしょう。
1-2 不動産の生前贈与のデメリット
不動産の生前贈与にはメリットがある一方で、以下のデメリットもあります。
- 贈与税やその他の税金がかかる
- 名義変更や税申告の手続きが煩雑
それぞれ詳しく解説していきます。
贈与税やその他の税金がかかる
不動産を生前贈与すると相続税を節税できる一方で贈与税や不動産取得税がかかります。
また、登録免許税も相続時よりも生前贈与時の方が税率が高くなってしまいます。
贈与税には、様々な控除や特例が用意されていますが、万が一、利用できない場合には高額な贈与税が課税されてしまうのでご注意ください。
贈与税や不動産取得税、登録免許税を含めると生前贈与した土地の価値によっては、数百万円単位の金額になってしまう場合もあります。
贈与税や不動産取得税など、生前贈与時にかかる費用や税金は3章や以下の記事で詳しく解説しています。
名義変更や税申告の手続きが煩雑
不動産を生前贈与する際には、以下の手続きが必要です。
- 法務局で不動産の名義変更手続き
- 税務署で贈与税に関する申告手続き
上記の手続きの際には、書類作成や必要な資料の収集などが必要であり、手間と時間がかかります。
完璧な書類を作成しておかないと、修正や再提出を求められてしまうので、専門家である司法書士や税理士に依頼することも検討しましょう。
2章 不動産の生前贈与がおすすめなケース
1章で解説したように不動産を生前贈与する際には、メリットとデメリットがあります。
メリットとデメリットを踏まえたうえで、不動産の生前贈与がおすすめなケースとおすすめできないケースを詳しく解説していきます。
2-1 不動産の生前贈与がおすすめなケース
相続よりも生前贈与で不動産を引き継いだ方が良いケースは、主に以下の通りです。
- 贈与者が若く多額の財産を所有しているケース
- 子供や孫など贈与対象者がたくさんいるケース
- 特定の人に多く財産を遺したいケース
- 早めに財産を渡してあげたいケース
- 贈与者が会社オーナーや事業主であるケース
- 贈与予定の不動産が値上がりしそうなケース
- 遺産分割トラブルを回避したいケース
- 収益不動産を所有しているケース
贈与者の年齢が若く資産をたくさん所有している場合には、暦年贈与で相続財産を少しでも減らしておくのが相続税対策に繋がります。
また、暦年贈与は贈与対象者ごとに行えるので、子供や孫がたくさんいる場合にはそれだけ暦年贈与の節税効果が上がります。
特定の人物に財産を遺したい場合には遺言書を書く方法もありますが、確実に希望の人物に不動産を渡したいのであれば自分が元気なうちに生前贈与するのが確実です。
2-2 不動産の生前贈与がおすすめできないケース
不動産を生前贈与するのではなく、相続の際に引き継いだ方が良いケースは、主に以下の通りです。
- 子供や孫、配偶者がいないケース
- 不動産含む相続財産が基礎控除内に収まるケース
- 贈与税の控除制度を利用できないケース
- 死期が近いケース
子供や孫、配偶者がいない場合には、贈与税の控除や特例をほとんど利用できないので、不動産を生前贈与すると贈与税が高額になってしまう恐れがあります。
また、そもそも生前贈与を検討している不動産を含む相続財産が相続税の基礎控除内に収まるのであれば、生前贈与の必要性は薄いでしょう。
そして、相続発生から3~7年以内に行われた生前贈与は、相続税の課税対象財産に含まれます。
そのため、死期が近い人が相続税対策として不動産を生前贈与しても節税効果がなくなってしまうので注意が必要です。
2024年1月1日以降は生前贈与加算が死亡前3年から7年に延長され、生前贈与をしてから7年以内に贈与者が亡くなると、贈与財産を相続税の課税対象財産に含めなければなりません。
これまで贈与財産を相続税の課税対象財産に含めなければならないのは、死亡前3年以内に行われた生前贈与だったのに対して2024年以降は死亡前7年以内と期間が延長されてしまいます。
そのため、贈与者が高齢の場合、暦年贈与が難しくなったともいえるでしょう。
なお、死亡4~7年以内に行われた生前贈与を相続税の課税対象財産に含めるときには、合計金額に対して100万円の控除を適用できます。
また、生前贈与加算の対象になる人物は、相続や遺贈によって財産を受け取った人のみです。
そのため、財産を遺贈で取得していない子供の配偶者や孫に死亡直前に贈与していたとしても、生前贈与加算の対象にはなりません。
3章 不動産を生前贈与する際の手続きの流れ
不動産の生前贈与は当事者間の合意のみでも成立しますが、後々のトラブルを避けるためにも贈与契約書の作成など所定の手続きを行うのがおすすめです。
また、生前贈与によって不動産の所有者が変わったときには不動産の名義変更手続きが必要ですし、不動産の評価額によっては贈与税の申告および納税が必要になります。
具体的には、下記の流れで生前贈与を進めましょう。
- 不動産贈与契約を締結する
- 不動産贈与契約書を作成する
- 法務局で不動産の名義変更手続きをする
- 税務署で贈与税の申告手続きをする
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP① 不動産贈与契約を締結する
不動産を生前贈与するには、以下の3点を決定する必要があります。
- 誰が
- 誰に
- どの不動産を贈与するか
上記3点が決まれば、「贈与する人」と「贈与を受ける人」が合意し、贈与契約書の作成に移ります。
STEP② 不動産贈与契約書を作成する
贈与契約は口頭で約束しても法律上有効な契約になります。
それは贈与する財産が不動産のような高額なものであっても同様です。
しかし、後々のトラブルを避けるために「不動産贈与契約書」を必ず作成し、記録を残しておきましょう。
贈与契約書にはSTEP①で決めた「誰が、誰に、どの不動産を贈与するか」を記載します。
生前贈与する財産が不動産の場合には、加えて以下の事項を記載しておきましょう。
- 登記手続きに関する協力義務
- 登記費用や固定資産税の負担に関する取り決め
不動産贈与契約書のサンプルは以下の通りです。
将来起こりうる紛争を防止するため、筆跡や印鑑が本人のものであることが判明するよう氏名は直筆で署名し、実印で押印しておきましょう。
STEP③ 法務局で不動産の名義変更手続きをする
不動産の贈与契約を締結すれば、次に法務局で不動産の名義変更を行います。
具体的には、不動産の所在地を管轄している法務局で登記申請を行い名義変更します。
登記申請の流れは次の通りです。
- 必要な書類を収集し、登記申請書を作成する。
- 不動産の所在地を管轄する法務局へ登記申請書一式を提出し、登録免許税を納付する。
- 間違いの訂正や追加書類の要請に対応する。
- 登記識別情報通知を受領する。
手続きの概要および必要書類は、下記の通りです。
申請する人 | 贈与者と受贈者の共同申請 |
申請先 | 不動産の所在地を管轄する法務局 |
費用 |
|
必要書類 |
|
登記申請をするには、必要書類の作成や収集、登録免許税の計算など煩雑な作業をしなければなりません。
自分で行うのが難しい場合には、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することもご検討ください。
また、専門家に相談すれば事務手続きを代行してもらえるだけでなく、「本当に不動産を生前贈与した方が良いケースなのか」も相談可能です。
「不動産の生前贈与に不安や迷いがある人」は、相続や生前対策に精通している司法書士へ相談することをおすすめします。
STEP④ 税務署で贈与税の申告手続きをする
不動産を贈与した翌年の2月1日から3月15日までの間に、不動産を受け取った人が自身の住所地の所轄税務署へ贈与税の申告手続きを行います。
ただし、贈与した不動産の価格が基礎控除額の110万円以内であれば、申告手続きを行う必要はありません。
贈与税の申告の流れは、以下の通りです。
- 必要な書類を収集し、申告書を作成する。
- 受贈者の住所地の所轄税務署長へ申告書一式を提出する。
- 間違いの訂正や追加書類の要請に対応する。
- 贈与税や不動産取得税を納付する。
贈与税の申告手続きの概要や必要書類は、以下の通りです。
申告する人 | 贈与を受けた人 |
申告先 | 贈与を受けた人の住所地を管轄する税務署 |
必要書類 |
|
添付書類は、控除や特例を活用するときに必要です。
不動産の生前贈与で活用されることが多い控除や特例の添付書類は、下記の通りです。
【相続時精算課税制度の必要書類】
- 受贈者および贈与者の戸籍謄本又は抄本
- 受贈者および贈与者の戸籍の附票の写し
- 贈与者の住民票の写し
【配偶者控除の特例を利用する場合】
- 受贈者の戸籍謄本又は抄本
- 受贈者の戸籍の附票の写し
- 控除の対象となる居住用不動産の登記事項証明書
- 受贈者の住民票の写し
贈与税の申告をするには、必要書類の作成や収集など手間がかかります。
自分で申告するのが難しい、ミスなく行いたい場合には税理士に相談するのも良いでしょう。
特に「相続税対策」を目的として、不動産の生前贈与を検討されている人は「不動産を生前贈与することが本当に節税になるのか」事前に税理士にシミュレーションしてもらうことをおすすめします。
4章 不動産を生前贈与する際にかかる費用
本記事で何度か解説しているように、不動産を生前贈与する際には費用や税金が発生します。
相続税対策で不動産を生前贈与する場合、費用や税金のシミュレーションをしておかないと「贈与時の費用や税金がかさみ思ったより節税できなかった」となる恐れもあるので、ご注意ください。
不動産の生前贈与にかかる主な費用は、以下の通りです。
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 贈与税
- 専門家への依頼費用
それぞれの費用について、詳しく解説していきます。
4-1 不動産取得税
生前贈与によって不動産を取得した場合、不動産取得税と呼ばれる税金が贈与を受けた人に対して一度だけかかります。
不動産の名義変更をすると約6ヶ月程度で都道府県から「納税通知書」が届くので、同封されている納付用紙を使用し、金融機関やコンビニから納付します。
不動産取得税は、不動産の価格(固定資産評価額)の3%または4%です。
不動産の種類 | 税率 |
土地 | 3% |
住宅 | 3% |
住宅以外の建物 | 4% |
ただし、土地(宅地)については固定資産評価額の2分の1を課税価格とする特例措置があります。
なお、法定相続人が相続によって不動産を取得した場合には、相続税はかかりません。
固定資産税評価額とは、各市町村が算定する固定資産税の基準となる価格です。
不動産取得税や登録免許税などの税金を計算する際の基準にもなっています。
固定資産税評価額は、所有者に各市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細書で確認可能です。
納税通知書が手元にない場合は、不動産の所在地の市町村役場で「固定資産税評価証明書」を取得することもできます。
4-2 登録免許税
登録免許税は、不動産を生前贈与した際に行う名義変更の手続きにおいて、法務局で支払う税金です。
登録免許税は不動産の価格(固定資産評価額)の2%です。
登録免許税は、贈与する人、贈与により不動産を取得する人のどちらが支払っても問題ありません。
4-3 贈与税
贈与税は、贈与され受け取った財産(現金や不動産など)に課せられる税金です。
毎年1月1日から12月31日までの1年間の贈与に対して、税務署へ申告して納税することになります。
贈与税の税率および控除額の一覧表は、下記の通りです。
両親や祖父母などから贈与を受ける場合に適用されるもので、一般贈与財産に比べ、かかる贈与税が低く優遇されています。
特例贈与財産として低い税率の適用を受けるには、次の要件を満たす必要があります。
・贈与者が父母、祖父母、曾祖父母(すなわち直系尊属)であること
・受贈者が贈与を受けた年の1月1日に18歳以上であること
(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
なお、贈与税には年間110万円までの基礎控除がありますので、基礎控除内に収まる贈与であれば、贈与税の申告および納税は必要ありません。
贈与税の計算方法は以下の通りです。
不動産を生前贈与した際の贈与税は高額になるため、4章で詳しく説明する「控除制度や特例制度などの贈与税の節税方法」を利用できるかどうかが重要になります。
4-4 専門家への依頼費用
不動産の生前贈与に付随して行うべき手続きを専門家へ依頼する場合には費用がかかります。
自分で手続きを行えばこれらの費用はかかりませんが、書類の作成や添付資料の収集などの煩雑な手続きをしなければなりません。
仕事や家事などで忙しい人や自分で手続きするのが不安な人は、専門家へ依頼することも検討しましょう。
依頼費用は不動産の価格や物件数によって増減しますが、目安としては以下の通りです。
依頼内容 | 費用相場 |
司法書士へ「法務局で不動産の名義変更手続き」を依頼する場合 | 5~15万円程度 |
税理士へ「税務署で贈与税に関する申告手続き」を依頼する場合 | 5~15万円程度 |
なお、グリーン司法書士法人では生前贈与の名義変更登記を5万円からお受けしています。
初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
4-5 かかる費用の計算例
実際にかかる費用をイメージするため、以下の事例をもとにシミュレーションしてみましょう。
- 贈与者:父
- 受贈者:成人している子
- 贈与する財産:宅地2,000万円と住宅500万円
生前贈与によってかかる費用および税金の目安は、下記の通りです。
費用・税金 | 計算式・目安額 |
贈与税 | 810万円 (2,500万円-110万円)×45%-265万円 |
不動産取得税 | 45万円 宅地:2,000万円✕0.5✕0.3=30万円 住宅:500万円✕0.3=15万円 |
登録免許税 | 50万円 2,500万円×0.02=50万円 |
専門家への依頼費用 | 約20万円 司法書士費用+税理士費用=約20万円 |
合計金額 | 約925万円 |
上記のように、不動産の生前贈与では多額の費用や税金が発生しますが、贈与税の節税方法を最大限利用できればかかる費用が大幅に軽減できる場合もあります。
このように「控除制度や特例制度などの贈与税の節税方法」を利用できるかどうかが、不動産の生前贈与の最大のポイントです。
次章で、節税方法についてはしっかりと確認していきましょう。
5章 不動産を生前贈与する際の3つの節税方法
先ほど解説したように、不動産を生前贈与すると多額の贈与税がかかります。
しかし、贈与税には様々な控除や特例が用意されているので、活用すれば大幅に贈与税を節税できる場合もあります。
不動産の生前贈与時に利用される控除や特例は、主に以下の通りです。
- 相続時精算課税制度
- 贈与税の配偶者控除
- 暦年贈与制度
ただし、仮に贈与税が無税になっても「不動産取得税」と「登録免許税」は課税されるので注意しましょう。
それでは、3つの節税方法について詳しく紹介していきます。
5-1 相続時精算課税制度【非課税枠最大2,500万円】
相続時精算課税制度は親や祖父母から子や孫に対して贈与をした場合に「最大2,500万円の贈与分まで贈与税が無税になる」制度です。
さらに、2,500万円を越えた贈与分に対しても一律20%の贈与税になります。
また、贈与財産については不動産や現金・預貯金、車など特に限定はありません。
1年で2,500万円の枠を使い切る必要もないため、複数年に渡り生前贈与を行えます。
ただし、この制度を利用しても相続発生時には「生前贈与された財産」と「相続財産」を足した財産額に相続税がかかるので、必ずしも相続税が減額される訳ではありません。
したがって「相続税の減額」を目的に不動産の生前贈与を検討されている人は、節税効果の有無を税理士にシミュレーションしてもらうのが良いでしょう。
これまで相続時精算課税制度を利用すると、毎年の贈与税の基礎控除額110万円は利用できませんでした。
しかし、2024年1月1日以降は相続時精算課税制度を選択した人にも毎年110万円の基礎控除額が与えられます。
相続時精算課税制度に基礎控除額が導入されたことにより、下記のメリットがあります。
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与税の申告および納税は不要
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与財産を相続税の加算対象に含めなくて良い
贈与者の年齢によっては毎年の基礎控除額を利用して贈与すれば、贈与税および相続税を大幅に節税できるでしょう。
制度改正により相続時精算課税制度を利用すべきかお悩みの人は、相続に精通した税理士に相談するのがおすすめです。
5-1-1 相続時精算課税制度の適用要件
相続時精算課税制度の適用要件は、下記の通りです。
- 親、祖父母が贈与があった年の1月1日時点で60歳以上であること
- 子、孫が贈与のあった年の1月1日時点で18歳以上であること
なお、「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
5-1-2 相続時精算課税制度に必要な手続き
受贈者は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、納税地の税務署で制度の適用を受けるための必要書類とともに、贈与税の申告書を提出しなければなりません。
手続きの概要や必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 受贈者(贈与を受けた人) |
手続きする時期 | 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間 |
手続きする場所 | 受贈者の住所地を管轄する税務署 |
必要書類 |
|
5-1-3 相続時精算課税制度利用時の注意点
相続時精算課税制度は、一度選択したら撤回できず、利用後は毎年110万円の贈与に対する非課税枠(暦年贈与)が使えなくなります。
また、相続時精算課税制度はあくまでも贈与税の繰延制度であり、相続発生時には生前贈与された財産と合算して相続税を計算します。
そのため、全ての人が相続税を節税できるわけではありません。
5-2 贈与税の配偶者控除【非課税枠最大2000万円】
贈与税の配偶者控除は、夫婦間で住宅や住宅購入のための金銭を贈与した際に「最大2000万円の贈与分まで贈与税が無税になる」制度です。
年間110万円の基礎控除も合わせて利用すれば、実質2110万円までは贈与税を非課税で贈与できます。
ただし、夫婦間の相続はそもそも1億6000万円までは相続税がかかりません。
そのため、「相続税の減額」を目的に不動産の生前贈与を検討されている人は、節税効果の有無を税理士にシミュレーションしてもらうのが良いでしょう。
5-2-1 贈与税の配偶者控除の適用要件
贈与税の配偶者控除を適用するには、以下の全てを満たす必要があります。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦間で行われる贈与であること
- 贈与されたものが、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与する不動産は国内にあること
- 贈与によって取得した不動産に住み続けること
- この制度を初めて利用すること
5-2-2 贈与税の配偶者控除に必要な手続き
受贈者(贈与を受けた夫または妻)は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告書や必要書類を提出しなければなりません。
なお、制度の利用により贈与税がかからなくなったとしても、申告は必要なのでご注意ください。
手続き方法と必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 | 受贈者(贈与を受けた配偶者) |
手続きする時期 | 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間 |
手続き先 | 受贈者の住所地を管轄する税務署 |
必要書類 |
|
5-2-3 贈与税の配偶者控除利用時の注意点
贈与を受けた配偶者が先に死亡してしまうと、生前贈与した不動産が贈与者のもとに戻ってくる可能性もあります。
その結果、生前贈与時にかかる贈与税だけではなく、相続税も支払わなければならない恐れがあります。
また、先ほど解説したように夫婦間の相続では1億6,000万円までは相続税がかかりません。
生前贈与という形を取ることで、かえって税金(贈与税)がかかってしまうリスクがあります。
5-3 暦年贈与制度の活用【非課税枠最大毎年110万円】
暦年贈与は「1月1日から12月31日の1年ごとの贈与額が110万円以内なら、贈与税がかからない」制度です。
他の制度とは異なり親子間や夫婦間などの制限もなく、110万円以内であれば税務署への申告も必要ありません。
そのため利用しやすく、現金だけでなく不動産や車などを贈与する場合にも適用されます。
しかし、上限が110万円のためこの制度を利用し不動産を生前贈与するには、110万円以下に相当する持分を分割し、複数年かけて少しずつ贈与しなければなりません。
5-3-1 暦年贈与活用時の注意点
暦年贈与で毎年贈与を行う場合でも、個別に贈与契約書を作成しましょう。
贈与契約書を作成していないと個別の贈与とみなされず、暦年贈与を適用できない恐れがあるからです。
また、配偶者や子供に贈与した場合、贈与者が亡くなってから3~7年以内に行われた贈与は相続税の課税対象財産に含まれます。
6章 不動産を生前贈与するときの注意点
不動産の生前贈与は控除や特例を利用すれば、贈与税を節税可能であり、相続税対策としても有効です。
また、生前贈与であれば自分が希望する人物に確実に不動産を引き継げるメリットもあります。
その一方で、不動産の生前贈与はかえって税金がかかってしまう、相続トラブルに発展するなどの恐れがあります。
不動産を生前贈与するときに注意しておきたいことは、以下の通りです。
- 毎回贈与契約書を作成する
- 登録免許税は相続よりも生前贈与の方が高い
- 分割贈与には時間がかかる
それぞれ詳しく解説していきます。
6-1 毎回贈与契約書を作成する
不動産を生前贈与するときには、毎回贈与契約書を作成しましょう。
贈与者と受贈者の合意があれば贈与は成立しますが、贈与者が亡くなった後に贈与の証明をするには贈与契約書があった方が確実です。
- 税務署からの指摘を避けられる
- 相続人に対して生前贈与の事実を証明できる
贈与契約書を交わしておけば、上記のメリットが得られます。
また、暦年贈与を活用して贈与を繰り返す場合には、毎年贈与契約書を作りましょう。
贈与契約書をまとめて作成してしまうと、まとまった贈与として税務署に認識されてしまい、暦年贈与制度が利用できなくなる恐れがあるからです。
贈与契約書の作成は自分たちでもできますが、司法書士や弁護士などの専門家に任せるのが確実です。
グリーン司法書士法人では、贈与契約書の作成を3万円からお受けしています。
6-2 登録免許税は相続よりも生前贈与の方が高い
不動産の名義変更を行うときにかかる登録免許税は、相続よりも生前贈与の方が税率が高く設定されています。
名義変更の理由 | 税率 |
相続 | 0.4% |
生前贈与 | 2% |
上記のように生前贈与と相続では、登録免許税の税率が5倍も変わってきます。
また、不動産を取得したときにかかる不動産取得税は法定相続人が相続によって土地や建物を手に入れた場合にはかかりません。
不動産の生前贈与を検討する際には、贈与税と相続税の比較だけでなく登録免許税や不動産取得税も考慮しておきましょう。
6-3 分割贈与には時間がかかる
不動産の生前贈与は一度にまとめて行わず、複数回にわけて不動産の持分を贈与することも可能です。
不動産の持分の贈与は、暦年贈与制度も活用しやすく、贈与税や相続税を節税するのに有効な手段といえるでしょう。
その一方で、分割贈与で土地や建物を全て受贈者の持ち物にするには、長い年月がかかります。
贈与者の年齢によっては、分割贈与の途中で亡くなってしまい、贈与が完了していない土地や建物の遺産分割協議をしなければならない可能性もあるでしょう。
このように、生前贈与を行う際には贈与者の年齢も考慮して行う必要があります。
自分に合う生前贈与や相続対策がわからない場合には、司法書士や税理士などの専門家に相談することもご検討ください。
まとめ
不動産の生前贈与には、自分が希望する人物に土地や建物を引き継げる、相続税対策につながるなどのメリットがあります。
その一方で、贈与税や不動産取得税がかかるなどのデメリットもあるので、メリットとデメリットを把握した上で選択するのが重要です。
また、不動産を生前贈与する際には、贈与契約書の作成や名義変更手続き、贈与税申告手続きなども必要です。
これらの手続きは自分で行うこともできますが、ミスなくスムーズに手続きを完了したい場合には司法書士や税理士などに相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、生前贈与に関する相談をお受けしています。
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よくあるご質問
不動産を生前贈与するメリットは?
不動産を生前贈与するメリットは、下記の通りです。
・希望する相手に確実に不動産を渡せる
・相続税を節税できる可能性がある
・比較的短期間に不動産を贈与できる
▶不動産を生前贈与するメリット、デメリットについて詳しくはコチラ不動産を生前贈与したときの登録免許税はいくら?
不動産を生前贈与したときにかかる登録免許税は「不動産の価格(固定資産評価額)×2%」です。例えば、1,000万円の不動産を生前贈与すると登録免許税は20万円となります。
▶不動産贈与時の登録免許税について詳しくはコチラ不動産を生前贈与する流れは?
不動産を生前贈与する流れは、下記の通りです。
①不動産贈与契約を締結する
②不動産贈与契約書を作成する
③法務局で不動産の名義変更手続きをする
④税務署で贈与税の申告手続きをする不動産贈与時の登記申請に必要な書類は何?
不動産贈与時に行う登記申請の必要書類は、下記の通りです。
・登記識別情報通知(登記済権利証)
・贈与する人の印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
・贈与を受ける人の住民票
・固定資産評価証明書または課税明細書(名義変更する年度のもの)
・登記原因証明情報(司法書士が作成する書類または不動産贈与契約書)
・登記申請書不動産を贈与するときには登記が必要?
不動産を贈与すると所有者が変わるため、登記申請をしなければなりません。
登記申請をしないと、第三者に権利を主張できない、贈与者が亡くなったときに手続きが複雑になるなどのリスクがあります。