
不動産を贈与するときに気になるのが「贈与税」です。
ひとことで贈与税といっても「誰が、いつ、いくら払うの?」「安く抑える方法はないの?」など、わからないことだらけではないでしょうか。
不動産の贈与は、贈与税やその他の高額な税金がかかることがあるので、正しく理解して行う必要があります。
また、親子や夫婦間の贈与であれば、税制度で様々な特例や控除制度が準備されているので、これらの制度を上手に活用することがとても重要です。
本記事では、これまで数多くの「不動産の贈与」に携わってきた相続専門の司法書士が、贈与税の計算方法から知っておくべき注意点まで詳しく解説いたします。
目次
1章 不動産を贈与すると贈与税がかかる
1-1 贈与税とは
贈与は財産を「譲り渡す人」と「譲り受ける人」の合意で成立し、財産を「譲り受けた人」にかかる税金が「贈与税」です。
生前にお金や不動産を贈与して遺産を減らす「相続税逃れ」を防止するために定められている税金です。
なお、家族内での生活費や教育費のやり取り、常識的な範囲でのご祝儀、お見舞金などに、贈与税はかかりません。
1-2 贈与税は「誰が」「いつ」「どこで」「どうやって」納めるのか
贈与税は「財産を譲り受けた人」が「贈与のあった翌年2/1~3/15の間」に「自分の住所地の税務署で申告」して納税します。
誰が・・・財産を譲り受けた人
いつ・・・贈与のあった翌年2/1~3/15の間
どこで・・・住所地の税務署
どうやって・・・自分か税理士に依頼して税申告を行う
2章 不動産の贈与税を計算する方法
不動産の贈与税は次の2点を抑えれば誰でも簡単に計算することができます。
- 贈与税の計算式
- 不動産の評価額
この2点をふまえ具体的な計算手順を説明したいと思います。
2-1 贈与税の計算式
贈与税は、毎年1月1日から12月31日の間に受けた贈与の合計額に対して課税されます。
また、基礎控除額として年間110万円には税金がかからないので、贈与の合計額から基礎控除額110万円を引いた金額に、贈与税の税率かけて、さらに控除額を引いて算出します。
贈与税算定の計算式は次のとおりです。
仮に贈与された財産の合計が500万円の場合は以下の計算になります。
500万円 ― 110万円 ×20% - 25万円 = 53万円
(贈与額) -(基礎控除額) ×(税率) - (控除額) = (贈与税額)
2-2 不動産の贈与税の計算手順
不動産の贈与税は、はじめに「贈与する不動産の評価額」と「評価額に応じた税率と控除額」を確認します。あとは計算式に数字を当てはめて算出するだけです。
2-2-1 贈与する不動産の評価額を確認する
贈与税を計算するときの不動産評価は、相続税の算出のときに使われる「相続税評価額」を使います。
不動産の相続税評価額は、土地の場合「路線価方式(倍率方式)」建物の場合は「固定資産税評価額」から算出します。
【土地】・・・路線価方式(倍率方式)
路線価とは、国税庁が定めた土地の基準価格で、主に相続税や贈与税の計算に用いられます。
路線価は国税庁のHP(リンク)で確認することができます。
http://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm
なお市街化区域外のため路線価が定められていない土地の場合、倍率方式という方法で価格を評価します。
土地の評価額を路線価方式で算出したい方は詳しくはこちら
【建物】・・・固定資産税評価額
固定資産評価額とは、市町村が定めた固定資産税を算出するための基準価格です。
固定資産税評価額は、不動産の所有者に毎年送られてくる「固定資産税の納税通知書」に記載されています。冊子の中盤に「課税明細書」というページがあるので、「評価額」もしくは「当該年度価格」として記載されている金額を確認しましょう。(市区町村によって明細の様式が異なります。)
この課税明細書が手元にない、もしくは捨ててしまったという方は、不動産所在地の市区町村役場もしくは市税事務所で「固定資産税評価証明書」を取得しましょう。
固定資産税評価証明書は評価額を記載した証明書で、1物件につき300円程度で発行してもらえます。
2-2-2 価額に応じた税率と控除額を確認する
次に贈与税の「税率」と「控除額」を確認します。
贈与税は、贈与する財産額が高くなればなるほど、税率が高くなる仕組みになっています。
これを「累進税率」といいます。
また、贈与の税率には通常の税率と優遇されている税率があります。
- 一般贈与財産の税率(通常税率)
- 特例贈与財産の税率(優遇税率)
この優遇税率を利用できるのは、親(祖父母)から子(孫)への贈与で、贈与された年の1月1日時点で18歳以上の子(孫)に限ります。
(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
それでは一般贈与財産の税率の一覧表から確認しましょう。
【一般贈与財産の税率 一覧表】
次に優遇税率となるときは次のとおりです。
【特例贈与財産の税率一覧表】
ご自身のケースに応じた「税率」「控除額」をメモに残しておきましょう。
2-2-3 計算式に当てはめて贈与税額を算出する
贈与財産の評価額、税率、控除額がわかれば、あとは計算式に当てはめるだけです。
仮に2000万円の不動産を一般贈与すると以下の計算式になります。
2000万円-110万円×50%-250万円=695万円(贈与税額)
3章 不動産の贈与税を安く抑えることができる3つの特例
110万円以上の価値のある不動産を贈与すると贈与税がかかります。
しかし、贈与には、贈与税を安く抑える(もしくはかからない)ための特例や控除制度が用意されています。
このような特例や控除制度を活用すれば、贈与税を安く抑えるどころか、0円にできる可能性もあります。
それでは詳しく見ていきましょう。
3-1 相続時精算課税制度【非課税枠最大2500万円】
相続時精算課税制度とは、親や祖父母から子、孫に対して財産を贈与した場合に2500万円まで贈与税が非課税になる特例です。
この特例を活用すれば、評価額2500万円以下の贈与であれば、贈与税はかかりません。
また、評価額2500万円以上する不動産でも、2500万円分は評価額から控除できるので、贈与税を少なく抑えることができます。
特例を受けるための主な条件は次のとおりです。
- 両親、祖父母が贈与があった年の1月1日時点で60歳以上であること
- 子、孫が贈与があった年の1月1日時点で18歳以上であること
- 贈与があった翌年の2月1日から3月15日の間に税務署に申告すること
(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
この制度を利用するときの注意点は次のとおりです。
【注意点】
- 相続の先渡しとされるため「相続税」の節税には原則なりません。
(将来的に不動産の価値が上昇する場合や賃貸物件など収益を生む場合は節税になることもあります。) - この特例を利用すると、毎年110万円の暦年贈与制度を利用することができなくなります。
3-2 暦年贈与制度【非課税枠毎年最大110万円】
暦年贈与制度とは、贈与を受けた金額のうち年間110万円の非課税控除枠を活用する方法です。
他の特例制度と違い親子間や夫婦間という要件がないため、誰でも自由に利用できる制度です。
また、相続税を軽減するための対策として、使われることも非常に多い制度です。
この非課税枠(基礎控除110万円)を活用して、次のように不動産の権利を細分化して贈与することもできます。
上記の事例では、贈与完了まで10年かかりますが、毎年110万円以内なので、贈与税は一切かかりません。
仮に4年で贈与完了したいときは、1回275万円の贈与になるので、275万円-110万円の165万円が贈与されたとして贈与税がかかることになります。
本人の年齢などを考慮し短期間で贈与したいときは、費用対効果をふまえ総合的に判断することが大切です。
この制度を利用するときの注意点は次のとおりです。
【注意点】
- 贈与契約書の作成や名義変更の完了など、贈与した記録をしっかり残しておきましょう。
- 3年以内に贈与した人が亡くなった場合、最大3年間分は相続税の課税対象になります。
- 年間110万円を超える贈与を受けた場合は、翌年の2月1日から3月15日の間に税務署に贈与税の申告を行う必要があります。(年間110万円以下なら申告不要)
3-3 配偶者控除制度【非課税枠最大2000万円】
配偶者控除とは、居住不動産や住宅の取得資金を配偶者(妻または夫)へ贈与するとき、活用できる制度です。控除金額は2000万円と大きいため、条件を満たす場合は利用すべきでしょう。
特例を受けるための主な条件は次のとおりです。
- 夫婦間の婚姻期間が20年以上であること
- 居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた翌年3月15日まで居住していること
- 贈与があった翌年の2月1日から3月15日の間に税務署に申告すること
なお、こちらの制度を利用する場合でも、年間110万円の基礎控除は変わらず利用できるので、最大2110万円まで控除できることになります。
また、不動産の評価額が2110万円以上の場合、持分の一部を贈与するなど工夫して活用するようにしましょう。(例えば、4000万円の場合は、持分2分の1の権利を贈与するなど)
4章 不動産を贈与するとかかる他の税金
不動産を贈与すると贈与税以外にも「不動産取得税」「登録免許税」がかかります。
2つ合わせると、評価額に対して5%程度の税金がかかるので注意が必要です。
【2000万円の土地を贈与した場合】
不動産取得税 3% 60万円(宅地の場合は30万円)
登録免許税 2% 40万円
4-1 不動産取得税
不動産取得税とは、不動産を取得したことに対してかかる税金で、不動産を譲り受けた人に対して課税されます。不動産取得税は、不動産の価格(固定資産税評価額)の3%または4%です。
・土地 3%
・建物 3%
・住宅以外の建物 4%
なお、土地を「宅地(住宅地)」として利用しているときは、固定資産税評価額の2分の1を課税価格とする特例措置があります。
不動産の名義変更手続きをしたら、数か月後には不動産取得税に関する納税通知書が届くので、金融機関やコンビニで納付しましょう。
4-2 登録免許税
登録免許税は、不動産の名義変更手続きの際に法務局へ納める税金(手数料)です。
登録免許税は不動産の価格(固定資産税評価額)の2%です。
この登録免許税は、贈与した人(贈与者)、譲り受けた人(受贈者)どちらが支払ってもよいことになっています。司法書士へ手続きを依頼する場合は、司法書士が依頼者に代わり登録免許税を納めることになります。
5章 贈与じゃなくても贈与税が課税されるケースに注意!
形式的には贈与でなくても、実質的に贈与と判断されれば、贈与税が課税される可能性があるので注意が必要です。このようなケースを「みなし贈与課税」といいます。
それでは注意が必要なケースを5つご紹介させていただきます。
5-1 相場より著しく低い価格で不動産を売買したとき
時価より著しく低い価格で不動産を売買したときは、適正な価格との差額について贈与税が発生する可能性があります。
例えば、時価3000万円の不動産を1000万円で売買した場合、差額の2000万円は贈与されたとして、その2000万円に贈与税が課税されることになります。
高額な贈与税を逃れるため、著しく低い価格で不動産を売買することはやめておきましょう。
5-2 資金の拠出割合と共有名義が一致しないとき
2人以上が資金を出しあって共有で不動産を購入するとき、資金拠出の割合と共有持分の割合に差があるときは、その差額について贈与税が課税される可能性があります。
例えば、夫が2000万円、妻が1000万円を出して3000万円の不動産を購入したとき、共有持分の割合を夫3分の2、妻3分の1とすれば贈与税は発生しませんが、夫2分の1、妻2分の1とすると、妻が出した1000万円と共有持分の割合相当額1500万円との差額500万円に贈与税が課税されます。
5-3 不動産を購入したときの借金を免除されたとき
不動産を購入するためにした借金の返済を免除されたときも、みなし贈与として課税されることになります。
借金の免除は、免除された額の贈与があったことと同じ効果があるからです。
例えば、不動産を購入するときに親から2000万円の借金した後、「返済しなくていいよ」となった場合、免除された2000万円に対して贈与税が課税されます。
5-4 不動産を売買したのに対価の支払いがないとき
不動産を売買したのに対価の支払いがないときも、贈与税が課税される可能性があります。
例えば、自分名義の不動産を息子へ売買し不動産の名義変更をしたけど、その後も対価の支払いがない場合です。
形式的には売買でも、代金を払わなければ実質的には贈与と同じなので、課税されるということです。
6章 不動産を贈与する前に知っておくべき4つの注意点
最後に不動産を贈与するときの4つの注意点をお伝えしたいと思います。
6-1 贈与契約書を作成しておこう
贈与契約は口約束でも成立しますが、贈与契約書を作成しておきましょう。
もちろん言った言わないのトラブル防止目的もありますが、税務署や法務局での法的な手続きの際に、資料として「贈与契約書」が必要になります。
不動産の贈与契約書の作成方法や手続きについて詳しく知りたい方はこちら
6-2 不動産の名義を変更しておこう
贈与の合意をして贈与契約書を作成しただけでは、不動産の贈与を完了したとは言えません。
速やかに不動産の名義変更まで行っておくことが大切です。不動産の名義変更を行うには贈与した人、贈与してもらう人が協力して法務局での手続きを行う必要があります。
仮にどちらか一方が意思を翻したり死亡したりすると、裁判や調停を行うなど面倒なことにもなり兼ねません。また、不動産の名義変更をしないまま、別の第三者に名義変更されてしまうと、その第三者に不動産の権利を返してくれと言えなくなる可能性もあります。
6-3 農地の場合は農業委員会の許可や届出が必要
農地を贈与するときは、農業委員会への届出や許可を得る必要があります。
なぜなら、農地を守るために法律により、様々な制限が課せられているからです。
例えば、農地を譲り受ける人は「常時農作業に従事できること」など、許可を得るためには他にも様々な条件が定められています。
農地の贈与を検討しているときは、事前に農業委員会や司法書士などの専門家に確認しましょう。
6-4 将来相続トラブルにならないよう配慮しよう
不動産を子供や孫に贈与するときは、将来、相続トラブルにならないよう配慮しましょう。
不動産は高額な財産なので、贈与してもらえなかった他の相続人の不満になる可能性が高いと言えます。
配慮の方法としては、他の家族にも不動産を贈与する理由を伝えて、事前に理解を得ておくことです。
直接伝えにくい場合は、遺言書などで想いを伝える方法もあります。
また、資産的に余裕があれば、他の相続人には預貯金や保険金を使って調整する方法もあります。
相続トラブルになる可能性が少しでもあるときは、綿密に準備しておく必要があるので、司法書士や弁護士に相談しながら進めましょう。
まとめ
不動産を贈与するときの贈与税について、ご理解いただけましたでしょうか。
当ブログを運営する司法書士法人へは「不動産の生前贈与」について、毎月多くのご相談をいただきます。
皆さん驚かれるのが、贈与税だけではなく「不動産取得税」や「登録免許税」が意外と高額になることです。様々なご事情により、不動産の贈与を検討されているかと思いますが、相続や遺言、家族信託など他の方法についても合わせて検討し、ベストな形を選択していただくことが大切です。