公正証書遺言とは遺言書のひとつであり、公証人が作成するため形式不備による無効リスクが少ないなどの特徴があります。
公正証書遺言は遺言書の中でも信頼性が高いですが、作成後に遺族が揉めてしまい相続トラブルに発展することがあります。
相続対策で公正証書遺言を作成する場合は、あらかじめもめるケースを把握しておき対処しておくことが大切です。
本記事では、公正証書遺言を作成したにもかかわらずもめてしまうケースやもめないようにする方法を解説します。
相続対策に使用される遺言書の種類は、下記の記事で詳しく解説しているのであわせてご参考にしてください。
1章 公正証書遺言を作成したのにもめるケース
相続対策で公正証書遺言を作成したものの、いざ相続が発生するとトラブルになってしまうケースがあります。
公正証書遺言を作成したのにもめてしまうケースは、主に下記の通りです。
- 遺言の効力が争われる
- 遺言者が認知症だった
- 勘違い・誤解によって公正証書遺言が作成された
- 証人が欠格事由に該当していた
- 公証人への口授要件を満たしていなかった
- 遺言書の内容が遺留分を侵害している
- 遺言書に記載されていない遺産があった
- 遺言書の内容が公序良俗に違反している
- 遺言書が相続人の想像と異なるものだった
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 遺言の効力が争われる
公正証書遺言を作成したものの一部の相続人が「公正証書遺言は無効にである」と主張し、トラブルに発展してしまうケースがあります。
公正証書遺言が無効になってしまうケースは、主に下記の通りです。
- 遺言能力がない人物が作成した
- 証人がいない、欠格事由にあたる人物が証人になった
- 作成した公正証書遺言に不備があった
- 錯誤や詐欺などによって公正証書遺言が作成された
作成された公正証書遺言で上記が疑われると、相続人の一部が遺言書が無効であると主張し、遺言無効確認訴訟に発展する恐れがあります。
1-2 遺言者が認知症だった
公正証書遺言を作成したときに遺言者が認知症だった場合は、遺言能力がないとされ遺言書が無効になる可能性があります。
相続対策で遺言書を作成する場合は、年齢が若く判断能力が十分あるときに遺言書を作っておくことが大切です。
他にも、物忘れが激しくなってきたなど遺言者が軽度の認知症ではないかと疑われるケースでは複雑な内容ではなくシンプルな内容で遺言書を作ることも意識しましょう。
1-3 勘違い・誤解によって公正証書遺言が作成された
遺言者が勘違いや誤解したまま作成した遺言書は、公正証書遺言であっても無効になる可能性があります。
なお、錯誤(勘違いや誤解)によって作成された公正証書遺言が無効になるのは改正前の民法であり、改正後は取り消し可能と決められています。
ただし、公正証書遺言が錯誤によって作成されたかどうかの判断は非常に難しく、裁判などで争われるケースも少なくありません。
1-4 証人が欠格事由に該当していた
公正証書遺言の証人が欠格事由に該当していた場合は、作成した遺言書が無効になってしまいます。
公正証書遺言の証人の欠格事由は、下記の通りです。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者・これらの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者や四親等内の親族・書記および使用人
特に、推定相続人や受遺者かどうかは公証人が正確に把握するのが難しいこともあるので、注意しなければなりません。
公正証書遺言の証人を用意するのが難しければ、相続に詳しい司法書士や弁護士に遺言書作成を依頼するのもおすすめです。
専門家であれば遺言書の内容提案も行えますし、公正証書遺言作成時には証人にもなれます。
1-5 公証人への口授要件を満たしていなかった
公正証書遺言を作成するときに、遺言者が公証人に遺言書の内容を口授していない場合は、遺言書が無効になってしまいます。
口授とは直接口にだしてつたえることであり、遺言書が遺言者の意思によって作成されたことを証明します。
公正証書遺言であっても口授要件を満たさない場合は、形式不備による無効になる恐れがあるのでご注意ください。
1-6 遺言書の内容が遺留分を侵害している
公正証書遺言の内容が遺留分を侵害している場合、その部分に関しては遺言書が無効になります。
遺留分とは、亡くなった人と配偶者や子供、両親に認められている遺産を最低限も受け取れる権利です。
遺留分は遺言より優先されるため「全財産を長男に遺す」などといった遺言書を作成していると、他の子供たちが遺留分侵害額請求をおこす可能性があります。
遺留分侵害額請求を起こされると、遺産を多く受け取った人物が遺留分侵害額相当分の金銭を支払わなければなりません。
1-7 遺言書に記載されていない遺産があった
公正証書遺言にてすべての遺産に関して記載されていなかった場合、遺言書で指定のない遺産に関して相続トラブルが発生する恐れがあります。
遺言書にて指定されていない遺産に関しては、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
遺言書にて指定されていない遺産が高額な場合や相続人にとって思い入れのない遺産の場合には、トラブルが起きやすくなるのでご注意ください。
1-8 遺言書の内容が公序良俗に違反している
遺言書の内容が公序良俗に反している場合、遺言書が無効になる恐れがあります。
例えば「愛人に全財産を相続させる」などの遺言書を用意していた場合、遺された配偶者や子供の遺留分を侵害しているだけでなく、遺言自体が無効になる可能性もあります。
1-9 遺言書が相続人の想像と異なるものだった
公正証書遺言が相続人の想像とかけ離れていた場合、相続人が納得いかないと主張しトラブルになる可能性があります。
例えば、相続人が誰一人として知らなかった隠し子の認知について書かれていた場合、遺族はショックを受けることもあるでしょう。
状況によっては、相続発生後に存在を知った婚外子と一緒に相続手続きをしなければならない恐れもあります。
2章 公正証書遺言でもめないための対処法
先ほどの章で解説したように、公正証書遺言の作成時の状況や内容によっては、相続発生後に遺族がもめてしまう可能性があります。
公正証書遺言でもめないための対処法は、主に下記の通りです。
- 遺言書の作成を司法書士・弁護士に依頼する
- 遺言執行者を選任する
- 遺言書の内容について相続人の理解を得ておく
- 遺留分を侵害しない遺言書を作成する
- 事情が変わった場合は遺言書の修正を検討する
- 証人が欠格事由に該当しないか確認しておく
- 遺言書作成時に医師の診断書を作成しておく
- 遺言書に付言事項を付けておく
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 遺言書の作成を司法書士・弁護士に依頼する
公正証書遺言は自分で作成もできますが、遺言書の作成を司法書士や弁護士に依頼も可能です。
遺言書の作成を司法書士や弁護士に依頼すれば、遺言内容の相談もできますし、遺言書以外の相続対策を提案してもらえる可能性もあります。
なお、公正証書遺言では公証人が遺言書を作成するため「遺言内容に関してもアドバイスをもらえるはず」と考える人もいるのではないでしょうか。
しかし、公証人は遺言書の作成を行うだけであり、遺言内容に関してはアドバイスしてくれません。
だからこそ、相続トラブルを回避したいのであれば、司法書士や弁護士に遺言内容をアドバイスしてもらい、遺留分を考慮したものを作成する必要があります。
2-2 遺言執行者を選任する
公正証書遺言を作成する際に、遺言執行者を選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実行するための人物です。
遺言執行者がいれば、相続人や受遺者に遺言内容を説明し、遺言書の内容に従って相続手続きを行えます。
遺言執行者は相続人の1人がなることもできますが、遺言書作成を依頼した司法書士や弁護士に頼むことも可能です。
専門家を遺言執行者に選任しておけば、専門家が第三者として遺言内容を相続人全員に伝え、粛々と実行してくれます。
相続人も冷静に判断しやすくなり、兄弟姉妹など関係が近すぎるもの同士で遺産分割内容を話し合い揉めてしまうことを防げます。
2-3 遺言書の内容について相続人の理解を得ておく
遺言書を作成する際に、相続人に内容を説明し理解を得ておくと、相続発生後のトラブルが起きにくくなります。
法律上では、遺言書を作ることや内容について相続人の許可を得る必要はありません。
しかし、相続人同士の関係性が悪いケースや特定の人物に多く財産を遺そうと考えているケースでは、事前に相続人に説明しておく方が良いでしょう。
2-4 遺留分を侵害しない遺言書を作成する
遺言書を作成するときには、遺留分を侵害しない内容にする必要があります。
遺言書の内容が遺留分を侵害していると、亡くなった人の配偶者や子供が遺産を多く受け取った人物に対し遺留分侵害額請求を行えるからです。
相続人同士のトラブルを避け、希望の遺産分割を実行するには遺留分を侵害しない内容で遺言書を作成しなければなりません。
遺留分の割合は相続人ごとに変わるため自分で遺留分を計算するのが難しい場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に遺言書の作成を依頼しましょう。
2-5 事情が変わった場合は遺言書の修正を検討する
早めに遺言書を作成した場合、生活環境や資産状況の変化によって、遺言書の内容を変えたいと考えるケースもあるでしょう。
遺言書の内容を変えたい、遺言書に書かれている遺産を使ってしまったので最新の内容にしたいと考えるのであれば、遺言書の修正もおすすめです。
遺言書は生涯にわたり1枚しか作れないわけではなく、何度も作り直すことができます。
ただし、公正証書遺言は公証役場で原本が保管されているため、修正という概念はありません。
したがって、公正証書遺言に書かれている内容を修正したい場合は、新たに遺言書を作り直す必要があります。
作り直す遺言書の種類は、公正証書遺言でも自筆証書遺言でも問題ありません。
2-6 証人が欠格事由に該当しないか確認しておく
公正証書遺言を作成する際には、証人が欠格事由に該当しないかよく確認しておきましょう。
欠格事由に該当する人が証人になってしまうと、公正証書遺言が無効になってしまうからです。
公正証書遺言の欠格事由は、下記の通りです。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者・これらの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者や四親等内の親族・書記および使用人
司法書士や弁護士に公正証書遺言の作成を依頼すれば、そのまま証人になってもらうことも可能です。
2-7 遺言書作成時に医師の診断書を作成しておく
遺言書作成時に医師に診断書を書いてもらうことも、遺言書の効力を証明しやすくなります。
医師に診断書を作成してもらえば、遺言書作成時の遺言者の判断能力を証明しやすくなるからです。
遺言者が高齢の場合や物忘れなどが激しくなってきており軽度の認知症が疑われる場合は、特に作成をおすすめします。
2-8 遺言書に付言事項を付けておく
相続人によるトラブルを避けたいのであれば、公正証書遺言に付言事項を記載しておきましょう。
付言事項とは、遺言書に付け加える言葉であり、家族への思いや感謝の気持ちを伝えることができます。
付言事項を活用して「長男に多くの財産を相続させることになるが、事業を継続してもらうには致し方ない判断です。私にとって子供たちが全員が同じように大切で愛情を持っています。」というようなメッセージを残せば、もめる可能性を少しだけでも減らせる効果があるでしょう。
付言事項を遺せば自分の気持ちを伝えられますが、遺言書と異なり法的拘束力はない点にご注意ください。
3章 公正証書遺言を作成後にもめたときの対処法
公正証書遺言が遺されていたものの相続人同士でもめそうになった場合は、下記の方法をお試しください。
- 相続人同士で話し合う
- 遺留分侵害額請求権を行使する
- 遺産分割調停を行う
- 遺言無効確認訴訟を行う
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 相続人同士で話し合う
公正証書遺言の内容や効力についてもめた場合は、まずは相続人同士で話し合いましょう。
相続人同士の話し合いで解決できれば、遺産分割調停や審判などの裁判上の手続きを行う必要はありません。
なお、相続人同士の関係性が悪い場合や主張をぶつけ合って解決するのが難しい場合は、相続トラブルに詳しい司法書士や弁護士に相談するのもおすすめです。
特に、司法書士であれば「弁護士を連れてきた」と他の相続人に思われることもなく、公平な立場から遺産分割の種類や方法について提案できます。
3-2 遺留分侵害額請求権を行使する
亡くなった人が作成した遺言書が遺留分を侵害していた場合は、遺留分侵害額請求権を行使することも検討しましょう。
遺留分侵害額請求を行えば、遺産を多く受け取った人物から遺留分侵害相当の金銭を受け取れます。
なお、遺留分侵害額請求は後述する遺言無効確認訴訟とあわせて行えます。
遺言無効確認訴訟とあわせて遺留分侵害額請求を行っておくと、遺言書が有効と判断されても遺留分を受け取ることが可能です。
3-3 遺産分割調停を行う
公正証書遺言が無効と判断されてしまった場合などでは、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
そして、遺産分割協議を行なっても意見がまとまらない場合は、遺産分割調停の申立てを行わなければなりません。
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
遺産分割調停はあくまでも話し合いであり、家庭裁判所や調停委員が遺産分割方法を決定するわけではありません。
そのため、どちらかの意見が100%通るものではなく、お互いが譲り合うことによって解決を目指す点に注意しなければなりません。
遺産分割調停と手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
当事者 | すべての相続人が参加しなければならない |
管轄 | 相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 |
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必要書類 |
|
3-4 遺言無効確認訴訟を行う
亡くなった人が遺した遺言書が無効であると主張したい場合は、遺言無効確認訴訟を行いましょう。
遺言無効確認訴訟とは、裁判官に遺言書が有効かどうかを判断してもらう手続きです。
なお、遺言無効確認訴訟はあくまでも遺言書が有効か無効かを判断するものです。
そのため、遺言書が無効と判断された場合は、相続人全員で遺産分割協議や遺産分割調停を行わなければなりません。
まとめ
公正証書遺言は相続対策で使用される遺言書の中でも信頼性が高く、原本の紛失や改ざんリスクがないメリットがあります。
ただし、公正証書遺言を作成したから絶対に安心というわけではないのでご注意ください。
遺言書作成時の遺言者の判断能力や遺言書の内容、証人によっては公正証書遺言の無効を主張する相続人があらわれる可能性があります。
公正証書遺言を作成して相続トラブルを回避したいのであれば、遺言執行者の選任や遺言書作成を司法書士や弁護士に依頼するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成を始めとする相続対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
公正証書遺言が無効になるケースとは?
公正証書遺言が無効になるケースは、主に下記の5つです。
・遺言能力がなかったケース
・証人が欠格事由に該当しているケース
・遺言書の内容が公序良俗に反しているケース
・遺言者が脅迫・詐欺・錯誤にあっていたケース
・遺言書の内容が遺留分を侵害しているケース
▶公正証書遺言が無効になるケースについて詳しくはコチラ公正証書遺言を無効にする方法は?
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