
「ほかの相続人と揉めそうなので、裁判所の手続きを利用するかもしれない、、、」
「遺産分割調停という手続きらしいが、どんな手続きなのだろう、、、」
相続における問題は、相続人同士の話し合いで解決するのが基本です。
…がそれはあくまでも理想論であって、どうしても話し合いがつかないケースもあるでしょう。
遺産分割調停とは、相続人同士の話し合いでの解決が見込めない場合に、家庭裁判所を舞台に、第三者である調停委員を交えて話し合いによる合意を目指す手続きです。
また、調停でも話がまとまらなければ、裁判官が遺産分配の方法を命じる「遺産分割審判」という手続きに移行することになります。
審判に移行する前に必ず調停を行わなければならないため、話し合いの見込みがある無しに関わらず、まずは遺産分割調停の手続きを行うことになりますが、調停を行うにあたってやるべき事は山のようにあります。
戸籍収集、相続財産の調査、裁判所への申立て、出頭した上での交渉や調停員への事情説明・・・。正直、「どこから手を付ければよいのか」といった状況ではないでしょうか。
そこでこの記事では、遺産分割調停について徹底解説!
手続きの概要や流れはもちろん、かかる費用や必要書類、専門家の活用法まで併せてお伝えします。
繰り返しになりますが、相続に関する問題は、当事者同士の話し合いで解決することが理想です。しかし世の中は理想論だけで収まることばかりではありません。
この記事が、遺産分割調停を検討している方にとって、有益な情報となれば幸いです。
1章 遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
自分たちで遺産分割協議を行い遺産相続の方法について話し合っても合意できず「遺産分割協議」がまとまらないときに利用します。
遺産分割調停に関するまとめ表
当事者 | すべての相続人が参加しなければならない |
管轄 | 相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 | 収入印紙1200円、連絡用の郵便切手 |
遺産分割調停は「話し合い」で解決するための方法なので「勝ち負け」はありません。どちらかの意見が100%通るものではなく、お互いが譲り合うことによって解決を目指します。
遺産分割調停が成立すると、裁判所から「調停調書」が送られてくるので、それを使って不動産の相続登記などの手続を進められます。
不成立になった場合、遺産分割審判という手続きに自動的に移ります。審判になると裁判官が法定相続分に従って遺産分割方法を決定します。
当事者が誰も望んでいなくても不動産競売命令が下ってしまう事例などもあり、柔軟な解決は望めません。
これらの協議⇒調停⇒審判の流れをフローチャートにすると以下のとおりです。
調停で解決できればすべての当事者が納得できる解決方法を実現できますが、審判になるとそうはいきませんし、相手の言い分が全面的に通ってしまう可能性もあります。
遺産分割はできれば協議か調停までの段階で解決すべきと言えるでしょう。
2章 遺産分割調停手続きの概要と流れ
遺産分割調停の申立から終了までの流れをご紹介していきます。
遺産分割調停手続きの全体像は次のとおりです。
このような流れですすむ遺産分割調停にかかる期間は半年から1年程度です。ただし1年以上かかるケースも3割以上存在し、中には2年、3年かかるケースもあります。
以下で詳しい流れをみていきましょう。
STEP① 家庭裁判所へ申立て
まずは必要書類を揃えて相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で調停の申立てを行います。
相手が複数いる場合には、誰か1人の住所地を管轄する家庭裁判所でかまいません。
すべての相続人が参加しなければならないので、相手方にしない人とは共同で申立人となる必要があります。
STEP② 調停期日
申立をすると家庭裁判所から当事者宛に呼出状が届き、第1回調停が開催されます。
調停期日に裁判所に出頭し、調停委員に事情説明やこちらの主張を伝えます。当事者の控室は分かれており、順番に調停室へ入るので、当事者同士が顔を合わせることは原則なく、調停委員を介して話し合いを進めていくことになります。
通常1回の期日では話し合いがつかないので、2回目、3回目と続行期日を入れていきます。1か月に1回くらいのペースで話し合いを継続します。
STEP③ 調停成立
相続人が全員合意できたら調停が成立します。そして調停が成立したら「調停調書」が作成されますが、この文書には、合意内容が履行されないときに強制執行できるなど、法的効力があります。
STEP④ 調停調書の送付
調停が成立すると、数日後に裁判所から「調停調書」が送られてきます。
STEP⑤ 調停内容をもとに相続手続き
調停調書が送られてきたら、それを使って不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどの相続手続きを進めます。
不成立になった場合には遺産分割審判になる
遺産分割調停をしてもどうしても相続人の意見が合わずに合意できない場合、調停は不成立になります。その場合、手続きは自動的に「審判」に移ります。当事者があらためて遺産分割審判の申立てをする必要はありません。
審判になると、裁判所が遺産分割方法を指定して「審判」を下します。審判が出たら家庭裁判所から当事者の自宅宛に「審判書」が送られてきます。審判書が届いたら別途「審判確定証明書」を申請し、この2つの書類をもって相続登記や預貯金払い戻しなどの相続手続きを行います。
3章 遺産分割調停申立ての必要書類
遺産分割調停の必要書類と集め方をみていきましょう。
3-1 必要書類チェックリスト
遺産分割調停を申し立てる際に必要な書類には、「作成する書類」と「集める書類」があります。
まずは「作成する書類」を確認しましょう。
【作成する書類】
- 申立書
- 遺産目録
- 当事者目録
- 相続関係説明図
参考に申立書の記入例を見てみましょう。
これらの書類は自分で作成するか、弁護士または司法書士に作成を依頼するかになります。
必要書類の書式や記入例は各地の家庭裁判所のHPからダウンロードすることができます。
大阪家庭裁判所 https://www.courts.go.jp/osaka/saiban/l3/Vcms3_00000458.html
東京家庭裁判所 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/syosiki02/index.html
名古屋家庭裁判所 http://www.courts.go.jp/nagoya-f/saiban/tetuzuki/isan/syorui.html
このほか、戸籍謄本や財産証明書などの「集める書類」も必要になります。
以下のような必要書類は自分で集めるか、弁護士または司法書士に依頼するかになります。
【集める書類】
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本(発行後3か月以内のもの)
- 被相続人の子や代襲者で死亡している人がいれば、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続人全員及び被相続人の住民票または戸籍附票(マイナンバーの記載がないもの。)
- 遺産に関する資料(不動産全部事項証明書等、預貯金の残高証明書等)
相続人に父母が含まれる場合や兄弟姉妹、甥姪が相続する場合には、さらに多くの戸籍謄本類が必要となります。
3-2 書類の集め方とコツ
戸籍謄本類について
遺産分割調停を申し立てるには、非常にたくさんの「戸籍謄本類」が必要です。
戸籍謄本や除籍謄本、改正原戸籍謄本は「本籍地の役所」で保管されているのでそれぞれ申請して集めます。現実に役所に行って申請してもかまいませんが、郵送で申請すると楽です。郵便局で「定額小為替」を購入し返送用の郵便切手を入れて役所に送付したら、戸籍謄本を返送してもらえます。
被相続人の分については「生まれたときから亡くなるまでの連続した戸籍」が必要なので、死亡時から順番に遡って取得していきましょう。
また、次のような遺産に関する資料も取得していきましょう。
住民票、住民票除票
住民票登録されている市区町村役場で取得します。
不動産全部事項証明書
全国各地にある法務局で取得できます。
固定資産評価証明書
不動産所在地の市町村役場で取得します。
残高証明書
口座がある金融機関に問い合わせて発行してもらいます。
株式や有価証券の取引内容の証明書
取引している証券会社に申請して発行してもらいます。
戸籍謄本や不動産全部事項証明書など必要書類の取得が手間になると感じる方は、司法書士に依頼することも可能です(ただし司法書士は遺産分割調停そのものの代理はできません)。
4章 裁判所での話し合い
4-1 出廷当日の流れや雰囲気
調停は、午前か午後の2~3時間をとって行われます。申立人と相手方が別々の待合室で待機しており、互い違いに調停委員の待つ部屋へ呼び出されて話しをします。相手と直接顔を合わせることはありません。(敷地内や廊下などで会ってしまうことはあります。)自分の言いたいことは調停委員に伝え、相手の言い分は調停委員から伝えられます。
調停の雰囲気は比較的和やかです。調停委員は申立人と相手方の間をとりもってくれる人なので、当事者を詰問したり結論を押しつけたりすることはありません。話を進めにくくなったら、調停委員から「解決案」を提示してくれるケースもよくあります。
1回の調停で解決できない場合、全員の予定を合わせて次の調停期日を入れます。調停はだいたい月1回くらいのペースで行われます。
4-2 話し合いをスムーズに進めるための4つのポイント
お互いの立場を尊重し、感情を抑えて対応する
調停はあくまで話し合いの手続きです。お互いが自分の言い分のみを精一杯主張し続けていては解決できません。
相手のことも考えて「妥協」する姿勢も必要です。感情的になるとどうしても適切な判断ができなくなるので、「どのような解決方法が全員にとってベストか」という視点を持って冷静に対応していきましょう。
法律の基本的な考え方を理解する
調停は話し合いによる解決なので当事者が納得すればどのような解決も可能ですが、基本的には「法律の考えに沿って解決すべき」です。ベースは「法定相続分に従った解決方法」を目指すことになるでしょう。
無茶な主張をしても通らない可能性が高いので、まずは法律の正しい考え方を理解し、それに沿った主張をしていきましょう。
言いたいことははっきり言う
遺産分割調停は調停委員を介した話し合いです。自分の言いたいことをはっきり言わなければ調停委員にも相手にも伝わりません。
どのように分けたいのか、なぜそうしたいのか、説得的に主張をして調停委員を納得させることができたら、相手を説得してもらうことも可能です。遠慮していては不利になってしまうので、主張はしっかり行いましょう。
調停委員の心証も重要
調停委員は決定権を持つわけではありませんが、真ん中に入って話し合いを進める人ですから話の方向性に影響を持ちます。
味方につければ有利に進められる可能性が高くなります。マナーを守って礼儀正しく振る舞う、服装をきちんとする、わかりやすく話しをする、無茶を言わない、大声を出さないなど基本的なことを守り、調停委員の心証を良くしましょう。
5章 知っておくべき専門家の活用方法
遺産分割調停では専門家によるサポートも受けられます。
5-1 依頼すべきか自分でやるか
遺産分割調停を自分でする場合、すべての書類収集や調停への出席、発言などを自分でしなければならないので大変な負担となります。
専門家に依頼したら、書類の収集や申立の手続き、調停手続の代理などをお願いできるので負担が軽減されますし調停を有利に進められる可能性が高まります。
5-2 相談先の選び方
遺産分割調停を依頼できる専門家には司法書士と弁護士があります。
司法書士
司法書士が対応できるのは、申立に必要な書類収集と財産調査、申立てまでの段階です。面倒な戸籍謄本類や住民票、不動産関係の資料や金融機関の残高証明書等の収集を依頼すれば、申立にかかる負担がずいぶん軽減されます。
また申立書や目録、相続関係説明図などの作成も依頼できます。自分で家庭裁判所に申請をしなくても申立の手続きまでは司法書士がしてくれるので、任せて待っていたら調停が始まるイメージです。
ただし調停が開始した後は司法書士が代理することはできません。事後的に経過を報告し、状況に応じて必要な書類を追加で作成してもらったり、アドバイスを受けながら自分で話を進めていくことになります。
弁護士
弁護士は、必要書類の収集、作成、申立だけではなく調停開始後の「代理人」を務めることができます。代理人は一緒に調停に出席調停委員に対し意見を述べたり調停委員を説得したりするので、自分一人で対応するより調停を有利に進められる可能性が高くなります。
5-3 費用は圧倒的に司法書士の方が低額
このように弁護士と司法書士を比べると弁護士の方がサポートの範囲は広いのですが、費用は圧倒的に司法書士の方が低額です。
弁護士の場合、依頼時に着手金が20~30万円以上と、解決時に別途「報酬金」が発生します。報酬金は獲得できた遺産額に応じて決定されるので、遺産額が多ければ100万円を超えることも珍しくありません。
司法書士の場合、書類収集の援助だけなら10~20万円程度で済むケースも普通にあります。
費用をかけても手厚いサポートを受けたければ弁護士、リーズナブルに必要最低限の部分だけ専門家を利用されたい方は、司法書士を選択すると良いでしょう。
終わりに
自分たちで話し合っても遺産相続方法を決められないなら、最終的に遺産分割調停をするしかありません。お一人で進めると不利になる可能性が高まるので、できる限り専門家によるサポートを受けるようお勧めします。
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