亡くなった人が公正証書遺言を作成していたものの自分にとって不利な内容であり納得できないと感じる人も多いでしょう。
いくら納得できない場合でも、法的に有効な遺言書が見つかった場合、遺言書の内容通りに遺産分割を行うのが原則です。
そして、公正証書遺言は公証役場で公証人が作成するため、形式不備による無効はほとんどありません。
そのため、公正証書遺言の内容に納得いかない場合は、遺言作成時に遺言者が認知症で判断能力がなかったなどの理由で遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を起こす必要があります。
また、極端に偏った内容の公正証書遺言が見つかった場合は、遺留分侵害額請求も同時に行うのが良いでしょう。
本記事では、公正証書遺言に納得いかないときの対処法や注意点を解説します。
目次
1章 公正証書遺言に納得いかないときの対処法
自分にとって不利な内容の公正証書遺言が用意されていて納得できないときには、公正証書遺言の無効を訴える、遺留分侵害額請求を行うなどの対処が考えられます。
主な対処法は、下記の3点です。
- 公正証書遺言の無効を訴える
- 公正証書遺言の内容を無視して遺産分割協議をする
- 遺留分侵害額請求を行う
それぞれ解説していきます。
1-1 公正証書遺言の無効を訴える
遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を申立てれば、裁判所に故人が用意していた公正証書遺言が有効か無効かを判断してもらえます。
ただし、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟で公正証書遺言が無効と認められるには、裁判所が納得するだけの客観的な証拠を用意しなければなりません。
例えば、故人が認知症発症後に公正証書遺言を作成していた場合は、判断能力が不十分であり公正証書遺言が無効であると判断される可能性があります。
他には、公正証書遺言は作成時に証人2名が必要になりますが、証人が下記の欠格事由に該当する場合は遺言書が無効になります。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者・これらの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者や四親等内の親族・書記および使用人
そのため、故人が用意していた公正証書遺言の無効を主張したいのであれば、遺言書作成時の故人の状況がわかる資料や医師の診断書、カルテなどを用意しましょう。
自分で証拠を集めるのが難しい場合やどんな証拠を用意すれば良いかわからない場合は、相続や遺言書に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
1-2 公正証書遺言の内容を無視して遺産分割協議をする
故人が遺言書を用意していたとしても必ずしもその内容に従う必要はなく、相続人や受遺者全員が合意すれば、遺産分割協議を行っても問題ありません。
遺産分割協議とは、誰がどの遺産をどれくらいの割合で受け継ぐかを決める話し合いです。
故人が遺言書を用意していても相続人全員が合意すれば、遺言書と異なる遺産分割を行うことは問題ないとされています。
ただし、公正証書遺言を作成する際には、遺言内容を確実に実行するために遺言執行者を選任しているケースも多いです。
遺言執行者が選任されていた場合は、相続人全員の合意だけでなく遺言執行者の同意も必要になるのでご注意ください。
また、根本的な問題として自分にとって不利な内容で納得できない公正証書遺言であっても、他の相続人は納得している可能性も高いです。
そのため、遺言書を無視して遺産分割協議を行うことに合意してもらえない可能性も十分にあるでしょう。
1-3 遺留分侵害額請求を行う
「愛人にすべての財産を遺す」など極端な内容の公正証書遺言を故人が用意していた場合、遺留分侵害額請求を行えば最低限度の遺産を受け取れる場合があります。
遺留分とは亡くなった人の配偶者や子供、親に認められている遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分や遺言書の内容より優先されるので遺留分侵害額請求を行えば、遺産を多く受け取る相続人や受遺者から遺留分侵害額相当分の金銭を受け取れます。
遺留分侵害額請求の方法は特に決まりがありませんので、まずは遺産を多く受け取る相続人や受遺者と話し合いをしてみましょう。
また、遺留分侵害額請求は遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟をしていても行えるので、並行して行い公正証書遺言の無効が認められなかったときに遺留分だけでも受け取れるようにしておくのがおすすめです。
2章 納得いかない公正証書遺言があったときの注意点
自分にとって不利であり到底納得できない公正証書遺言を故人が作成していたとしても、破棄や偽造をすると相続欠格に該当し相続権を永久に失います。
亡くなった人が納得できない公正証書遺言を用意していたときには、下記の4点に注意しましょう。
- 内容に納得がいかない場合も遺言書の破棄や偽造はしてはいけない
- 預貯金の払い戻しは取り消せない
- 相続登記のやり直しが必要になる場合がある
- 相続税の修正申告が必要な場合がある
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 内容に納得がいかない場合も遺言書の破棄や偽造はしてはいけない
故人が用意していた公正証書遺言の内容に納得がいかなくても、遺言書の破棄や偽造は絶対にやめましょう。
遺言書の破棄や偽造、隠ぺいは相続欠格事由に該当し相続権を永久に失ってしまいます。
納得いかない公正証書遺言が用意されていたとしても、本記事の1章で解説した正規の方法で無効や遺留分を主張しましょう。
またそもそもの問題として公正証書遺言は元本が公証役場に保管されており、故人の自宅などで保管されている写しを破棄しても意味がありません。
2-2 預貯金の払い戻しは取り消せない
公正証書遺言の内容に基づき故人の預貯金が解約されて遺言書に記載されている相続人や受遺者に分配されている場合、金融機関に対して払い戻しの取り消しを請求することはできません。
預貯金の解約や払い戻しに関しては、銀行が保護されると法律で決められているからです。
そのため、公正証書遺言通りに預貯金が解約、分配された後に、遺産分割協議を行う場合や公正証書遺言の無効が認められた場合は遺産を受け取った相続人に持ち戻しを請求するしかありません。
仮に相続人がすでに遺産を使用してしまった場合には、相続人に対して損害賠償請求を行えます。
ただし、損害賠償請求を自分で行うのは難しいので、相続トラブルに精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。
2-3 相続登記のやり直しが必要になる場合がある
公正証書遺言の内容に基づき不動産の名義変更が行われていた後に、遺言書が無効になり別の相続人が不動産を受け継ぐことになった場合は相続登記のやり直しをしなければなりません。
不動産を相続などで所有したときには法務局で登記申請を行う必要があるからです。
相続登記のやり直し方法や必要書類に関しては、公正証書遺言の内容やその後に行われた遺産分割の内容によって大きく変わってきます。
自分で登記申請や必要書類の収集を行うのは現実的ではないので、司法書士に相続登記を依頼するのが良いでしょう。
これまで相続登記は義務化されておらず、相続人の意思によって行うとされていました。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続においても適用されます。
そのため、まだ相続登記がおすみでない土地をお持ちの人や当初の予定とは異なる相続人が受け継ぐことが決定し登記申請のやり直しが必要な土地をお持ちの人は早めに手続きを行いましょう。
相続登記は自分でも行えますが、司法書士に依頼すれば数万円程度で代行可能です。
グリーン司法書士法人でも相続登記に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
2-4 相続税の修正申告が必要な場合がある
公正証書遺言の内容に従い遺産分割を行い相続税の申告まで済ませた後に、公正証書遺言の内容と異なる遺産分割が行われた場合は相続税の修正申告が必要な可能性があります。
相続税の修正申告が必要かどうかの判断や修正申告書の作成は自分で行うのが難しいので、相続に詳しい税理士への相談をおすすめします。
なお、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟をしている場合や遺留分侵害額請求をしていて、相続人ごとの遺産の取り分がなかなかはっきりしないケースもあるでしょう。
その場合でも相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内であり、変更はできないのでご注意ください。
相続税の申告期限までに公正証書遺言が無効か判断がつかない場合や遺留分トラブルを解決できない場合は、税理士に相続税の申告方法を相談しておくと安心です。
税理士に相談しておけば、法定相続分で相続したとして仮で申告書を作成してもらい、遺産の取り分がはっきりしたら修正申告を行なってもらうまで一括で対応してもらえます。
まとめ
自分にとって不利な内容だから、故人が用意していた公正証書遺言に納得できないなどの主張は認められません。
故人が公正証書遺言を作成していた場合は、遺言書の内容に従って遺産分割を行うのが原則です。
ただし、公正証書遺言作成時に遺言者が認知症で判断能力がなかった場合や証人が欠格事由に該当する場合は遺言書が無効になる可能性があります。
相続トラブルや遺言書作成に詳しい司法書士や弁護士であれば、公正証書遺言が無効になりそうかの判断やアドバイスも可能です。
納得いかない公正証書遺言がある場合は、まずは専門家に相談するのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺留分侵害額請求や相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料ですし、オンラインでの相談も可能ですのでまずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
公正証書遺言に納得できないときはどうすればいい?
公正証書遺言に納得できないときの対処法は、下記の通りです。
・公正証書遺言の無効を訴える
・公正証書遺言の内容を無視して遺産分割協議をする
・遺留分侵害額請求を行う公正証書遺言が無効になるケースとは?
公正証書遺言が無効になるケースは、主に下記の5つです。
・遺言能力がなかったケース
・証人が欠格事由に該当しているケース
・遺言書の内容が公序良俗に反しているケース
・遺言者が脅迫・詐欺・錯誤にあっていたケース
・遺言書の内容が遺留分を侵害しているケース
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