
- 山林も相続放棄できるのか
- 山林を相続放棄する方法・必要書類
- 山林を相続放棄するときの注意点
相続財産に山林が含まれていた場合、管理や売却の難しさ、固定資産税の負担などから頭を悩ませる方も少なくありません。
特に、利用予定のない山林や将来的に価値が下がるであろう山林であれば、相続放棄を検討するケースも多いでしょう。
故人が所有していた山林を相続放棄することはできますが、他の財産も一切受け継げなくなるのでご注意ください。
また、相続放棄をする際には、家庭裁判所に申立てをしなければなりません。
本記事では、山林の相続放棄に関する基礎知識から注意点、放棄以外の処分方法を解説していきます。
1章 山林も相続放棄できる
相続財産の中に山林が含まれている場合、「管理や処分が困難」「固定資産税の負担が大きい」「将来的に活用予定がない」などの理由で、相続したくないと考える方も少なくありません。
結論から言うと、故人が所有していた山林も相続放棄することが可能です。
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなる手続きであり、相続放棄すれば故人の山林を受け継がなくて済み、管理義務を負うこともありません。
そのため、管理が負担になりそうな山林を故人が所有していた場合には、相続放棄することも検討しましょう。
2章 山林を相続放棄する方法・必要書類
相続放棄するには、自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申立てをしなければなりません。
申立て方法の概要と必要書類は、以下の通りです。
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
---|---|
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手数料の目安 |
|
必要書類 |
など |
故人の兄弟姉妹や甥・姪が相続人になった場合、必要書類の数が増えるのでご注意ください。
書類収集などを行うのが難しいと感じた場合には、司法書士や弁護士に相続放棄を依頼することも検討しましょう。
3章 山林を相続放棄するときの注意点
相続放棄をする際には、以下の点などに注意しておきましょう。
- 他の遺産をすべて相続できなくなる
- 相続放棄には期限がある
- 遺産を使用・処分すると相続放棄できなくなる
- 相続放棄すると次の相続人に迷惑がかかる恐れがある
- 相続放棄が一度認められると原則として撤回できない
- 相続放棄後も山林の管理義務が残る場合がある
- 相続放棄しても固定資産税を払わなければならない場合がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 他の遺産をすべて相続できなくなる
相続放棄をすると、山林だけでなく他の遺産も一切受け取れなくなります。
例えば、預貯金や不動産、貴重品などもすべて相続できなくなるのでご注意ください。
「山林はいらないけど預金は欲しい」などといったように、遺産の一部だけ相続放棄することはできません。
相続放棄するか判断するためには、相続財産調査を行い、遺産の全容を把握する必要があります。
後述しますが、相続放棄には期限が設定されているので、家族や親族が亡くなったらできるだけ早く相続財産調査を行いましょう。
3-2 相続放棄には期限がある
相続放棄は「自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月以内」に申立てをしなければならないと決められています。
期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄が認められなくなるのでご注意ください。
万が一、相続財産調査が完了していないなどの理由で相続放棄すべきか判断がつかない場合には、熟慮期間の伸長申立てを行えば期限を延長可能です。
熟慮期間の伸長申立ての方法と必要書類は、以下の通りです。
申立てする人 | 相続放棄の期限を延長したい人 |
---|---|
申立て先 | 故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 |
|
必要書類 |
など |
3-3 遺産を使用・処分すると相続放棄できなくなる
相続財産を使用・処分してしまうと、相続する意思があるとみなされ、相続放棄が認められなくなる恐れがあります。
例えば、以下のような行為は遺産の使用・処分にあたる可能性があります。
- 山林の売却
- 間伐材の利用
- 山小屋に立ち入って荷物を運び出す
どのような行為が遺産の使用・処分にあたるかはケースバイケースですので、自己判断せず、相続放棄に精通した司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。判断に迷う場合は、相続放棄が完了するまで財産に手をつけないことが無難です。
3-4 相続放棄すると次の相続人に迷惑がかかる恐れがある
相続放棄をすると、次順位の相続人に権利と義務が移ります。
例えば、配偶者や子供が全員放棄した場合、故人の親や兄弟姉妹、甥・姪などが相続人となります。
相続放棄により相続権が移ったとしても家庭裁判所から連絡が届くことはないので、相続放棄をした相続人が相続放棄したことと理由を伝えておきましょう。
3-5 相続放棄が一度認められると原則として撤回できない
相続放棄は、家庭裁判所で受理されると、原則として取り消しや撤回はできません。
そのため「後から、多額の預貯金が見つかったら相続放棄を取り消したい」「他の親族に迷惑がかかるから取り消したい」と思っても、基本的には認められません。
3-6 相続放棄後も山林の管理義務が残る場合がある
相続放棄をしても、一部のケースでは山林の管理義務が残ってしまう場合があります。
とはいえ、2023年の法改正により、相続放棄した方の管理義務は見直され、相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた相続人のみが管理義務を行うと限定されました。
そのため、故人が所有していた山林を相続放棄した場合、ほとんどの方は管理義務を負わずに済むと考えて良いでしょう。
3-7 相続放棄しても固定資産税を払わなければならない場合がある
相続放棄をしても、相続人が固定資産税を払わなければならない場合があります。
固定資産税は、その年の1月1日時点で不動産などを所有している人に課せられる税金だからです。
相続が発生すると、遺産分割が完了するまで、遺産は相続人全員の共有財産とみなされます。
そのため、相続放棄が受理されるタイミングによっては、固定資産税の納税義務を負う場合があります。
【固定資産税が発生する例】
- 相続開始日(故人の死亡日):令和6年12月15日
- 相続放棄が受理された日:令和7年2月20日
このケースでは、令和7年1月1日時点では不動産はまだ相続人全員の共有財産と扱われるため、たとえ2月に相続放棄が受理されたとしても、令和7年度分の固定資産税は課税されます。
4章 相続放棄せずに山林を手放す方法
相続放棄をすると、預貯金や他の不動産、株式なども一切受け継げなくなります。
そのため、遺産の状況によっては、相続放棄をせずに山林を手放したいと考える方もいるでしょう。
相続放棄をせずに山林を手放す方法には、以下のようなものがあります。
- 相続土地国庫帰属制度を利用する
- 売却する
- 寄付・贈与する
- 他の相続人に山林を受け継いでもらう
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 相続土地国庫帰属制度を利用する
相続土地国庫帰属制度を利用すれば、相続や遺贈により取得した土地を国に引き取ってもらえます。
相続土地国庫帰属制度は、山林などいらない不動産のみを手放せます。
ただし、相続土地国庫帰属制度はすべての土地に対して適用できるわけではなく、一定の要件を満たさなければなりません。
また、相続土地国庫帰属制度を山林に適用する場合、地積に応じた負担金を納めなければなりません。
4-2 売却する
山林に一定の資産価値があれば、売却できる可能性もあります。
特に、キャンプ場や別荘用地、資材置場、ソーラー用地などに活用できるエリアでは、ニーズが見込めることもあるでしょう。
山林の売却の場合、以下のような方法で行うことが一般的です。
- 山林売買に強い不動産会社に依頼
- 専門の山林売買サイトへの掲載
- 地元の林業関係者に相談
ただし、山林は流動性が低く、買い手がつくまでに時間がかかることもあります。
また、相続した山林を売却する際には、事前に相続登記を済ませておく必要があります。
4-3 寄付・贈与する
山林の状態や立地、大きさによっては、公益法人や自治体、隣接地の所有者などに寄付や贈与できる場合もあります。
特に、以下のような条件に該当する山林は、寄付や贈与先が見つかりやすい傾向があります。
- 保全林として地域に必要な土地である
- 神社仏閣・地元自治体が管理している林の一部と地続きである
- 隣接所有者がその土地を求めている
ただし、山林を譲り受ける側にも管理負担や登記手続きの負担がかかるため、必ずしも受け入れてもらえるとは限りません。
また、山林を寄付、贈与する場合には、受け取る側に贈与税が発生したり、寄付する側に所得税・住民税がかかったりする場合もあります。
税負担が重くなることを避けるためにも、寄付や贈与を検討している場合には、税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
4-4 他の相続人に山林を受け継いでもらう
相続人同士で話し合い、山林を他の相続人に取得してもらう方法もあります。
例えば、山林を相続してもらう代わりに、預金の一部を多く相続するなどの条件を付け、相続人の1人が山林を受け継ぐことも検討しましょう。
まとめ
山林の相続は、活用が難しい場合も多く、管理の負担が問題となることもあります。
将来的にも価値が上がらず、管理の手間がかかることが予想される山林は、相続放棄も検討しましょう。
相続放棄すれば、山林の管理義務を負わなくて済みますが、一方で、他の遺産もすべて相続できなくなるのでご注意ください。
山林を相続放棄すべきか判断するには、山林の価値を調べるだけでなく、他の遺産についても調査しなければなりません。
自分で相続財産調査をすることが難しい場合や、相続放棄をミスなく確実に行いたい場合には、司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
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