資産が多く子供にかかる相続税の負担が心配なら、アパートやマンション経営をするのも有効です。
不動産の相続税評価額は市場価格の7〜8割程度で計算されることが多いため、現金や預貯金で資産を持っておくより不動産で所有する方が相続税の節税につながります。
一方で遺産の中で不動産の占める割合が多くなると、相続トラブルが発生しやすくなるため、アパートやマンション経営にはリスクがある点に注意しなければなりません。
本記事では、アパート経営が相続税対策になる理由を解説します。
目次
1章 アパート経営が相続税対策になる理由
アパートやマンションなどの不動産は、相続税評価額が市場価格の7〜8割程度になることが多く、預貯金で保有するより相続税の節税につながります。
他にも、アパート経営は下記の理由で相続税対策として有効です。
- 不動産は現金より相続税評価額が安くなる
- アパート経営している土地は小規模宅地等の特例を適用できる
- アパートローンは相続時に債務控除できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1-1 不動産は現金より相続税評価額が安くなる
建物や土地などの不動産は、相続税評価額をもとに相続税を計算します。
不動産の相続税評価額は、市場価格の7〜8割程度で計算されることが多いです。
そのため、預貯金を多く保有している人は、一部の預貯金を不動産に組み換えるだけでも相続税を節税できる可能性があります。
加えて、アパートやマンション経営をしていると建物を貸家、土地を貸家付建物として評価できるので、さらに相続税を軽減可能です。
1-2 アパート経営している土地は小規模宅地等の特例を適用できる
アパートやマンションなど他人に貸している土地は、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用できます。
小規模宅地等の特例とは、亡くなった人が所有していた土地の相続税評価額を軽減できる制度です。
小規模宅地等の特例では土地の用途によって限度面積および減額割合が設定されており、貸付事業用宅地等はそれぞれ下記の通りです。
限度面積 | 200㎡ |
減額割合 | 50% |
1-3 アパートローンは相続時に債務控除できる
アパートやマンションを建築する際に借りたローンの残債は、相続時に債務控除可能です。
債務控除とは、故人が遺した借金を遺産総額から減額し相続税の負担を軽減できる制度です。
アパートやマンション建築にあたりローンを組むと、金利などの負担はかかりますが、相続税の節税につながります。
2章 アパート経営で相続税対策するデメリット・リスク
故人がアパートやマンションを所有していると、相続時に遺産分割トラブルが発生する恐れがあります。
他にも、アパート経営やマンション経営自体にリスクがあり、すべてのケースで黒字化できるわけではない点にも注意しなければなりません。
アパート経営で相続税対策するデメリットやリスクは下記の通りです。
- 相続トラブルが発生する場合がある
- アパート経営が赤字になるリスクがある
- アパート経営には費用や税金がかかる
- アパート経営をすると土地の売却が難しくなる
- 価格変動リスクがある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 相続トラブルが発生する場合がある
遺産の中で不動産が占める割合が大きくなると、相続トラブルの発生リスクが上がるので注意しなければなりません。
不動産は、預貯金や株式などの財産と比較すると分割しにくいからです。
アパートやマンションであれば部屋ごとに分割することもできますが、複数人で共有分割するとアパートやマンションの活用、売却が難しくなる恐れもあります。
相続税対策でアパートやマンション経営を行うのであれば、遺言書の作成や生前贈与などの相続対策をしておくことも大切です。
2-2 アパート経営が赤字になるリスクがある
アパートやマンション経営は必ず入居者が集まる保証はなく、赤字になるリスクもあります。
赤字になった場合、アパートローンの返済や固定資産税の支払いなどが難しくなってしまう可能性もあるでしょう。
赤字になることを防ぐには、アパートやマンションを建築する前に賃貸需要を把握しニーズに合った建物や間取りを建築する必要があります。
2-3 アパート経営には費用や税金がかかる
アパートやマンション経営には、建物建築にかかる初期費用や管理会社に支払う費用などのランニングコストがかかります。
初期費用やランニングコストに関する見積もりが甘いと、資金繰りが苦しくなってしまう恐れもあるので注意しなければなりません。
例えば、アパートやマンション経営のランニングコストは、主に下記の通りです。
- 管理会社に払う費用
- 損害保険料
- 修繕費や積立金
- 入居者募集用の広告費
- 借入金の利息・手数料
- 税理士費用
上記について、実際にどの費用がいくらかかるのか見積もりを出し、実質利回りもシミュレーションしておくことが重要です。
2-4 アパート経営をすると土地の売却が難しくなる
アパートやマンション経営を始めると、土地や建物の売却が難しくなるケースもあります。
アパートやマンションの入居者は借地借家法で守られているため、オーナーが売却したいことを理由に立ち退きさせることは難しいからです。
例えば、古くなったアパートを解体し更地を売却したい場合は、入居者に対して立ち退き交渉をする、場合によっては立ち退き料を払うことも必要になります。
通常の売却より手続きに手間と時間がかかるため、売却タイミングを逃す可能性もあるでしょう。
このように、アパートやマンション経営をしている土地については流動性が下がり、自由なタイミングで売却が難しくなる可能性があります。
2-5 価格変動リスクがある
アパートやマンションなどの建物は、築年数が経過すると価値が下落していきます。
また土地に関しては、周辺地域の土地需要や経済状況によって価格が変動します。
そのため、アパートやマンションの売却を考えたときに、希望価格で売れず赤字になってしまう可能性もゼロではありません。
相続税対策でアパートやマンション経営をする場合、活用期間も長期になることが予想されるため、将来の出口戦略まで考えておくことが非常に重要です。
また、出口戦略について計画した後も計画にズレが生じていないか、定期的に分析しておきましょう。
3章 アパート経営による相続税対策の効果はいくら?
実際に、アパートやマンション経営でいくらくらい相続税評価額を節税できるのか計算してみましょう。
本章では、預貯金とアパートにかかる相続税額を比較してみます。
3-1 1億5,000万円の預貯金にかかる相続税
まずは下記の条件のように、遺産が預貯金しかない場合の相続税を計算してみましょう。
- 遺産:預貯金1億5,000万円
- 相続人:子供2人
相続税を計算する流れは、下記の通りです。
①相続人の基礎控除を計算する
3,000万円+2人×600万円=4,200万円
②遺産の課税対象額を計算する
1億5,000万円-4,200万円=1億800万円
③法定相続分で遺産を分割した場合の相続税額を計算する
5,400万円×30%-700万円=920万円
920万円×2人=1,620万円
上記のように、1億5,000万円を子供2人で相続した場合にかかる相続税は、合計1,620万円です。
3-2 1億5,000万円のアパートにかかる相続税
続いて、土地と建物で合わせて1億5,000万円のアパートを相続したときにかかる相続税を計算してみましょう。
- 遺産:アパート(建物1億円、土地5,000万円)
- 相続人:子供2人
- 借家権割合:30%
- 借地権割合:50%
- 賃貸割合:80%
- 土地の面積は150㎡であり、小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等の要件をすべて満たしている
不動産の場合は、建物と土地の相続税評価額をそれぞれ計算します。
アパートやマンションなど他人に貸している建物の相続税評価額は「固定資産税評価額ー(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)」で計算します。
そして、他人に貸している建物が建築されている土地は貸家建付地として評価され「自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」で計算可能です。
上記の条件で、建物および土地の相続税額は下記のように計算できます。
①建物の相続税評価額
1億円-(1億円×30%×80%)=7,600万円
②土地の相続税評価額
5,000万円×(1-50%×30%×80%)=4,400万円
③小規模宅地等の特例を適用
4,400万円×50%=2,200万円
④①+③を合計し基礎控除を適用する
7,600万円+2,200万円=9,800万円
9,800万円-4,200万円=5,600万円
⑤法定相続分で遺産を分割した場合の相続税額を計算する
2,800万円×15%-50万円=370万円
370万円×2人=740万円
上記のように、賃貸経営に使用している1億5,000万円のアパートやマンションにかかる相続税額は合計740万円です。
同額の預貯金を相続するケースよりも半分以上も相続税額を節税できます。
4章 相続税対策でアパート経営をする際の注意点
相続税対策でアパートやマンション経営をする際には、節税対策だけではなく認知症対策や相続対策をしておきましょう。
認知症になり判断能力を失うと、アパートやマンションの売却、リフォームができなくなってしまうからです。
具体的には、下記に注意して対策しておきましょう。
- 認知症対策をしておく
- 相続対策をしておく
- 節税対策だけでなく利回りを意識する
- 土地の購入にはローンを使用しない
- サブリースを行う際には契約内容をよく確認する
- アパートローンは耐用年数以内で組む
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 認知症対策をしておく
相続税対策でアパートやマンション経営をするなら、必ず認知症対策もしておきましょう。
認知症にになり判断能力を失ってしまうと、アパートやマンションの売却、リフォームなどの契約行為を行えなくなるならです。
認知症対策をしていなかった場合、認知症になった本人の代わりに子供が代理で手続きをすることもできません。
認知症対策には複数ありますが、不動産経営者におすすめな方法は家族信託です。
家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
家族信託は他の認知症対策と比較して柔軟な財産管理を行えるため、契約内容によっては賃貸用アパートの管理やリフォーム、売却も任せられます。
家族信託の契約書作成や手続きには、専門的な知識が必要なため、自分で行うのではなく認知症対策に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
4-2 相続対策をしておく
相続税対策としてアパートやマンション経営をするのであれば、相続トラブルを防ぐために相続対策をしておきましょう。
遺言書の作成や生前贈与などを行えば、自分が希望する人物にアパートやマンションを譲れます。
例えば、長年介護をしてくれた子供や可愛がっていた孫に多く財産を遺すことも可能です。
相続対策には複数の方法があり、資産や家族の状況によって取るべき対策が変わってきます。
自分に合う相続対策を知りたい場合や様々な可能性を考慮して漏れのない対策を行いたい場合は、相続対策に詳しい司法書にや弁護士に相談するのがおすすめです。
4-3 節税対策だけでなく利回りを意識する
相続税対策でアパートやマンション経営をする際には、節税効果だけでなく利回りも意識しましょう。
相続税を節税できるが利回りが低く扱いに困るアパートやマンションを受け継いでも、相続人が処分に困る恐れもあるからです。
極端な話ですが、相続税の負担は軽減できたものの、将来的に価値が下がり固定資産税などの管理コストがかかるアパートを相続させられて困ると感じる相続人もいるでしょう。
利回りは不動産会社やハウスメーカーも計算してくれますが、実際に自分で条件やランニングコストを計算して実質利回りを出してみることも大切です。
4-4 土地の購入にはローンを使用しない
これから土地を購入してアパートやマンション経営を始めようと考えている人は、土地の購入にはローンを使用せず一括で購入するのがおすすめです。
アパートやマンションの建築費用のみをローンで借りる分には十分返済していけますが、土地購入費用までローンにしてしまうと返済が難しくなります。
入居者が集まらない、退去者が増えたタイミングで資金繰りが一気に悪化してしまうリスクもあります。
そのため、これから土地を購入しアパートやマンション経営を始める場合は、土地の購入費用は全額自己資金で用意しましょう。
4-5 サブリースを行う際には契約内容をよく確認する
アパートやマンション経営でサブリース契約を結ぶ場合は、契約内容についてよく確認しておきましょう。
サブリース契約とは、管理会社がアパートやマンションを一棟借り入れ、家賃保証や空室保証をしてくれる仕組みです。
サブリースでは家賃保証してもらえるものの契約期間が決まっており、一生涯保証を受けられるわけではありません。
また、契約内容によっては入居者が集まらないなどの事情で家賃が下げられてしまう場合もあります。
サブリース契約を結ぶ際には契約内容に問題がないか、オーナー側にメリットがないかを確認する必要があります。
4-6 アパートローンは耐用年数以内で組む
アパートローンを組む場合は、借入期間を耐用年数以内で組むようにしましょう。
耐用年数を超えると減価償却を経費にすることができなくなり、税負担が一気に重くなるからです。
そのため、耐用年数を超えると利回りが下がり、ローンの残債があると資金繰りが悪くなってしまう恐れがあります。
ほとんどの金融機関では、アパートローンの最長借入期間を耐用年数としていますが、稀に耐用年数を超えて借り入れできる金融機関もあるのでご注意ください。
5章 アパート・マンション経営以外でおすすめの相続税対策
相続税の節税対策には、アパートやマンション経営以外にも複数あります。
資産や家族の状況によって行うべき節税対策は変わってくるので、アパートやマンション経営だけでなく下記の方法も検討しておくのがおすすめです。
- 生前贈与する
- 生命保険を活用する
- お墓や仏壇を現金で一括購入する
- 養子縁組をする
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 生前贈与する
生前贈与をすれば相続税や贈与税の負担を抑えつつ、次世代に財産を渡せます。
贈与税には、暦年贈与と相続時精算課税制度の2種類がありますが、どちらも年間110万円の控除額が用意されています。
そのため、年間110万円の範囲に贈与を抑えれば、贈与税はかかりません。
控除額は毎年利用できるので、複数年にわたり控除内で贈与を繰り返せば数百万円近い贈与税や相続税を節税可能です。
贈与税の基礎控除を利用して相続税対策する際には、下記に注意しましょう。
- 名義預金と判断されないようにする
- 定期贈与と判断されないようにする
- 相続発生3〜7年以内に行われた贈与は相続税の課税対象になる場合がある
- 相続時精算課税制度を利用した場合、年間110万円を超える贈与は相続税の計算対象になる
- 相続時精算課税制度を利用する場合、初年度に相続時精算課税選択届出書を提出する必要がある
暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを利用すべきは迷う場合や、節税に関するアドバイスを受けたい場合は、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
5-2 生命保険を活用する
相続人を受取人とした生命保険に加入しておけば、相続税を節税できます。
生命保険金は相続税の課税対象に含まれますが、相続人が受け取ると「相続人の人数×500万円」の非課税枠が適用されるからです。
受け取った生命保険金が非課税枠の範囲内に収まれば、生命保険金に対して相続税はかかりません。
5-3 お墓や仏壇を現金で一括購入する
生前のうちにお墓や仏壇を現金で一括購入しておくと、相続税の節税につながります。
お墓や仏壇は祭祀財産と呼ばれ、相続税の課税対象に含まれないからです。
ただし、お墓や仏壇をローンで購入した場合、相続発生時にローンの残債があっても債務控除の対象にはなりません。
また、相続発生後に相続人が故人のためにお墓や仏壇を購入しても遺産から控除することはできません。
そのため、可能であればお墓や仏壇を現金で購入しておくことをおすすめします。
5-4 養子縁組をする
養子縁組により相続人を増やせば、その分だけ相続税を節税可能です。
相続税には「3,000万円+法定相続人の数×600万円」の基礎控除が用意されており、遺産が基礎控除内の範囲であれば相続税の申告や納税は必要ありません。
養子縁組で相続人の人数が増えれば1人につき600万円基礎控除の金額が増えるため、相続税を節税できます。
ただし、養子を相続人に含められる人数は下記のように決められています。
養親に実子がいるか | 基礎控除の計算に含められる養子の数 |
養親に実子がいる | 1人まで |
養親に実子がいない | 2人まで |
したがって、養子縁組により相続税を際限なく節税できるわけではないのでご注意ください。
まとめ
アパートやマンション経営をすれば、預貯金で保有するより相続税を節税できる可能性があります。
ただし、アパートやマンション経営にはリスクもあるので始める際には注意が必要です。
アパートやマンション経営で相続税対策をするのであれば、認知症対策や相続対策を行なっておくことも大切です。
認知症対策や相続対策には複数の方法があるので、自分に合う方法を選びましょう。
自分に合う方法がわからない場合や様々な可能性を考慮して漏れなく手続きを行いたいのであれば、相続対策について司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
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