相続したものの活用予定もなく、住む人がいない空き家に関しても相続税はかかります。
空き家を相続したときは土地と建物の相続税評価額を計算して、他の相続財産と合算して相続税を計算しなければなりません。
活用予定のない空き家の相続税の負担を少しでも軽減するには、所有者が亡くなる前に売却や賃貸活用などで相続税対策をしておくのが良いでしょう。
また、空き家を相続したときには相続税の計算や申告だけでなく、将来にわたり空き家の管理コストがかかる点にも注意しなければなりません。
本記事では、空き家にかかる相続税の計算方法や節税方法を紹介します。
空き家の相続に関しては、下記の記事でも詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 空き家にも相続税がかかる
結論から言うと、相続したが活用予定のない空き家や土地にも相続税がかかります。
相続税は故人が遺した財産すべてを合算して計算するからです。
なお、相続した土地の評価額を軽減できる制度に小規模宅地等の特例がありますが、空き家の場合は適用できません。
そのため、空き家を相続すると、故人と同居していた自宅を相続したケースや賃貸用不動産を相続したケースより相続税が高額になりやすい点にも注意が必要です。
2章 空き家の相続税評価額の計算方法
相続税は、相続した財産の評価額を合計し計算します。
空き家の相続税評価額は土地部分と建物部分で計算方法が異なります。
それぞれ見ていきましょう。
2-1 土地部分の相続税評価額の計算方法
相続した土地の評価額の計算方法は、①路線価方式か②倍率方式を用います。
それぞれの計算方法を詳しく解説します。
2-1-1 路線価方式による計算方法
道路に面した土地には路線価が設定されており、相続税評価額の計算時に使用できます。
相続した土地の路線価の計算方法は、下記の通りです。
- 国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」にアクセスする
- 「路線価図」を選択する
- 市区町村と町・丁目を選択する
上記の流れで相続した土地の路線価図を選択すると、下記のような地図が表示されます。
道路に書かれた数字が路線価であり、上図の場合は「270」です。
路線価が設定されている土地の場合は「路線価×面積」で相続税評価額を算出できます。
2-1-2 倍率方式による計算方法
路線価はすべての土地に設定されているわけではなく、路線価がない土地に関しては倍率方式で相続税評価額を計算します。
倍率方式では、固定資産税評価額に所定の評価倍率を掛けて土地の相続税評価額を計算します。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円であり評価倍率1.1の土地であれば「1,000万円×1.1=1,100万円」が相続税評価額です。
「路線価図・評価倍率表」の市区町村を選択する画面で「この市区町村の評価倍率表を見る」を選択すると、市区町村の評価倍率表が表示されます。
2-2 建物部分の相続税評価額の計算方法
空き家の建物部分にかかる相続税評価額は、固定資産税評価額をそのまま使用します。
例えば、建物の固定資産税評価額が1,500万円であれば相続税評価額も1,500万円です。
3章 相続発生前に空き家の相続税を節税する方法
空き家にかかる相続税の負担を抑えるのであれば、相続発生前に節税駄作をしておくのがおすすめです。
例えば、小規模宅地等の特例の適用要件を満たすために故人と同居しておく、空き家を他人に貸すなどの対策をしましょう。
- 同居して小規模宅地等の特例を適用する
- 空き家を賃貸し小規模宅地等の特例を適用する
- 空き家を売却してしまう
空き家に対して行える相続税対策を3つ紹介していきます。
3-1 同居して小規模宅地等の特例を適用する
故人と同居していた人が土地や自宅を相続した場合、小規模宅地等の特例を適用できます。
小規模宅地等の特例とは、相続した土地の評価額を最大8割まで軽減できる制度です。
相続した自宅に小規模宅地等の特例を適用した場合の軽減率や限度面積は、それぞれ下記の通りです。
軽減率 | 80% |
限度面積 | 330㎡ |
亡くなった人の自宅を相続した際に小規模宅地等の特例を適用できる人は、下記のいずれかの人物です。
配偶者 | 無条件で小規模宅地等の特例を適用できる |
配偶者でないが、同居していた相続人 | 相続税の申告期限までは自宅に居住し、土地を所有する |
配偶者でなく、同居もしていなかった相続人 | 自分の持ち家に住んでいないなど(家なき子の特例) |
亡くなった人の配偶者以外で故人と同居していなかった相続人が小規模宅地等の特例を適用する場合には、自分が所有する持ち家に住んでいないなどの「家なき子の特例」の適用要件を満たさなければなりません。
家なき子の特例の適用要件は、下記の通りです。
- 相続開始前3年以内に、3親等以内の親族等が所有する家屋に居住したことがない
- 相続開始時に自分が住んでいた家屋を過去に所有したことがない
3-2 空き家を賃貸し小規模宅地等の特例を適用する
自分や親族が住んでいない空き家を所有している場合、空き家のままにしておくのではなく賃貸として他人に貸しだせば相続時に小規模宅地等の特例を適用可能です。
人に貸していた賃貸住宅を相続した際には、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用でき、軽減率と限度面積は下記の通りです。
軽減率 | 50% |
限度面積 | 200㎡ |
ただし、すべての賃貸住宅が小規模宅地等の特例を適用できるわけではなく、下記に当てはまる場合は制度を活用できないのでご注意ください。
- 親族などに相場より安い金額で物件を貸していた場合
- 物件に長期間の空室がある場合
- 相続開始3年以内に貸付を始めた土地
上記のように、相続開始3年以内に賃貸を始めた土地に関しては小規模宅地等の特例を適用できないので、相続対策として賃貸経営をするのであれば早めに行いましょう。
3-3 空き家を売却してしまう
介護付きマンションに入居するなどの理由で自宅が空き家になる、活用予定がなくなる場合は相続発生前に空き家を売却してしまっても良いでしょう。
相続発生後に空き家を売却するよりも、相続発生前に売却した方が節税に使える控除や特例が多いからです。
相続発生前に自宅を売却すれば、下記の特例を適用できます。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例 | 自宅を売ったときに譲渡所得(売却益)から3,000万円控除できる |
10年超所有軽減税率 | 所有期間10年を超える自宅を売却するときの譲渡所得税、住民税の税率を軽減できる |
上記の控除や特例には適用要件があるので、適用要件を満たしているかや売却時にかかる税金のシミュレーションは、不動産売却に強い税理士に相談するのが良いでしょう。
4章 相続発生後に空き家の相続税を節税する方法
相続発生後に空き家の相続税負担を軽くする方法は「相続空き家の3,000万円特別控除の特例」しかありません。
相続空き家の3,000万円特別控除の特例とは、相続した空き家を売却したときの売却益を3,000万円まで非課税にできる制度です。
ただし、すべての空き家で適用できるわけではなく、下記の要件を満たさなければなりません。
【相続時の条件】
- 空き家だけでなく土地も相続で取得した
- 1981(昭和56)年5月31日以前に建築された
- 亡くなった人が相続開始まで住んでいた
- 相続開始から売却までずっと空き家だった
【売却時の条件】
- 相続してから3年後の年末までに売却した
- 第三者に売却している
- 売却金額は1億円以下である
- 耐震リフォーム済もしくは建物を取り壊した条件で売却した
上記の条件を満たせる場合は、相続した空き家を3年以内に売却し特例を適用するのが良いでしょう。
5章 空き家を相続するときの注意点
故人が遺した空き家には相続税がかかるだけでなく、相続人が固定資産税や管理コストを負担しなければならないなど注意すべき点もあります。
- 空き家を相続すると管理コストがかかる
- 空き家を相続すると名義変更手続きが必要
- 認知症になり判断能力を失うと不動産を売却できなくなる
注意点3つをそれぞれ解説していきます。
5-1 空き家を相続すると管理コストがかかる
空き家を相続すると相続税がかかるだけでなく、修繕費や固定資産税などの管理コストがかかります。
そのため、将来にわたり空き家に住む予定がなく活用もしにくい場合は早めの売却を検討しても良いでしょう。
また、亡くなった人が空き家以外に財産をほとんど遺しておらず、相続人が空き家の管理コストや相続税を負担したくない場合は相続放棄も選択肢のひとつです。
5-2 空き家を相続すると名義変更手続きが必要
亡くなった人が所有していた不動産を相続したときには、亡くなった人から相続人へ不動産の名義変更手続きをしなければなりません。
不動産の名義変更手続きは、法務局にて登記申請書や添付書類を提出して行います。
相続した空き家を人に貸す、売却する場合でも、先に名義変更手続きをすませておく必要があるのでご注意ください。
これまで相続登記は義務化されておらず、相続人の意思によって行うとされていました。
しかし、2024年4月からは相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続においても適用されます。
そのため、まだ相続登記がおすみでない土地をお持ちの人は早めに手続きをすませましょう。
相続登記は自分でも行えますが、司法書士に依頼すれば数万円程度で代行可能です。
グリーン司法書士法人でも相続登記に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
5-3 認知症になり判断能力を失うと不動産を売却できなくなる
認知症などで判断能力を失うと契約行為ができなくなるので、不動産を売却できなくなってしまいます。
- 認知症になった後、老人ホームや病院に入院するため自宅を売却する
- 認知症になり賃貸経営が難しくなったので、賃貸用の不動産を売却する
認知症の程度や判断能力がどれくらい残っているかにもよりますが、上記は行えない可能性が高いのでご注意ください。
認知症になり不動産を売却できなくなると、所有者は老人ホームに入居なり空き家となった自宅が手つかずの状態になってしまう恐れもあります。
このように認知症により不動産の売却を進められなくなる事態を避けたいのであれば、元気なうちに認知症対策をしておきましょう。
認知症対策には、主に下記の4つの方法があります。
- 家族信託
- 任意後見制度
- 生前贈与
- 遺言書の作成
上記のうち、家族信託は財産管理に特化した制度であり、契約内容によっては自宅の売却や賃貸用不動産の管理なども行えます。
まとめ
活用予定がなく人が住んでいない空き家も相続税の課税対象となります。
亡くなった人が自宅や空き家を所有していた場合は、空き家の相続税評価額の計算をしなければなりません。
自分で計算するのが難しい場合や相続税対策をしたい場合は、相続税の計算に詳しい税理士に相談するのが良いでしょう。
また、空き家を相続したときには相続税の計算が必要なだけでなく、将来にわたり空き家の管理コストがかかります。
管理コストの負担を軽減するためにも、相続した空き家は活用や売却を検討するのが良いでしょう。
ただし、空き家を活用、売却する前には名義変更手続きをすませておく必要があります。
グリーン司法書士法人では、相続登記に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。