
相続登記を申請したいけれども遺産分割協議書の書き方がわからない。
間違いのない遺産分割協議書を作成して、相続登記を成功させたい。
このようにお考えで記事を読まれているのではないでしょうか。
遺産分割協議書は、専門家でない限りあまり目にするものではありません。
いざ必要に迫られて書いてみようと思ってもなかなかうまくいかないものです。
そこで今回は、登記の専門家である司法書士の私が、相続登記の際に必要となる遺産分割協議書の書き方についてお伝えします。
サンプルのイラストを用いながらわかりやすく書いていますので、初心者でも完璧なものが出来上がること間違いなしです。
また本記事では、不動産の種別に応じた遺産分割協議書が「Word形式の雛形」でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
さらにこの記事では、遺産分割協議書の書き方だけではなく、遺産分割協議書を作成する際の注意点やアドバイスもお伝えします。
遺産分割協議書は不動産などの大切な遺産の分け方を決定する書面です。
後でトラブルが起きないようにこの部分もしっかりと読んでみてください。
完全な遺産分割協議書を作成して、スムーズに相続登記を実現しましょう!
目次
1章 まず自身の相続登記に遺産分割協議書の作成が必要かどうかを確認しよう
相続登記で遺産分割協議書が必要かどうかはケースバイケースです。
遺産分割協議書の書き方をお伝えする前に、自分自身の相続で遺産分割協議書が必要かどうかを見てみましょう。
上記の表を利用するに際して、法定相続分(誰が相続人になるか・相続割合がどれくらいか)という点が気になる方はこちらの記事をご覧ください。
2章 遺産分割協議書を作成する前にしておかないといけないこと
さて、前章で「遺産分割協議書が必要」という項目にあてはまった方は、遺産分割協議書を作成していくことになります。
しかし、いきなり遺産分割協議書を作成することはできません。
遺産分割協議書を作成するにはいろいろな準備が必要となります。以下、見ていきましょう。
2-1 相続人・相続財産の調査をしよう
STEP1 相続人の調査
原則的に、遺産分割協議は相続人全員で行わなければ法律上の効力が生じません。よって、最初に相続人がどこの誰なのかを確定する必要があります。
相続人は、亡くなった人の本籍地を管轄する役所で戸籍を調べることにより判明します。
詳細な調べ方はこちらの記事をご覧ください。
STEP2 相続財産の調査
また、遺産分割協議書を書く前には、どういった遺産があるかを調べる必要があります。
相続登記の場合、遺産分割協議書に不動産に関する細かな情報を記載する必要がありますので、相続した不動産の登記事項証明書を法務局で取得しましょう。
下記は登記事項証明書のサンプルです。
登記事項証明書の取得方法を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
2-2 相続人全員で話し合いをしよう
遺産分割協議書は、遺産分割協議(相続人全員で話し合うこと)した内容を、書面にしたものになります。よって、遺産分割協議書を作成するには、その前提として相続人全員で話し合う必要があります。
もっとも、全員で話し合うといっても、一か所に集まって全員で話し合う必要があるというわけではありません。電話やメールなどで全員が遺産の分け方について納得していればそれで十分です。(実際は相続人のうち1人が指揮を取って、他の相続人と交渉するケースが多いです。)
具体的な協議の進め方について知りたい方はこちら
3章 相続登記のための遺産分割協議書の書き方
準備が整えば、遺産分割協議書を作成していくことになります。
まず、下記に完成形の遺産分割協議書を掲載しますので、イメージを持ちましょう。
また、雛形はこちらからダウンロードが可能です。
では、上から順に遺産分割協議書の書き方を説明していきます。
3-1 死亡した人の情報を記載しよう
最初に、被相続人(死亡した人)についての情報を記載します。
①被相続人の欄には、死亡した人の氏名を記載し、横に死亡日を記載しましょう。
②最後の本籍地の欄には、被相続人の最後の本籍地を記載しましょう。
③最後の住所には、被相続人の最後の住所を記載しましょう。
④登記簿の住所には、登記事項証明書に記載されている住所を記載しましょう。
上記のうち①②に関しては、戸籍より確認することができます。
③に関しては、相続人であればご存知であるはずです。
万一わからない場合は、住民票の除票や戸籍の附票といった書面があるので、役所で取得しましょう。
④に関しては、最新の住所を記載するようにしましょう。
住所変更の登記がされていることもあるので、気をつけてください。
3-2 相続人全員で遺産分割協議を行ったことを記載しよう
上記のイラストの通りの文言を記載しましょう。
相続人「全員」で行ったことを記すのが理想です。
3-3 不動産の名義人となる相続人を記載しよう
この部分から遺産分割協議書のメインになります。
ミスのないようにしっかり確認していきましょう。
相続登記で誰の名義に書き換えるかを示す文章を記載しましょう。
【例】
・第1条 下記不動産は、相続人Bが取得する。
・第1条 下記不動産は、相続人Bが3分の2の割合、相続人Cが3分の1の割合で取得する。
被相続人の所有していた不動産が共有持分である場合(不動産の一部である場合)、書き方に注意が必要です。
例えば、被相続人Aが不動産のうち2分の1のみを所有していて、その持分をBとCが2:1の割合で取得するケースを考えて見ましょう。
この場合、遺産分割協議書には例えば次のように記載することとなります。
第1条 下記不動産は、相続人Bが3分の2の割合、相続人Cが3分の1の割合で取得する。
要するに割合の合計が1になるように記載しなければなりません。
不動産全体から見た割合を記載するわけではありませんのでご注意ください。
※誤っている例
第1条 下記不動産は、相続人Bが6分の2の割合、相続人Cが6分の1の割合で取得する。
3-4 相続登記をする不動産に関する情報を記載しよう
次に、相続登記の対象となる不動産について記載しましょう。
遺産分割協議書の図でいうと、下記の部分についての説明です。
土地の場合、建物(マンションを除きます)の場合、マンションの場合で書き方が異なります。
登記事項証明書が必要となるので、手元にある方は確認しながら読んでみてください。
3-4-1 相続した不動産が土地の場合
【不動産の表示】と冒頭に記載し、不動産番号、所在、地番、地目、地積を登記事項証明書からそのまま転記しましょう。
完成形(例)は下記のとおりになります。
【不動産の表示】
不動産番号 1234567890123
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目
地 番 5番2
地 目 宅地
地 積 81.22㎡
なお、被相続人である鈴木一郎の所有していた不動産が共有である場合、
【不動産の表示】
不動産番号 1234567890123
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目
地 番 5番2
地 目 宅地
地 積 81.22㎡ (共有者 鈴木 一郎 持分○○分の○)
のように、追記する必要があります。
3-4-2 相続した不動産が建物(マンションの1室である場合を除きます)の場合
【不動産の表示】と冒頭に記載し、不動産番号、所在、家屋番号、種類、構造、床面積を登記事項証明書からそのまま転記しましょう。
完成形(例)は下記のとおりになります。
【不動産の表示】
不動産番号 0123456789012
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目
家 屋 番 号 5番地2
種 類 居宅
構 造 鉄骨造スレートぶき3階建
床 面 積 1階 70.25㎡
2階 62.08㎡
3階 62.08㎡
相続不動産が共有である場合には、下記の通り追記する必要があるのは同様です。
【不動産の表示】
不動産番号 0123456789012
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目
家 屋 番 号 5番地2
種 類 居宅
構 造 鉄骨造スレートぶき3階建
床 面 積 1階 70.25㎡
2階 62.08㎡
3階 62.08㎡ (共有者 鈴木 一郎 持分○○分の○)
3-4-3 相続した不動産がマンションの1室である場合
マンションを相続した場合には、不動産の表示がややこしくなります。
下記サンプルの不動産番号と、①~④のうち赤で囲われた部分を順番に記載しましょう。
完成形(例)は下記のとおりになります。
【不動産の表示】
不動産番号 3141592653589
一棟の建物の表示
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目 5番地2
建物 の 名称 高麗橋ウエストビル
専有部分の建物の表示
家 屋 番 号 高麗橋四丁目 5番2
建物 の 名称 202
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積 1階部分 68.76㎡
敷地権の目的である土地の表示
土地 の 符号 1
所在及び地番 大阪市中央区高麗橋四丁目5番2
地 目 宅地
地 積 8792.30㎡
敷地権の表示
土地 の 符号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 2697411分の7193
相続不動産が共有である場合に、末尾に「(共有者 鈴木 一郎 持分○○分の○)」などと記載しなければならないのは同様です。
なお、③敷地権の目的である土地の表示④敷地権の表示に関しては、複数個記載されている場合があります(その場合は、土地の符号が1,2,3・・・と増えていきます。)
こういったケースでは面倒ですが、全て記載する必要があるのでご注意ください。
(例)
【不動産の表示】
不動産番号 3141592653589
一棟の建物の表示
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目 5番地2
建物 の 名称 高麗橋ウエストビル
専有部分の建物の表示
家 屋 番 号 高麗橋四丁目 5番2
建物 の 名称 202
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積 1階部分 68.76㎡
敷地権の目的である土地の表示
土地 の 符号 1
所在及び地番 大阪市中央区高麗橋四丁目5番2
地 目 宅地
地 積 8792.30㎡
土地 の 符号 2
所在及び地番 大阪市中央区高麗橋四丁目5番22
地 目 宅地
地 積 1111.11㎡
敷地権の表示
土地 の 符号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 2697411分の7193
土地 の 符号 2
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 123456分の329
以上が、不動産の記載方法です。
相続する不動産が複数個ある場合は、単純に並べて書けばOKです(【不動産の表示】は最初の1回だけで問題ありません。)。
(土地と建物を相続する例)
【不動産の表示】
不動産番号 1234567890123
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目
地 番 5番2
地 目 宅地
地 積 81.22㎡ (共有者 鈴木 一郎 持分○○分の○)
不動産番号 1234567890123
所 在 大阪市中央区高麗橋四丁目
地 番 5番2
地 目 宅地
地 積 81.22㎡
3-5 補足的な条項を記載しよう
ここまでくればあと少しです。
不動産の分け方とは直接関係しない、補充的な内容を記載します。
よく記載する内容には、次のようなものがあります。
・今般の相続手続に関する費用に関しては、○○の負担とする。
・今般の相続手続に関する費用に関しては、ABCが各3分の1ずつ負担する。なお、端数はAの負担とする。
・相続人Aは、第1条に記載の遺産を取得する代価として、相続人Bに対し、金1500万円を平成30年11月1日までに支払う。
・今般の手続に関する司法書士報酬は、○○の負担とする。
・今般の手続に関する公租公課については、ABが各2分の1ずつ負担する。
・後日、上記以外の遺産が判明したときは、別途相続人全員で協議するものとする。
・後日、上記以外の遺産が判明したときは、Aが取得するものとする。
3-6 締めの文言を記載しよう
上記のイラストの通りの文言を記載しましょう。
これもまた、相続人「全員」で行ったことを書くのがポイントです。
3-7 日付・住所・署名・押印をしよう
まず、日付を記載しましょう。
最後に署名押印した人が、その署名した日付を記入するのが一般的です。
次に、住所・氏名を記載し、押印しましょう。このうち、少なくとも氏名は直筆で記載し、押印は実印で行いましょう。
なぜなら、遺産分割協議書というものは、有効・無効をめぐって後日紛争になる可能性が高く、その時には筆跡をもとに本人が納得して署名したことを明らかにできるからです。また、相続登記をする際には、遺産分割協議書に実印が押されていなければ、登記申請が却下されてしまいます。
なお、遺産分割協議書が複数枚に渡るときは、全ページに割印をしましょう。
4章 遺産分割協議書を作成するときの注意点
遺産分割協議書は、大切な遺産の分け方を決める重要な書面です。
後で後悔しないように、注意点を見て行きましょう。
4-1 遺産分割協議書は全員分を作成しよう
遺産分割協議書は、話し合いが成立した証となるものです。
相続人全員が内容を確認できるように、相続人の数だけ作成します。
署名や押印をコピーするというのは望ましくありませんので、遺産分割協議書を作成後、署名・押印をする前に人数分コピーし、最後に全枚数分まとめて署名・押印するのが良いでしょう。
4-2 原則的に遺産分割協議のやり直しはできないので気をつけよう
一度遺産分割協議書に署名押印すると、詐欺や強迫などのよほどの事情がある場合や、遺産分割協議をした全員の同意がある場合などでなければ、撤回することができません。
また、仮に遺産分割協議をやり直せたとしても、贈与税などの税金が発生することもあります。内容に間違いがないか、本当にこの遺産配分でよいかなどをしっかり確認してから、署名押印をするようにしましょう。
この記事でも遺産分割協議書の雛形をダウンロードできますが、記事を参考にしながら自分自身のケースにしっかりとあてはめて活用するようにしてください。
4-3 書き間違えた場合は印鑑を押して訂正しよう
遺産分割協議書は、間違えた箇所に二重線を引き、その上に印鑑を押すことで訂正が可能です。相続人個人に関する情報を訂正する場合は、その個人のみの訂正印さえ押せば問題ありません。
一方、不動産に関する情報など、相続全体に関する情報を訂正する場合は、相続人全員の印鑑が必要です。
訂正印を押すときは、次のことに注意しましょう。
①遺産分割協議書に押した印鑑(つまり、実印)で訂正しましょう。
②訂正印同士は重ならないようにしましょう。
③訂正した二重線の上に押印するようにしましょう。
なお、訂正印で訂正できるのは、書き間違いなどの軽微な誤りのみになります。
相続人を変更するなどの大きな変更はできませんので、そういった場合は遺産分割協議書を作成し直しましょう。
4-4 遺産分割協議書の作成・相続登記は早めにしよう
遺産分割協議書作成や、それに伴う相続登記に法律上の期限はありません。
しかし、手続を放置してしまうことで、様々なデメリットが生じます。
- 相続人が増加して相続人間の話がまとまりにくくなる
- 相続人が認知症などになって遺産分割協議が難航する
- 公的書類の保存期間が経過して相続登記のための書類が準備できなくなる
他にもリスクはたくさんあります。
手続を行わないことで生じる問題をまとめた記事がありますので、気になる方はこちらをご覧ください。
5章 迷ったらすぐに専門家に相談しよう
以上で一通り解説しましたので、自分自身でも相続登記のための遺産分割協議書は作成できると思います。
しかし、最終的に自分で作成をするとしても、迷ったら専門家に相談することをおすすめします。専門家に相談すると、遺産分割協議書の注意点を教えてもらえたり、アドバイスをしてもらえます。
また、相続申請の際に提出する遺産分割協議書の原本は手元に戻ってくるのか?といった細かな不安も解消することができます。(回答としては、「原本還付」という手続をしておくことで、手元に回収することが可能です。)
最近は無料相談を行っている事務所も多数あります。
気になることがあれば、司法書士に相談しましょう。
まとめ
遺産分割協議書の作成方法をご理解いただけたでしょうか。
遺産分割協議書を作成した後は、相続人全員の印鑑証明書や、その他の書類を添付して法務局に申請することになります。
相続登記の申請をお考えの方は、別記事で解説していますのでそちらをご覧下さい。
2章が司法書士に依頼する場合、3章が自分でする場合について書いています。
完璧な遺産分割協議書を作成し、相続登記が速やかに成功するのをお祈りしております。