家族が亡くなると、配偶者やお子さんなどの相続人は必ず相続手続きをしなければいけません。
ただでさえ、葬儀や法要、役所への届出などやらなければいけないことが多い中、さらに遺産分割協議や財産の名義変更など相続手続きまでしなければいけないとなると大変ですよね。
各種書類の提出先は平日日中しか空いていない場合も多いので、お仕事をされている方や小さなお子さんがいる方は時間が取れないということもあるでしょう。
そのようなときに利用したいのが「相続手続き代行」というサービスです。
相続手続き代行を利用すれば、相続人に代わって司法書士などの専門家が手続きを行ってくれます。
依頼する専門家によって、代行できる内容は異なり司法書士が代行可能な範囲は下記図の緑色の部分です。
相続手続き代行サービスは司法書士や信託銀行、行政書士などが提供していますが、それぞれの特性やケースによって、どこに依頼するのがよいかわからない人が多いと思います。
そこでこの記事では、以下についてわかりやすく解説していきます。
- 相続手続き代行でやってもらえること
- 相続手続き代行を利用するのがおすすめな人
- 相続手続き代行の依頼先の比較
- 相続手続き代行の費用相場
- 相続手続き代行の依頼先を選ぶポイント
1章 相続手続き代行とは
相続手続き代行とは、名前の通り「相続手続きを代行してくれるサービス」で主に司法書士事務所や信託銀行などが提供しています。
提供元によっては「遺産整理業務」「遺産整理代行サービス」「相続サポート」など名称は様々ですが、どれも「相続手続きを代行してくれる」ことは共通しています。
具体的にサポートしてもらえること・してもらえないことについて見ていきましょう。
1-1 相続手続き代行でサポートしてもらえること
詳細はサービスの提供元によって異なりますが、相続手続き代行では概ね以下の手続きをサポートしてもらえます。
業務内容 | 備考 |
相続人の調査 | 戸籍の収集などを行い、相続人を確定させる |
遺言の調査 | 公正証書遺言がないか、公証役場で遺言の有無の確認する |
財産の調査・財産目録の作成 | 現金や預貯金、不動産、有価証券など相続財産を調査し、具体的な金額をまとめた財産目録を作成する |
遺産分割協議・遺産分割協議書の作成 | 遺産分割協議に対するアドバイスを行い、協議がまとまったら遺産分割協議書を作成する |
預貯金の名義変更・払い戻し | 預貯金口座の名義変更や払い戻し手続きを行う |
不動産・証券など財産の名義変更・登記手続き | 不動産や有価証券を相続人の名義に変更する手続きを行う |
財産の管理・運用・売却・処分 | 相続した財産の売却や処分する際のサポートを行う |
相続税の申告 | 税務署への相続税申告に関する手続き(相続税が発生する場合のみ) |
上記の手続きのうち、不動産の名義変更は司法書士もしくは弁護士しかできず、相続税申告は税理士しか対応できない手続きです。
対応できない専門家に依頼した場合、その部分はさらに別の専門家に外注されます。
1-2 相続手続き代行でサポートしてもらえないこと
相続人間での紛争やトラブルへの対処は、相続手続き代行でサポートしてもらえません。
遺産相続において相続人間で争いやトラブルになる場合がありますが、それを解決するための交渉や対応は、相続手続き代行のサポート内容に含まれません。
相続による紛争やトラブルに関する交渉や裁判対応は、弁護士しかできないからです。
もし、遺産相続で紛争トラブルになっているのであれば、最初から弁護士に依頼するのが良いでしょう。
なお、遺産分割の話し合いはつく予定だが「できれば直接やり取りしたくない」「連絡を最小限にとどめたい」ケースもあるでしょう。
その場合には「相続手続き代行」を司法書士などに依頼すれば、自分で他の相続人とやり取りをする必要がなくなり、無用なトラブルの回避やストレスを軽減可能です。
2章 相続手続き代行を依頼するのがおすすめな人
相続手続きは専門家に依頼しなくても、自分で行えます。
しかし、相続人の人数が多い場合や関係性が薄い相続人がいる場合などは、相続手続き代行を利用するのが良いでしょう。
相続手続き代行を依頼した方が良いケースは、以下の通りです。
- 仕事や育児などで忙しく相続手続きの時間が取れない
- 身体が不自由であり、自分で相続手続きを行うのが難しい
- 一人だけ手間を負担するのは納得がいかない
- 遺産の評価方法や相続税の計算方法がわからない
- 相続人同士の仲が悪い、疎遠であり相続に関する話し合いを避けたい
- 専門家の意見を参考にしながら遺産分割協議の内容を決定したい
- 一部の人が相続放棄を検討している
なお、本記事の冒頭や1章で解説したように、相続手続き代行は司法書士や弁護士、行政書士、税理士などの専門家に依頼可能です。
依頼する専門家によって対応可能な分野や得意な分野が異なります。
次の章では、相続手続き代行を依頼する専門家別の特徴を確認していきましょう。
3章 相続手続き代行の依頼先
相続手続き代行の依頼先は主に以下の5つです。
依頼先 | 依頼できること | 依頼がおすすめな人 |
司法書士 |
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行政書士 |
| 遺産に不動産が含まれず、預貯金の解約など単純な相続手続きだけで済む |
弁護士 |
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税理士 |
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信託銀行 | ほとんどの手続きに対応可能(ただし、窓口の役割だけなので、具体的な手続きは各専門家に外注されます) | ・信託銀行と信頼関係ができていて、金銭的にも余裕がある |
ここでは、それぞれの特徴について解説します。
依頼先を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
3-1 司法書士
司法書士は法務手続きや不動産の名義変更などの登記手続き、裁判所に提出する法的な書類作成などを行う法律の専門家です。
相続した不動産の名義変更手続き(相続登記)は、司法書士の本来的専門分野ですので、遺産に不動産が含まれる場合には司法書士に依頼するのが良いでしょう。
3-1-1 司法書士に依頼できる相続手続き
司法書士は「相続税の申告」や「相続トラブル対応」など一部を除き、対応範囲が広いためワンストップで対応が可能です。
具体的には、以下を司法書士に依頼可能です。
- 相続した不動産の名義変更登記
- 遺産分割協議書など相続手続きに必要な書類の作成
- 財産管理人としての行動
なお、弁護士も登記申請について代理することはできますが、相当な専門知識と経験が必要となる登記申請をスムーズにできる弁護士はまだまだ少ないのが実情です。
登記に関しては、司法書士に依頼したほうが確実かつ安心といえるでしょう。
不動産の名義変更は、相続人の誰かが不動産を相続する場合だけでなく、不動産を売却する際にも必要です。
また司法書士と弁護士は、財産管理人として行動できるので、不動産を売却して費用を清算し残額を相続人で分配するようなケースに依頼するのも良いでしょう。
3-1-2 司法書士に相続手続き代行を依頼すべきケース
以下のようなケースには、司法書士への依頼がおすすめです。
- 遺産に不動産が含まれている
- 仕事などが忙しいので出来るかぎりのことを任せたい
- 公平中立な立場で相続手続きを進めてほしい
- トラブルになるほどではないが相続人同士の関係が良くない(関係が薄い)
- 法定通りに相続する予定だが、相続人全員と直接話し合う時間はない
遺産分割協議書の作成から相続登記代行までワンストップで依頼したい場合は、司法書士に相談するのが良いでしょう。
また、手続きごとに専門家に外注する信託銀行に比べ、費用は安価な傾向にあります。
3-1-3 司法書士に相続手続きを依頼したときの費用相場
司法書士に相続手続きを依頼した際には、25〜30万円程度かかります。
費用は遺産総額や依頼内容によっても変動し、遺産総額×0.3~1%+消費税ほどかかる場合が多いです。
3-2 行政書士
行政書士は、官公署に提出する書類や事実証明に関する書類などを作成する専門家です。
相続人の調査や相続財産の調査などを依頼できます。
3-2-1 行政書士に依頼できる相続手続き
行政書士は、相続人の調査や財産調査や相続手続きに関する書類の作成が可能です。
- 相続人の調査
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
- 現預金の相続手続き
一方で、行政書士は不動産の名義変更手続きや遺産の清算分配は行えません。
そのため、遺産に不動産などが含まれている場合には、不動産の名義変更に関しては司法書士に依頼しなければなりません。
3-2-2 行政書士に相続手続き代行を依頼すべきケース
相続人の調査や相続財産の調査、遺産分割協議書の作成など限られた部分のみ相続手続きを代行してもらいたい場合には、行政書士に依頼するのも良いでしょう。
行政書士への相続手続き代行の依頼費用は、司法書士と同等もしくは少し安い程度です。
そのため、遺産に不動産がない場合には、司法書士ではなく行政書士に依頼してしまっても良いかもしれません。
3-2-3 行政書士に相続手続きを依頼した場合の費用相場
行政書士に相続手続きの書類収集や遺産分割協議書の作成を依頼した場合には、25〜30万円程度かかります。
司法書士に依頼した場合とほとんど同じもしくは少し安い程度の費用がかかり、遺産の総額や種類によって金額が変動します。
3-3 弁護士
弁護士は、相続手続きのほとんどを代行できますが、得意としている分野は相続トラブルの解決や裁判への対応です。
3-3-3 弁護士に依頼できる相続手続き
弁護士は司法書士と同様に相続手続き全般を代行可能です。
また、司法書士と異なり、相続トラブルの解決や遺産分割調停などの裁判に関する手続きも対応できます。
- 相続人の調査
- 相続財産調査
- 遺産分割協議書の作成
- 相続放棄手続き
- 遺留分侵害額請求
- 遺言書の検認や無効かの確認手続き
- 遺産分割調停の申立
上記のように、弁護士は相続手続き全般を代行できますが、相続手続きに精通した弁護士はまだまだ少ないです。
相続トラブルの解決に特化している弁護士も多いので、相続トラブルが起きる可能性が低く、相続手続きのみを依頼したい場合には司法書士に相続手続きを代行してもらうのも良いでしょう。
3-3-3 弁護士に相続手続き代行を依頼すべきケース
相続トラブルが起きそうなので交渉を任せたい、遺留分侵害額請求など特殊な相続手続きに対応してもらいたい場合には、弁護士に相続手続きを代行してもらいましょう。
具体的には、以下のケースでは弁護士に依頼するのがおすすめです。
- 相続トラブルが発生していて相続人同士では解決が難しいとき
- 遺産分割協議がまとまらず遺産分割調停を行うとき
- 遺留分侵害額請求を行うとき
3-3-3 弁護士に相続手続きを依頼した場合の費用相場
弁護士に相続手続きを依頼した場合には、着手金として20万円程度かかります。
遺産総額や依頼内容に応じて、金額は変動しますが下記に相談内容と費用の一例を紹介します。
- 遺言執行:約30万円~
- 遺産分割調停:約30万円~
- 相続放棄:約10万円~
3-4 税理士
税理士は相続税の申告や相続税対策に特化している専門家です。
依頼できる相続手続きや相続手続き代行を依頼すべきケースを確認していきましょう。
3-4-1 税理士に依頼できる相続手続き
税理士は相続税申告関連業務に対応可能です。
具体的には、以下の相続手続きを代行してもらえます。
- 相続税の申告
- 相続財産の評価
- 相続税対策
3-4-2 税理士に相続手続き代行を依頼すべきケース
相続税申告は自分で行うこともできますが、遺産が多い場合や土地など評価が難しい財産を相続した場合には、税理士に依頼するのも良いでしょう。
税理士に相続手続き代行を依頼すべきケースは、以下の通りです。
- 相続税の申告を自分で行うのが難しいとき
- 土地や非上場株式など評価の難しい遺産を相続したとき
- 相続税対策を行いたいとき
相続に精通した税理士に依頼すれば、相続税の控除や特例の適用可否を判断してもらえます。
また、相続人の中に高齢者がいる場合、近いうちに次の相続が発生する可能性も考慮して二次相続対策まで合わせて行ってもらえるのもメリットといえるでしょう。
3-4-3 税理士に相続手続きを依頼した場合の費用相場
税理士に相続税申告を依頼した場合には、遺産総額の0.5~1.0%程度かかる場合が多いです。
ただし、遺産の中に不動産が含まれている場合など遺産の種類によってはさらに追加費用がかかる場合もあります。
3-5 信託銀行
信託銀行も、相続に関するサポートを行っています。
ただし、信託銀行は専門家ではないため実際の業務は司法書士や税理士などの専門家に外注して行います。
3-5-1 信託銀行に依頼できる相続手続き
信託銀行に相続手続きを依頼した場合、ほとんどの手続きを代行してもらえます。
というのは、信託銀行が相続手続きを直接代行するのではなく、不動産の名義変更なら司法書士、相続税申告なら税理士といったように各専門家に外注するからです。
信託銀行はあくまでも相続手続きの窓口であり、実際には各専門家が手続きを行うので外注費用がかかります。
各専門家に直接依頼した場合よりも、費用がかさんでしまう可能性が高い点には注意が必要です。
3-5-2 信託銀行に相続手続き代行を依頼すべきケース
亡くなった人が生前から信託銀行に財産の管理や運用、処分を任せていた場合には、故人や資産のことを熟知していて信頼できる信託銀行に相続手続きを任せてしまっても良いでしょう。
逆に言えば、普段から信託銀行と付き合いがないのであれば、わざわざ信託銀行に相続手続き代行を頼むメリットは薄いです。
3-5-3 信託に相続手続きを依頼した場合の費用相場
信託銀行に相続手続きを依頼した場合、最低でも110万円はかかる場合が多いです。
さらに、遺産総額×0.3〜1.8%程度上乗せされると考えておきましょう。
信託銀行に依頼した場合の費用相場が高いのは、信託銀行で手続き自体はできず、他の専門家への外注が必要になるからです。
4章 相続手続代行の費用相場
相続手続き代行の依頼先を決める際には、費用を気にする人も多いのではないでしょうか。
各専門家や信託銀行に相続手続き代行を依頼したときの費用相場は、下記の通りです。
依頼先 | 費用相場・備考 |
司法書士 ※グリーン司法書士法人の場合 | 最低報酬:25〜30万円 遺産総額×0.3~1%+消費税 ※遺産総額や依頼内容に応じて変動 【例】 遺産分割協議書作成:21,000円〜 相続登記申請:30,000円〜など |
行政書士 | 最低報酬:25〜30万円 遺産総額×0.3~1%+消費税 ※遺産総額や依頼内容に応じて変動 【例】 遺産分割協議書作成:21,000円〜 |
弁護士 | 最低報酬:20万円~(着手金) ※遺産総額や依頼内容に応じて変動 【例】 遺言執行:約30万円~ 遺産分割調停:約30万円~ 相続放棄:約10万円 |
税理士 | 最低報酬(相続税申告):遺産総額の0.5~1.0% ※遺産総額や依頼内容に応じて変動 |
信託銀行 | 最低報酬110万円〜遺産総額×0.3〜1.8%程度 ※遺産総額に応じて変動最低報酬が決まっており、どんなに遺産が少なくとも110万円程度の費用がかかることが多いようです |
5章 相続手続き代行の選び方
2章や3章で相続手続き代行の依頼先別の特徴や費用相場について解説してきました。
最後に、これから相続手続き代行を依頼する人に向けて、代行サービスを選ぶときのポイントを5つ紹介します。
- 依頼したい内容に対応してもらえるか
- 費用が妥当かどうか
- 実績が豊富かどうか
- 評判や口コミが良いか
- 問い合わせ時や面談時の印象が良いか
5-1 依頼したい内容に対応してもらえるか
本記事で解説してきたように、専門家によって相続手続きを行える範囲は異なります。
「相続手続き代行を依頼したものの手続きすべてを代行してもらえなかった」「別の専門家にさらに依頼が必要になった」とならないように、依頼したい内容を精査しておきましょう。
例えば、相続した不動産の名義変更手続きは司法書士もしくは弁護士のみが対応可能です。
5-2 費用が妥当かどうか
まずは、相続手続き代行を行っている各事務所や法人の公式HPを確認し、費用を確認してみましょう。
公式HP上では一般的なパッケージプランの費用を紹介しているケースが多いので、実際に何社か見積もりをもらい自分が依頼したい内容では実際いくらかかるのか確認するのも大切です。
- 費用の合計しか教えてくれず詳細は教えてくれない
- パッケージプランに書かれている内容以外にかかる費用が多い
上記の事務所や法人に依頼するのは避けた方が良いかもしれません。
5-3 実績が豊富かどうか
相続手続きは相続人や遺産の状況によっても、ベストな対応が異なります。
相談者の希望に合わせた提案や手続きを行うためにも、相続手続きに関する実績が豊富な事務所や法人を選びましょう。
相続手続きに関する実績は、事務所や法人の公式HP上に記載されている場合が多いです。
「年間の依頼実績〇件」「累計依頼実績〇件以上」など具体的に、過去の実績が記載されている事務所や法人を選ぶのがおすすめです。
5-4 評判や口コミが良いか
公式HPを確認して「信頼できそうな事務所だ」と思ったときには、評判や口コミも確認してみましょう。
公式HP上に相続手続き代行を利用した人のお客様の声を掲載している事務所も多いです。
なお、お客様の声などの利用者アンケートは事務所が自分で掲載意見を選べます。
良い口コミだけでなく悪い口コミに関しても公平に掲載している事務所や法人は信頼できるともいえるでしょう。
5-5 問い合わせ時や面談時の印象が良いか
多くの事務所や法人では、相続手続き代行利用者向けに無料の初回相談を開催しています。
依頼内容のイメージや担当者との相性を確認するためにも、無料相談を利用して損はありません。
無料相談時の担当者の印象や問い合わせ時の対応に疑問を感じたときには、他の事務所や法人の利用を検討した方が良いでしょう。
まとめ
相続手続きは自分でも行えますが「仕事や育児で忙しい」「相続人同士の仲が悪く関わりたくない」と考える場合には、専門家に相続手続き代行を依頼するのも良いでしょう。
相続手続き代行を依頼できる専門家には、司法書士や行政書士、弁護士、税理士などがいます。
各専門家によって対応可能な手続きや得意分野が異なるので、相談したい内容に合わせて選択するのが重要です。
また、信託銀行にも相続手続き代行を頼めますが、専門家への外注が必要になり費用が高額になりがちです。
相続手続き代行サービスを提供している士業事務所や法人の多くは、無料相談を行っていますので、複数の専門家に相談して見積もりをもらうのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人でも、相続手続き代行に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。