父親の遺産を受け取るつもりでいたが遺言書に「長女に全財産を遺す」と記載されていて、相続時に遺産がもらえないケースは珍しくありません。
相続人になる人物は法律によって決められていますが、故人が遺言書を用意しておけば自分が希望する人物に財産を遺せるからです。
他にも、一部の相続人が遺産を隠す、独り占めしようとするケースなどでも、相続発生時に遺産がもらえないといった事態が発生する恐れがあります。
相続時に遺産がもらえないときには原因を見極め、原因に合う対処をしていくことが大切です。
本記事では、相続で遺産がもらえないときの原因および対処法を解説します。
相続時に起きやすいトラブルは、下記の記事でも詳しく解説しているのであわせてご参考にしてください。
1章 相続時に遺産がもらえない7つの原因
亡くなった人が特定の人物に財産を遺すと遺言書を用意していた場合や相続人廃除の手続きをされていた場合、相続人であっても遺産がもらえない可能性があります。
相続時に遺産がもらえない原因は、主に下記の7つです。
- 遺言書で自分以外の人物に遺産を遺すように指定されていた
- 一部の相続人が遺産を隠している
- 相続欠格の要件に該当している
- 相続人廃除の手続きをされていた
- 相続放棄をした
- 一部の相続人が遺産を独り占めしようとしている
- 生前贈与などで遺産がほとんど遺っていなかった
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 遺言書で自分以外の人物に遺産を遺すように指定されていた
亡くなった人が遺言書を作成していて自分以外の人物に遺産を遺すように指定していると、相続人であっても遺産を受け取ることができなくなります。
亡くなった人によって遺言書が用意されていた場合、原則として遺言書の内容通りに遺産分割すると決められているからです。
亡くなった人が遺言書を用意していることを知らなかった場合や愛人や隠し子など相続人が想像していなかった人物に財産を遺す遺言書を用意していた場合は、相続発生後に揉めてしまうこともあるでしょう。
1-2 一部の相続人が遺産を隠している
一部の相続人が遺産を隠している、勝手に使い込みしてしまった場合、相続時に遺産を受け取れなくなる恐れがあります。
親の財産の管理を任されていた子供は親の預貯金を自由に引き出し、使用できてしまいます。
そのため、相続前後に預貯金を引き出し自分のために使えてしまえますし、他の相続人が使い込みに関する証拠を集めることも難しいでしょう。
遺産の使い込みを防ぐためには、子供1人に親の財産を管理させない、親の預貯金を子供がかわりに引き出す場合は証拠を残しておくなどの対策をしておく必要があります。
1-3 相続欠格の要件に該当している
過去に相続欠格事由に該当する行為をした場合は、相続権がはく奪され永久に失ってしまいます。
相続欠格とは、相続に支障をきたす犯罪行為や不法行為を行った人の相続権を強制的に剥奪することです。
相続欠格は故人の遺志とは関係なく行われ、下記の欠格事由に該当する場合、自動的に相続権を失ってしまいます。
- 故人や相続人を殺害したもしくは殺害しようとした
- 故人が殺害されたことを知りながら告発・告訴をしなかった
- 故人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更・取消を妨害した
- 被相続人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更、取消をさせた
- 遺言書を偽装・変造・破棄・隠蔽した
なお、相続人の1人が相続欠格に該当した場合、その相続人の子供が代襲相続人となって相続権を受け継ぎます。
1-4 相続人廃除の手続きをされていた
亡くなった人が生前、相続人廃除の手続きをしていた場合、廃除された相続人は遺産をもらうことができなくなります。
相続人廃除とは、自身に対して不利益になる行為や著しく不快にさせる行為をした人の相続権を剥奪する制度です。
相続人廃除は相続欠格と異なり、亡くなった人が生前のうちに家庭裁判所に申立てを行う、遺言書に廃除の遺志を記載するなどの手続きが必要です。
また、相続人廃除は亡くなった人が希望すればすべて認められるわけではなく、下記の条件に該当しなければ認められません。
- 被相続人を虐待した
- 被相続人に対して重大な屈辱を与えた
- 被相続人の財産を不当に処分した
- ギャンブルなどの浪費による多額借金を被相続人に返済をさせた
- 度重なる非行や反社会勢力へ加入
- 犯罪行為を行い有罪判決を受けている
- 愛人と同棲するなど不貞行為を働く配偶者
- 財産を目的とした婚姻
- 財産目当ての養子縁組
1-5 相続放棄をした
相続放棄をした場合、遺産を一切受け取れなくなってしまいます。
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなる手続きです。
相続放棄をした相続人は、最初から相続人でなかった扱いになるので、遺産分割協議へ参加する必要もありません。
相続放棄をするには、故人の住所地を管轄する家庭裁判所で申立て手続きをする必要があります。
相続放棄が認められると、原則として撤回することはできないので慎重に判断しましょう。
1-6 一部の相続人が遺産を独り占めしようとしている
一部の相続人が遺産を独り占めしようとしている場合、相続人であっても遺産を受け取れないケースがあります。
よくあるのは「遺された母親の面倒を見るから自分が遺産を管理する」などと、相続人の1人が主張するケースです。
ただし、法律上は遺された親の面倒を見るケースでも遺産を独り占めする権利はありません。
まずは遺産の全容を把握し、相続人全員が納得する方法で遺産分割を行うことが大切です。
1-7 生前贈与などで遺産がほとんどなかった
亡くなった人が生前のうちに贈与を行っていた場合、遺産がほとんど遺っていないケースも珍しくありません。
遺言書と異なり生前贈与であれば、相続発生前に希望の人物に財産を譲ることができるので、子供の結婚費用や孫の教育資金などに生前贈与を活用する人もいます。
ただし、生前贈与が下記の時期に行われていれば、贈与財産を遺留分の計算対象に含めることができるので、遺産や過去の贈与財産の一部を相続人が受け取れる可能性があります。
- 死亡前1年以内に行った生前贈与
- 遺留分権利者に損害を与えることを知って行った生前贈与
- 相続人への生前贈与(特別受益)
なお、遺留分とは亡くなった人の配偶者や子供、両親に認められている遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分や請求方法については、次の章で詳しく解説していきます。
2章 相続時に遺産がもらえないときの対処法
相続時に遺産がもらえない場合には、遺留分侵害額請求を行う、遺言書の無効を主張するなど原因別に対処をする必要があります。
相続時に遺産がもらえないときにすべきことは、主に下記の通りです。
- 遺留分侵害額請求を行う
- 遺言の無効を主張する
- 遺言書と異なる内容の遺産分割協議を行う
- 遺産隠しや使い込みの証拠を探す
- 損害賠償請求・不当利得返還請求を行う
- 特別受益の持ち戻しを主張する
- 遺産分割調停・審判を起こす
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 遺留分侵害額請求を行う
「長男に全財産を遺す」「愛人にすべての財産を譲る」など偏った内容の遺言書が用意されていた場合は、遺留分侵害額請求を行いましょう。
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に認められる遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は遺言書の内容より優先されるので、遺留分侵害額請求を行えば、遺産を多く受け取る人物に遺留分侵害額相当分の金銭を支払ってもらえます。
遺留分の計算方法は非常に複雑なので、遺言書の内容に納得できない、自分には一切遺産が用意されていなかったとお悩みの人は、相続トラブルに詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
2-2 遺言の無効を主張する
亡くなった人が作成していた遺言書の内容に納得できない場合は、遺言書の無効を主張することも検討しましょう。
遺言書の無効を主張するには、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を申立てる必要があります。
遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を行えば、裁判所が遺言書の有効かどうかを判断してくれます。
遺言書が無効になるケースは、主に下記の通りです。
- 遺言書を自筆で書いていない
- 遺言書に日付の記載がない
- 遺言書に署名・押印がない
- 遺言書の内容が不明確である
- 遺言書の加筆・修正の方法が適切でない
- 遺言書に他の人の意思が介在している可能性がある
- 遺言書が共同で書かれている
- 遺言書が偽造されている
- 遺言書の内容が公序良俗に違反している場合
- 新しい遺言と内容が矛盾している
- 15歳未満の人が作成した
- 作成時に遺言者の意思判断能力が著しく低下している
- 不適切な証人を立てた
遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟を行うべきか判断するためにも、作成された遺言書が上記に当てはまるか確認してみるのがおすすめです。
2-3 遺言書と異なる内容の遺産分割協議を行う
遺言書の内容に納得いかず相続人や受遺者全員が合意する場合は、遺産分割協議を行い、遺言書と異なる内容で遺産分割しても問題ありません。
遺産分割協議とは、誰がどの財産をどれくらいの割合で受け継ぐかを決める話し合いです。
ただし、亡くなった人が遺言書作成時に遺言執行者も選任していた場合は、相続人や受遺者の合意だけでなく、遺言執行者の合意も必要になるのでご注意ください。
また、自分にとって不利な遺言書であっても、残りの相続人が納得している場合は遺産分割協議を行うことに同意してもらえない可能性が高いです。
2-4 遺産隠しや使い込みの証拠を探す
一部の相続人が遺産隠しや遺産の使い込みを行っていると疑われる場合は、まずは隠している遺産や使い込みの証拠を見つけなければなりません。
隠していた遺産を含め遺産分割協議を行う場合や使い込まれた遺産に対して不当利得返還請求を行う場合、遺産隠しや使い込みに関する証拠が必要だからです。
遺産隠しや遺産の使い込みに関する証拠を集める方法は、主に下記の通りです。
- 故人名義の銀行口座の残高証明書や入出金明細を発行してもらう
- 故人名義の証券口座の情報照会をしてもらう
- 名寄帳を取得し亡くなった人が遺した不動産に関する情報を集める
- 亡くなった人のメール履歴などを確認し遺産の使い込み、亡くなった人の判断能力に関する証拠を集める
2-5 損害賠償請求・不当利得返還請求を行う
遺産隠しや遺産の使い込みに関する証拠を集めたものの当事者間で解決できない場合や使い込んだお金を返金してもらえない場合は、相続人が損害賠償請求や不当利得返還請求を行うことも検討しましょう。
損害賠償請求や不当利得返還請求を行う際には地方裁判所に申し立てを行います。
ただし、損害賠償請求や不当利得返還請求は下記の時効が設定されています。
損害賠償請求 | 損害および加害者を知ってから3年 |
不当利得返還請求 |
|
損害賠償請求や不当利得返還請求を行うには、時効を迎える前に遺産隠しや遺産の使い込みに関する証拠を集め手続きをしなければなりません。
自分で行うのは現実的ではないので、相続トラブルに詳しい弁護士に証拠集めや交渉、手続きを依頼するのが良いでしょう。
2-6 特別受益の持ち戻しを主張する
相続人の1人が生前贈与を受けていて遺産がほとんどない場合は、特別受益の持ち戻しを主張しましょう。
特別受益とは、相続人の1人が故人から個別に得ていた利益であり、生前贈与などが該当します。
特別受益が認められると、過去の贈与財産についても遺産に含めた上で、遺産の分割方法や割合について決定しなければならない恐れがあります。
特別受益の持ち戻しを主張したい場合は、まずは特別受益に関する証拠を集めましょう。
証拠が見つかったら、遺産分割協議や遺産分割調停を行い、相続人全員が納得する遺産分割を行っていきます。
2-7 遺産分割調停・審判を起こす
一部の相続人が遺産を独占しようとする、特別受益について相続人の1人が納得しないなど相続人同士で解決するのが難しい場合は、遺産分割調停や審判を起こすことも考えなければなりません。
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
ただし、遺産分割調停はあくまでも話し合いであり、内容によっては話し合いがまとまらず不成立になってしまう可能性があります。
遺産分割調停が不成立になった場合は、遺産分割審判へと手続きが進みます。
遺産分割審判では、裁判官が遺産分割方法を決定します。
ただし、原則として裁判官は法定相続分で遺産分割するように決定することが多いため、相続人が納得しない結果となる可能性も多いです。
少しでも相続人が納得するかたちで遺産分割したいのであれば、遺産分割審判まで手続きを進めるのではなく、遺産分割協議や遺産分割調停で相続人全員が合意できるように調整するのが良いでしょう。
3章 相続時のトラブルを防ぐ方法
相続人同士で遺産分割について揉めてしまうなどのトラブルを防ぎたいのであれば、生前のうちに相続対策しておくことが大切です。
相続時のトラブルを防ぐには、下記の方法を試しましょう。
- 生前のうちに遺産分けについて話し合っておく
- 相続対策や遺産分割について専門家に相談する
- 遺言書を書いておいてもらう
- 生前贈与してもらう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 生前のうちに遺産分けについて話し合っておく
相続トラブルを防ぐためにも、生前のうちに家族で遺産分けについて話し合っておきましょう。
法律上は、相続対策をする際に相続人の同意を得る必要はありません。
しかし、自分が亡くなった後に相続人が「こんな内容の遺言書だと思わなかった」「長男だけ遺産を多くもらうのは納得できない」などと揉めずにすむように、事前に自分の気持ちを伝えておくのが良いでしょう。
例えば、長男に多く財産を遺す遺言書を作成するとしても「同居してくれ面倒を見てくれた長男に多くの財産を遺したい」「会社を継いでくれる長男に多くの財産を遺す」などと伝えておけば、他の相続人も理解してくれる可能性が高いです。
3-2 相続対策や遺産分割について専門家に相談する
相続対策を行うのであれば自分で行うのではなく、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
相続対策には複数の方法があり、相続人や資産によって行うべき相続対策が変わってきます。
自分に合う相続対策を選択するには専門的な知識が必要です。
また、相続対策を確実に行うには様々な可能性を考慮して、漏れなく手続きを行わなければなりません。
ミスなく確実に相続対策を行うためにも、相続対策に詳しい司法書士や弁護士に相談することをご検討ください。
3-3 遺言書を書いておいてもらう
特定の人物に遺産を遺したい、相続人同士で遺産分割協議を行い揉めることを防ぎたいのであれば、遺言書を作成しておきましょう。
遺言書を用意しておけば、自分が希望する人物に財産を遺せます。
なお、相続対策で使用される遺言書は主に3種類ありますが、形式不備による無効リスクが少ない公正証書遺言を作成するのがおすすめです。
公正証書遺言は原本を公証役場で保管してもらえるため、紛失や改ざんリスクもなくせます。
遺言書を作成する際には、あわせて遺言執行者も選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておけば、単独で遺産の名義変更手続きを行えますし、相続人に遺言書の内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人がなることもできますが、遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を選任すれば、作成時の意図や遺志も伝えてもらえます。
3-4 生前贈与してもらう
特定の人物に財産を遺したい、相続後に相続人で遺産分割協議を行わなくてすむようにするには、生前贈与をして遺産を減らしてしまうのもおすすめです。
生前贈与をすれば希望の人物に希望のタイミングで財産を受け継げますし、遺産を減らせるので遺族の相続トラブルや手続きの手間も減らせます。
ただし、年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税がかかる可能性があるのでご注意ください。
生前贈与には控除や特例も用意されているので、行う際には贈与税や相続税の節税対策やシミュレーションをしておきましょう。
まとめ
相続人であるはずなのに、遺産をもらえないケースは複数考えられます。
特定の人物に財産を遺すといった遺言書が用意されていた、相続人廃除の手続きをされていたなど、遺産がもらえない原因によって対処法が変わってくるので、まずは原因を分析しましょう。
相続時に遺産がもらえない場合、遺留分侵害額請求や遺言書の無効を主張すれば、遺産を受け取れる可能性はあります。
ただし、自分で手続きを行うのは大変なので、遺産分割の内容に納得できない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
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