相続人が故人から特別に得ていた利益を特別受益と呼び、特別受益を相続財産に含め遺産分割を行うことを特別受益の持ち戻しと言います。
特別受益の持ち戻しが行われると、故人が特定の相続人に財産を多く受け継ぎたいと考え生前贈与を行った気持ちが無駄になってしまい、故人の遺志を尊重した相続であるとは言えません。
そのため、故人が特定の相続人に財産を受け継ぎたい場合は特別受益の持ち戻し免除を行い、過去の生前贈与を考慮せず遺産分割を行うように相続人に指示する必要があります。
特別受益の持ち戻し免除を行う方法はいくつかありますが、最も確実でトラブルが起きにくいのは遺言書にて特別受益の持ち戻し免除を記載しておく方法です。
本記事では、特別受益の持ち戻し免除とは何か、認められるケースや持ち戻し免除をするときの注意点を解説します。
相続対策で生前贈与を検討している人は、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 特別受益の持ち戻し免除とは
特別受益の持ち戻し免除とは、過去に行った生前贈与を特別受益の計算対象から外して遺産分割を行うように、故人が遺言書などで相続人に依頼することです。
特別受益とは、相続人が故人から特別に得ていた利益です。
相続発生時には公平な遺産分割を行うため、特別受益も相続財産に加えた上で各相続人の相続分が話し合われます。
これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
特別受益の持ち戻しが行われると、過去に行われた生前贈与も相続財産に含まれるので、特定の相続人に財産を遺すために行った生前贈与の意味がなくなってしまう恐れがあります。
特別受益の持ち戻し免除をすれば、故人が生前贈与を行った遺志が尊重され、希望の人物に財産を遺せます。
2章 特別受益の持ち戻し免除が認められるケース
特別受益の持ち戻しを免除するには、故人が遺言書で明確に意思表示をするなどの方法があります。
具体的には、下記の3つのケースで特別受益の持ち戻しが免除されます。
- 明示の意思表示がされているとき
- 黙示の意思表示がされているとき
- 婚姻年数が20年を超える配偶者への居住用不動産を贈与したとき
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 明示の意思表示がされているとき
特別受益の持ち戻し免除について、明示の意思表示がされているケースでは、特別受益を相続財産に含めずに遺産分割が行われます。
明示の意思表示とは、故人が特別受益の持ち戻しを免除したい生存贈与に関して書面にてその旨を残しておくことです。
「特別受益の持戻しを免除する」と記載しておく書面の種類は指定されていなく、遺言書や贈与契約書、それ以外の書類でも問題ありません。
実務では、遺言書にて生前贈与財産を記載しておき、贈与が行われたことと特別受益の持ち戻し免除をすること記載するケースが多いです。
2-2 黙示の意思表示がされているとき
特別受益の持ち戻し免除について明示の意思表示がされていなくても、生前贈与や受贈者の事情によって持ち戻し免除が行われる場合もあります。
これを黙示の意思表示と呼びます。
黙示の意思表示とされるケースは、主に下記の通りです。
- 相続人が家督を相続するケース
- 故人に対し介護など贈与の見返りがあったケース
- 生前贈与を受けた相続人が財産を多く必要とする事情があるケース
例えば、介護をしてくれた娘に対し生前贈与をしていた場合、黙示の意思表示とみなされる可能性があります。
ただし、黙示の意思表示は遺産分割調停や遺言書の無効を求める訴訟などで争われることも多く、裁判所の判断もケースバイケースです。
相続人間の余計なトラブルを避け、希望した人物に確実に財産を遺すためにも遺言書などに特別受益の持ち戻し免除を記載しておくのが良いでしょう。
2-3 婚姻年数が20年を超える配偶者への居住用不動産を贈与したとき
婚姻年数20年を超える夫婦が配偶者に対し居住用不動産を生前贈与した場合、明示の意思表示がなくても特別受益の持ち戻し免除として扱われます。
長期間にわたり婚姻関係を築いてきた夫婦が自宅を贈与する際、贈与者は「配偶者に多くの財産を遺してあげたい」「自分が死亡した後も配偶者が生活に困らないようにしたい」と思っていると考えられるからです。
3章 特別受益の持ち戻しを免除するときの注意点
本記事の2章で解説したように、特別受益の持ち戻し免除をしたいときには遺言書などで特定の生前贈与に対して「特別受益の持ち戻しは免除する」と記載しておくのがおすすめです。
ただし、特別受益の持ち戻し免除をする際には、遺留分や相続トラブルに注意をしておく必要があります。
特別受益の持ち戻し免除をするときに注意すべきことを詳しく解説していきます。
3-1 遺留分の計算に持ち戻し免除は影響しない
遺言書にて特別受益の持ち戻し免除を記載していたとしても、遺留分計算では特別受益の持ち戻し免除は行われません。
遺留分とは、故人の配偶者や子供、両親に認められている遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は特別受益を考慮した上で金額を計算します。
特別受益が発生しているときの遺留分の計算方法を具体例付きで確認してみましょう。
【相続人】
長男A、次男B
【相続財産】
預貯金:1,000万円
【特別受益】<
長男Aには住宅購入費用として1,400万円生前贈与している(相続発生から4年前)
特別受益も遺留分の計算対象に含まれるので、長男Aおよび次男Bの遺留分は「(1,400万円+1,000万円)×1/4=600万円」です。
仮に、相続財産である預貯金1,000万円を長男Aと次男Bで2分の1ずつ分け合った場合、次男Bの相続分は「500万円<600万円(遺留分)」となります。
そのため、次男Bは長男Aに対して100万円分の遺留分侵害額請求を行えます。
このように、遺留分は特別受益も計算対象に含まれるので生前贈与をする際には、遺留分対策まで考慮しなければなりません。
相続法改正により、遺留分計算時の特別受益の持ち戻し期間が10年以内の贈与(生前贈与、遺贈、死因贈与)に限定されました。
一方で、遺産分割協議による特別受益の持ち戻しに関しては、期間が限定されておらず10年以上前の贈与でも特別受益の持ち戻しが行われる場合があります。
遺留分侵害額請求や特別受益の持ち戻しは相続人間で揉めやすいため、トラブルを防ぎたいのであれば生前贈与の段階で相続対策に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
3-2 特別受益の持ち戻し免除は相続トラブルに発展しやすい
特別受益の持ち戻し免除が行われると、特定の相続人が多く財産を受け継ぎ偏った遺産分割が行われる可能性が高いです。
そのため、財産を多く受け継がない相続人は不公平感を持ち、場合によっては相続トラブルに発展する恐れもあるでしょう。
具体的には、下記の相続トラブルに発展する可能性があります。
- 遺産分割協議では意見がまとまらず、調停や審判に発展する
- 遺言無効の訴えが提起され、一部の相続人が特別受益の持ち戻し免除や遺言書の内容そのものを主張する
遺産分割調停や審判、遺言無効の訴えまでトラブルが泥沼化してしまうと、解決したとしても相続人同士の関係性は元通りにならない可能性が高いです。
また、遺産分割審判や遺言無効の訴えは裁判所が最終的な判断をするので、故人の意に反した相続となるケースもゼロではありません。
相続人同士のトラブルを避けたい、自分が希望する相続を実現したいと思ったときには、自分で遺言書作成や生前贈与をするのではなく、相続対策に精通した司法書士や弁護士への相談がおすすめです。
専門家であれば、将来的なトラブルが発生しにくく無効になりにくい遺言書の作成を提案できますし、遺言執行者として相続発生後の手続きのサポートも行えます。
トラブルになりにくく相続人が納得しやすい遺言書や生前贈与の提案も可能ですので、まずは一度、相談してみるのが良いでしょう。
まとめ
特別受益の持ち戻し免除を行えば、過去に行った生前贈与を遺産分割の対象から外し、希望の相続を実現しやすくなります。
相続対策として生前贈与を行う際には、特別受益の持ち戻し免除までセットで対策しておくのが良いでしょう。
特別受益の持ち戻し免除を行う方法はいくつかありますが、最も確実なのが遺言書にて特別受益の持ち戻し免除について記載しておくことです。
ただし、生前贈与や相続に不公平感を持った相続人が遺言書そのものの無効を主張する恐れもあります。
そのため生前贈与や遺言書作成の段階から、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら進めていくのが良いでしょう。
専門家であれば、無効になりにくい遺言書の作成や生前贈与についてご提案可能です。
グリーン司法書士法人では、生前贈与や相続対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
特別受益の持ち戻しとは?
特別受益の持ち戻しとは、特別受益を相続財産に加えて各相続人の遺産分割を計算することです。
▶特別受益の持ち戻しについて詳しくはコチラ特別受益とは?
特別受益とは、ある相続人が亡くなった人(被相続人)から特別に得ていた利益です。
▶特別受益について詳しくはコチラ