- 葬儀費用の支払いに利用できる預貯金の仮払い制度とは何か
- 預貯金の仮払い制度で引き出せる上限額
- 預貯金の仮払い制度を利用する方法・必要書類
- 預貯金の仮払い制度を利用するときの注意点
家族や親族が亡くなると、葬儀費用や入院費用の支払い、遺族の当面の生活費などまとまったお金が必要なシーンがいくつかあります。
遺族名義の預貯金が十分にあれば支払いに困ることもありませんが、故人が大黒柱だった場合、故人名義の資産が多く死亡後に銀行口座を凍結されてしまい困ってしまうこともあるでしょう。
そんなときに活用できるのが、預貯金の仮払い制度です。
預貯金の仮払い制度とは、遺産分割協議や遺産の名義変更が完了する前であっても、一定額まで相続人が故人名義の預貯金を引き出せる制度です。
預貯金の仮払い制度は、預金の使用目的を問われないため、故人の葬儀費用や入院費用の支払い、遺族の当面の生活費に充てられます。
本記事では、葬儀費用の支払いに利用できる預貯金の仮払い制度について詳しく解説していきます。
口座名義人死亡後の銀行口座凍結については、下記の記事で詳しく紹介しているので、あわせてお読みください。
目次
1章 葬儀費用の支払いにも利用できる預貯金の仮払い制度とは
葬儀費用の支払いは、数十万円から100万円以上かかることも多く、支払い方法に悩む遺族は多いです。
遺族が葬儀費用の支払いをするのが難しい場合は、預貯金の仮払い制度を利用しましょう。
預貯金の仮払い制度は、遺産分割協議や遺産の名義変更が完了する前であっても、一定額まで相続人が故人名義の預貯金を引き出せる制度です。
口座名義人が亡くなったことを金融機関が知ると、遺族による引き出しやトラブルを避けるために、金融機関は銀行口座を凍結します。
故人の口座が凍結された場合、遺産分割協議書などの必要書類をそろえ預貯金の解約手続きをしなければ、預貯金を引き出すことができません。
しかし、預貯金の仮払い制度を活用すれば、一定額まで預貯金を引き出し、葬儀費用の支払いや遺族の当面の生活費に充てられます。
2章 預貯金の仮払い制度で引き出せる上限額
預貯金の仮払い制度で引き出せる上限額は、以下のうちいずれか低い金額です。
- 死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1
- 150万円
上記の金額は、金融機関ごとに適用されます。
したがって、故人の口座開設状況によっては、上記の金額よりも引き出せる金額が増える場合があります。
具体例と共に見ていきましょう。
【故人が開設していた銀行・残高】
- A銀行:1,500万円
- B銀行:300万円
【相続人の状況】
配偶者と子供2人
相続人は配偶者と子供2人であり、配偶者の相続分は2分の1、子供はそれぞれ4分の1です。
したがって、A銀行とB銀行でそれぞれの相続人が引き出せる預貯金額は、下記のように計算できます。
配偶者 | 子供 | |
A銀行 | 150万円 | 125万円 |
B銀行 | 50万円 | 25万円 |
A銀行の相続発生時の残高は1,500万円であり、配偶者の法定相続分は2分の1なので「1,500万円×2分の1×3分の1=250万円>150万円」となり、残高にかかわらず150万円までしか引き出すことができません。
仮に、配偶者がA銀行で150万円を超える金額を引き出したい場合は、家庭裁判所への申立てをしなければなりません。
詳しく見ていきましょう。
2-1 上限を超える金額を引き出す場合は家庭裁判所への仮処分申立てが必要
預貯金の仮払い制度は、①死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1もしくは②150万円のいずれか低い金額までであれば、家庭裁判所の許可を得ずに相続人が故人名義の預貯金を引き出せる制度です。
一方で、上記の上限額を超えて故人名義の預貯金を引き出したい場合は、家庭裁判所への仮処分申立てが必要となります。
家庭裁判所へ仮処分を申し立て、預貯金を引き出さなければならない緊急の事情があると判断されれば、上記の金額を超えて預貯金を引き出すことが可能です。
ただし、家庭裁判所に仮処分の申立てをする際には、事前に遺産分割調停の申立てや審判を行っている必要があります。
遺産分割調停の申立てや審判を行うには、書類の収集などで数ヶ月程度かかることも珍しくありません。
そのため、葬儀費用や故人の入院費用の支払いなどに充てるお金を用意する場合は、仮処分を活用するのではなく、預貯金の仮払い制度で引き出せる金額で賄うか、できるだけ早く遺産分割協議を完了させ故人名義の預貯金を解約することが望ましいでしょう。
3章 預貯金の仮払い制度を利用する方法・必要書類
預貯金の仮払い制度を利用する際には、故人が利用していた金融機関で手続きを行います。
必要書類は、下記の通りです。
- 故人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本もしくは法定相続情報一覧図
- 相続人の身分証明書および印鑑証明書
- 申請書(各金融機関が発行している書式)
金融機関によっては、必要書類や手続き方法が若干異なる可能性もあるので、事前に必ず確認しておきましょう。
4章 預貯金の仮払い制度を利用するときの注意点
預貯金の仮払い制度を利用し、故人の遺産を使用してしまうと相続放棄が認められなくなる可能性がある点には注意しなければなりません。
また、引き出した預貯金は遺産であることに変わりはないため、遺産分割時に引き出した金額は調整されます。
預貯金の仮払い制度を利用する際には、下記の点に注意しておきましょう。
- 相続放棄できなくなる恐れがある
- 引き出した預貯金は遺産分割時に調整される
- 故人が遺言を用意していると仮払い制度を利用できない恐れがある
- 葬儀費用や各種支払いの明細を保管しておく
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 相続放棄できなくなる恐れがある
預貯金の仮払い制度を利用して、故人名義の預貯金を引き出し使ってしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
故人の遺産を処分、使用してしまうと「相続する意思がある」とみなされ、相続放棄が認められなくなるからです。
ただし、相続放棄をする場合も遺産から葬儀費用を支払うことは認められています。
したがって、預貯金の仮払い制度を利用し、全額を葬儀費用の支払いに充てた場合は相続放棄が認められる可能性があります。
ただし、相続放棄する際の故人の遺産の取り扱いについては、非常に判断が難しく、専門的な知識が必要です。
したがって、自己判断で預貯金の仮払い制度を利用するのではなく、相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談した上で制度を活用することを強くおすすめします。
4-2 引き出した預貯金は遺産分割時に調整される
預貯金の仮払い制度を利用して引き出したお金は、遺産であることに変わりはないため、遺産分割時に調整されます。
具体例と共に見ていきましょう。
【故人の遺産】
- A銀行:1,500万円
- B銀行:300万円
【相続人の状況】
配偶者と子供2人
上記のケースで、配偶者が当面の生活費として、預貯金の仮払い制度を利用し150万円を引き出したとしましょう。
遺産分割時には、引き出した150万円をすでに配偶者が相続したと考えるため、法定相続割合で遺産分割した場合、下記の遺産を受け取れる計算になります。
- 配偶者:750万円
- 子供2人:それぞれ450万円ずつ
預貯金の仮払い制度を利用し、葬儀費用や故人の入院費を支払い、他の相続人にも分担してほしいと考える場合は、後から精算できるように領収書などを大切に保管しておきましょう。
4-3 故人が遺言を用意していると仮払い制度を利用できない恐れがある
故人が遺言書を用意していた場合は、相続人が預貯金の仮払い制度を利用できない場合があります。
遺言書がある場合、法定相続割合よりも遺言書の内容が優先されるからです。
例えば、相続人が長男および長女であり「長女には預貯金をすべて相続させる」といった内容の遺言書を故人が用意していたとします。
この場合、長男は預貯金の仮払い制度を利用することはできません。
4-4 葬儀費用や各種支払いの明細を保管しておく
預貯金の仮払い制度を利用して、葬儀費用などの支払いをする際には明細を大切に保管しておきましょう。
明細を保管しておかないと、後から他の相続人に「葬儀費用として支払ったか証明できない」と主張され、葬儀費用を分担してもらえなくなる可能性もあるからです。
また、預貯金の仮払い制度を他の相続人に黙って利用すると、遺産の使い込みを疑われるなどトラブルに発展するケースもあります。
トラブルを避けるために、預貯金の仮払い制度を利用することや引き出す金額、お金の使用目的について他の相続人に事前に話しておくと安心です。
まとめ
預貯金の仮払い制度を利用すれば、ある程度まとまった金額を故人名義の銀行口座から引き出せます。
葬儀費用や故人の入院費用の支払いや遺族の当面の生活費に充てることもできるでしょう。
一方で、預貯金の仮払い制度を利用すると相続放棄できなくなる恐れがあることや他の相続人とトラブルになる恐れがあることは理解しておきましょう。
特に、相続放棄を希望している際の預貯金の仮払い制度の利用に関する取扱いは非常に難しいため、自己判断で行うのではなく相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
また、預貯金の仮払い制度には上限額が設定されているため、仮払い制度の利用では必要額を用意できないと感じる場合は、遺産分割協議を早く完了させ、故人の預貯金の解約手続きをすませましょう。
相続手続きをスムーズに行いたい場合は、相続に詳しい司法書士や行政書士に依頼することもご検討ください。
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