葬儀費用の支払いは喪主が支払うのが慣例ですが、法律などで決められているわけではないので誰が支払っても問題はありません。
故人の配偶者が喪主になったものの年金暮らしで収入が少ない場合は、長男が葬儀費用を負担するケースもあります。
また、葬儀費用は1人で支払う必要はなく、相続人で分担して支払う形でも問題ありません。
葬儀費用は数十万円から100万円近くかかることも多いので、支払い方法や負担割合についてあらかじめ話し合っておくとトラブルを回避しやすいです。
本記事では、葬儀費用は誰が払うのか、費用相場や費用を抑える方法を解説します。
なお、家族や親族が亡くなると葬儀や法要以外にも様々な手続きが必要です。
家族や親族が亡くなったときの手続きの流れは、下記の記事でも解説しているのでご参考にしてください。
1章 葬儀費用は誰が払う?
葬儀費用を負担する人物は、法律などで決められているわけではなく誰が払っても問題ありません。
ただし、一般的には喪主が葬儀費用を負担するケースが多いです。
葬儀費用を支払う人物や支払い方法は、主に下記の通りです。
- 葬儀費用は喪主が払うのが慣例である
- 施主が支払うケースもある
- 相続人で分担しても問題ない
- 遺産から支払うこともできる
それぞれ詳しくみていきましょう。
1-1 葬儀費用は喪主が払うのが慣例である
葬儀費用は喪主が支払うのが慣例となっています。
ただし、あくまでも慣例であり法律などで決められているわけではありません。
なお、喪主になる人物は下記のような優先順位で決まることが多いです。
- 配偶者
- 長男
- 次男以降の子(男)
- 長女
- 次女以降の子(女)
- 故人の両親
- 故人の兄弟
香典は故人の供養として支払うものですが、相続財産ではなく喪主への贈与として扱われます。
そのため、香典を遺産分割の対象に含める必要はありませんし、相続税の計算対象に含める必要もありません。
同時に、香典返しを葬儀費用として相続税の債務控除に含めることもできないのでご注意ください。
1-2 施主が支払うケースもある
喪主とは別に施主を立てた場合は、葬儀費用を施主が負担する場合もあります。
施主とは、葬儀において喪主とほとんど同じ役割を果たす人物です。
葬儀を行うにあたり喪主が1人ですべての役割をこなすことが難しい場合は、施主を用意することが多いです。
例えば、故人の配偶者が喪主になったものの年金暮らしで葬儀費用を負担するのが難しい場合は、長男が施主になり葬儀費用を支払うケースもあるでしょう。
1-3 相続人で分担しても問題ない
葬儀費用は誰が支払っても問題ないので、喪主1人で支払うのではなく相続人で分担することも可能です。
- 相続人が葬儀費用を等分する
- 相続人の年齢や収入に応じて分担割合を決定する
相続人ごとに分担割合を設定するのであれば、後々のトラブルを防ぐために相続人全員が納得できる割合を設定しましょう。
1-4 遺産から支払うこともできる
相続人全員が合意すれば、葬儀費用を遺産から支払うことも可能です。
ただし、葬儀費用を遺産から払うときには、故人名義の銀行口座が凍結される可能性に注意しなければなりません。
金融機関が口座名義人の死亡を確認すると、銀行口座を凍結し預貯金の入出金や口座引き落としが一切できなくなってしまいます。
口座凍結を解除するには、相続人全員で故人の預貯金の解約手続きをしなければなりません。
他には、預貯金の仮払い制度を利用すれば「相続開始日の預金残高×3分の1×法定相続分」までを上限に故人の預貯金を引き出し可能です。
なお、金融機関ごとの上限額は150万円と決められているので150万円を超える引き出しをする際には複数の金融機関で手続きをする必要があります。
2章 葬儀費用を負担する人を決める方法
葬儀費用は数十万円以上かかることも多いため、負担する人をあらかじめ決めておくと、家族や親族間のトラブルを減らせます。
葬儀費用を負担する人物の決め方は、主に下記の通りです。
- 遺言書の内容を確認する
- 遺言代用信託の内容を確認する
- 故人が生命保険に加入していたか確認する
- 故人が葬儀社と生前契約していたか確認する️
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 遺言書の内容を確認する
故人が元気なうちに遺言書を作成してもらい、葬儀費用を負担する人物を記載しておいてもらえば、葬儀費用の支払いで揉めにくくなります。
ただし、遺言書は効力が発生する内容が法律で決められており、葬儀費用の支払いに関しては効力を持たないとされています。
そのため、遺言書にて葬儀費用について書かれていたとしても、法的には相続人が従う義務はありません。
法的に効力を持たない内容について相続人同士で意見が割れることが予想される場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に遺言書の作成や内容の相談をすることも検討しましょう。
遺言書を作成する際には、あわせて遺言執行者も選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておけば、単独で遺産の名義変更手続きを行えますし、相続人に遺言書の内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人がなることもできますが、遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を選任すれば、作成時の意図や遺志も伝えてもらえます。
2-2 遺言代用信託の内容を確認する
遺言代用信託とは、契約者が自分の財産を信託銀行などに預け、本人が死亡した後に信託銀行などが故人の配偶者や子供に払い出す制度です。
遺言代用信託によって預けていた財産は相続人全員で遺産分割方法を決定することなく、あらかじめ指定した人物に受け継げます。
そのため、遺言代用信託で配偶者や長男に財産を遺すように指定してもらえば、葬儀費用の支払いに充てることもできるでしょう。
2-3 故人が生命保険に加入していたか確認する
家族や親族が亡くなった際には、故人が生命保険に加入していたかも確認しておきましょう。
生命保険金は受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割の必要がなく葬儀費用にもしやすいからです。
また、生命保険金は故人の死亡を確認できた段階で保険会社から支払ってもらえるため、比較的早くまとまった現金を受け取り可能です。
そのため、葬儀費用としてまとまった現金を用意しておくのにも、生命保険は有効といえるでしょう。
2-4 故人が葬儀社と生前契約していたか確認する
家族や親族が亡くなった場合は、故人が葬儀社と生前契約をしていなかったか確認しておきましょう。
終活をする人も増えており、自分が亡くなる前に葬儀社の決定やプラン選び、費用の払い込みをすませている人も中にはいるからです。
故人が葬儀社と生前契約をして費用の支払いもすんでいる場合は、相続人や喪主が費用を負担する必要はなく、あらかじめ故人が決めていた形の葬儀を執り行うだけですみます。
また近年では葬儀保険に加入している人もいるので、そちらについても確認しておくと葬儀費用に関する不安を解消できる可能性があります。
3章 葬儀費用の支払いでトラブルに発展するケース
葬儀費用は数十万から100万円を超えることも多いため、支払い方法によってはトラブルになる可能性もあります。
葬儀費用の支払いで起きやすいトラブルは、主に下記の通りです。
- 喪主が勝手に立替払いをして相続人に請求する
- 支払いに同意した親族が後から立替分の支払いを拒否する
- 葬儀費用を支払う人が決まらず揉めてしまう
- 葬儀費用の支払いから相続トラブルに発展してしまう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 喪主が勝手に立替払いをして相続人に請求する
葬儀費用の支払いでトラブルになりやすいのは、喪主が費用を立替払いして後から相続人に請求するケースです。
喪主以外の相続人からしたら「自ら喪主になって葬儀について決めたのに後から費用を支払えと言われるのは納得できない」と感じてしまうでしょう。
加えて、葬儀費用は数十万円から100万円を超えることも珍しくないため、立替分の金額が大きくなり喪主と相続人のトラブルが泥沼化しやすいです。
なお、喪主が勝手に葬儀費用を立て替えて支払った場合、葬儀費用は喪主が支払うといった判例が過去に出ています。
そのため、相続人が立替を拒否した場合、喪主が費用を回収することは難しいでしょう。
3-2 支払いに同意した親族が後から立替分の支払いを拒否する
兄弟同士で葬儀費用を折半するなどと決めていたものの後になって相続人の1人が葬儀費用の支払いを拒否するケースも珍しくありません。
特に、葬儀費用の分担を口頭で決めていた場合や決めてから時間が経って状況が変わっている場合は、費用の支払いを拒否する相続人も増えるでしょう。
先ほど解説したように、喪主が葬儀費用の支払いを拒否する相続人に無理やり立替分を支払ってもらうことは難しいですし、親族間の関係も悪化することが予測されます。
そのため、葬儀費用の支払いを分担するのであれば文書にしておく、状況が変わったタイミングで再度、費用の分担や葬儀の規模について相談することが大切です。
3-3 葬儀費用を支払う人が決まらず揉めてしまう
故人の葬儀費用の支払いについて、相続人全員で話し合いをしたものの納得のいく結論が出ず揉めてしまうケースもあります。
葬儀費用は決して少なくない金額のため、下記のように意見が割れてしまう場合もあるでしょう。
- 葬儀費用は喪主が支払うべきである
- 1番世話になった子供が支払うべきである
- 遺産から支払うのがよい
葬儀費用の支払いについて揉めてしまうと、喪主を決定できず葬儀の手配や開催が遅れてしまう可能性もあります。
3-4 葬儀費用の支払いから相続トラブルに発展してしまう
遺産から葬儀費用を支払ったことをきっかけに、相続トラブルにまで発展してしまうケースも珍しくありません。
遺産から葬儀費用を支払うことには合意したものの、後から喪主以外の相続人が「葬儀の規模が大きすぎた」「もっと安く葬儀を行いたかった」などと主張するケースです。
喪主以外の相続人からしたら、葬儀の形式や規模を決めた喪主に費用の一部を負担してほしいと考えてしまうこともあるでしょう。
一方で喪主からしたら「合意したのに後から文句を言わないでほしい」と感じるはずです。
葬儀費用をきっかけに相続トラブルまで発展してしまうと、問題を解決したとしても親族間にわだかまりが生まれてしまい、これまでの関係に戻れない可能性が高いです。
このような事態を防ぐためにも、相続トラブルが泥沼化しないうちに相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するなども検討しておきましょう。
4章 葬儀費用の相場
葬儀費用を負担する人物や負担割合を決定する際には、葬儀費用の相場を把握しておくことが大切です。
相場を把握しておかないと「こんなに高いなんて知らなかった」「こんなに高いなら支払えない」と後からトラブルに発展する恐れがあるからです。
葬儀費用の相場は、葬儀の規模によって下記のように変わります。
火葬・葬儀の種類 | 費用相場 |
火葬式(直葬) | 10~20万円 |
家族葬 | 70~100万円 |
一般葬 | 150~200万円 |
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 直葬(火葬式)の相場
通夜や告別式などを行わず火葬のみを行うのであれば、費用は10~20万円程度かかることが多いです。
火葬式(直葬)の場合、費用は①火葬場に支払う費用と②葬儀社へ支払う費用に対してかかります。
このうち、火葬場に支払う費用は利用した火葬場が公営か民営かで大きく変わってきます。
葬儀社へ支払う費用についても、契約したプラン内容やオプションの有無によって費用が変わってきます。
そのため、通夜や告別式は不要と考えたが、故人のためを思ってオプションを付けたら結果として高くなってしまったとなる恐れもあります。
費用を抑えるために直葬を検討しているのであれば、プランの設定やオプションの追加は費用を確認してから行いましょう。
4-2 家族葬の相場
限られた人数だけで行われる「家族葬」にかかる費用相場は70~100万円程度です。
家族葬の場合、参列者も親族や親しい知人が多く喪主の心理的な負担も少なくすみます。
一方で家族葬は参列者が少なくなる傾向にあるため、香典が少なくなる点に注意しておきましょう。
4-3 一般葬の相場
家族や親族だけでなく、故人の友人知人や職場関係の人にも参列してもらう「一般葬」にかかる費用相場は150~200万円程度です。
一般葬では通夜と告別式の2日に渡って行うため、寺院費用や会食費用も2日分かかります。
一般葬を行う際には、費用に関して下記の点に注意が必要です。
- 想定以上の人数が参加すると予定より費用がかさんでしまう
- 葬儀の規模が大きくなったことにより喪主の負担が増える
一般葬を行うのであればどれくらいの規模で行うのか、参列者の人数の予測を立てるなどの工夫が必要です。
5章 葬儀費用を抑える方法
家族や親族で火葬費用を工面するのが難しい場合、火葬費用や葬儀費用を少しでも抑えるように工夫することが大切です。
具体的には、下記の4つの方法を検討しましょう。
- 公営の火葬場を利用する
- 葬儀の規模を小さくする
- 必要ないサービスやオプションは断る
- 複数の葬儀社で相見積もりを出してもらう
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 公営の火葬場を利用する
火葬場には公営と民営があり、葬儀費用を抑えるのであれば公営を選ぶのが良いでしょう。
ただし、公営の火葬場はすべての人が利用できるのではなく、故人や喪主の居住地などによって利用料金や利用可否が変わってきます。
公営の火葬場を利用したいときには、火葬場や提携先の葬儀社に利用条件や費用を問い合わせておくと安心です。
5-2 葬儀の規模を小さくする
葬儀費用を抑えるのであれば家族葬などを行い、葬儀の規模を小さくするようにしましょう。
参列者が増え葬儀の規模が大きくなれば、それだけ費用がかかってしまうからです。
またシンプルな内容の葬儀にすることで、喪主の負担も軽減できます。
5-3 必要ないサービスやオプションは断る
葬儀社がすすめてくるサービスやオプションのうち、必要ないと感じるものは断ってしまいましょう。
葬儀や火葬には、複数のランクやオプションが用意されていることが多いですが、必要がないものを断ればその分だけ火葬費用や葬儀費用を節約可能です。
葬儀社の中にはオプション込みで見積書を作成している場合もあるので、見積書の内容を確認して費用の内訳について質問してみるのも大切です。
質問した結果、故人や自分たちに不要なサービスであると判断した場合は抜いてもらえば費用を抑えられます。
5-4 複数の葬儀社で相見積もりを出してもらう
葬儀の手配をする際には、複数の葬儀社で相見積もりを出してもらいましょう。
相見積もりを出してもらえば、最も費用の安い葬儀社を選ぶこともできますし、同価格帯でもより自分たちの希望に合う葬儀社を選べる可能性があるからです。
まとめ
葬儀費用を負担する人物は法律によって、決められているわけではありません。
一般的には喪主が支払うことが慣例となっていますが、施主が支払っても相続人で分担して支払っても問題ありません。
葬儀費用を負担する人物が決まらないと喪主を設定できず、葬儀を行うことができなくなってしまいます。
そのため、可能であれば、元気なうちから葬儀費用の支払い方法や葬儀の規模について、家族や親族間で話し合っておくのが良いでしょう。
葬儀費用は遺産から支払うこともできますが、相続人同士でトラブルになってしまう可能性もゼロではありません。
葬儀費用の支払い方法や遺産分割方法でトラブルが起きるのを避けたいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談しながら進めることも検討しましょう。
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