遺産分割調停とは、相続人同士の話し合いでの解決が見込めない場合に、家庭裁判所で第三者である調停委員を交えて話し合いによる合意を目指す手続きです。
遺産分割調停はあくまでも話し合いであり、調停で解決できなければ遺産分割審判へと進み裁判官が遺産分配方法を決定します。
遺産分割審判を行う前には遺産分割調停を行うことが一般的です。
遺産分割調停の申立てに必要な書類は多く、申立て後も調停委員への事情説明などやるべきことがたくさんあります。
相続トラブルが発生してしまい「何から始めれば良いかわからない」とお悩みの人向けに、本記事では遺産分割調停とは何か、申立て方法や流れについてわかりやすく解説します。
遺産分割に納得できないときの対処法については、下記の記事でも解説しているのであわせてご参考にしてください。
目次
1章 遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
自分たちで遺産分割協議を行い遺産相続の方法について話し合っても合意できず「遺産分割協議」がまとまらないときに利用します。
遺産分割調停はあくまで話し合いで解決する方法であり、裁判と異なり勝ち負けはありません。
そのため、どちらかの意見が100%通るものではなく、お互いが譲り合うことによって解決を目指します。
遺産分割調停の概要は、下記の通りです。
当事者 | すべての相続人が参加しなければならない |
管轄 | 相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立費用 |
|
遺産分割調停が成立すると、裁判所から「調停調書」が送られてくるので、それを使って不動産の相続登記などの手続を進められます。
1-1 遺産分割調停と遺産分割審判の違い
遺産分割調停は話し合いであり、内容がまとまらない場合は不成立になってしまいます。
遺産分割調停が不成立になった場合に行われるのが「遺産分割審判」です。
遺産分割審判では、裁判官が遺産分割方法を決定し、原則として法定相続分に従うことが多いです。
そのため、当事者が誰も望んでいなくても不動産競売命令が下ってしまう事例などもあり、柔軟な解決は望めません。
これらの協議⇒調停⇒審判の流れをフローチャートにすると以下のとおりです。
調停で解決できればすべての当事者が納得できる解決方法を実現できますが、審判になるとそうはいきませんし、相手の言い分が全面的に通ってしまう可能性もあります。
遺産分割はできれば協議か調停までの段階で解決すべきと言えるでしょう。
2章 遺産分割調停を行うメリット・デメリット
遺産分割調停では調停委員が間に入り話し合いを行えるので、冷静な話し合いを行えるなどのメリットがあります。
一方で、遺産分割調停は1ヶ月に1回程度のペースで話し合いが行われるため、解決までに時間がかかるなどのデメリットがあります。
遺産分割調停を行うメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
2-1 遺産分割調停を行うメリット
遺産分割調停では調停委員が間に入るため、当事者同士で顔を合わせて話し合う必要がありません。
そのため、下記のメリットがあります。
- 当事者間での話し合いよりも冷静な話し合いができる
- 調停委員や裁判官が中立的な解決案を提案してくれる
遺産分割調停では、調停委員や裁判官が公正な立場で解決案を提案してくれます。
第三者からの公平な意見は相手方からの意見より受け入れやすいので、相続トラブルを解決しやすくなります。
2-2 遺産分割調停を行うデメリット
遺産分割調停は4~5回ほど行われることが多く、調停は1ヶ月に1回程度のペースで行われます。
そのため、解決までに時間がかかるのがデメリットといえるでしょう。
他にも、遺産分割調停を行うには下記のデメリットがあります。
- 解決までに時間がかかる
- 申立てに手間がかかる
- 申立て時に費用がかかる
- 希望通りの解決案を提案してもらえるとは限らない
遺産分割調停の申立てには様々な書類が必要になりますし、書類の作成、収集費用や申立て費用などもかかります。
弁護士へ依頼した場合や司法書士に書類作成を依頼した場合は、報酬もかかってしまいます。
また、裁判官や調停委員は相続人全員から意見を聞き、全員が納得する解決案を提案します。
そのため、自分の主張をすべて認めてくれるわけではなく、自分の希望通りの解決案を提案してくれるとは限らない点に注意しなければなりません。
そのため、遺産分割調停を行う際には申立ての手間や費用をかけても、納得のいく解決とならない可能性がある点に注意しておく必要があります。
申立ての手間や費用を抑えたいのであれば、相続人同士で話し合う遺産分割協議の段階で司法書士や弁護士に依頼しし、公平な遺産分割協議案を提案してもらうのも良いでしょう。
3章 遺産分割調停手続きの概要と流れ
遺産分割調停を行うには、家庭裁判所への申立手続きが必要であり、下記の流れで進めていきます。
- 家庭裁判所へ申し立てる
- 調停期日を迎える
- 調停成立となる
- 調停調書が送付される
- 調停内容をもとに相続手続きを進める
なお、遺産分割調停が不成立となった場合は、遺産分割審判へと手続きが進みます。
遺産分割調停の解決には時間がかかり、半年から1年程度かかることが多いです。
ただし、中には1年以上かかるケースも3割以上存在し、中には2年、3年かかるケースもあります。
STEP① 家庭裁判所へ申し立てる
まずは必要書類を揃えて相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で調停の申立てを行います。
相手が複数いる場合には、誰か1人の住所地を管轄する家庭裁判所でかまいません。
すべての相続人が参加しなければならないので、相手方にしない人とは共同で申立人となる必要があります。
必要書類および収集方法は、下記の通りです。
必要書類 | 概要・収集方法 |
申立書 |
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遺産目録 |
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当事者目録 |
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相続関係説明図 |
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亡くなった人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本 |
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相続人全員の現在の戸籍謄本 (発行後3ヶ月以内のもの) | 本籍地のある市区町村役場で取得できる |
亡くなったの子や代襲者で死亡している人がいれば、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本 |
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亡くなった人の住民票除票または戸籍附票 | 住民票登録されている市区町村役場で取得できる |
相続人全員および亡くなった人の住民票または戸籍附票 (マイナンバー記載のないもの) | 住民票登録されている市区町村役場で取得できる |
遺産に関する資料 (不動産全部事項証明書等、預貯金の残高証明書等) |
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なお、戸籍謄本や不動産全部事項証明書など必要書類の取得が手間になると感じる方は、司法書士に依頼することも可能です。
ただし、司法書士は遺産分割調停そのものの代理は行えないのでご注意ください。
STEP② 調停期日を迎える
申立をすると家庭裁判所から当事者宛に呼出状が届き、第1回調停が開催されます。
調停期日に裁判所に出頭し、調停委員に事情説明やこちらの主張を伝えます。
当事者の控室は分かれており順番に調停室へ入るので、当事者同士が顔を合わせることは原則なく調停委員を介して話し合いを進めていくことになります。
通常1回の期日では話し合いがつかないので、2回目、3回目と続行期日を入れていきます。
1ヶ月に1回くらいのペースで話し合いを継続します。
STEP③ 調停成立となる
相続人が全員合意できたら調停が成立し、調停調書が作成されます。
STEP④ 調停調書が送付される
調停が成立すると、数日後に裁判所から「調停調書」が送られてきます。
調停調書は合意内容が履行されないときに強制執行できるなど、法的効力があります。
STEP⑤ 調停内容をもとに相続手続きを進める
調停調書が送られてきたら、それを使って不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどの相続手続きを進めます。
遺産分割調停をしてもどうしても相続人の意見が合わずに合意できない場合、調停は不成立になります。
その場合、手続きは自動的に「審判」に移るため、当事者があらためて遺産分割審判の申立てをする必要はありません。
審判になると、裁判所が遺産分割方法を指定して「審判」を下し、家庭裁判所から当事者の自宅宛に「審判書」が送られてきます。
審判書が届いたら別途「審判確定証明書」を申請し、この2つの書類をもって相続登記や預貯金払い戻しなどの相続手続きを行います。
4章 遺産分割調停を有利に進める7つのコツ
遺産分割調停で自分が希望する内容で解決するには、話し合いの段階で適切な対応を心がける必要があります。
具体的には、下記の7つを意識して調停に臨みましょう。
- 調停期日の無断欠席や遅刻を避ける
- お互いの立場を尊重し感情的にならず対応する
- 法律の考え方や知識を理解しておく
- 自分の意見をはっきりと伝える
- 調停委員や裁判官の心証を良くする
- 隠し事をしない
- 譲れない内容と譲れる内容をはっきりさせておく
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 調停期日の無断欠席や遅刻を避ける
調停期日には当事者全員の参加が必要であり、不参加の人物がいると調停が不成立になり遺産分割審判へと進んでしまいます。
また実際に科せられる例は少ないものの「調停に正当な理由がなく出頭しないときは、家庭裁判所は5万円以下の過料に処する」という罰則規定もあるのでご注意ください。
調停期日に事情があり参加できない場合は、下記の方法で自分の意見を主張できます。
- 弁護士に出席してもらう
- 電話会議システムを活用する
4-2 お互いの立場を尊重し感情的にならず対応する
調停はあくまで話し合いの手続きであり、お互いが自分の言い分のみを精一杯主張し続けていては解決できません。
相手のことも考えて「妥協」する姿勢も必要です。
感情的になるとどうしても適切な判断ができなくなるので、「どのような解決方法が全員にとってベストか」という視点を持って冷静に対応していきましょう。
4-3 法律の考え方や知識を理解しておく
調停は話し合いによる解決なので当事者が納得すればどのような解決も可能ですが、基本的には「法律の考えに沿って解決すべき」です。
そのため、ベースは「法定相続分に従った解決方法」を目指すことになるでしょう。
無茶な主張をしても通らない可能性が高いので、まずは法律の正しい考え方を理解しそれに沿った主張をしていきましょう。
4-4 自分の意見をはっきりと伝える
遺産分割調停は調停委員を介した話し合いであり、自分の意見をはっきりと主張しなければ調停委員にも相手方にも伝わりません。
- 遺産をどのように分割したいのか
- どうしてそのような分割方法を希望しているのか
- 上記を示す客観的な証拠
上記を用意しておけば、調停委員も納得させられるはずです。
4-5 調停委員や裁判官の心証を良くする
調停委員は決定権を持つわけではありませんが、相続人同士の間に入って話し合いを進める人ですから話の方向性に影響を持ちます。
そのため、遺産分割調停では調停委員の心証を良くし味方につけましょう。
- マナーを守って礼儀正しく振る舞う
- 服装をきちんとする
- わかりやすく話しをする
- 無茶を言わない
- 大声を出さない
上記の基本的なことをしっかりと守ることが大切です。
4-6 隠し事をしない
自分にとって不利な事実や遺産に関することを隠したまま話を進めると、後でバレたときに調停委員の心証が悪くなってしまいます。
相手方の信用もなくすので、結果として遺産分割調停が上手くいく確率も下がってしまうので絶対にやめましょう。
4-7 譲れない内容と譲れる内容をはっきりさせておく
遺産分割調停では自分の希望が100%通る可能性は低く、相続人同士で譲り合い全員が納得する方法を見つけます。
そのため、主張をすべて通そうとするのではなく譲れるものと譲れないものの基準をはっきりさせ、優先順位をつけておくことも大切です。
5章 遺産分割調停を依頼できる専門家
遺産分割調停の準備は自分で行うこともできますが、司法書士や弁護士などの専門家に依頼も可能です。
専門家の種類ごとに対応できる内容が下記のように決まっています。
専門家の種類 | 対応内容 |
司法書士 |
|
弁護士 |
|
司法書士が対応できるのは、必要書類の収集や作成が中心であり、相続人の代理人として調停に参加することはできません。
一方で、弁護士は司法書士が行えるサポート内容に加え、代理人として遺産分割調停に出席し主張や調停委員への説得を行えます。
遺産分割調停が長引きそうな場合や不成立になり遺産分割審判へと進みそうな場合は、弁護士に依頼するのが良いでしょう。
一方で、あくまでも遺産分割調停の申し立てサポートのみを希望する場合は司法書士に依頼した方が費用を節約可能です。
弁護士の方が遺産分割調停のサポート範囲は広いものの費用が安く抑えられるのは司法書士です。
弁護士の場合は着手金20~30万円と解決時に報酬金が追加でかかります。
司法書士の場合は書類収集だけであれば10~20万円程度ですむことが多いです。
まとめ
自分たちで話し合っても遺産相続方法を決められないなら、最終的に遺産分割調停をするしかありません。自分で遺産分割調停の申し立てをするのは非常に大変ですし、調停中も自分の主張をうまくできず不利になる可能性があります。
そのため、可能であれば遺産分割調停の申し立てや調停中のサポートを専門家に依頼した方が良いでしょう。
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