- 親の預金の使い込みは罪に問えるのかがわかる
- 親の預金の使い込みを証明しにくい理由がわかる
- 親の預金の使い込みを調べる方法がわかる
親と同居している親族や通院や生活の面倒を見ていた親族が、預金を使い込んでしまうことはよくある話です。
また、親が亡くなってから銀行口座が凍結されるまでに預金を引き出し一部の相続人が使ってしまうケースもあるでしょう。
親の預金は相続財産の一部であり、相続人が勝手に使用することはできません。
葬儀費用や入院費用の支払いなど、何らかの理由で相続人が親名義の預金を引き出す際には、領収書などを用意しておきましょう。
本記事では、親の預金の使い込みは罪に問われるのか、使い込みを調査する方法はあるのか解説します。
相続発生後に故人が所有していた銀行口座がどうなるかは、下記の記事で詳しく解説していきます。
目次
1章 親の預金の使い込みは罪に問えない
第三者の預金を使い込むと、窃盗罪や横領罪などに問われます。
ただし、当事者が親子などの親族の場合には、刑事罰には問われないと法律によって決まっています。
そのため、親の預金を勝手に使い込んでいたとしても、罪に問われることはありません。
1-1 民事上の損害賠償請求は行える
親の預金を使い込んでいたとしても刑事罰に問えない一方で、民事上の損害賠償請求は親子間や親族間でも行えます。
そのため、子供の1人が親の預金を使い込んでいた場合には、親や他の子供が損害賠償請求を行えます。
2章 親の預金の使い込みを証明しにくい理由
親の預金の使い込みは発覚すれば、当事者である親や他の相続人が損害賠償請求を行えます。
一方で、子供などの親族が親の預金を使い込んでいたとしても、証明が難しく損害賠償請求を行いにくいのが現状です。
親の預金の使い込みを証明しにくい理由は、主に下記の通りです。
- そもそも発覚しにくい
- 使い込みが疑われても調査や証明が難しい
- 使い込まれた金額がわかりにくい
- 使い込んだ子供が事実を認めない
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 そもそも発覚しにくい
親の預金の使い込みはそもそも発覚しにくく、問題が表に出にくいです。
- 親が認知症で判断能力を失っていれば預金の引き出しに気付かない
- 親が子供に預金の引き出しや支払いを依頼していた場合、多めに引き出されていたとしても気付きにくい
上記の理由により、使い込み自体が問題とならないケースも多いです。
当事者である親が使い込みに気付かないと子供も気付きにくいですし、相続後も発見されにくくなります。
2-2 使い込みが疑われても調査や証明が難しい
預金の持ち主である親もしくは相続人である子供が預金の使い込みに気付いたとしても、証明する証拠を集めるのは時間がかかります。
親の預金の使い込みの証拠には、下記の書類などがあります。
- 銀行が発行する取引履歴
- 親が通っていた病院のカルテや診断書、介護記録
- 親の通院や各種支払いにかかった金額
上記のうち、医療関係の記録は病院での保管期間が決まっているので、古すぎる記録は取得できない恐れもあります。
2-3 使い込まれた金額がわかりにくい
親の預金が使い込まれた証拠は見つかったものの使い込まれた金額がわからないケースも多いです。
- 使い込みをしていた子供が親と同居していた場合
- 日常的に生活のサポートをしていて親の預金を引き出していた場合
上記のケースでは、特に使い込みの特定が難しいでしょう。
2-4 使い込んだ子供が事実を認めない
親の預金が使い込まれていた事実、金額の証拠が揃ったとしても、使い込みをしていた子供が事実を認めないケースもあります。
- 親から頼まれて預金を引き出した
- 親から手間賃として受け取っていた
上記のように主張された場合、親がすでに亡くなっている、認知症で判断能力を失っている場合には事実関係を確認しにくいでしょう。
親の預金の使い込みに関して、損害賠償請求をする裁判をおこしたとしても、相手の主張を覆す証拠がない限り勝てる可能性は低いです。
3章 親の預金の使い込みを調査する方法
親の預金の使い込みが疑われるケースでは、下記の流れで調査を行いましょう。
- 預金が引き出された時期・金額を調査する
- 預金が引き出されたときの親の判断能力を調査する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 預金が引き出された時期・金額を調査する
親と同居していた子供が親名義の預金を引き出したとしても、預金の使い込みとは限りません。
親の生活費を引き出している、親の支払いのために預金をおろしている可能性もあるからです。
使い込みが疑われるときには、預金が引き出された時期や金額を調査して本当に使い込みかどうか判断しましょう。
- 頻繁に預金が引き出されている
- おろされた金額が高額である
- 預金引き出しの時期が親が亡くなる直前もしくは死亡後
上記のケースでは、親が親族に預金の引き出しを依頼している可能性は低く、親族が親の預金を使い込んでいる恐れがあります。
一方で、引き出している金額が親の生活レベルに合う程度の少額である場合や死亡直前、後の引き出しでも葬儀費用や医療費など明細がある場合は使い込みの可能性は低いです。
3-2 預金が引き出されたときの親の判断能力を調査する
親族などが親の預金を頻繁に引き出していたとしても、親が了承しているのであれば使い込みとは言えません。
そのため、親以外の引き出しが発覚した際には、引き出し時点の親の判断能力の確認が必要です。
- 引き出し時点で親の判断能力が低下している
- 引き出し時点でら親が死亡している
上記のケースでは、親の意思で預金が引き出されたのではなく、使い込みだったと主張できます。
ただし、損害賠償請求を裁判の場で行うのであれば、裁判官が納得できる診断書やカルテなどの証拠が必要です。
4章 死亡後に親の預金の使い込みが発覚したときの対処法
口座名義人である親が亡くなった後に預金の使い込みがわかった場合には、まずは当事者間の話し合いなどで解決を目指しましょう。
解決が難しい場合には、下記の流れで使い込み分の請求を行いましょう。
- 当事者間で話し合う
- 遺産分割調停を行う
- 相続人が損害賠償請求・不当利得返還請求を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 当事者間で話し合う
親の預金の使い込みが発覚したとしても、いきなり裁判などで争うのではなく、まずは当事者間で話し合いましょう。
本人から事情を聞き、勝手に引き出し分を返還してもらえば大事にせず解決できます。
4-2 遺産分割調停を行う
親の預金を使い込んだ本人が事実を認めない場合や返還に応じてくれない場合、遺産分割調停を行うことも検討しましょう。
遺産分割調停とは、相続人同士の話し合いでの解決が見込めない場合に、家庭裁判所で第三者である調停委員を交えて話し合いによる合意を目指す手続きです。
当事者同士による話し合いで揉めてしまう場合、遺産分割調停で第三者を交えながら話し合い解決を図るのも良いでしょう。
ただし、遺産分割調停はあくまで話し合いであり、不成立に終わる可能性もあります。
遺産分割調停の申し立て手続きの概要と必要書類は、下記の通りです。
手続きする人 |
|
手続き先 | 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続き費用 |
|
必要書類 |
など |
4-3 相続人が損害賠償請求・不当利得返還請求を行う
当事者間の話し合いや遺産分割調停で解決できない場合には、裁判所にて親の預金の使い込みによる損害賠償請求や不当利得返還請求を起こすのも選択肢のひとつです。
遺産分割調停とは異なり、損害賠償請求や不当利得返還請求を行う際には地方裁判所に申し立てを行います。
なお、損害賠償請求や不当利得返還請求は下記の時効が設定されています。
損害賠償請求 | 損害および加害者を知ってから3年 |
不当利得返還請求 |
|
相続人同士で親の預金の使い込みについてトラブルになり、裁判の場で争うことになった場合、自力での解決は難しいでしょう。
相続トラブルに詳しい弁護士に相談し、調査や交渉を行ってもらうのがおすすめです。
裁判までトラブルが泥沼化してしまうと、解決までに時間とお金がかかります。
使い込まれた預金を返還してもらったとしても、相続人同士の間に遺恨が残る可能性も高いです。
このような事態を防ぐためには、親が元気なうちから預金の使い込みを防ぐ対策をしておく必要があります。
次の章では、生前から親の預金の使い込みを防ぐ方法について詳しく解説します。
5章 生前のうちに親の預金の使い込みを防ぐ方法
本記事で解説したように、親の預金の使い込みは証明もしにくく解決も難しいのが現実です。
一度、親の預金の使い込みが起きる、もしくは親族同士で疑うようになると、その後の家族や親族の関係性も悪くなるでしょう。
親の預金の使い込みを防ぐためには、親が元気なうちから認知症対策をしておくのが確実です。
具体的には、下記の3つの方法で親の預金の使い込みを防止しましょう。
- 家族信託
- 任意後見制度
- 成年後見制度
それぞれ詳しく解説していきます。
5-1 家族信託
家族信託とは、信頼する家族に自分の財産の運用や管理、処分を任せる制度です。
受託者にあたる人物はあらかじめ定めておいた信託契約書の内容にもとづいて委託者の財産管理を行います。
家族信託は、後述する任意後見制度や成年後見制度よりも柔軟な財産管理を行える点がメリットです。
- 預金だけでなく不動産の管理も任せたい場合
- 認知症対策をしておきたい場合
上記の場合に特におすすめの制度といえるでしょう。
5-2 任意後見制度
任意後見制度とは、今後判断能力が低下する恐れがある人が 、健康なうちに自ら後見人をあらかじめ指名し契約を結んでおく制度です。
認知症などで判断能力が低下し財産管理などが難しくなってきた段階で、任意後見人に財産管理を任せられます。
任意後見制度も家族信託や成年後見制度同様に認知症対策として有効です。
任意後見制度は成年後見制度と異なり、自分が希望する人物を任意後見人として選任できる点がメリットです。
5-3 成年後見制度
成年後見制度とは、認知症や知的障がいによって判断能力が不十分な人が生活をする上で不利益を被らないように、成年後見人が財産管理や契約行為の支援を行うための制度です。
成年後見人になる人物は家庭裁判所が適する人物を選任しますので、申し立て時に希望した人物が選ばれるとは限りません。
任意後見制度や家族信託と比較すると、成年後見制度は柔軟な財産管理を行えない点がデメリットです。
一方で、すでに認知症になり判断能力が失われている人の財産管理を行うためには、成年後見制度を利用するしか方法はありません。
ただし、軽度の認知症であれば判断能力が残っているとされ、家族信託や任意後見制度を利用できる可能性があります。
認知症患者本人や家族がどの制度を利用できるか判断することは難しいので、相続対策や認知症問題に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
まとめ
子供や親族による親の預金の使い込みはそもそも発覚しにくく、他の家族や親族が使い込みに気付いたとしても証拠を集めるのが難しいのが現状です。
「親の預金が使い込まれているかもしれない」と疑われるときには、使い込みがあった記録や預金が引き出されたときの親の判断能力に関する証拠を集めなければなりません。
親の預金の使い込みはトラブルが長期化しやすく解決も難しいので、そもそも親が元気なうちから将来にわたり使い込みを防ぐために対処しておくのがおすすめです。
家族信託や任意後見制度などの認知症対策を行っておけば、親の預金が使い込まれる事態を防ぎやすくなります。
認知症対策には複数の方法があり、資産や家族の状況、本人の希望によって行うべき対策が変わります。
相続に詳しい司法書士や弁護士であれば、適した認知症対策をご提案可能です。
グリーン司法書士法人では、家族信託などの認知症対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
親のお金を使い込むと罪になる?
第三者の預金を使い込むと、窃盗罪や横領罪などに問われますが、当事者が親族の場合は刑事罰には問われないと法律によって決められています。
▶親の預金の使い込みについて詳しくはコチラ親の通帳からお金を引き出せる?
親の銀行口座が認知症や死亡などにより凍結されていなければ、親に許可を得てかわりに預金を引き出すことは可能です。
▶親の預金の引き出しについて詳しくはコチラ