疎遠の父が亡くなったとき、これまで会う機会がほとんどなかったとしても、子供は相続人になり遺産を受け継ぎます。
遺産は預貯金や不動産などプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれるので注意が必要です。
したがって、疎遠の父が亡くなったときには、相続財産調査をして借金の有無などを確認しなければなりません。
なお、相続するか遺産を放棄するかの判断は自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内にしなければならないので、相続財産調査は速やかに行う必要があります。
また、疎遠の父が死亡した場合、父親が死亡したことを知るのが遅れてしまう可能性もあるでしょう。
突然、疎遠の父が死亡した連絡を受け動揺してしまうかもしれませんが、遺体の引き取りや遺産を受け継ぐのかなどを決断しなければなりません。
本記事では、疎遠の父が亡くなったことを知るタイミングや相続手続きの流れを解説します。
1章 疎遠の父が亡くなったことを知るタイミング
疎遠の父が亡くなったときは、父の家族や親族、警察などから連絡をもらうことが多いです。
疎遠の父が死亡したことを知るきっかけやタイミングは、主に下記の通りです。
- 父の家族・親族から連絡が来る
- 警察から連絡が来る
- 自治体から連絡が来る
- 家庭裁判所から連絡が来る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1-1 父の家族・親族から連絡が来る
父の家族や親族から連絡をもらい、疎遠だった父が死亡したことを知るケースも多いです。
父親の兄弟姉妹や父親の再婚相手や後妻との子が連絡をしてくることもあります。
両親が離婚し、父とそれ以来会っていないケースでは顔や名前すら知らない再婚相手やその子供から連絡を受けることもあるでしょう。
父親が遺言書を用意していなかった場合、再婚相手や父と後妻の間に生まれた子などといった相続人全員で相続手続きを行わなければなりません。
相続手続きの流れは本記事の3章で解説しますが、面倒なトラブルに巻き込まれたくない場合は相続放棄を検討しても良いでしょう。
1-2 警察から連絡が来る
突然、警察から連絡が来て疎遠の父が死亡したことを知るケースもあるでしょう。
交通事故や事件に巻き込まれて死亡した場合や孤独死などの不審死の場合は、警察が遺体や死亡時の調査を行います。
警察が遺留品から家族に関する情報を発見した場合は、疎遠の子に対して連絡をすることが考えられます。
1-3 自治体から連絡が来る
疎遠だった父が死亡したことを役所などの自治体が連絡してくる状況も考えられます。
疎遠の父が一人暮らしをしていた自宅で孤独死をした場合や病院で亡くなった場合は、役所が戸籍をたどり父親と血縁関係にある人物に連絡するからです。
1-4 家庭裁判所や専門家から連絡が来る
役所や警察から連絡を受ける以外には、家庭裁判所から連絡が来るケースもあります。
疎遠だった父の相続人の1人が遺産分割調停を申し立てると、同じく相続人であるあなたに対して遺産分割調停の内容について連絡する場合があるからです。
他にも、疎遠の父が自筆証書遺言や秘密証書遺言を用意していた場合、検認期日を実施する連絡が届きます。
また、家庭裁判所だけでなく弁護士や司法書士から連絡が届くこともあります。
疎遠の父が死亡したとしても、必ず連絡が来るわけではないのでご注意ください。
父親の再婚相手や後妻との間に生まれた子が前妻との間に子供がいたことを知らない可能性もあるからです。
父親に疎遠の子がいたことを知らずに、遺産分割協議や各種手続きを行ってしまう可能性もゼロではありません。
疎遠の父が亡くなったか確認するには、父親の戸籍謄本を取得して確認しましょう。
疎遠の父がすでに死亡している場合は、取得した戸籍謄本に「死亡」と記載されるようになるからです。
2章 疎遠の父が死亡したことを連絡されたときの対処法
疎遠の父が死亡した連絡を受けたときには、状況に応じて遺体の引き取りやその後の相続手続きに参加するのかを判断しなければなりません。
連絡を受けたときに対処すべきことは、主に下記の通りです。
- 遺品・遺体を引き取るか決める
- 遺産分割の手続きに参加するのか決める
- 相続放棄するか判断する
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 遺品・遺体を引き取るか決める
自治体から疎遠だった父が亡くなったことを知らされた場合、遺品や遺体の引取りを求められます。
ただし、遺品や遺体の引き取りに関しては必ずしなければならないわけではありません。
法律で「遺品や遺体を引き取り拒否してはいけない」と決められていないからです。
例えば、疎遠にしていた父と良い思い出がなく関わりたくない、嫌な記憶を思い出したくない場合は遺品や遺体を引き取り拒否することも認められます。
遺族が引取りを拒否した遺体に関しては「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」として扱われ、自治体で直葬し遺骨は無縁仏として納められます。
ただし、交通事故や事件などで父親が亡くなり警察から遺族へ連絡が来た場合、遺体の引取りを拒否しても遺体の確認や事務手続きを求められる場合がある点は理解しておきましょう。
2-2 遺産分割の手続きに参加するのか決める
家庭裁判所から遺産分割調停や遺言書の検認期日に関する連絡が届いたときは、遺産分割の手続きに参加するかを決断しなければなりません。
遺産分割調停とは、家庭裁判所で調停委員を間に挟み、遺産の分割方法について話し合う手続きです。
遺産分割調停は欠席も認められていますが、欠席した相続人がいた場合は調停不成立となり、遺産分割審判へと手続きが進みます。
遺産分割審判へと進んだ場合、裁判所が遺産分割内容を決定するため、自分にとって不利な遺産分割となる恐れもあるのでご注意ください。
また、亡くなった人が遺した遺言書が①自筆証書遺言もしくは②秘密証書遺言だった場合は、相続発生後に家庭裁判所での検認手続きをしなければなりません。
検認手続きに関しても欠席は認められており、欠席した場合は遺言書の検認手続きが完了した旨の連絡が家庭裁判所から届きます。
そのため、家庭裁判所から疎遠だった父親の相続に関する連絡が届いたときは、どんな連絡が届いたか、欠席するとどうなるのかを確認することが大切です。
2-3 相続放棄するか判断する
父親の親族や再婚相手や後妻との子から死亡の連絡を受けた場合、相続手続きを行うのか相続放棄するのかを決断しなければなりません。
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一歳相続しなくなる手続きです。
相続放棄をすれば最初から相続人ではなかった扱いとなるので、遺産分割協議への参加も必要なくなります。
疎遠の父の遺産を受け取る気がない場合や再婚相手と連絡を取り合いたくない場合は、相続放棄を検討しても良いでしょう。
ただし、相続放棄には以下のデメリットや注意点もあるので慎重に判断する必要があります。
- 預貯金や不動産などプラスの財産も一切相続できなくなる
- 相続放棄をするには、家庭裁判所での申立てが必要である
- 相続放棄には「自分が相続人になってから3ヶ月以内」という期限が設定されている
- 相続放棄が認められると原則として取り消せない
相続放棄すべきか迷った場合や申立て手続きをする場合は、相続放棄に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
専門家であれば、相続放棄すべきかの判断や手続きまで一括で対応できます。
遺産分割協議に参加しない、疎遠の父の遺産を受け取らない方法としては、相続放棄以外にも相続分の譲渡があります。
相続分の譲渡とは、自分の相続分を共同相続人や第三者に譲渡してしまうことです。
自分の取り分はなくなるため、相続分の譲渡をすれば遺産分割協議への参加も不要となります。
相続分の譲渡は相続放棄と異なり、家庭裁判所での申立ては必要なく、相続人に意思表示するだけで完了します。
ただし、相続分の譲渡では債権者に対して借金の返済義務がないことを主張できないので注意しなければなりません。
3章 疎遠だった父の相続手続きの流れ
疎遠の父が亡くなり相続手続きに参加すると決めたのであれば、遺言書の有無の確認、相続人調査などを順序よく行っていく必要があります。
具体的には、下記の流れで行いましょう。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人調査を行う
- 相続財産調査を行う
- 相続放棄・限定承認を検討する
- 遺産分割協議を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP① 遺言書の有無を確認する
まずは、疎遠だった父親が生前、遺言書を用意していたかどうか確認しましょう。
遺言書があった場合、原則として遺言書に記載された内容通りに遺産分割を行うからです。
また、遺言書があった場合、相続手続きに必要な書類が少なくすむ可能性もあります。
遺言書を探すときには、故人が大切な書類を保管しそうな場所を探してみるのが良いでしょう。
- 自宅
- 入院先の病院
- 入所していた施設
- 貸金庫
また、亡くなった人が公正証書遺言を作成していたかは、全国の公証役場で確認可能です。
亡くなった人が遺していた遺言書が①自筆証書遺言もしくは②秘密証書遺言だった場合は、家庭裁判所での検認手続きを行う必要があります。
検認手続きの方法および必要書類は、下記の通りです。
期限 | 死後すみやかに |
手続先 | 全国の公証役場(遺言書が作成された公証役場) |
手続できる人 | 相続人(代理人でも可) |
必要なもの |
|
手数料 |
|
STEP② 相続人調査を行う
疎遠だった父親が遺言書を用意していなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
そのため、まずは父親が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本を取得し、相続人を確定させなければなりません。
故人が死亡したときの戸籍謄本から遡って順番に取得していけば、生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本を集められます。
戸籍謄本の取得方法や必要書類は、下記の通りです。
取得できる人 |
|
取得先 | 本籍がある(あった)市区町村役場 ※郵送可 |
費用 |
|
必要書類 |
|
STEP③ 相続財産調査を行う
相続人調査が完了したら、次は相続財産調査を行い、父親の遺産を漏れなく特定させましょう。
遺産分割協議完了後に新たな遺産が見つかると、遺産分割協議のやり直しが必要になる恐れがあるからです。
また、相続税の申告後に新たな遺産が見つかってしまうと、相続税の申告漏れになり修正申告が必要になります。
相続財産調査は、財産ごとに行う必要があり、それぞれ下記の方法で行います。
財産 | 調査方法 |
不動産 | ・固定資産税課税明細書、登記識別通知書、権利証、名寄帳などから名義人や不動産の情報を把握する ・不動産の登記簿謄本を法務局で取り寄せる |
預貯金 | ・口座のある銀行で残高証明書を取得する |
株式・有価証券 | 【上場株式の場合】 ・自宅に届いている取引残高報告書 ・特定口座年間取引報告書などの書類 ・目論見書 ・口座開設時の控え などから、証券会社と特定し、証券会社に問い合わせる。もし、証券会社が特定できない場合には証券保管振替機構(ほふり)に「登録済み加入情報開示請求」をする。 【非上場株式の場合】 ・被相続人が経営している会社や、同族会社に問い合わせる |
貴金属 | ・被相続人の自宅や貸し金庫を調査する |
自動車 | ・車検証や車庫証明から名義人を確認する ・ローンが残っていたり、リース契約だったりする場合にはディーラーやリース会社に問い合わせる |
借金 | ・借り入れの契約書や利用明細、督促状などの書類がないか確認する ・信用情報機関に問い合わせる |
STEP④ 相続放棄・限定承認を検討する
相続財産調査が完了し、亡くなった父親が借金をしていたことがわかった場合は、相続放棄や限定承認を検討しましょう。
相続放棄および限定承認とは、下記の手続きです。
- 相続放棄:プラスの遺産もマイナスの遺産も一切相続しない手続き
- 限定承認:プラスの遺産の範囲内で故人の借金を支払う手続き
相続放棄や限定承認の手続きをしないと、故人の借金の返済義務を受け継いでしまうので注意しなければなりません。
相続放棄および限定承認の手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
相続放棄の手続き方法 | |
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続きする人 | 相続放棄する人(または法定代理人) |
手数料の目安 |
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必要なもの |
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限定承認の手続き方法 | |
提出先 | 故人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
手続きする人 | 相続人全員が共同して行う |
手数料の目安 |
|
必要なもの |
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相続放棄もしくは限定承認すべきか判断がつかない場合やミスなく確実に手続きを行いたい場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
STEP⑤ 遺産分割協議を行う
相続放棄や限定承認をしない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行いましょう。
遺産分割協議とは、相続人全員で誰がどの遺産をどれくらいの割合で受け継ぐかを話し合うことです。
なお、遺産分割協議は相続人全員で行う必要がありますが、一堂に会して行う必要はなく、電話やメール、LINEなどで行っても問題ありません。
遺産分割協議が完了したら、決定した内容を遺産分割協議書にまとめ各相続人が署名および押印をしましょう。
作成した遺産分割協議書は遺産の名義変更手続きや相続税申告などで使用します。
まとめ
生前、疎遠だったとしても父親が死亡したとき、子供は相続人になり遺産を受け継ぎます。
受け継ぐ遺産は預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれるのでご注意ください。
疎遠だった父親が借金をしていた場合には、相続放棄の手続きをして借金を受け継がないようにしましょう。
相続放棄には「自分が相続人であると知ってから3ヶ月以内」と申立て期限が設定されているので、疎遠だった父の死亡連絡を受けたら、遺産の調査や相続放棄の準備を行う必要があります。
疎遠だった父親の相続手続きに関わりたくない、何も情報が集まらず借金をしていたかもわからない場合は、相続放棄や手続きについて司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
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