家族や親族が亡くなり相続が発生すると、預貯金や不動産の名義変更手続きなど様々な手続きが必要です。
相続手続き時には相続人の印鑑証明書の提出も必要なことが多いです。
印鑑証明書とは実印を証明する書類であり、本来であれば有効期限はないものの手続き先の機関によっては印鑑証明書の有効期限も設定されている場合があります。
印鑑証明書を何度も取得しなくてすむように、提出先ごとの有効期限をある程度把握しておくことも大切です。
本記事では、相続手続きで印鑑証明書を提出する際の有効期限を解説します。
相続手続きの流れおよび期限は、下記の記事で詳しく解説しています。
1章 相続手続きにおける印鑑証明書の期限
本来、印鑑証明書自体は有効期限がない書類です。
しかし、印鑑証明書を提出する機関によって独自に印鑑証明書の有効期限が設定されている場合もあります。
そのため、相続手続きで印鑑証明書を提出する際には各提出先ごとの有効期限に注意しておかなければなりません。
相続手続きで印鑑証明書が必要になるケースや各提出先ごとの有効期限は次の章で詳しく解説していきます。
2章 相続手続きで印鑑証明書が必要になるケース・期限
相続手続きで印鑑証明書が必要になるのは、各財産の名義変更手続きをするときや相続税の申告をするときなどです。
主な提出先および有効期限は、それぞれ下記の通りです。
手続き | 印鑑証明書の有効期限 |
遺産分割協議書の作成 |
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預貯金の名義変更手続き | 有効期限を6ヶ月としている金融機関が多い |
有価証券の名義変更手続き | 有効期限を6ヶ月としている金融機関が多い |
相続登記 | 有効期限は設定されていない |
相続税申告 | 有効期限は設定されていない |
死亡保険金の請求 |
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相続分の譲渡 | 相続分譲渡証明書に添付する印鑑証明書に有効期限はない |
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 遺産分割協議書を作成するとき
遺産分割協議書を作成するときの添える印鑑証明書の有効期限は、特に設定されていません。
遺産分割協議書作成前の日付で印鑑証明書を取得してしまい「取り直しが必要だろうか」と悩まれる人がいるのですが、問題ないのでご安心ください。
遺産分割協議書とは、誰がどの財産をどれくらいの割合で取得するかをまとめた書類であり、相続人全員が署名と押印をします。
遺産分割協議書への押印は法的には実印である必要はありませんが、非常に重要度の高い書類なので実印で行うことが一般的です。
ただし、作成した遺産分割協議書を提出する機関によっては印鑑証明書に有効期限を設定している場合があるので注意が必要です。
各提出先が設定している印鑑証明書の有効期限はこの後、詳しく解説していきます。
相続分の放棄を行い故人が遺した財産を一切相続しなかったとしても、遺産分割協議への参加や遺産分割協議書への署名および押印は必要です。
そのため、財産を受け継がない相続人も印鑑証明書を用意しておかなければなりません。
2-2 預貯金の名義変更手続きをするとき
故人が遺した預貯金を相続人に名義変更するときには、各金融機関で手続きが必要です。
金融機関は相続手続き時に提出する印鑑証明書の有効期限を6ヶ月に設定している場合が多いです。
実際に、大手メガバンク3行は相続手続きの際に提出する印鑑証明書の有効期限を6ヶ月としています。
遺産分割協議書作成後から預貯金の相続手続きを行うまでの期間が空いてしまうと、印鑑証明書の取り直しが必要になる恐れもあるのでご注意ください。
また、預貯金の相続手続きを行う際には故人や相続人の戸籍謄本の提出も必要ですが、戸籍謄本の有効期限は6ヶ月~1年程度としている金融機関が多いです。
2-3 有価証券の名義変更手続きをするとき
故人が上場株式や投資信託を保有していた場合、証券会社にて名義変更手続きが必要になります。
証券会社で相続手続きを行う際に提出する印鑑証明書の有効期限も、6ヶ月であることが多いです。
2-4 相続登記をするとき
故人が土地や建物を所有していた場合、不動産の名義変更手続きが必要であり、法務局にて相続登記の申請をしなければなりません。
相続登記では、印鑑証明書の有効期限が設定されていません。
そのため、印鑑証明書に記載されている実印や氏名、住所に変更がない限り古いものでも問題なく使用可能です。
ただし、あまりにも古い印鑑証明書や日焼けしていて読みにくい印鑑証明書では受け付けてもらえない可能性があるのでご注意ください。
これまで相続登記は義務化されておらず、相続人の意思により行うものとされていました。
しかし、2024年4月1日以降は相続登記が義務化され、相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科される恐れがあります。
なお、相続登記の義務化は過去に発生した相続に関しても適用されます。
まだ、相続登記がおすみでない土地をお持ちの人は、早めに手続きをすませるのが良いでしょう。
相続登記は自分で行うこともできますが、司法書士に数万円程度でも依頼可能です。
グリーン司法書士法人でも相続登記に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
2-5 相続税の申告をするとき
故人の財産が一定額を超えるときは相続税の申告および納税が必要です
相続税申告時に税務署に提出する印鑑証明書には、有効期限が設定されていません。
印鑑証明書だけでなく戸籍謄本に関しても有効期限が設定されていませんのでご安心ください。
2-6 死亡保険金を請求するとき
故人が生命保険に加入していて死亡保険金を受け取りたいときには、加入先の保険会社にて手続きが必要です。
死亡保険金の請求時に印鑑証明書を提出する場合、印鑑証明書の有効期限は3ヶ月以内とされていることが多いです。
ただし、死亡保険金の請求時はそもそも受取人の印鑑証明書が不要なケースも多いです。
まずは、保険会社に連絡して必要書類を確認するのが良いでしょう。
2-7 相続分の譲渡をするとき
相続分の譲渡をするときに添付する印鑑証明書に有効期限は設定されていません。
相続分の譲渡とは、他の相続人や第三者に「自分の相続分」を譲り渡すことです。
相続分の譲渡を行う際には、相続分譲渡証明書を他の相続人に送る必要があります。
相続分譲渡証明書には実印を押すので印鑑証明書を添付しますが、印鑑証明書の有効期限は設定されておらず内容に変更がなければ発行日が古い証明書でも問題ありません。
3章 相続手続きで印鑑証明書を用意するときの注意点
相続手続き時には印鑑証明書の提出が必要であり、金融機関や証券会社、保険会社では印鑑証明書に有効期限を設定しています。
そのため、相続手続きをスムーズに行うためには、相続人や受遺者の印鑑証明書を効率よく集めなければなりません。
相続手続きのために印鑑証明書を用意するときには、下記の5つの点に注意して取得しましょう。
- 印鑑登録をしていないと印鑑証明書は取得できない
- 実印を紛失した場合は登録印鑑亡失届出が必要
- 海外居住者は印鑑証明書ではなく署名証明が必要になる
- 刑務所に収監されている相続人は印鑑証明書を取得できない
- 一部の相続人が印鑑証明書の提出を拒むなら調停を検討する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 印鑑登録をしていないと印鑑証明書は取得できない
印鑑証明書は、事前に市区町村役場にて印鑑登録をすませていないと発行できません。
印鑑登録とは、自分の印鑑を役所に登録し「自分だけの印鑑である(実印)」と証明する制度です。
これまで印鑑登録をしたことがない人が実印での押印や印鑑証明書の提出を求められたときは、最初に印鑑登録をすませましょう。
印鑑登録の方法は、下記の通りです。
登録できる人 |
|
登録先 | お住いの地域の市区町村役場 |
費用 | 300円程度 |
必要書類 |
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印鑑登録する際には、下記の点に注意が必要です。
- 代理人が印鑑登録する場合、即日で印鑑登録が完了しない
- シャチハタは実印として登録できない
- シャチハタ以外でも既製品の印鑑は他人が容易に取得できるため、印鑑登録するのにおすすめできない
代理人が印鑑登録する場合、申請後に本人宛に届く照会・回答書も提出する必要があるため、印鑑登録が即日完了しません。
印鑑登録後すぐに印鑑証明書を発行してほしい場合は、本人が役所に行き印鑑登録を行いましょう。
3-2 実印を紛失した場合は登録印鑑亡失届出が必要
過去に印鑑登録をしていたものの実印を紛失していまった場合は、当たり前ですが印鑑証明書を発行しても相続手続き時に提出書類として使用できません。
実印を紛失した場合は「登録印鑑亡失届出」および「印鑑の再登録」が必要です。
なお、相続が発生していなくすぐに印鑑証明書が必要ないケースでも、実印の紛失に気付いた段階で登録印鑑亡失届出と印鑑の再登録をすませることをおすすめします。
登録印鑑亡失届出の申請方法は、下記の通りです。
申請できる人 | 本人 代理人 |
申請先 | お住いの地域の市区町村役場 |
費用 | 無料 |
必要書類 |
|
登録印鑑亡失届出を申請した後は、再び印鑑登録を行いましょう。
なお、実印はあるものの印鑑登録証をなくした場合も、印鑑証明書を発行できません。
印鑑登録証を紛失した場合は印鑑登録廃止届を行い、再び印鑑登録をする必要があります。
3-3 海外居住者は印鑑証明書ではなく署名証明が必要になる
相続人の中に海外居住者がいる場合、印鑑証明書を取得できないのでかわりに署名証明を行います。
署名証明とは、署名が確実に本人のものであると証明する制度であり、在外公館で行う必要があります。
署名証明をする流れは、下記の通りです。
- 遺産分割協議書など署名しなければならない書類を在外公館に持参する
- 領事の前で署名および押印する
- 署名証明書と遺産分割協議書等を綴り合わせ割印を押してもらう
署名証明は日本に住民票のない日本人が印鑑証明書のかわりに発行してもらうものです。
そのため、日本国籍を持っている人しか署名証明は行えません。
また、署名証明を行う際には領事の前で署名および押印をする必要があるので、署名する前の遺産分割協議書等を持っていきましょう。
3-4 刑務所に収監されている相続人は印鑑証明書を取得できない
相続人の中に刑務所に収監されている人がいる場合、実印を押してもらうことも印鑑証明書を取り寄せてもらうこともできません。
刑務所に収監されている相続人が遺産分割協議書に署名および押印する際には、下記の方法で行います。
- 刑務所にいる相続人に遺産分割協議書に署名してもらう
- 実印による押印ではなく、指印を押してもらう
- 指印の横に刑務所長の奥書証明を添えてもらう
奥書証明とは、刑務所長が押されている指印が本人のもので間違いないと証明するものです。
3-5 一部の相続人が印鑑証明書の提出を拒むなら調停を検討する
遺産分割協議書へ実印を押すことや印鑑証明書の提出を拒む相続人がいると、相続手続きを進められず不動産や預貯金の名義変更手続きができなくなってしまいます。
その場合は、遺産分割調停を行い相続手続きを進めることも検討しましょう。
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
遺産分割調停成立後に裁判所から送られてくる調停調書を利用すれば、相続人全員の印鑑証明書がなくても相続手続きを進められます。
- 相続税申告や相続登記の期限が迫っている場合
- すぐにでも相続した預貯金を引き出したい場合
- できるだけ早く相続した不動産を売却したい場合
上記の場合、当事者同士の解決が難しいのであれば遺産分割調停を視野に入れても良いでしょう。
ただし、相続人が印鑑証明書の提出を拒む場合、相続手続きに関する理解不足や遺産分割の内容に納得していないケースも多いです。
相手に不信感を抱かせないためにも、まずは相続人同士で財産に関する資料を共有して話し合うことも大切です。
当事者同士で話し合うことが難しい場合、相続に精通した司法書士や弁護士が間に入ることで双方にとって中立な遺産分割を提案できることもあります。
グリーン司法書士法人でも遺産分割協議に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
相続手続きの際に提出する印鑑証明書の有効期限は提出先ごとに異なります。
預貯金や有価証券の名義変更手続きをする際の有効期限は6ヶ月と決められている場合が多いのでご注意ください。
遺産分割協議書の作成から預貯金や有価証券の名義変更手続きまでに時間がかかってしまうと、印鑑証明書を再度取得しなければならない恐れもあります。
また、印鑑証明書の有効期限がなくても相続手続き自体に期限が設定されている場合もあるので、注意が必要です。
相続手続きを効率よく期限内に完了させるためには、専門的な知識や経験が必要なときもあります。
自分で手続きを行うのが不安な場合や何から始めれば良いかわからない場合は、相続に詳しい専門家への相談もおすすめです。
グリーン司法書士法人では、相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料ですし、必要書類の収集から相続財産の名義変更手続きまで一括で行えるのでお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
相続手続きの印鑑証明書の期限は?
本来、印鑑証明書自体は有効期限がない書類です。
しかし、印鑑証明書を提出する機関によって独自に印鑑証明書の有効期限が設定されている場合もあります。
そのため、相続手続きで印鑑証明書を提出する際には各提出先ごとの有効期限に注意しておかなければなりません。
▶相続手続きの印鑑証明書の期限について詳しくはコチラ銀行の相続手続きの印鑑証明書の期限は?
故人が遺した預貯金を相続人に名義変更するときには、各金融機関で手続きが必要です。
金融機関は相続手続き時に提出する印鑑証明書の有効期限を6ヶ月に設定している場合が多いです。
▶銀行の相続手続きの印鑑証明書の期限について詳しくはコチラ