「相続手続きをしたいのに、実印を押してくれない人がいて困っている」
というご相談をいただくことがあります。
相続手続きの中には、実印を押さなければいけないこともあり、押してもらわなければいつまでも話し合いや手続きが完了しないため困ってしまいますよね。
しかし、実印を押さない人には、「相続に納得がいかない」などの理由があることがほとんどです。
この記事では、実印が必要な相続手続きはなにか、実印を押さない理由はなにか、実印を押してもらえないときの対処法について解説します。
目次
1章 実印・印鑑証明書が必要な4つの相続手続き
相続手続きの中で実印が必要な手続きは主に以下のとおりです。
- 遺産分割協議
- 預貯金の払い戻し・株式の名義変更
- 不動産の名義変更
- 相続税の申告
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1−1 遺産分割協議
遺言書がない場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員の押印が必要ですが、その押印は「実印」でなければいけません。また、全員の印鑑証明書も資料として添える必要があります。
「相続人全員」の「実印」が必要であるため、1人でも非協力的な人がいると、相続手続きが滞る事となってしまいます。
1−2 預貯金の払い戻し・株式の名義変更
預貯金の払い戻しや株式の名義変更にも、原則として実印と印鑑証明書が必要です。
遺産分割協議をして、実印が押された遺産分割協議書があれば、そちらをもとに払い戻しや名義変更できますが、遺産分割協議書がなければ「銀行(証券会社)の指定する用紙」に相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になります。
1−3 不動産の名義変更
遺産分割協議によって不動産を相続した場合、相続登記(不動産の名義変更)手続きには相続人全員の実印が押印された遺産分割協議書が必要です。
なお、遺言書がある場合や、家庭裁判所の調停調書・審判書がある場合には、実印は必要ありません。
1−4 相続税の申告
相続税の申告にも、相続人全員の実印が押印された遺産分割協議書を提出しなければいけません。
なお、相続税は、遺産分割協議が終わっていなくても「相続開始を知った翌日から10ヶ月」以内に申告しなければいけません。
遺産分割協議が10ヶ月の期限内に終わっていないのであれば、法定相続分(法律で決められた取得分)に応じてそれぞれが相続税を申告・納税しなければいけませんが、後々遺産分割協議によって取得分が法定相続分と異なる結果となれば、正しい相続分で申告し直す必要があります。
その場合にも、相続人全員の実印が押印された遺産分割協議書が必要です。
2章 遺産分割協議書に実印を押してもらえない主な理由
1章で実印・印鑑証明書が必要な手続きについて解説しましたが、最初の砦は「遺産分割協議書」です。遺産分割協議書がなければ、そもそも相続手続きを進めることはできません。
遺産分割協議書に実印を押さないのには、何らかの理由があることがほとんどです。
「押してくれないのが悪い!」と、相手に実印を押すよう求めるだけでなく、相手の事情を理解し、汲み取ることが大切です。
ここでは、実印を押してもらえない主な理由について解説します。
2−1 遺産分割の内容に納得していない
「遺産分割協議書に押印をする」ことは、「遺産分割協議に納得したことを示す」行為です。
つまり「押印をしない」ということは、遺産分割協議の内容に納得していないということです。
納得できない理由は様々ですが、主に以下のようなことが考えられるでしょう。
- 勝手に遺産分割の内容を決められている
- 故人の生前に介護や家業の手伝いをしていたことを考えると、平等に分割する内容に納得ができない
- 財産情報の明示・開示がされておらず、遺産分割の内容に懐疑的である
- 利害がある相続人が作成した遺産分割協議書だから信頼できない
遺産分割協議というのは、遺産分割について相続人たちで納得の行くように話し合うものです。
誰か1人が自分に有利なるように進めようとしたり、他の相続人に財産を隠して進めたりすれば、実印を押してくれないのも当然です。
2−2 印鑑登録をしていない
「大きく、立派な印鑑であれば実印では?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実印というのは、市区町村役場に登録した印鑑のことです。
100円の印鑑であっても登録すれば実印ですし、逆にどれだけ高価な印鑑であっても登録をしていなければ単なる認印です。
実印を押してくれない人には、そもそも印鑑登録をしていないというケースがあります。
印鑑登録はお住まいの市区町村役場に行けば簡単に手続きできますが、平日の日中にしか手続きができないため、「時間がない」という理由でいつまでも印鑑登録をしてくれないこともあるでしょう。
印鑑登録は、委任状があれば本人以外でも手続き可能ですので、時間のある方が代理で行ってあげるようにしましょう。
3章 遺産分割協議書に実印を押してもらえないときの4つの対処法
遺産分割協議書に実印を押してもらえなければ、相続手続きを進めることはできません。
遺産分割協議書作成時や相続手続きの際に実印を押してもらえない場合には、以下の方法で対処してみましょう。
- 相続人同士でよく話し合う
- 財産に関する資料を共有する
- 弁護士に依頼し交渉をしてもらう
- 遺産分割調停を申し立てる
- 印鑑登録をしてもらう
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3−1 相続人同士でよく話し合う
まずは、相続人同士でよく話し合いましょう。
実印を押してくれない理由の多くは「遺産分割の内容に納得していなから」です。
- なぜ納得していないのか
- 納得してもらうにはどうしたらいいか
についてよく考えながら話し合いを進めましょう。
後述しますが、相続は相続人間で話し合いがまとまらない場合には、調停や裁判をして決着をつけることになります。
裁判では、あくまで法律に則った判断が下されるので、誰かの偏った希望が通ることはほぼありません。また、費用や時間もかかります。
そのため、まずは相続人同士で腹を割って話し合い、相続人だけで決着をつけるのが理想です。
3−2 財産に関する資料を共有する
遺産分割協議に納得できない理由の一つとして、「遺産の全容が把握できていないから」というのがあります。
遺産の内容が明確に分からなければ「財産を隠しているのでは?」「生前に使い込みがあったのでは?」と疑心暗鬼になり、印鑑を押すのをためらう気持ちも分かります。
預金通帳の写しや不動産の評価明細などを相続人全員に提示することで、納得してもらうようにしましょう。
ベストなのは、司法書士などの専門家に財産調査を依頼して、財産目録を作成し、資料とともに相続人全員で共有することです。
3−3 弁護士に依頼し交渉をしてもらう
話し合いをしても、財産を開示しても、相続人が実印を押してくれないような場合には、弁護士に依頼をして交渉してもらいましょう。
弁護士は、法律に関わるトラブルや争いを、交渉して解決するプロです。
弁護士が間に入ることによって、こちらの真剣度が伝わり、相手にプレッシャーをかけることもできます。
また、調停や裁判に発展した際にも、サポートしてくれるでしょう。
3−4 遺産分割調停を申し立てる
弁護士が間に入っても埒があかないような場合には、裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
遺産分割調停では、調停委員が中立な立場で間に入り、双方の主張を調整をした上で解決策の提案などする、裁判所で行う話し合いです。
調停委員は「中立公正」な立場であるため、どちらかが有利に進むようなことはありませんし、どちらかが納得できないのであれば、決着はつきません。
調停で話し合いがまとまらないような場合には、遺産分割審判、いわゆる裁判に進むこととなります。
裁判では、法律で決められた相続分(法定相続分)通りに判決が出るのが一般的です。一方の相続人の希望がすべて通ることは、ほとんどないのでその点は理解しておきましょう。
3−5 印鑑登録をしてもらう
実印を所有していない相続人や印鑑登録していない相続人がいる場合は、実印を用意してもらい印鑑登録を行ってもらいましょう。
印鑑登録は居住地の市区町村役場に行けば手続きできますし、印鑑証明書も即時発行が可能です。
なお、印鑑登録手続きを代理人が行った場合、印鑑証明書は後日の発行となるのでご注意ください。
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よくあるご質問
相続手続きで実印を押してもらえないときの対処法とは?
相続手続きで実印を押してもらえないときは、下記の対処法をお試しください。
・相続人同士でよく話し合う
・財産に関する資料を共有する
・弁護士に依頼し交渉をしてもらう
・遺産分割調停を申し立てる
▶相続手続きで実印を押してもらえないときの対処法について詳しくはコチラ
遺産分割協議書に実印を押す必要はある?
遺言書がない場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、相続人全員の押印が必要ですが、その押印は「実印」でなければいけません。また、全員の印鑑証明書も資料として添える必要があります。
▶遺産分割協議書に実印が必要かについて詳しくはコチラ