親や妻や夫など身近な人が借金を抱えて亡くなってしまった。
借金を相続するのはなんとしても避けたい。
このように考えて、あなたは相続放棄をしようと思っているでしょう。
既にご存知かもしれませんが、たしかに相続放棄により借金から逃れることは可能です。しかし、相続放棄について正しく理解しておかなければ、
- 手続を行っても借金から逃れることができない
- 自分が相続放棄をしたことにより、他の家族が借金を督促される
などといった様々な不利益がふりかかるリスクがあります。
もし万一のことがあればということを考えると、不安で頭がいっぱいではないでしょうか。
そこで今回は、相続で引継いだ借金を確実に放棄しつつも、家族に迷惑をかけない方法をお伝えします。
相続放棄を専門に扱っている司法書士が解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
さらにこの記事では、借金の相続放棄で相談に来られた方からのよくある質問を紹介しています。どれも実際に困られた相談者からの質問ですので、あなたの疑問が解決できること間違いなしです。
相続放棄をしっかりと理解して借金の問題を解決し、日々の平穏を取り戻しましょう!
借金を相続したくない場合には、下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 借金の相続放棄は家族全員がすることが大切
相続放棄は、法律上は1人で行うことが可能です。これによって、相続放棄をした人については、借金を逃れることができます。
しかし、借金から家族全員が逃れるためには、相続放棄を1人で行うだけでは足りません。家族全員が相続放棄の手続をする必要があるのです。
なぜなら、相続放棄を行わない相続人が1人でもいると、その人に全ての借金がふりかかるからです。
例えば、次のイラストのようなケースを見てみましょう。
相続放棄をしなかったCさんがすべての借金を背負い込んでしまっています。家族全員が借金から逃れるためには、Cさんも相続放棄をしなければならないのです。
では、Cさんを含めて3人で相続放棄をすれば安心なのかというと、そういうわけではありません。
当初の相続人が全員相続放棄をすると、次の順位の人たちに借金が流れて行きます。
相続放棄により借金が移っていく順番は、次の表の通りになっています(続柄は、死亡した人(被相続人といいます。)から見た関係です。)。
親族が多数いらっしゃる方が亡くなった場合、子・孫・両親・祖父母、兄弟姉妹・おい・めい、と、かなり多くの方が相続放棄をしなければ借金から逃れられません。
まとめると、借金のある方が亡くなった場合に、その方の相続人になる可能性が少しでもある方全員が相続放棄をしないと、残った相続人に全て降りかかってしまうということなのです。
もしあなたが相続放棄を考えている場合には、家族や親族に伝えてあげるようにしましょう。
相続人の範囲についてはこちらの記事も参考にしてください。
2章 相続放棄の期限は3か月
相続放棄は、借金から逃れることができる重要な手続ですが、その期間は意外と短く、
「自分自身が相続人であるということを知ったときから3か月」です。
「自分自身が相続人であるということを知ったとき」というのは少しわかりにくいので、次のように考えてください。
・被相続人が死亡したことにより最初に相続人となった人
・・・被相続人が死亡したことを知ったとき
・最初に相続人となった人が相続放棄をしたことによって相続人となった人
・・・最初に相続人となった人の相続放棄によって自分が相続人となったことを知ったとき
ポイントは、「知ったとき」という点です。
被相続人が死亡したときや、最初に相続人となった人が相続放棄したときではありません。
ただし、専門家としては、被相続人が死亡したときや、家族・親族が相続放棄したときから3ヶ月以内に相続放棄すべきであると考えています。
なぜなら、「知ったとき」というのはあくまで主観的なものなので、争点となったときに明らかにできるとは限らないからです。
相続放棄の期間の起算点は、厳密に検討するととても難しい問題です。
詳細はこちらの特設記事で解説していますので、相続放棄の期間で心配な方はご参照ください。
なお、相続放棄の期限は3ヶ月と短いため、裁判所に申立てることによって延長することができます。
また、相続放棄の期限が切れてしまっても、相続放棄が認められることもあります。
相続放棄の手続きが間に合わない!という方や、期限が既に過ぎてしまった・・・という方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
3章 借金を相続放棄するか判断する際の注意点
借金を相続放棄する場合、注意点があります。
以下で確認していきましょう。
3-1 借金だけを相続放棄することはできない
相続放棄は、借金だけでなく、プラスの財産(現金・預貯金、不動産、株式など)も放棄する制度です。
よって、借金だけ逃れて、プラスの財産だけ受け取るといった都合の良いことはできませんのでご注意ください。
3-2 相続放棄を撤回することはできない
一度行った相続放棄は原則的に撤回できません。後に借金以上の資産があることが判明したなどの事情があっても裁判所には通用しないのです。
相続放棄を行う際には、慎重に検討するようにしましょう。
ただし、例外的に、詐欺にあったり強迫されたりしたために相続放棄した場合には、相続放棄を取り消せることがあります。
3-3 相続放棄をしても死亡した人の借金の保証人から外れることはできない
被相続人の借金について相続人が保証していた場合、相続放棄が認められても保証人から外れることはできません。
なぜなら、被相続人の借金を相続するということ(相続人であるという立場)と、被相続人の借金を保証するということ(保証人であるという立場)は、全く別物であるからです。
残念ながらこのような場合は、裁判所に相続放棄が認められても、保証人としての借金を負担しなければならないということになります。
例えば、親の借金の保証人に子がなっている場合、相続放棄によって、親の相続人という立場から外れることはできますが、保証人という立場から外れることはできないのです(つまり、保証人としての責任は残ることになります。)。
保証人としての責任を逃れるためには、自己破産手続や個人再生手続などの債務整理手続を行うことが一般的です。相続手続・債務整理手続をどちらも専門に扱っている事務所に相談するようにしましょう。
なお、本サイトを運営しているグリーン司法書士法人は、相続・債務整理について年間それぞれ1000件以上の問合せを頂いております(平成30年度)。
相談は無料で行っておりますので、こちらからお気軽にお問合せください。
3-4 借金だと思ったら過払金だという可能性もある
最近テレビCM、広告などで過払金が話題になっています。
過払金とは、利息制限法で定められた利率を上回る違法な利率で借金をした場合に、取り戻すことができる払いすぎた利息のことを指します。
お金を借りる人は、社会的には弱者であることが多いので、貸金業者やクレジット会社などがその弱みに付け込んで暴利を得ることを防ぐために、利息制限法という法律で利率の上限が定められているのです。
過払金が発生しているかどうかは、業者から取引履歴を取り寄せたうえで、利息制限法にしたがって計算しなければ判明しません。
なぜなら、業者は過払金が発生していても、そのことを親切に通知してくれないからです。それどころか、過払金が発生していても、借金が残っているものとして督促をしてくることも頻繁にあります。
平成22年6月18日より前に契約をしている場合、過払金が発生している可能性があります。
借金を放棄したと喜んでいたら、実は過払金を放棄してしまっていた・・・というようなことにならないように、古い契約に基づく借金を見つけた場合は、相続放棄の前に司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
4章 そもそも借金があるかないかわからない場合の対策
相続放棄をするか判断する以前に、被相続人に借金が存在するか明らかでないケースもあります。
なぜなら、借金にはネガティブなイメージがあるため、なかなか家族に打ち明けられず、そのまま亡くなってしまうというケースが多いからです。
このような場合には、できるだけ相続放棄の期限内に速やかに借金に関して調査を行わなければなりません。
4-1 遺品を徹底的に調べよう
まずは被相続人の遺品を、徹底的に調べましょう。
郵便物だけでなく、通帳の記載も大きな手がかりとなります。
4-2 指定信用情報機関に照会しよう
指定信用情報機関(いわゆるブラックリストと呼ばれているもの)の情報を取り寄せると、借金の有無が判明することがあります。
指定信用情報機関を運営する団体は3種類あります。
・株式会社シー・アイ・シー(略称:CIC)
https://www.cic.co.jp/index.html
・株式会社日本信用情報機構(略称:JICC)
https://www.jicc.co.jp/
・一般社団法人全国銀行協会(全国銀行個人信用情報センター)
https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
各HPに情報の取り寄せ方が記載されていますので、ご確認ください。
4-3 限定承認を利用することを検討しよう
借金の存在が明らかにならなかったが、それでも不安だという場合には限定承認を利用しましょう。
限定承認とは、相続したプラスの財産の範囲内で、借金を支払えば良いという制度です。
限定承認の手続をすれば、後に大きな借金が判明したとしても、相続したプラスの財産の金額だけしか責任を負いません。
例えば、相続したプラスの財産が1000万円である場合、後に4000万円の借金が判明したとしても、1000万円を支払えば、残りの3000万円の借金については支払う必要がありません。
しかし、一見メリットばかりのこの限定承認という制度は極めて複雑です。
詳細はこちらの記事で解説していますので、興味がある方は参考にしてください。
5章 借金を相続放棄する流れ
借金を相続放棄するためには、裁判所に対して相続放棄の手続を行わなければなりません。
世間一般で相続放棄と呼ばれるものには2種類あります。
借金を相続放棄する流れは次の通りです。
5-1 必要な書類を収集しよう
相続放棄は厳格な裁判手続であるため、決められた書類をきっちりと集めなければなりません。
必要な書類の一覧は、次の表の通りとなっています。
※住民票除票のサンプル
※除籍附票のサンプル
※戸籍のサンプル
各書類の取得方法や詳細なポイントは、こちらの記事で解説しています。
ケースごとにわけて説明していますので、気になる方は確認してみてください。
5-2 相続放棄申述書を作成しよう
次に、相続放棄申述書を作成する必要があります。
雛形を載せますのでご確認ください。
この雛形は、裁判所のHPからダウンロードすることが可能です。
収集した必要書類などを参照しながら記入していきましょう。
詳細な相続放棄申述書の記載方法は、こちらの記事で案内しています。ぜひ参考にしてみて下さい。
5-3 相続放棄申述書と収集した必要書類を裁判所に提出しよう
書類がそろったら、裁判所に相続放棄の申立を行います。
提出先は、被相続人の最後の住所(死亡時の住所)を管轄している家庭裁判所です。
裁判所のHPから管轄を確認しましょう。
申立方法としては、家庭裁判所に直接提出しても、郵送で提出しても問題ありません。
ただし、郵送で行う際には、到着確認ができるように、レターパックなどの封筒を用いるようにしましょう。なぜなら、郵便事故によって期間内に相続放棄ができなかったとしても、裁判所はそのような事情を考慮してくれないからです。
また、一定金額の郵便切手を裁判所に提出する必要があるので、あらかじめ管轄の裁判所に確認しておきましょう。
5-4 裁判所から到達する照会書に回答しよう
裁判所に相続放棄を申立ててからしばらくすると、照会書・回答書が裁判所から到達します。(裁判所の判断により、事案によっては到達しないこともありますので、その場合はこの部分は読み飛ばしてください。)
各裁判所で多少記載内容は異なりますが、おおよそ次のような内容が記載されています。
相続放棄は、相続人でなくなるという大きな法的効果を生じさせるものである一方で、一度認められると原則的に撤回できません。
よって、本当に本人の意思で相続放棄を行っているかを調査するために、このような書面が送られてくるのです。
回答書を記入し、裁判所に提出しましょう。
5-5 相続放棄申述受理通知書の到着を待とう
相続放棄が裁判所に認められれば、裁判所から相続放棄申述受理通知書が到着します。
この書面も裁判所によって多少の差異がありますが、おおよそ次のような内容です。
これで相続放棄の手続きは終了です。
6章 困ったら専門家に相談しよう
何か迷ったり困ったりすることがあれば、必ず専門家である司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
なぜなら、相続放棄には今までみてきたような様々なポイントや注意点があるからです。
たしかに相続放棄は、法的手続の中では難易度が低い部類に属します。
しかしそれは、相続放棄自体が比較的簡単なだけであって、相続放棄をすべきかどうかという判断が簡単なわけではありません。
専門家であれば、相続放棄だけではなく、様々な角度からあなたに適した解決方法を提案することが可能です。
相続放棄を専門家に依頼した場合の報酬は、事案によりますが、35000円~80000円が相場でしょう。手続き中は相続全般についても相談できますし、相続放棄を失敗して大きな借金を抱えてしまうリスクもなくなります。
本サイトを運営しているグリーン司法書士法人は、相続に関する相談は無料でおこなっております。事前にご予約いただければ相続放棄に関して電話での無料相談も承っていますので、ご遠慮なくお問い合わせください。
無料相談はこちら
7章 借金の相続放棄でよくあるQ&A
ここでは、今までの依頼者から実際にいただいた質問を掲載します。
よくある質問ですので、参考にしてみてください。
相続放棄をしたのに請求書が届いた。どうすれば良いの?
裁判所から相続放棄申述受理証明書を取得し、請求書の発送元へ送付しましょう。
相続放棄を行っても、裁判所は債権者に通知してくれません。
相続放棄申述受理証明書の交付申請書は、裁判所から到達した相続放棄申述受理通知書に同封されています。
もし同封されていない場合は、こちらに雛形・記入例もありますのでご活用ください。
消費者金融・銀行やクレジットカード以外の借金は支払わないといけないの?
相続放棄をすると、全ての借金から逃れることができます。借金の種類に例外はありません。
個人からの借入れ、携帯電話料金、未納医療費、家賃債務、税金、NHK受信料、損害賠償債務及び慰謝料など、全ての借金を相続せずに済ませることが可能です。
借金は相続したくないがどうしてもプラスの財産は相続したい。良い手段はないの?
4章で触れた限定承認を利用すべきケースの可能性があります。
あるいは、個人再生手続を利用して相続した借金を圧縮できるかもしれません。
こういったケースは専門知識を元に個別具体的に検討する必要がありますので、必ず専門家に相談しましょう。
相続放棄のことはだいたい分かったけれども、やっぱり自分ではどうしたらよいかわからない。
そのための専門家です。最近は無料相談を行っている事務所も多く見られますので、司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。
自己破産をした人は相続放棄しないとダメ
自己破産をしても相続放棄する必要はなく、遺産相続をしても問題ありません。
ただし、破産手続開始決定前に遺産を相続すると、自己破産の手続きにより遺産を処分しなければならない恐れがあります。
よくあるご質問
相続放棄したらどうなる?
相続放棄をすれば、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しなくなります。
相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったという扱いになります。
▶相続放棄について詳しくはコチラ自己破産と相続放棄の違いとは?
自己破産とは裁判所で手続きを行い「自分の」借金の返済義務を免除してもらう手続きです。
それに対し、相続放棄とは「亡くなった人の」借金の返済義務を放棄する手続きです。自己破産した人が亡くなるとどうなる?
自己破産の手続き中に本人が亡くなった場合、自己破産の手続きが中断されてしまいます。
受遺者や相続人などが申立てをすれば、手続きを続けられる可能性があります。親が亡くなると、親が遺した借金はどうなる?
親が亡くなると、遺された配偶者や子供などの相続人が借金の返済義務を受け継いでしまいます。
借金を受け継ぎたくない場合は、相続放棄の申立てをしなければなりません。