住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は併用できる!注意点は?

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司法書士日野 修亮

 監修者:日野 修亮

この記事を読む およそ時間: 7
 この記事を読んでわかること

  • 住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は併用できるか
  • 住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用した方が良いケース
  • 住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用したときの贈与税を計算する方法

住宅取得資金贈与とは、親や祖父母から子供や孫に住宅資金を贈与した場合、最大1,000万円まで贈与税を非課税にできる制度です。

相続時精算課税制度も、親や祖父母などから子供や孫に贈与したときに利用できる制度ですが、こちらは非課税枠が2,500万円であり、贈与目的に決まりはありません。

住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は併用可能であり、多額の贈与税を節税できる可能性があります。ただし、それぞれの制度には適用要件が定められているので贈与の際には要件を満たしているか確認しておきましょう。

本記事では、住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は併用できるのか、併用した方が良いケースを解説していきます。
贈与税については、下記の記事でも詳しく解説しているので、あわせてお読みください。

【2024年最新版】贈与税の基礎知識|改正内容や計算方法とは

1章 住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は併用できる

贈与税の節税対策に使える住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は、併用可能です。
2つの制度を併用すれば、多額の贈与税を節税できます。

2つの制度を併用するための条件は特に設定されておらず、それぞれの制度の要件を満たせば併用可能です。
それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。

1-1 住宅取得資金贈与とは

住宅取得資金贈与とは、親や祖父母などの直系尊属から子供や孫などの直系卑属に住宅資金を贈与した場合、最大1,000万円まで贈与税を非課税にできる制度です。
非課税枠は、取得する住宅によって下記のように決められています。

住宅の種類非課税枠の上限
省エネ等住宅1,000万円
それ以外の住宅500万円

また、住宅取得資金贈与を適用するには、下記の要件を満たさなければなりません。

  • 贈与を受ける時点で、贈与を受けた人が直系卑属であること
  • 贈与を受ける人が、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
  • 贈与を受ける人の所得が、贈与を受けた年において年間合計2,000万円以下であること
  • 平成21~令和3年分までの贈与税の申告において、「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていないこと
  • 取得しようとしている家屋が、贈与を受ける人の配偶者や親族などの関係者からの取得ではないこと ※新築や増改築の場合は、関係者との請負契約等ではないこと
  • 贈与を受ける場合、贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅取得等資金の全額を住宅用の家屋の新築等に充てること
  • 贈与を受ける人が、贈与を受ける時点で日本国内に住所があること
  • 贈与を受ける翌年の3月15日までに、その家屋に居住すること。またはその家屋に居住することが確実であること

(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

加えて、住宅取得資金贈与を用いて購入、建築する住宅についても住宅の種類に応じた条件を満たす必要があります。
住宅取得資金贈与については、下記の記事でも詳しく解説しています。

住宅資金贈与の税金はタイミングが大事!申告方法や注意点とは?

1-2 相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母などの直系尊属から18歳以上の子供や孫などの直系卑属に贈与したときに利用できる制度です。
相続時精算課税制度は、贈与の目的が限定されておらず、非課税枠も2,500万円と多いです。

ただし、相続時精算課税制度を利用して贈与した場合、贈与者が亡くなったときに贈与財産を相続税の課税対象に含めなければなりません。
そのため、贈与税の節税効果は大きいものの相続税の直接的な節税効果は少ないことを理解しておきましょう。

2024年から相続時精算課税制度に基礎控除が追加されました

2024年からは、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が追加されました。
基礎控除内の贈与であれば、贈与税もかかりませんし、贈与者が亡くなったときに相続税の課税対象となることもありません。

基礎控除が追加されたことで、贈与税および相続税の節税をしやすくなったといえるでしょう。
一方で、贈与税や相続税の計算が複雑になるので、相続時精算課税制度を利用するときには、相続に詳しい税理士に相談することを強くおすすめします。

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2章 住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用した方が良いケース

住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用すれば、多額の贈与税を節税できる可能性があります。
住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用した方が良いケースは、主に下記の通りです。

  1. 最大3,610万円の節税効果を得たいケース
  2. 住宅建築用の土地を現物で贈与したいケース
  3. 土地を取得してから住宅建築まで時間が空くケース

それぞれ詳しく解説していきます。

2-1 最大3,610万円の節税効果を得たいケース

住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用すれば、1年間で最大3,610万円の贈与を非課税にできる可能性があります。
住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度の非課税枠の内訳はそれぞれ下記のとおりです。

住宅取得資金贈与1,000万
相続時精算課税制度
  • 非課税枠2,500万円
  • 基礎控除110万円/年

相続時精算課税制度には、2024年から年間110万円の非課税枠が追加されました。
そのため、長期にわたり相続時精算課税制度で贈与を繰り返せばその分だけ節税効果を大きくできます。

多額の資産を有しており、贈与税や相続税対策として子供や孫に贈与したい場合は、2つの制度を併用しても良いでしょう。

2-2 住宅建築用の土地を現物で贈与したいケース

親や祖父母が土地を所有しており、子供や孫に住宅を建築するために贈与したい場合は、住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用することを検討しましょう。

住宅取得資金贈与は、あくまで取得資金の贈与にかかる贈与税を非課税にできる制度であり、土地の現物贈与には適用できません。
一方で、相続時精算課税制度であれば、贈与財産の子種類に制限がないので、土地の贈与も可能です。

結論としては、贈与財産の種類ごとに贈与税の非課税措置を下記のように使い分ければ、最大限の節税効果を得られます。

住宅取得資金贈与建物の購入・建築資金(現金や預貯金を贈与する)
相続時精算課税制度
  • 土地などの現物
  • 住宅取得資金贈与で非課税にしきれなかった住宅取得費用
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2-3 土地を取得してから住宅建築まで時間が空くケース

土地を購入してから住宅を建築するまでに期間が空いてしまうケースも、住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用するのがおすすめです。
住宅取得資金贈与は、土地の購入費用にも活用できますが、贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅を建築し住み始める必要があるからです。

例えば、条件が最高の土地が売りに出されたので買っておきたい、実家の近居で土地が売り出されたので買っておきたいなどといったケースでは、住宅取得資金贈与ではなく相続時精算課税制度で土地の取得資金を贈与しましょう。
相続時精算課税制度を利用すれば、居住期限を気にすることなく、落ち着いてハウスメーカー選びや間取り選びなどを行えるはずです。
住宅建築費用をあらためて贈与したいのであれば、建築時に住宅取得資金贈与を活用すれば贈与税の節税効果を最大にできます。


3章 住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用したときの贈与税を計算する方法

住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用した場合、贈与税の計算方法が複雑になるので注意しなければなりません。
具体例と共に計算方法を見ていきましょう。

【具体例】

  • 65歳の父から4,500万円、65歳の母から1,500万円を住宅取得資金として贈与を受けた
  • 受贈者の年齢は35歳であり、住宅取得資金贈与の収入要件は満たしており、過去に同制度を利用していない
  • 贈与を受けた同月に、受贈者は省エネ等住宅以外の住宅用の家屋を取得した
  • 両親共に相続時精算課税制度を選択しており、父の贈与については住宅取得資金贈与も適用する

上記の場合の父からの贈与にかかる贈与税および母からの贈与にかかる贈与税の計算方法を見ていきましょう。

3-1 【住宅取得資金贈与・相続時精算課税制度の併用】父からの贈与にかかる贈与税を計算する方法

父からの贈与は、住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用しています。
最初に、住宅取得資金贈与を適用するため課税対象額は「4,500万円−1,000万円=3,500万円」と計算可能です。

そして、課税対象額は相続時精算課税制度を用いて税額を算出します。
計算の流れは、下記の通りです。

  1. 相続時精算課税制度の非課税枠・基礎控除を適用する:3,500万円−2,500万円−110万円=890万円
  2. 税額を計算する:890万円×20%=178万円

相続時精算課税制度の非課税枠は2,500万円であり、超えた分については一律20%で贈与税を計算します。
また、相続時精算課税制度の基礎控除として、非課税枠とは別に毎年110万円を控除できます。

3-2 【相続時精算課税制度のみ適用】母からの贈与にかかる贈与税を計算する方法

父からの贈与に対して住宅取得資金贈与を適用したため、母からの贈与は相続時精算課税制度を利用して贈与税を計算します。
なお、相続時精算課税制度は贈与者ごとに設定できるため、父と母両方に対して適用できます。

過去に母親から相続時精算課税制度を利用して贈与を受けていない場合は、非課税枠2,500万円>贈与額1,500万円なので贈与税はかかりません。


4章 住宅取得資金贈与と相続時精算課税を併用するときの注意点

相続時精算課税制度は、住宅取得資金贈与よりも非課税枠が大きいですが、贈与者が亡くなったときに贈与財産を相続税の計算対象に含めなければなりません。
住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度を併用するときには、下記に注意しましょう。

  • 相続時精算課税制度は贈与者が死亡時に相続税の計算対象となる
  • 住宅取得資金贈与は居住要件がある
  • 贈与税がかからなくても贈与税の申告が必要な場合がある
  • 土地を贈与するときには名義変更手続きが必要である
  • 相続人に対して贈与するときは特別受益の持ち戻し対策をしておく

それぞれ詳しく見ていきましょう。

4-1 相続時精算課税制度は贈与者が死亡時に相続税の計算対象となる

相続時精算課税制度は贈与者が亡くなったときに、贈与財産を相続税の計算対象に含めなければなりません。
相続時精算課税制度は贈与税の節税効果は大きいものの、相続税については節税効果が少ないと理解しておきましょう。

相続時精算課税制度を利用した贈与財産を相続税の申告に含めないでいると、過少申告となってしまいペナルティを課せられるのでご注意ください。

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4-2 住宅取得資金贈与は居住要件がある

住宅取得資金贈与は、受贈者や取得する住宅についての条件だけでなく、居住要件もあるのでご注意ください。
具体的には、住宅取得資金贈与を使用した場合、贈与を受けた翌年の3月15日までに取得した住宅に住まなければなりません。

居住期限は「贈与を受けた翌年の3月15日」であり、年末に贈与を受けた場合や先に土地を購入して後から建物を建築する場合などはスケジュールがタイトになる恐れもあります。

4-3 贈与税がかからなくても贈与税の申告が必要な場合がある

住宅取得資金贈与を適用した結果、贈与税がかからなかったとしても申告をしなければなりません。
贈与税の申告をしないでいると、住宅取得資金贈与を適用できなくなる上に贈与税の無申告などのペナルティが発生します。

贈与税の申告期間および必要書類は、下記の通りです。

申告期間贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日
必要書類
  • 贈与税の申告書
  • 戸籍謄本
  • 確定申告書や源泉徴収票
  • 新築や取得の契約書の写し
  • 個人番号カードなどの本人確認書類

贈与税の申告については、下記の記事もあわせてお読みください。

贈与を受けると申告が必要?申告・節税方法や相続税との違い

4-4 土地を贈与するときには名義変更手続きが必要である

子供や孫の住宅建築用として土地を贈与した場合には、贈与税の申告だけでなく名義変更手続きもしなければなりません。
不動産の名義変更手続きは法務局にて登記申請を行います。

登記申請の流れは、下記の通りです。

  1. 必要な書類を収集し、登記申請書を作成する
  2. 不動産の所在地を管轄する法務局へ登記申請書一式を提出し、登録免許税を納付する
  3. 間違いの訂正や追加書類の要請に対応する
  4. 登記識別情報通知を受領する

贈与による登記申請の場合に必要な書類や手続き方法は、主に下記の通りです。

申請する人贈与者と受贈者の共同申請
申請先不動産の所在地を管轄する法務局
費用
  • 登録免許税(固定資産税評価額の2%)
  • 司法書士への報酬(5万円程度)
必要書類
  • 登記識別情報通知(登記済権利証)
  • 贈与する人の印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
  • 贈与を受ける人の住民票
  • 固定資産評価証明書または課税明細書(名義変更する年度のもの)
  • 登記原因証明情報(司法書士が作成する書類または不動産贈与契約書)
  • 登記申請書

登記申請は自分たちで行うこともできますが、司法書士に数万円程度で依頼も可能です。
グリーン司法書士法人でも生前贈与や登記申請についての相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。

不動産の生前贈与における手続きの流れと必要書類を徹底解説!

4-5 相続人に対して贈与するときは特別受益の持ち戻し対策をしておく

子供や養子縁組した孫など相続人に対して贈与をするときには、特別受益の持ち戻し対策をしておきましょう。
特別受益とは、ある相続人が故人から特別に受け取っていた利益です。

生前贈与が特別受益として認められると、過去の贈与も含めて遺産分割の割合を決定しなければならない恐れがあります。
過去に行った生前贈与を特別受益に含めない場合は、遺言書などで「特別受益の持ち戻し」を主張しなければなりません。

このように、生前贈与を行う際には将来発生する相続についても考慮しなければなりません。
相続対策は生前贈与と遺言書の作成など複数組み合わせて行うことが一般的なため、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。

特別受益の持ち戻し免除とは?持ち戻し免除の方法や注意点について
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まとめ

住宅取得資金贈与と相続時精算課税制度は併用可能であり、併用すれば多額の贈与税を節税できる可能性があります。
両制度の併用にあたり特別な条件はありませんが、それぞれの制度の適用要件を満たさなければならないのでご注意ください。

また、相続時精算課税制度は贈与税の節税効果は大きいものの相続税の節税効果は少ない点にも注意しなければなりません。
加えて、土地を現物で贈与する場合は贈与税の申告だけでなく、土地の名義変更手続きも必要です。

グリーン司法書士法人では、生前贈与についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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