法務局による自筆証書遺言の保管制度とは、作成した自筆証書遺言を法務局で預かってくれる制度です。
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、自筆証書遺言も公正証書遺言と同様に、紛失や改ざんリスクをなくせるなどのメリットがあります。
一方で、法務局は保管時に自筆証書遺言が要件を満たしているかの確認はしますが、遺言書の内容自体は確認しない点などに注意が必要です。
紛失や改ざんリスクだけでなく、内容的にも問題のない遺言書を作りたいのであれば、公正証書遺言の作成を司法書士や弁護士に依頼するのが良いでしょう。
本記事では、法務局による自筆証書遺言の保管制度とは何か、利用するメリットやデメリットについて解説します。
自筆証書遺言については、下記の記事でも詳しく解説しているのでご参考にしてください。
目次
1章 法務局による自筆証書遺言の保管制度とは
法務局による自筆証書遺言の保管制度とは、作成した自筆証書遺言を法務局で預かってくれる制度です。
従来であれば、自筆証書遺言を作成した後は自分で保管する必要があり、紛失や改ざんリスクがありました。
紛失や改ざんリスクをできるだけ排除しようと、仏壇の奥に隠しておいたり、親戚に預けたりすると、遺言者が亡くなった後、遺族が遺言書を発見しないまま遺産分割協議や相続手続きが行われる可能性もありました。
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、紛失や改ざんリスクをなくせる、遺言者が死亡すると相続人に遺言の存在を連絡してもらえるなどのメリットがあります。
次の章では、法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用するメリットを詳しく見ていきましょう。
2章 自筆証書遺言の保管制度を利用するメリット
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、紛失や改ざんリスクをなくせる、自分が亡くなった後、相続人に遺言書の存在を伝えてもらえるなどのメリットがあります。
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用するメリットは、主に下記の4つです。
- 遺言書の紛失・改ざんリスクをなくせる
- 相続発生時に相続人に遺言の存在を連絡してもらえる
- 家庭裁判所での検認手続きが不要
- 法務局による遺言書の形式チェックを受けられる
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 遺言書の紛失・改ざんリスクをなくせる
自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、遺言書を自分で保管する必要がなく、紛失や改ざんリスクをなくせます。
従来であれば、遺言書の紛失や改ざんリスクをなくしたいのであれば、公正証書遺言を作成するしかありませんでした。
法務局による保管制度が開始されたことにより、遺言書を自宅で保管する、信頼できる人に預ける以外の選択肢が生まれたのは大きなメリットといえるでしょう。
2-2 相続発生時に相続人に遺言の存在を連絡してもらえる
自筆証書遺言の保管制度を利用すると遺言者が亡くなった際に、あらかじめ指定しておいた相続人などに遺言書が法務局で保管されていることを連絡してもらえます。
そのため、法務局の保管制度を利用すれば遺言書の紛失や改ざんリスクをなくせるだけでなく、保管した遺言書が相続人に発見されず放置されたまま相続手続きが行われるリスクもなくなります。
2-3 家庭裁判所での検認手続きが不要
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用した場合は、相続発生後の家庭裁判所での検認手続きを行う必要がありません。
検認手続きとは、遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出して、相続人立会のもと開封し、遺言書の内容を確認することです。
従来では公正証書以外の「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」は、家庭裁判所による検認手続きが必要でした。
万が一、相続人が遺言書を勝手に開封する、検認手続きをせず遺言内容を実行すると5万円以下の過料に処せられてしまいます。
法務局による保管制度を利用すれば、自筆証書遺言の検認手続きも不要になり、遺族の負担を減らせるメリットがあります。
2-4 法務局による遺言書の形式チェックを受けられる
法務局による遺言書保管制度を利用すると、申請時に作成した自筆証書遺言が形式的な要件を満たしているか確認してもらえます。
自筆証書遺言には下記の要件が定められており、要件を満たしていないものは効力を持たず無効になってしまいます。
- 遺言者が自筆で全文書く
- 作成日を自筆で書く
- 署名する
- 印鑑を押す
- 決められた方法で訂正する
法務局で上記の要件を満たしていることを確認した上で保管してもらえるので、自筆証書遺言のリスクのひとつである形式不備による無効リスクを減らせます。
3章 自筆証書遺言の保管制度を利用するデメリット
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用すると、形式的な要件を満たしているかの確認はしてもらえますが、一方で遺言書の内容そのものは確認してもらえません。
他にも、保管制度の申請は遺言者自身が法務局にて行う必要があり、郵送や大理での手続きは認めてもらえません。
自筆証書遺言の保管制度を利用するデメリットは、下記の通りです。
- 遺言書の内容は確認してもらえない
- 遺言者が法務局にて申請する必要がある
- 決められた方法で遺言書を作成する必要がある
- 相続人は遺言者が亡くなるまで遺言書の内容を確認できない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
3-1 遺言書の内容は確認してもらえない
保管制度の申請をすると形式的な要件を満たしているか法務局に確認してもらえますが、遺言書の内容そものについては確認してもらえません。
そのため、偏った内容の遺言書を作成している場合、遺留分トラブルが発生する恐れがあります。
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親などに認められている遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は遺言より優先されるので「全財産を愛人に相続させる」などの遺言書は、故人の配偶者や子供が愛人に対し遺留分侵害額請求をする可能性があります。
法務局では、遺言内容に関する指摘やアドバイスをしてくれることはありません。
「希望する人物に確実に財産を遺したい」「相続トラブルをなくしたい」などの目的で遺言書を作成するのであれば、遺言書に記載する内容について相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
自筆証書遺言は自分1人で気軽に作成できるメリットがある一方で、内容によっては解釈が複数考えられることになり、相続手続きに支障をきたす、遺留分を侵害している遺言書となる恐れがあります。
誰が見てもわかる内容の遺言書を作成したいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談し公正証書遺言を作成するのが確実です。
また、遺言内容を確実に実現してもらいたいのであれば、遺言書の作成とともに遺言執行者を選任しましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するための相続手続きを単独で行う義務・権限を持つ人です。
遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を遺言執行者として選任しておけば、自分が亡くなった後の遺産分割手続きまで一括で任せられます。
3-2 遺言者が法務局にて申請する必要がある
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用する際には、遺言者本人が法務局に行き申請しなければなりません。
- 郵送での申請
- 専門家や家族による代理申請
上記は行えないので、ご注意ください。
そのため、高齢で身体を悪くしている人の中には法務局に行くことが難しく、保管制度を利用できない人もいるでしょう。
万が一、法務局に行くことができず保管制度を利用できないとお悩みの場合は、公正証書遺言を作成するのがおすすめです。
公正証書遺言は公証役場で作成するのが一般的ですが、本人が入院中のケースなどでは公証人による出張での作成も可能です。
また、全国各地の法務局で自筆証書遺言の保管制度を取り扱っているわけではなく、「遺言書保管所」に該当する法務局でしか申請できません。
さらに、遺言書保管所の中でも、保管申請を行えるのは下記に該当するもののみです。
- 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者の所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所
お住いの地域や本籍地によっては、近くに遺言書の保管を扱っている法務局がなく、手続きに手間がかかると感じる人もいるでしょう。
3-3 決められた方法で遺言書を作成する必要がある
法務局で保管制度を利用できる自筆証書遺言は、決められたルールに従って作成しなければなりません。
保管制度を利用するには、下記の条件を満たして自筆証書遺言を作成する必要があります。
- A4サイズの片面のみに記載する
- 余白(上部5mm、下部10mm、左右5mm)を設ける
- 各ページにページ番号を記載する
- 複数ページにわたる場合でもホッチキスなどで綴じない
通常の自筆証書遺言の要件に加えて、上記の条件も設定されているのでご注意ください。
なお、法務局のホームページには保管制度を利用する際の自筆証書遺言の用紙例や見本が用意されていますので、ご参考にしてください。
3-4 相続人は遺言者が亡くなるまで遺言書の内容を確認できない
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用した場合、遺言者が亡くなり相続が発生するまで相続人は遺言書の内容を確認できません。
遺言者がどのような内容の遺言書を作成したかは、本人に内容を聞き信じるしかありません。
4章 自筆証書遺言の保管制度を利用する流れ
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用するには、遺言書を作成した後に法務局にて申請予約、手続きなどをする必要があります。
具体的な流れは、下記の通りです。
- 自筆証書遺言を作成する
- 法務局にて申請予約をする
- 申請書を作成する
- 遺言者が法務局で申請手続きをする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
STEP① 自筆証書遺言を作成する
まずは、自筆証書遺言を作成しましょう。
自筆証書遺言では、署名や押印だけでなく全文を自著で作成しなければなりません。
また、保管制度を利用する場合は紙のサイズや余白、ホッチキス留めをしないなどのルールも守らないといけないのでご注意ください。
自筆証書遺言作成時のルールは、主に下記の通りです。
【自筆証書遺言の要件】
- 遺言者が自筆で全文書く
- 作成日を自筆で書く
- 署名する
- 印鑑を押す
- 決められた方法で訂正する
【保管制度を利用する際の条件】
- A4サイズの片面のみに記載する
- 余白(上部5mm、下部10mm、左右5mm)を設ける
- 各ページにページ番号を記載する
- 複数ページにわたる場合でもホッチキスなどで綴じない
STEP② 法務局にて申請予約をする
自筆証書遺言の作成が完了したら、法務局にて保管制度の申請予約を入れましょう。
遺言書を保管できるのは、下記の法務局となっています。
- 遺言書の住所地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所
遺言書保管所への予約は、オンラインでの予約もしくは電話、窓口で行えます。
予約する際には、下記の点にご注意ください。
- 当日の予約は不可
- 午前中は翌業務日以降の予約、午後は翌々業務日以降の予約が可能
- 30日先までの予約が可能
- オンラインで予約した場合のみ前業務日までであれば、予約日時の変更やキャンセルが可能
- 予約は1人につき1つ必要(夫婦それぞれが遺言書の保管制度を利用するのであれば、2件の予約が必要)
STEP③ 申請書を作成する
予約が完了したら、申請書を作成しましょう。
保管制度を利用する際には、申請書の他に下記の添付書類が必要です。
- 遺言書
- 保管申請書
- 住民票の写し(本籍および筆頭者の記載があるもの、マイナンバーの記載は不要)
- 遺言書の日本語による翻訳文(遺言書を外国語で作成した場合)
- 顔写真付きの身分証明書(運転免許証やマイナンバーカード)
- 手数料(1通につき3,900円)
STEP④ 遺言者が法務局で申請手続きをする
予約した日時が来たら、遺言者本人が予約先の遺言書保管所に行き申請手続きを行いましょう。
遺言書や申請書などに不備がなければ、原則として即日処理が完了します。
手続きが完了すると、法務局から保管証をもらえるので大切に保管しましょう。
保管証には、下記の内容が記載されています。
- 遺言者の氏名
- 出生の年月日
- 手続きを行った遺言書保管所の名称および保管番号
保管証をコピーして家族に渡しておけば、遺言書の保管制度を利用していることや相続発生後に相続人が遺言書の内容を確認しやすくなります。
また、保管した遺言書の閲覧や撤回、変更をする際にも保管証に書かれた情報があると非常に便利です。
保管証は再発行されないので、大切に保管しておきましょう。
5章 相続発生後に相続人が遺言書を確認する方法
遺言者が亡くなり相続発生後であれば、相続人が遺言書の内容を確認可能です。
なお、遺言書はデータで保管されいてるものを閲覧するため、遺言者が申請した法務局に限らず全国各地の法務局で確認できます。
ただし、相続人が遺言書の内容を確認する際には、申請書の提出や法務局への事前予約が必要なのでご注意ください。
相続発生後に相続人が遺言書の内容を確認し、相続手続きに使用できる「遺言書情報証明書」を交付してもらう方法および必要書類は、下記の通りです。
手続きできる人 | 相続人受遺者遺言執行者上記の人物の親権者や後見人などの代理人 |
手続き先 | 全国各地の遺言書保管所 (法務局HPにて確認可能) |
費用 | 収入印紙1,400円分郵便切手代(郵送請求の場合) |
必要書類 | 交付申請書法定相続情報一覧図の写し(あれば)顔写真付きの身分証明書(運転免許証やマイナンバーカードなど)【法定相続情報一覧図の写しがない場合】故人が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本類相続人全員の戸籍謄本相続人全員の住民票の写しなど |
上記のように、遺言書情報証明書を交付してもらう際には、故人の生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本類や相続人と故人の関係を証明する書類などが必要です。
平日日中は仕事をしていて書類収集が難しい人などは、相続に詳しい司法書士や行政書士に書類収集や手続きを依頼するのが良いでしょう。
まとめ
法務局による自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、自筆証書遺言の紛失や改ざんリスクをなくせます。
また遺言者が亡くなり相続が発生すると、指定した相続人に遺言書が保管されていることを連絡してもらえます。
メリットが多い法務局による保管制度ですが、申請時には法務局が形式の確認をするのみで遺言書の内容そのものは確認してくれない点にご注意ください。
遺留分を考慮した遺言書を作成したい場合や自分の希望を正確に反映させた遺言書を作りたいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士に遺言書の作成をサポートしてもらうのが良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成に関する相談をお受けしています。
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