
- 相続対策で用いられる遺言書の種類
- 有効な遺言書の書き方・作成方法
- 遺言書の内容を実現してもらうための方法
相続対策で作成する遺言書には、①自筆証書遺言と②公正証書遺言と③秘密証書遺言があります。
ただし、これらの遺言書を作成すれば自分が亡くなった後のことについて何でも指定できるわけではありません。
遺言書で指定できる内容、できない内容は、法律によって決められているからです。
また、遺言書は種類ごとに作成時の要件も決められています。
したがって、要件を守った上で遺言書を作成することが非常に重要です。
本記事では、遺言書の種類ごとに効力を発揮させる書き方、作成方法や遺言内容を確実に実行してもらう方法を解説します。
1章 相続対策で用いられる遺言書とは?
相続対策で使用される遺言書は、①自筆証書遺言と②公正証書遺言と③秘密証書遺言があります。
また、遺言書で指定できることは、法律によって決められています。
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 相続対策で用いられる遺言書には3種類ある
相続対策で使用される遺言書は、①自筆証書遺言と②公正証書遺言と③秘密証書遺言があります。
ただし、秘密証書遺言は実務ではほとんど使用されていません。
それぞれの遺言書の特徴は、下記の通りです。
遺言書の種類 | 作成がおすすめな人 |
自筆証書遺言 | 遺言書の作成に費用をかけたくない人 |
公正証書遺言 | 信頼性が高い遺言書を作成したい人 |
秘密証書遺言 | 遺言の内容を誰にも知られたくない人 |
専門家目線でお伝えするのであれば、形式不備による無効リスクがほとんどなく、原本の紛失・改善リスクもない公正証書遺言を作成することをおすすめします。
1-2 遺言書で指定できること・できないこと
遺言書で指定できる内容については、法律で決められています。
遺言書に書いておけば、自分が亡くなった後のことをすべて指定できるわけではないのでご注意ください。
遺言書で指定できることは、主に下記の通りです。
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定と禁止
- 遺言によって財産を分与
- 寄付
- 特別受益の持ち戻し免除
- 相続人の廃除や取消し
- 子どもの認知
- 後見人の指定
- 遺言執行者の指定、指定の委託
- 祭祀承継者の指定
一方で、下記については指定しても効力を持たせられません。
- 養子縁組や離婚・結婚
- 家族への希望や感謝の気持ち
- 遺言者が経営していた事業の承継方法
- 遺体の処理方法
上記を理解した上で遺言書を作成しないと、せっかく作成しても遺言書が無効になる、本来の希望と違った形の相続になる恐れもあります。
次の章では、有効な遺言書の書き方や作成方法について詳しく解説していきます。
2章 有効な遺言書の書き方・作成方法
遺言書は種類ごとに作成要件が設定されているので、それらを満たした上で作成しなければなりません。
本章では、自筆証書遺言と公正証書遺言の書き方や作成方法を詳しく解説していきます。
2-1 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、すべて自著で作成する遺言書であり、作成時には下記の要件を満たさなければなりません。
- 遺言者が自筆で全文書く
- 作成日を自筆で書く
- 署名する
- 印鑑を押す
- 決められた方法で訂正する
上記の要件を満たした自筆証書遺言のサンプルは、下記の通りです。
作成した自筆証書遺言は、自分で保管するか法務局による保管制度を利用して保管する必要があります。
2-2 公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場にて公証人が作成する遺言書です。
自分ではなく公証人が作成するので形式不備による無効リスクがほぼないメリットがありますが、一方で作成には手間がかかります。
公正証書遺言作成時には、下記の要件をすべて満たす必要があります。
- 遺言能力のある者が作成している
- 遺言者が遺言内容を公証人に口頭で伝えている
- 公証人が遺言者に作成した公正証書遺言を読みきかせもしくは閲覧させている
- 遺言者、証人2人以上、公証人の全員分が署名・押印している
- 証人2人以上の立会いがあること
- 遺言書の内容が公序良俗に反する内容でないこと
公正証書遺言は公証人と共に作成手続きを進めるため、形式不備も起こりにくく要件を満たせず無効になってしまうリスクは少ないといえるでしょう。
公正証書遺言は公証人が遺言書を作成するため、形式不備による無効リスクが少ないのが特徴です。
しかし、公証人は遺言書の内容まで確認してくれるわけではないのでご注意ください。
そのため、遺言書の内容によっては公正証書遺言を作成したとしても、希望の実現ができなかったり、相続トラブルを誘発したりする恐れがあります。
例えば、偏った内容の遺言書を作成した場合、他の相続人の遺留分を侵害し、相続トラブルに発展してしまう可能性があります。
このようなケースでは、最大限の配慮を遺言内容に盛り込んでおかなければなりません。
したがって、公正証書遺言を作成するのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
3章 遺言書の内容を実現してもらうための3つの方法
自分が亡くなった後に遺言書に書かれた内容を確実に実行してもらうには、司法書士や弁護士に遺言書の作成を依頼する、遺言執行者になってもらうのがおすすめです。
具体的には、下記を行うのが良いでしょう。
- 遺言執行者を選任する
- 司法書士・弁護士に遺言書の作成を相談・依頼する
- 付言事項を記載する
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 遺言執行者を選任する
遺言内容を確実に実行してほしいのであれば、遺言執行者を選任しましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておけば、単独で遺産の名義変更手続きを行えますし、相続人に遺言書の内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人がなることもできますが、遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を選任すれば、作成時の意図や遺志も伝えてもらえます。
3-2 司法書士・弁護士に遺言書の作成を相談・依頼する
遺言書は自分で作成できますが、司法書士や弁護士に作成を依頼するのがおすすめです。
司法書士や弁護士に遺言書の作成を相談すれば、形式不備による無効リスクを最小限に抑えられます。
加えて、相続に精通した司法書士や弁護士であれば、下記の提案も可能です。
- 希望の遺産分割を実現できる遺言書の内容、文面の提案
- 遺言書作成と他の相続対策を組み合わせた提案
相続対策は遺言書の作成だけでなく、生前贈与や家族信託などいくつか方法があります。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるので、複数の相続対策を組み合わせることも珍しくありません。
しかし、相続対策を組み合わせそれぞれの手続きを行うには、専門的な知識や経験が必要です。
自分で行うのは難しいので、司法書士や弁護士に依頼することをおすすめします。
3-3 付言事項を記載する
遺言内容を確実に実行したいのであれば、遺言書作成当時の気持ちを遺族に伝えるために、付言事項も記載しておきましょう。
付言事項とは、遺言者の気持ちやこれまでの感謝を伝えるものであり、法的拘束力はありません。
しかし、付言事項を遺族が確認することで「こんな思いで遺言書を作っていたんだな」「遺志にしたがおう」と考えてくれる可能性が上がります。
4章 遺言書を作成するときの注意点
遺言書を作成するときには、形式不備による無効を避けなければなりません。
特に、自分で気軽に作成できる自筆証書遺言は形式不備による無効リスクが少なからずあるのでご注意ください。
遺言書作成時の注意点は、主に下記の通りです。
- 連名で作成した遺言書は無効になる
- ビデオレターや音声による遺言は無効になる
- 曖昧な表現を使うと相続人同士でトラブルに発展する恐れがある
- 予備的な内容も記しておく
- 遺留分は遺言内容より優先される
- 自筆証書遺言は検認手続きの手間がかかる
- 自筆証書遺言は紛失・改ざんリスクがある
- 相続開始時までに遺産を使ってしまっても残りの遺言内容は有効である
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 連名で作成した遺言書は無効になる
遺言書は一人ひとりが個別に作成する必要があり、夫婦や家族であっても連名で作成してしまうと無効になるのでご注意ください。
例えば、夫婦それぞれが「遺産は配偶者にすべて遺す」といった内容で遺言書を作成するとしても、夫と妻がそれぞれ遺言書を用意しなければなりまけん。
4-2 ビデオレターや音声による遺言は無効になる
自筆証書遺言はすべて自著で作成する必要があり、ビデオレターや音声による遺言は無効になるのでご注意ください。
遺族に気持ちを伝えたいからと考えても、絶対にやめましょう。
一方、ビデオレターや音声データの作成は、遺言者の当時の様子がわかる、遺族に気持ちを伝えやすいという点では優れています。
遺言書作成当時に遺言者が認知症でなかったことを証明する、言葉で伝えきれない思いを遺したい場合は、遺言書とは別に映像や音声を用意しても良いでしょう。
4-3 曖昧な表現を使うと相続人同士でトラブルに発展する恐れがある
遺言書作成時には曖昧な表現は使用せず、誰が読んでもわかる内容を記載しましょう。
曖昧な表現にしてしまうと、相続人同士でトラブルに発展するリスクもあるからです。
例えば「田舎にある山は長男に遺す」といった記載では、どの山を指すのか相続人同士で揉める恐れもあります。
相続人同士のトラブルは回避できたとしても、遺言書を使用して登記申請しようとしたものの法務局に却下される恐れもあるでしょう。
このような事態を避けるためにも、遺言書作成時には財産に関する情報を正確に記載しておくことが求められます。
自己判断で遺言書を作成してしまうと曖昧な表現に気付きにくいので、作成時に司法書士や弁護士に相談しておくのも有効です。
4-4 予備的な内容も記しておく
遺言書を作成するときには、万が一の事態に備えて予備的内容も記載しておきましょう。
予備的遺言とは、遺言者が亡くなり相続が発生する前に受遺者が亡くなってしまう事態に備えるためのものです。
例えば、すべての遺産を長男に遺したい場合を考えてみましょう。
「すべての遺産を長男に遺す」とだけ遺言者に記載しておくと、遺言者より長男が先に亡くなると遺言書の内容が無効になってしまいます。
この場合、長男の子供が遺産を受け継ぐのではなく、法定相続人が遺産を受け継ぐことになり、遺言者が望まない遺産分割になる恐れもあるでしょう。
一方で、予備的遺言として「長男が死亡している場合は、長男の子供に相続させる」と記載しておけば、長男が死亡していた場合でも法定相続人ではなく、長男の子供が遺産を受け継げます。
予備的遺言は遺言内容を実現するために非常に重要ですが、記載する際には様々なケースを想定しなければなりません。
予備的遺言まで記載した漏れのない遺言書を作成するには、専門的な知識や経験が必要です。
自分たちで考えるのは限界があるので、相続に精通した司法書士屋弁護士に頼るのが良いでしょう。
4-5 遺留分は遺言内容より優先される
遺留分は、遺言書に書かれた内容より優先されるのでご注意ください。
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に認められる遺産を最低限度受け取れる権利です。
遺留分は遺言書の内容より優先されるため、偏った内容の遺言書を作成していると遺留分トラブルに発展する恐れがあります。
例えば「愛人に全財産を遺す」といった遺言書を作成していたとしても、亡くなった人の配偶者や子供は遺留分を請求可能です。
遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、遺産を多く受け取った人物が遺留分侵害額相当分の金銭を支払わなければなりません。
相続に詳しい司法書士や弁護士に相談すれば遺言書の内容もアドバイスしてもらえるので、遺留分トラブルを回避可能です。
4-6 自筆証書遺言は検認手続きの手間がかかる
自筆証書遺言はすべて自分で作成できるので手軽ではありますが、相続発生後は検認手続きが必要となるのでご注意ください。
自筆証書遺言や秘密証書遺言は、相続発生後に家庭裁判所の検認手続きを行わないと相続手続きで使用できないからです。
検認手続きの方法および必要書類は、下記の通りです。
続先 | 故人の最後の住所地の家庭裁判所 |
手続できる人 | 遺言書の保管者・遺言書を発見した相続人 |
必要なもの |
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手数料 |
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遺族に検認手続きの負担をかけたくないのてあれば、公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言の保管制度を活用しましょう。
4-7 自筆証書遺言は紛失・改ざんリスクがある
自筆証書遺言は作成後に原本を自分で保管する必要があるため、紛失や改ざんリスクがあります。
また、紛失や改ざんを避けようとするあまり、遺言書を隠しすぎてしまうと相続発生後も遺族に発見されないリスクがあります。
自分で遺言書を保管したくない場合や相続発生後に遺族が遺言書に気付いてほしい場合は、公正証書遺言の作成か自筆証書遺言の保管制度を活用しましょう。
自筆証書遺言の保管制度であれば、法務局で原本を保管してもらえ、下記のメリットがあります。
- 自筆証書遺言の紛失・改ざんリスクをなくせる
- 相続発生後は遺族に遺言書が保管されていることを連絡してもらえる
- 法務局の職員に自筆証書遺言が形式要件を満たしているか確認してもらえる
- 家庭裁判所の検認手続きが不要になる
公正証書遺言は手間も費用もかかるからどうしても自筆証書遺言を作成したい場合は、ぜひ法務局による保管制度をご活用ください。
4-8 相続開始時までに遺産を使ってしまっても残りの遺言内容は有効である
場合によっては、遺言書を作成したものの相続開始までに自分で資産を取り崩してしまう場合もあるでしょう。
相続開始までに遺言書に書かれた遺産の一部を使用したとしても、遺言書全体が無効になるわけではないのでご安心ください。
遺言者が亡くなるまでに遺産の一部を処分した場合、残りの遺言内容については効力を持ったままです。
遺産を取り崩すたびに遺言書を作成し直す必要はありません。
ただし、遺産のほとんどが取り崩されており効力を持つ部分が残り僅かとなっている遺言書では、相続人同士のトラブルが起きる可能性や遺族が戸惑う恐れがあります。
例えば「預貯金1,000万円を長男に相続させる」と金額まで記載してしまうと、指定された口座の預貯金が1,000万円より多くても少なくてもトラブルのもとになります。
このような事態を避けるためには、老後の暮らしや資産の取り崩しまで考慮して遺言書の文面を考えなければなりません。
自分で遺言書の内容を精査するのが難しい場合は、司法書士や弁護士に相談するのが良いでしょう。
まとめ
有効な遺言書を作成するには、法律によって決められた要件を満たさなければなりません。
相続対策で用いられる遺言書には複数の種類があるので、まずはどの種類の遺言書を作成するのかを決め、遺言書ごとのルールにしたがって作成しましょう。
なお、自筆証書遺言は形式不備による無効リスクもありますし、原本を自分で保管する必要があるため紛失や改ざんリスクもあります。
そのため、可能であれば公正証書遺言を作成するのが良いでしょう。
また、公正証書遺言を作成するとしても公証人は遺言内容まで精査してくれるわけではありません。
そのため、確実に遺言書に効力を持たせたいなら司法書士や弁護士に公正証書遺言の作成や遺言執行者の選任を依頼しましょう。
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