
- 認知症の人にやってはいけないこととは何か
- 認知症になった親の財産管理をする方法
認知症の家族と向き合う中で、「これで合っているのだろうか」と悩む場面は少なくありません。
実際、良かれと思った言動や行動が、実は本人の不安を強めたり、将来のトラブルにつながったりすることもあります。
本記事では、コミュニケーション・生活介護・お金や契約の3つの視点から、認知症の人にやってはいけないことを整理しました。
目次
1章 【コミュニケーション編】認知症の人にやってはいけないこと
認知症の人と接する際に、大切なことは「安心感」を与えることです。
記憶や判断力が低下していく中で、本人は強い不安や混乱を抱えています。
周囲の関わり方次第で、症状が悪化することもあれば、穏やかに過ごせることもあるでしょう。
本章では、家族や支援者が無意識にやってしまいがちなNG対応を解説します。
1-1 強く叱る・責める
失敗や物忘れに対して強く叱ったり責めたりすると、本人は「自分はダメな存在だ」という気持ちを強めてしまいます。
認知症による行動は本人の意思ではコントロールできません。
叱責は問題行動を改善するどころか、不安や怒りを増幅させる原因にもなるでしょう。
1-2 否定・論破する
事実と違うことを話している場合でも、正面から否定したり論理的に説明して論破したりするのは逆効果になることがあります。
本人にとっては「現実」として感じているため、否定されると混乱や不信感が強まるからです。
事実と異なることや非論理的なことを話していると感じても、まずは気持ちに寄り添う姿勢を持つと良いでしょう。
1-3 人前での訂正など恥をかかせる
家族や第三者の前で間違いを指摘すると、本人の自尊心を大きく傷つけてしまいます。
恥をかいた経験が重なると、人との関わりを避けるようになることも珍しくありません。
訂正が必要な場合には、できるだけ本人だけの場で静かに行いましょう。
1-4 急かす
認知症の特性のひとつに、動作が遅くなったり、理解に時間がかかったりすることがあります。
このときに「早くして」「まだ?」と急かすと、焦りからさらに動けなくなる場合があります。
認知症の人に行動してもらう際には、時間に余裕を持った関わりを心がけましょう。
1-5 一度に複数の指示を出す
認知症の症状が進行すると、「服を着替えて、歯を磨いて、リビングに来て」といった複数の指示は処理しきれません。
ひとつずつ、短く、具体的に伝えることで理解しやすくなります。
家族からすると「昔はできてたのに」と思ってしまうかもしれませんが、昔と今では状況が異なることを理解しましょう。
1-6 無理に思い出させる
「昨日何を食べたか覚えてる?」「誰の名前かわかる?」と記憶を試すような質問は、本人に失敗体験を積ませる恐れがあります。
認知症の症状や進行を把握したい場合でも、テストや取り調べのような質問は避け、自然な会話を意識しましょう。
家族や親族が認知症患者の状態を正確に判断することは難しいため、診断は医師や支援者に任せることもおすすめします。
1-7 感情を押さえつける
不安や怒り、悲しみを表現した際に「そんなことで怒らないで」「我慢しなさい」と感情を抑え込むと、本人は気持ちを理解してもらえないと感じてしまいます。
まずは共感し、その後で感情の背景にある不安を受け止めることが重要です。
1-8 本人の不安を「気のせい」と扱う
認知症の初期段階では、本人も自分の変化を理解しており、不安に感じることが多々あります。
このときに「大丈夫だから」「考えすぎ」と片付けてしまうと、孤立感を深める恐れがあります。
不安の内容が事実でなかったり、何度も同じことを話してきたりしても「不安なんだね」と共感を示すことが安心につながるはずです。
1-9 子供扱いする
高齢の方であっても、認知症の人であっても、その人の人生や人格は変わりません。
簡単な言葉で話すようにしたり、命令口調で話したりすると尊厳を損ないます。
できないことが増えてきているとしても、子供扱いするのではなく、大人として敬意をもった対応を心がけましょう。
2章 【生活・介護編】認知症の人にやってはいけないこと
認知症の介護では、日常生活の支援そのものが治療やケアの一部でもあるため、普段の行動にも気を配る必要があります。
良かれと思って行った対応が、かえって本人の能力低下や意欲の喪失を招くことも少なくありません。
本章では、生活面・介護面で注意すべきやってはいけないことを解説します。
2-1 できることまで奪ってしまう
本人にやらせると時間がかかるからといって、着替えや食事、片付けなどをすべて代わりに行うと、本人の「できる力」が急速に失われます。
自分でできたという経験は、自己肯定感を支える重要な要素です。
多少時間がかかっても、見守りや声かけを中心にし、必要な部分だけ手を貸す姿勢を意識しましょう。
2-2 環境を急に変える
引っ越しや模様替え、急な施設入所など、大きな環境変化は混乱や不安を強める恐れがあります。
認知症の人は、慣れた環境を手がかりにして生活していることも多々あります。
生活していく中で変更しなければならない部分は、事前説明を繰り返し行い、少しずつ段階的に進めていくことが大切です。
2-3 孤立させる
トラブルを避ける目的で外出や交流を制限すると、刺激が減り、認知機能の低下がより進みやすくなります。
無理のない範囲で良いので、家族との会話や近所への散歩、デイサービス利用など人と関わる機会を持たせましょう。
2-4 睡眠・食事・服薬を軽視する
生活リズムの乱れは、認知症症状を悪化させる大きな要因のひとつです。
睡眠不足や偏った食事、服薬忘れが続くと、せん妄や体調悪化を引き起こすことがあります。
本人の生活を支援する際には、規則正しい生活を送ることを支える意識を持ちましょう。
2-5 徘徊・失禁などの症状を「わざと」と決めつける
徘徊や失禁は病気による症状であり、本人の意思によるものではありません。
「困らせている」「怠けている」と捉えると、関係が悪化してしまうのでご注意ください。
徘徊や失禁など問題行動の背景にある不安や身体的要因を探り、環境調整や専門職への相談を行いましょう。
2-6 介護する側が1人で限界まで抱え込む
家族だけで介護を抱え込むと、心身ともに疲弊し、適切な対応が難しくなってしまいます。
地域包括支援センターやケアマネジャー、介護サービスを積極的に活用し、家族だけで介護を完結させないようにすることが大切です。
3章 【お金・契約編】認知症の人にやってはいけないこと
認知症になると、判断能力の低下により「お金」や「契約」に関するトラブルが生じやすくなります。
家族が善意で行った行動であっても、法律上は問題となるケースも少なくありません。
本章では、お金や契約に関する内容で認知症の人にやってはいけないことを解説します。
3-1 本人の意思確認が不十分なまま契約を進める
不動産の売却やリフォーム契約、施設入所契約などを本人の理解が不十分なまま家族主導で進めることは避けましょう。
特に、不動産の売却やリフォーム契約は本人の意思能力が前提となります。
意思能力が欠けた状態で締結された契約は、無効となったり、後日争いになったりする可能性があります。
3-2 家族が本人名義の預金を勝手に動かす
介護費用や医療費の支払い目的であっても、家族が本人の預金を無断で引き出すことはできるだけ避けましょう。
将来的に、他の家族や親族から「使い込み」と疑われ、相続時に紛争へ発展するケースも少なくありません。
どうしても、家族が本人の代わりに預金を引き出したり支払いをしたりする場合には、領収書などを大切に保管しておきましょう。
3-3 通帳や印鑑・キャッシュカードを一括で取り上げる
認知症の人を狙った詐欺などの対策だとしても、本人に説明せず、通帳や印鑑、キャッシュカードを取り上げるのも避けましょう。
本人が納得していないにもかかわらず取り上げてしまうと、本人の不信感や被害感情を招くからです。
他にも「誰が管理しているのか」「どのように使っているのか」が不透明になることで、家族間トラブルの原因にもなります。
通帳や印鑑などを家族が管理しなければならないときには、管理方法は家族で共有し、記録を残しておくと安心です。
3-4 認知症対策を後回しにする
「まだ大丈夫」「そのうち考えればいい」と対策を先延ばしにすると、いざ判断能力が低下した時点で打てる手段が限られてしまいます。
認知症の症状が軽度であり、本人に判断能力があると認められれば、家族信託や任意後見制度などを利用できる可能性があります。
一方、対策をせず放置してしまい重度の認知症になると、成年後見制度しか利用できなくなります。
次章では、こうした認知症対策の具体的な方法について解説します。
4章 認知症となった親の財産管理をする方法
認知症が進行し、すでに判断能力が大きく低下している場合、利用できる制度は「成年後見制度」に限られます。
一方で、軽度の段階や発症前であれば、複数の選択肢を検討することが可能です。
本人の状態や家族の事情に応じて、適切な方法を選びましょう。
4-1 家族信託を活用する
家族信託とは、親が自分の財産の管理や運用、処分を、信頼できる家族に任せる契約です。
家族信託は不動産の管理や売却、預金の管理などを柔軟に行える点がメリットのひとつです。
成年後見制度に比べて運用の自由度が高く、家庭の事情に合わせて設計できます。
ただし、契約時点で本人に十分な判断能力が必要となるので、重度の認知症の人は利用できません。
また、自分に合った契約内容を設計するには、専門的な知識や経験が必要となるため、専門家への相談がほぼ必須となります。
4-2 遺言書を作成してもらう
遺言書を作成しておけば、遺産の承継先を決められるため、相続時のトラブルを回避しやすくなります。
認知症の初期段階であれば、本人の意思を反映した遺言書を作成できる場合があります。
遺言書にはいくつか種類がありますが、信頼性が高く原本の改ざんや紛失リスクがない公正証書遺言を作成するのが良いでしょう。
4-3 生前贈与を活用する
判断能力があるうちに計画的に生前贈与を行えば、相続対策や財産整理になります。
ただし、年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税がかかる点に注意しなければなりません。
他にも、特定の相続人にだけ多額の贈与をすると、他の相続人が不公平感を持ち、トラブルが起きる恐れもあります。
4-4 任意後見制度を活用する
任意後見制度は、将来判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ後見人を決めておく制度です。
本人の判断能力があるうちに公正証書で契約を締結し、将来、認知症が進行した段階で任意後見監督人が選任され、契約内容に基づいて財産管理や身上監護が行われる仕組みです。
後述する成年後見制度より契約内容の自由度が高く、後見人を自分で選べる点が魅力といえるでしょう。
4-5 成年後見制度を利用する
すでに判断能力が低下している場合には、成年後見制度しか利用することができません。
成年後見制度では、家庭裁判所が後見人を選任し、本人の財産管理や契約行為を代理します。
家庭裁判所が監督することで、本人に判断能力がなくても、財産管理や契約行為を適切に行える点がメリットです。
一方で、家庭裁判所の管理下におかれるため、柔軟な資産活用が難しい場合もあります。
まとめ
認知症の人への対応で大切なのは、「安心感」と「尊厳」を守ることです。
叱責や否定、過度な管理は、本人の不安や混乱を招きやすくなります。
また、お金や契約に関する問題は、家族の善意がトラブルに発展するケースも少なくありません。
判断能力があるうちから対策を検討し、制度や専門家の力を適切に活用することが重要です。
グリーン司法書士法人では、家族信託などの認知症対策についての相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
認知症の家族が怒りっぽくなったとき、家族はどのように対応すれば良いですか?
認知症の人が怒りっぽくなる背景には、不安や混乱、伝えたいことが伝わらないもどかしさなど様々な要因があります。
大切なことは、感情そのものを否定しないことです。
「怒らないで」「落ち着いて」と制止すると、かえって興奮が強まることがあります。
本人の言葉や表情から「何に困っているのか」を探り、短い言葉で共感を示すと良いでしょう。
家族が患者本人の口座から介護費用を支払うのは問題になりますか?
本人の意思確認ができない状態で家族が自由に引き出すと、後日、他の家族や親族から使い込みを疑われるリスクがあります。
やむを得ず家族が代理で患者本人の口座から介護費用を支払う場合には、支出内容を明確にし、領収書やメモを残しておくことをおすすめします。
施設入所が決まったら家の名義変更や売却はどのように進めれば良いですか?
自宅が本人名義の場合、原則として本人に判断能力がなければ売却や名義変更はできません。
無断で手続きを進めることはできず、契約しても無効となってしまいます。
本人に判断能力が残っている段階であれば、本人の意思を確認した上で売却や生前対策を進められます。
一方、すでに判断能力が低下している場合には、成年後見制度を利用し、後見人が家庭裁判所の許可を得て売却手続きを行う必要があります。










