現物分割とは?メリット・デメリットや現物分割が適しているケースを解説

現物分割とは?メリット・デメリットや現物分割が適しているケースを解説
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司法書士山田 愼一

 監修者:山田 愼一

この記事を読む およそ時間: 7

不動産などの財産がある場合、その財産を現金に換えることなくそのまま相続するケースも多いかと思います。この遺産分割方法を「現物分割」といいます。

現物分割には比較的手続きが簡単で、トラブルも起こりにくいといったメリットがあります。

遺産分割方法には、現物分割以外にも「換価分割」「代償分割」「共有分割」の3つがあります。

この記事では、「現物分割」にフォーカスし、メリット・デメリットや現物分割が適しているケース、手続きの流れなどについて解説します。


1章 現物分割とは?

現物分割とは?

現物分割とは、不動産や株式、車などの財産をそのまま相続する遺産分割方法です。
現物分割は遺産分割がシンプルになるのがメリットではありますが、相続財産の種類によっては相続人間で不公平感が生まれる可能性があります。

例えば、【妻が不動産】【長男が現金】【長女が株式】と相続するのが現物分割となります。

また、土地を分筆して分け合う場合や、株式を数株ずつ分け合うような場合も、現金に換えるわけではありませんので、現物分割と言えます。

1−1 現物分割の具体例

ケース①
  • 相続人:長男・長女・次男
  • 遺産:不動産1,000万円・現金500万円・株式1400万円
長男の相続分不動産1,000万円
長女の相続分現金500万円
次男の相続分株式400万円
ケース②
  • 相続人:長男・長女・次男
  • 遺産:土地1,200万円・現金600万円
長男の相続分分筆した土地400万円+現金200万円
長女の相続分分筆した土地400万円+現金200万円
次男の相続分分筆した土地400万円+現金200万円

2章 現物分割のメリット

ここでは、現物分割のメリットについて解説します。

2−1 手続きがシンプル

現物分割では、相続人が特定の遺産を引き継ぐだけあり、売却などの手続きが不要ですので、手続きがシンプルです。

不動産や株式、車などを相続しても、相続した人の名義に変更するだけで問題ありません。

換価分割であれば遺産を全てを売却してお金に換えなければいけませんし、代償分割の場合は不足分を誰かが現金で補填しなければいけません。(換価分割、代償分割の概要については6章で解説します)

それらに比べれば、現物分割はシンプルであり、手続きが比較的楽ちんです。

2−2 評価を巡ったトラブルになりにくい

現物分割をする場合、「Aさんは不動産を相続」「Bさんは現金を相続」と決めるだけで良いため、不動産などの財産の評価額を厳密に調べる必要がありません。

代償分割のように、「不動産を相続した人が、他の相続人と公平になるよう、代償金を払う」といった遺産分割をする際、不動産を相続した人は代償金をできるだけ低くするために不動産の評価額を下げたいと考えますし、代償金を受け取る人はその逆を考えるでしょう。

相続において不動産の評価方法はさまざまあるため、評価額でトラブルになるケースが少なくありません。

一方、現物分割では最初にお話したとおり、遺産をそのまま分け合うだけですので、厳密な評価が必要なく、評価を巡ったトラブルが起こりにくいといえます。

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3章 現物分割のデメリット

つぎに、現物分割のデメリットについてお話します。

相続において現物分割は一般的ですが、以下のようなデメリットがあることも理解して、遺産分割の方法を検討するようにしましょう。

3−1 不公平感がある

例えば、相続人2人で【不動産1,000万】【現金500万円】を現物分割で相続する場合、不動産を相続する人と、現金を相続する人では、相続額が500万円もの差がでてしまいます。

不動産のような分割が難しい遺産を現物分割するとき、他の遺産との価値に差があると、相続に不公平感が生まれてしまいます。

相続人全員がその内容で納得すれば良いですが、もし、納得できない場合には遺産分割調停や訴訟によって公平な相続をするために換価分割や代償分割を求められる可能性があります。

3−2 土地を分筆できないことがある

現物分割で、公平に相続する方法として、土地を分筆して相続するというものがあります。しかし、すべての土地が必ず分筆できるというわけではありません。

分筆とは土地を複数に分けて土地を登記することで、簡単に言えば土地を分割することです。

例えば、相続人3人で土地1,200万円・現金600万円を公平に現物分割するのであれば、分筆した土地400万円と現金200万円を相続すればよいこととなります。

しかし、そう単純なものではないのが現実です。隣家との境界線が確認できない場合や、分筆後の面積があまりにも小さくなる場合には分筆ができません。

分筆とは?【簡単解説】メリット・デメリットから費用や手続き方法まで

3−3 土地を分筆することで価値が下がることがある

現物分割をするために土地を分筆することで、土地の評価額が下がる可能性があります。

分筆した土地一つひとつの土地が狭くなったり、道路に面しなくなったりすることで、使い勝手が悪くなるためです。

土地の評価額が下がることで、売却が難しくなる可能性もあるので注意が必要です。


4章 現物分割が適しているケース

ここでは、現物分割が適しているケースを解説します。

4−1 特定の相続人に遺産を集中させるケース

「長男に遺産のほとんどを相続させたい」「一緒に暮らしていた長男に不動産を相続させたい」など、特定の相続人に遺産を集中させるケースでは、現物分割が適しています。

ただし、特定の人に偏った相続は、他の相続人からの合意がなければ実現が難しいのでその点は留意しておきましょう。

4−2 相続人全員が分割内容に納得しているケース

  • 「親と一緒に暮らしていた長男が不動産を相続するのは当然」
  • 「遠方にいて不動産を相続しても管理できないから相続額が少なくても他の財産を相続できればいい」

など、相続額が不公平だとしても、相続人全員が分割方法に納得しているのであれば、特にトラブルなく相続できるため、手続きがシンプルな現物分割が適しています。

4−3 多種多様な遺産があるケース

複数の不動産や、株式、車、ゴルフ会員権、現金など、多種多様な遺産がある場合には、現物分割でもある程度公平に分けやすいため現物分割が適しています。

例えば、以下のような相続が想定されます。

  • 不動産A(1,000万円)
  • 不動産B(800万円)
  • 不動産C(500万円)
  • 株式(300万円)
  • 車(200万円)
  • 貴金属類(150万円)
  • ゴルフ会員権(50万円)
  • 合計:3,000万円
相続する人相続する遺産相続する遺産の合計額
長男不動産A(1,000万円)1,000万円
次男不動産B(800万円)・車(200万円)1,000万円
三男不動産C(500万円)・株式(300万円)・貴金属類(150万円)・ゴルフ会員権(50万円)1,000万円

4−4 預貯金で相続分を調整できるケース

相続する不動産や車といった現金以外の遺産に価格の差があったとしても、差額を補填できるだけの預貯金(現金)があれば、ある程度公平に相続することができるため、現物分割が適しています。

例えば、以下のような相続が想定されます。

    • 不動産(1,000万円)
    • 現金(2,000万円)
相続する人相続する遺産相続する遺産の合計額
長男不動産(1,000万円)1,000万円
次男現金(1,000万円)1,000万円
三男不動産(1,000万円)1,000万円

5章 現物分割の手続きの流れ

遺産の分割内容について相続人全員の合意が得られていれば、比較的手続きがシンプルです。

ここでは、現物分割の手続きの流れについて解説します。

5−1 STEP① 相続人全員で合意する(遺産分割協議)

まずは、相続全員で話し合い、遺産分割内容について合意します。

この話し合いを「遺産分割協議」といいます。

遺産分割協議は、必ず“相続人全員”で行う必要があります。1人でも欠けていると、改めて相続人全員でやり直さなければいけなくなる可能性があるので注意してください。

なお、遺産分割協議は顔を合せて行う必要はありません。メールやLINE、手紙などでもOKです。

【遺産分割協議】大原則ルールと知っておくべき注意点や協議の進め方

5−2 STEP② 遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議で分割内容が決定したら、その内容を遺産分割協議書にまとめましょう。

遺産分割協議書には「誰が・どの遺産を・どのように相続するか」を明記し、相続人全員の署名・押印をします。

以下の記事では、作成方法や書式について解説していますのでぜひ参考にしてください。

遺産分割協議書のひな形5選と作り方まとめ 【無料ダウンロードOK】
【図解で分かる】遺産分割協議書とは?後で後悔しない賢い作成方法

5−3 STEP③ 分割内容どおりに遺産を分配する

最後に、遺産分割協議で話し合った分割内容どおりに遺産を分配します。

遺産を相続した後は、それぞれ名義変更などの手続きが必要ですので、忘れずに手続きをしましょう。

特に、不動産の名義変更は2022年4月に義務化され、手続きを怠ると罰則が科されてしまいますので、相続したら迅速に手続きをしてください。

以下では、遺産ごとの手続き方法について解説していますので、ぜひ参考にしてください。


6章 現物分割以外の3つの分割方法

現物分割以外にも「代償分割」「換価分割」「共有分割」という2つの分割方法があります。

それぞれの概要やについて詳しく解説します。

6−1 代償分割

代償分割とは、他の相続人よりも多い遺産を相続した人が、多い分を他の相続人に現金などで補填(代償)する分割方法です。

例えば、以下のように行います。

遺産内容:不動産2000万円、現金1000万円
相続人:長男・次男・三男
1人あたりの法定相続分:1000万円
相続したもの:【長男】不動産2000万円 【次男】現金500万円 【三男】500万円

この場合、遺産総額が3,000万円ですので、兄弟3人は平等に1,000万円分ずつ相続する権利があります。

しかし、長男が2000万円の不動産を相続すると、次男・三男は現金500万円しか相続できません。

本来取得できるはずの相続分に、500万円ずつ足りないのです。

そこで、足りない分の500万円を、長男が2人に現金などを渡すことで相続分を平等にします。

代償分割ですと、相続人全員が平等に相続できるというメリットがある一方、代償する(代償金を払う)人としては、自己資金から代償金を捻出しなければいけないため、難しいのが現実です。

代償分割とは?|メリット・デメリットから協議書の記載方法まで

6−2 換価分割

換価分割とは、遺産をすべて現金に換え(換価)て、相続分に応じて分配する分割方法です。

例えば、以下のように行います。

遺産内容:不動産2000万円、現金1000万円
相続人:長男・次男・三男
1人あたりの法定相続分:1000万円

この場合、不動産が2,000万円で売却できたら、不動産の利益の2,000万円と現金1,000万円の合計3,000万円を3人で1,000円ずつ相続します。

換価分割は、すべて現金にするため、平等に相続できるというメリットがある一方、換価するのには相応の手間がかかりますし、現金で相続することで相続税が増えることがあります。

換価分割とは?代償分割との違いや遺産分割協議書の書き方について

6−3 共有分割

共有分割とは、不動産のように分割が難しい遺産を相続人同士で共有して取得する分割方法です。

例えば、以下のように行います。

遺産内容:不動産3000万円
相続人:長男・次男・三男
1人あたりの法定相続分:1000万円

この場合、不動産を長男・次男・三男の3人が共有持分1,000万円ずつで共有名義にすることで全員が取得します。

共有分割をすれば、平等に相続することができるというメリットがありますが、不動産などを共有名義で取得することには

  • 固定資産税等の支払いでトラブルになる
  • 全員の合意がなければ売却できない
  • 次の相続時に、共有者の配偶者や親族など関係性の薄い人と共有する可能性が高い

といったデメリットがあります。

そのため、遺産分割において共有分割は最終手段と言われています。


7章 まとめ

現物分割は、相続において一般的であり、手続きもシンプルなので楽ちんです。

一方、他の相続人が相続額に納得できなければ現物分割は難しいのが現実です。

相続では相続人全員が納得する必要がありますので、現物分割をはじめ、代償分割、換価分割、いずれか都合のいい分割方法を検討しましょう。

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よくあるご質問

現物分割のメリットは?

現物分割のメリットは、下記の通りです。
・手続きがシンプル
・評価を巡ったトラブルになりにくい
▶現物分割のメリットについて詳しくはコチラ

現物分割のデメリットとは?

現物分割のデメリットは、下記の通りです。
・不公平感がある
・土地を分筆できないことがある
・土地を分筆することで価値が下がることがある
▶現物分割のデメリットについて詳しくはコチラ

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