故人が遺言書を作成していなかった場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、決定した内容に基づいて相続手続きを進めなければなりません。
しかし、遺産分割協議の進め方や参加している相続人の状況によっては、せっかく行った遺産分割協議が無効になってしまう恐れもあります。
遺産分割協議が無効になると、その後で行われた相続手続きも無効になってしまうのでご注意ください。
相続手続きや遺産分割協議を無効にしないためには、相続人や相続財産の調査をしっかりとしておくことが大切です。
本記事では、相続手続きや遺産分割協議が無効になるケースや対処法を紹介します。
故人が亡くなった後に発生する相続手続きに関しては、下記の記事をご参考にしてください。
目次
1章 勝手に行われた相続手続きは無効になる
故人が遺言書を作成していなかった場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割協議とは、誰がどの財産をどれくらい相続するかを決める話し合いです。
遺産分割協議を行わず、一部の相続人のみで勝手に行った相続手続きは無効になってしまいます。
また、遺産分割協議が行われていても話し合いの内容や相続人の状況によっては、相続手続きや遺産分割協議が無効になってしまうケースもあります。
次の章では、相続手続きや遺産分割協議が無効になるケースを具体的に見ていきましょう。
2章 相続手続きや遺産分割協議が無効になるケース
遺産分割協議をせずに勝手に行われた相続手続きは無効になりますし、正しい方法で行われなかった遺産分割協議も無効になります。
相続手続きや遺産分割協議が無効になるケースは、主に以下の4つです。
- 相続人全員で遺産分割協議を行わなかったケース
- 相続人の中に判断能力を失っている人がいたケース
- 遺産分割協議に相続人以外が参加していたケース
- 遺産分割協議時に脅迫・詐欺・錯誤があったケース
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 相続人全員で遺産分割協議を行わなかったケース
誰がどの財産をどれくらい相続するかを話し合う遺産分割協議は、法定相続人全員で行わなければなりません。
法定相続人は、以下の優先順位で決定します。
相続人 | 優先順位 |
配偶者 | 常に相続人になる |
子供や孫など直系卑属 | 第一順位 |
親や祖父母など直系尊属 | 第二順位 |
兄弟姉妹や甥・姪 | 第三順位 |
相続人の中に関係性が薄い人物や故人との関係が悪い相続人がいたとしても、遺産分割協議に参加させないと無効になってしまいます。
- 異母兄弟や異父兄弟などがいるケース
- 代襲相続が発生しているケース
上記のケースでは、相続人同士の関係が希薄になりやすく、相続人全員で遺産分割協議を行うのが大変になるので特に注意が必要です。
相続人の連絡先や住所地がわからず、遺産分割協議を行えない場合には下記の記事もご参考にしてください。
2-2 相続人の中に判断能力を失っている人がいたケース
相続人全員で遺産分割協議を行ったとしても、相続人の中に認知症などで判断能力を失っている人がいたケースでも、遺産分割協議や相続手続きが無効になってしまいます。
認知症などで判断能力を失った人は、遺産分割協議などの契約や法律手続きを行えないからです。
相続人の中に認知症で判断能力を失った人がいる場合には、裁判所で成年後見人を選任してもらい、成年後見人が代わりに遺産分割協議に参加するしかありません。
ただし、認知症の症状の度合いによっては判断能力があるとされ、遺産分割協議に参加できるケースもあります。
相続人の一人に認知症患者がいる場合には、家族や患者本人が判断することは難しいので、医師による診察や司法書士や弁護士など専門家への相談をおすすめします。
2-3 遺産分割協議に相続人以外が参加していたケース
法定相続人以外の人物が遺産分割協議に参加したことが、他の相続人の遺産分割の内容にも影響を与えたと考えられる場合にも遺産分割協議が無効になってしまいます。
また、長男の嫁など法定相続人以外が遺産分割協議に参加し遺産を取得した場合にも、取得分は無効になるのでご注意ください。
2-4 遺産分割協議時に脅迫・詐欺・錯誤があったケース
相続人の一人が他の相続人に対して脅迫や詐欺行為をして遺産分割協議を行った場合や遺産隠しが行われ相続人が遺産の内容を誤解していた場合にも、遺産分割協議が無効になります。
なお、他の相続人に対し脅迫や詐欺、錯誤を行った相続人も相続権を失うわけではありません。
相続権を永久的に失う相続欠格の該当事由のひとつには「脅迫や詐欺、錯誤により遺言書を作成・変更・取消させた」がありますが、遺産分割協議については記載されていないからです。
3章 遺産分割協議が無効になったときの対処法
遺産分割協議を行ったものの不備があった場合には、やり直しが必要です。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が得られればやり直しも可能です。
一方で、一部の相続人が脅迫や詐欺、錯誤などで自分に有利な内容で遺産分割協議を行っていたケースなど、やり直しに合意しない場合には訴訟手続きも検討しなければなりません。
遺産分割協議のやり直しについて、詳しく解説していきます。
3-1 相続人全員で遺産分割協議をやり直す
何らかの理由により、遺産分割協議が無効になった場合には法定相続人全員でやり直しをしましょう。
なお、遺産分割協議のやり直しをする際には、下記の点に注意しなければなりません。
- 売却した不動産などを第三者から返還してもらうことはできない
- 贈与税や所得税が課税される可能性がある
- 不動産取得税や登録免許税が発生する可能性がある
相続財産や相続人の状況によっては、遺産分割協議や相続手続きのやり直し、税金の計算が難しい場合があります。
遺産分割協議後に問題が発生した場合には相続に詳しい専門家に相談するのがおすすめです。
3-2 遺産分割協議無効確認訴訟を起こす
脅迫や詐欺、錯誤などにより一部の相続人が自分に有利な内容で遺産分割協議を行っていた場合、他の相続人がやり直しを求めたとしても合意する可能性は低いでしょう。
相続人全員の合意が得られず遺産分割協議のやり直しが難しいときには、遺産分割協議無効確認訴訟を起こし、遺産分割協議の無効を主張しましょう。
ただし、遺産分割協議無効確認訴訟で過去に行われた遺産分割協議が無効かどうかを判断するのは裁判所です。
裁判所が納得できるだけの証拠が必要になりますし、対応に不安があるのであれば弁護士に相談することも検討しなければなりません。
まとめ
遺産分割協議は法定相続人全員で行う必要があり、相続人の中に判断能力がない人が入っていると無効になってしまいます。
遺産分割協議が無効になると、話し合いの内容に基づいて行われた相続手続きも無効になってしまいますし、再度遺産分割協議をやり直さなければなりません。
相続人の一部が悪意を持って自分に有利な遺産分割協議をしようとしていた場合には、やり直しによって公平な相続を実現できたとしても相続人間で遺恨が残ることは避けられないでしょう。
遺産分割協議によるトラブルや無効になるリスクをできるだけ回避し、遺族の負担を減らすには相続に詳しい司法書士や弁護士に遺産分割協議や相続手続きを依頼するのがおすすめです。
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