家族信託は相続対策や認知症対策、柔軟な財産管理などに役立つ制度ですが、認知症などで判断能力を失っている人は利用できません。
家族信託の契約を結ぶ際には契約者に判断能力が備わっている必要があり、判断能力を失った人が契約しても無効となるからです。
したがって、すでに認知症を発症していて判断能力を失った人の財産を管理するには、成年後見制度しかありません。
一方で認知症の初期段階であれば判断能力があると診断され、家族信託を始められる可能性があります。
本記事では、家族信託を利用できる初期・軽度の認知症判断基準を詳しく紹介していきます。
家族信託に関しては、以下の記事でも詳しく解説していますのでご参考にしてください。
目次
1章 認知症により判断能力を失うと家族信託の利用はできない
すでに認知症を発症し、判断能力を失っている人は家族信託を利用できません。
家族信託も契約行為のひとつに該当しますし、認知症になって判断能力を失った人物は契約行為を締結できないからです。
認知症により判断能力を失っている人が家族信託の契約を結んでも無効になってしまいます。
そのため、認知症をすでに発症し判断能力を失っている人の財産管理をするには成年後見制度しか選択肢がありません。
家族信託と成年後見制度の違いは、本記事の4章でも紹介します。
なお、認知症の人すべてが判断能力を失っているとされるのではなく、初期もしくは軽度の認知症であれば判断能力が備わっているとして家族信託を利用できる可能性があります。
次の章で、詳しく見ていきましょう。
2章 初期・軽度の認知症であれば家族信託を利用できる場合がある
家族信託の契約を結べるかは契約者本人の判断能力の有無が重要となってきます。
認知症の発症が基準となっているわけではないので、初期もしくは軽度の認知症であり判断能力があるとされれば家族信託を利用できる可能性があります。
認知症の症状や進行具合は見た目で判断することは難しく、家族が接してもわからない場合もあるでしょう。
また、症状が一気に進行していく恐れもあるので「家族信託の契約をしたい」「認知症かもしれないが家族信託を利用できるかな」と当事者だけで悩むのではなく、できるだけ早く家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談するのがおすすめです。
実際に、グリーン司法書士法人でも、初期もしくは軽度の認知症の人向けの家族信託を対応させていただいた件が何件もございます。
認知症発症後の家族信託の場合、契約時の意思確認が重要となりますので、ビデオ撮影や本人の意思確認を丁寧に行うことで対応しています。
3章 初期・軽度の認知症の判断基準
認知症患者であっても判断能力が備わっていて家族信託の契約を結べるか最終的に判断するのは、医師ではなく、公証役場の公証人です。
契約時に公証人が「本人が契約内容を理解できている」と確認できた場合には公正証書を作成できます。
具体的には、以下の内容について契約者本人が行えるか確認される場合が多いです。
- 契約者本人の氏名や生年月日、住所を正しく言える
- 契約者本人が契約書に署名できる
- 契約の大まかな仕組みやメリット、デメリットを理解している
- 誰にどの財産の管理を任せようとしているか理解している
なお、契約書への署名は身体的に難しい場合にはなくても良いとされています。
残念ながら、上記を行うことが難しく判断能力を失ってしまっている場合には家族信託の利用はできず、成年後見制度を活用して認知症患者の財産を管理していかなければなりません。
次の章では、家族信託と成年後見制度の違いを解説していきます。
4章 家族信託と成年後見制度の違い3つ
本記事で解説してきたように、認知症により判断能力を失っている人は家族信託を利用できないので、成年後見制度を活用して財産管理をしていく必要があります。
家族信託と成年後見制度はどちらも自分のかわりに家族もしくは第三者に財産管理をしてもらう点では共通しています。
一方で、下記について家族信託と成年後見制度は違いがあるので、可能であれば判断能力を失う前に自分や家族に合う財産管理方法を選び準備しておきましょう。
- 目的
- 制度利用後にできること
- 費用
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 目的
家族信託と成年後見制度では、下記のように目的が異なります。
制度 | 目的 |
家族信託 | 子供や孫など自分が信頼できる家族に財産の管理や運用、処分を任せること |
成年後見制度 | 判断能力が低下した人を守るために「法定後見人」に財産管理や、身の回りの手続きなど、身上管理を行ってもらうこと |
上記のように、家族信託は財産の管理や運用、処分に特化しているのに対し、成年後見制度は財産管理だけでなく身の回りの手続きや管理の代行も行える制度です。
家族信託と成年後見制度の目的の違いを理解した上で、制度利用後にしたい財産管理や身の回りの手続きに合った制度を選択しましょう。
4-2 制度利用後にできること
家族信託と成年後見制度の手続き完了後にできることは、それぞれ下記の通りです。
制度 | できること |
家族信託 |
|
成年後見制度 |
|
家族信託は財産の管理や運用、処分に特化した制度であり、信託契約の内容によっては財産の売却や積極的な運用も可能です。
一方で成年後見制度は自宅など不動産を売却する際には裁判所の許可が必要であり、利用者にとって必要と判断されない限り許可が降りません。
- 賃貸用不動産など適切な管理が必要な財産を所有している
- 親が施設に入居した後は自宅を売って入居費用に充てたい
- 自分が亡くなったときだけでなく、次の代の相続先も決めておきたい
上記に当てはまる場合には、成年後見制度よりも家族信託の方が適しています。
4-3 費用
家族信託と成年後見制度では、制度の利用開始時と利用後にかかるランニングコストが以下のように違ってきます。
制度 | 利用開始にあたりかかる費用 | ランニングコスト |
家族信託 | 50~100万円 | ほとんどかからない |
成年後見制度 | 10~20万円 | 月額2~6万円程度 |
家族信託は初期費用こそ高いものの家族に財産を管理してもらうので、ランニングコストはほとんどかからないのが特徴です。
一方で成年後見制度の場合、司法書士や弁護士など専門家が成年後見人となった場合には月額2~6万円の費用が継続してかかります。
なお、認知症発症後の余命は平均5~12年というデータもあり、仮に月3万円のランニングコストが8年続けば288万円もの費用がかかります。
成年後見制度を利用する際には、初期費用だけでなくランニングコストに関しても意識した方が良いでしょう。
制度を利用する人の年齢が若くランニングコストを少しでも抑えたい場合には、家族信託の利用をおすすめします。
まとめ
家族信託は認知症になってしまい判断能力を失った人は残念ながら利用できません。
すでに判断能力を失っている場合には、財産管理方法として成年後見制度しか利用できるものがありません。
一方で、初期もしくは軽度の認知症であり判断能力がある場合には家族信託を利用できる可能性があります。
認知症の症状は見た目ではわかりにくく、症状が急速に進行する恐れもあるので、制度の利用可否について悩んでいるのであればできるだけ早く専門家に相談するのがおすすめです。
家族信託の取り扱い実績が豊富な事務所であれば、本人の意思確認を丁寧に行う、手続きの準備をスムーズに進めるなどで対応できる可能性もあります。
グリーン司法書士法人では、家族信託の相談を累計1万件以上お受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですのでまずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
認知症になった後、家族信託はできる?
すでに認知症を発症し、判断能力を失っている人は家族信託を利用できません。
信託契約によって信頼できる家族に自分の財産管理を任せるには、契約者の判断能力が問われるからです。親が認知症になったらやるべきことは何?
認知症は早期の診断や治療を受ければ、薬で症状を遅らせる、改善できる場合もあります。
そのため、親が認知症かも?と思える症状が出てきたら早めに診察を受けてもらいましょう。
▶親が認知症になったらやるべきことについて詳しくはコチラ家族信託のデメリットとは?
家族信託のデメリットは、下記の通りです。
・当事者を長期間拘束する
・信託不動産から出た損失を他の所得と合算できない
・家族信託を行う事自体は節税にはならない
・遺言に比べて手間がかかる
・身上監護権がない
・受託者に司法書士・弁護士等がなる事はできない
・対応できる専門家が少ない
▶家族信託のデメリットについて詳しくはコチラ家族信託は自分で手続きできる?
理論上は、家族信託の手続きを自分で行うことも可能です。
ただし、家族信託の契約書作成や手続きには専門的な知識が必要なので、司法書士や弁護士に依頼することをおすすめします。
▶家族信託を自分でする方法について詳しくはコチラ