少子高齢社会が進み、老いた親が認知症になってしまうケースは増えています。
認知症の症状には個人差がありますし「親が認知症になったかもしれない」と思っても、なかなか行動に移せずお悩みの方も多いのではないでしょうか。
しかし、認知症となった親を放置してしまうのにはリスクがありますし、認知症は早期の段階で受診できれば、進行を遅らせられます。
また、軽度の認知症であり判断能力が残っているのであれば、相続対策などを行っておくことも可能です。
本記事では「親が認知症かも」と感じたときの対処法や相続対策、親に受診を促すコツを解説していきます。
なお、親が認知症になったときのトラブル例および対処法は下記記事で解説していますので、ご参考にしてください。
目次
1章 認知症の症状
認知症には大きく分けて「中核症状」と「行動・心理症状」の2種類にわけられます。
中核症状とは、脳の神経細胞が死んでいくことにより発生する以下のような症状です。
- 記憶障害
- 見当識障害
- 理解や判断力の障害
- 実行機能障害
- 感情表現の変化
また、「行動・心理症状」とは中核症状に伴って起きる「心理面や行動面の症状」です。
具体的には、自分の能力の低下を自覚したことにより元気がなくなる、自信を失って無気力になるなどがあげられます。
このような症状が自分の親に見られたときには、早い段階で診察を受けるのが大切です。
認知症は早期に診断、治療を受ければ、薬で進行を遅らせる、改善させることもできるからです。
次の章では、親の認知症を放置してしまうリスクを解説していきます。
2章 親の認知症を放置してしまうリスク
「親が認知症かもしれない」と思っても、生活に支障がないうちはどのように声をかけて良いかわからず、放置してしまう場合もあるかもしれません。
しかし、親が認知症になったにもかかわらず放置してしまうのはリスクが高くおすすめできません。
親の認知症を放置してしまうリスクは、主に以下の4つです。
- 事故や行方不明になるリスク
- 別の病気になるリスク
- 預貯金や不動産に手を付けられなくなるリスク
- 契約や遺産分割協議が無効になってしまうリスク
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 事故や行方不明になるリスク
認知症の症状が進むと、なじみのある土地でも道に迷ってしまいやすくなります。
その結果、自宅に帰れず行方不明になってしまう恐れもありますし、脱水症状や低体温症を引き起こす恐れもあります。
更に、交通マナーについて理解できなくなると、信号無視をして交通事故を起こすかもしれません。
車を運転される方は交通事故加害者になってしまう可能性もあります。
2-2 別の病気になるリスク
認知症の症状が進むと、同じものを何度も食べ続ける、栄養バランスを気遣った食事を摂れなくなる場合も多いです。
その結果、生活習慣病のリスクが高まる恐れもあります。
持病による薬を服用中の方が認知症になってしまうと、服薬管理を自分でできなくなるのも問題です。
薬を飲む量を間違えてしまう、飲み忘れてしまうなどで別の病気が悪化する可能性もあります。
2-3 預貯金・不動産に手を付けられなくなるリスク
親の認知症の症状が進むと、判断能力が失ったと判断されてしまい、親名義の預貯金を引き出せなくなってしまいます。
結果として、生活費や介護費用の工面ができなくなるかもしれません。
他には重度の認知症になると、親が所有している不動産を売却できなくなってしまいます。
例えば、認知症になった親が介護施設に入居するので空き家になった自宅を売却したいケースでも、子供が勝手に実家を売却することはできません。
2-4 契約や遺産分割協議が無効になってしまうリスク
認知症が重度になり判断能力を失ってしまうと、契約や遺産分割協議への参加もできなくなってしまいます。
その結果、以下のトラブルに発展する恐れがあります。
- 高齢者を狙った詐欺に巻き込まれてしまう
- 高齢者向けの通信販売や訪問販売を購入してしまう
- 認知症となった親が遺産分割協議に参加すると無効になる
- 認知症となった親が相続放棄の決断をできなくなる
このように、認知症になった親を放置してしまうと、様々な問題に発展する可能性があります。
認知症は早期診断、治療を行えば進行を遅らせることができる場合もあります。
次の章では、認知症かもしれない親を病院に連れて行くコツを確認していきましょう。
3章 「認知症かも」と感じた段階で診察を受けてもらうコツ
認知症は早期の診断や治療を受ければ、薬で症状を遅らせる、改善できる場合もあります。
そのため「親が認知症かもしれない」と感じた段階で早めに医療機関を受診するのが大切です。
認知症が疑われる人に早期に診察してもらうコツは、下記の5つです。
- 本人の気持ちに寄り添う
- 認知症について理解を深める
- 診察を受けるメリットや放置するデメリットを伝える
- 健康診断を活用する
- 地域包括支援センターに相談する
それぞれ解説していきます。
3-1 本人の気持ちに寄り添う
親が病院に行きたがらないとしても、まずはその気持ちに寄り添うことが大切です。
「自分に病院は必要ない」「私が認知症のはずなんてない」と親が言っていたとしても、本当は症状に気付いていて不安だと感じている方もいます。
本人の気持ちに寄り添った上で、子供が親を心配している気持ちを伝えれば、親も受診のきっかけをつかみやすいです。
3-2 認知症について理解を深める
親が認知症かもしれない、と感じたときには子供である自分たちがまずは認知症について理解を深めましょう。
「親が認知症になるなんて困る」「これからどうなるかわからず不安だ」と子供が思ってしまうと、親も現実を直視したがらず、受診に消極的になりやすいからです。
例えば、認知症に関する書籍を読む、地域包括支援センターに相談してみるなどをすれば、認知症に関する情報を集められます。
3-3 診察を受けるメリットや放置するデメリットを伝える
本人の気持ちに寄り添うなどをしても、親が受診を嫌がる場合には、少し論理的に診察を受けるメリットや受診をしないで放置し続けるデメリットを伝えてみましょう。
具体的には、早期受診には以下のメリットがあります。
- 抗認知症薬による改善を見込める
- 要介護認定を受けやすくなる
- 認知症サービスを受けやすくなる
親が認知症かもしれないと感じたときには、これらのメリットや認知症の症状が悪化するデメリットを根気強くすすめていくしかありません。
3-4 健康診断を活用する
かかりつけ医がある場合や定期的に健康診断を受けている場合には、健康診断を利用して認知症の診断をしてもらうのも良いでしょう。
物忘れがひどくなったなど認知症が疑われるケースでも、脳などの重大な病気が隠れているケースもあります。
健康診断の結果、やはり認知症が疑われる場合には、医師から脳の追加検査などを促してもらうのがおすすめです。
3-5 地域包括支援センターに相談する
親が認知症かもしれないと感じたタイミングで、地域包括支援センターに相談しておくのがおすすめです。
地域包括支援センターは、各市町村にある認知症となった方やその家族をサポートを行う施設です。
地域包括支援センターには、認知症に関する様々な情報も揃っていますし、認知症医療疾患センターや専門医と連携を取り受診のサポートもしてくれます。
4章 「親が認知症かも」と感じたときにしたい相続対策
親の認知症の症状が進む前にしておきたいことはいくつかありますが、その中のひとつが相続対策です。
認知症の症状が進み、判断能力を失ったと診断されれば、財産が凍結されてしまう上に相続対策もできなくなってしまうからです。
親が認知症かもと感じたときにしておきたい相続対策は、主に以下の4つです。
- 家族信託
- 成年後見制度
- 遺言書作成
- 生前贈与
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 家族信託
家族信託とは、親が元気なうちに家族間で信託契約を結び、契約の範囲内で受託者が信託財産の管理や運用をする制度です。
家族信託のイメージは、下記の通りです。
親の判断能力が失われる前に、家族信託を結んでおけば認知症の症状が進んでも、子供が親の財産を管理できます。
家族信託の具体的なメリットは、下記の通りです。
- 子供の判断で親の自宅をバリアフリーなどリフォームできる
- 子供の判断で親の自宅を売却できる
- 子供が親の現預金を自由に入出金できる
家族信託は、成年後見制度よりも自由度が高く、子供が親の財産を管理しやすいのが魅力です。
実家売却や預金の引き出しなどで、親が介護施設に入居する際の費用も捻出しやすくなります。
家族信託に関しては、以下の記事で詳しく解説しているので、ご参考にしてください。
4-2 成年後見制度
成年後見制度とは、認知症や知的障がいによって判断能力が不十分な人が、生活をする上で不利益を被らないよう「成年後見人」が本人の代わりに適切な財産管理や契約行為の支援を行うための制度です。
成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2種類に分けられ、違いは以下の通りです。
上記のイラストに書かれているように、すでに認知症の症状が進んでいて判断能力を失っている場合には、法定後見制度しか利用できません。
一方で認知症が軽度であれば、任意後見制度で本人が成年後見人を指定し、判断能力が失われたタイミングで後見人によるサポートを受けられます。
法定後見制度と任意後見制度のサポート内容には、大きな違いがありませんが親が自分で信頼できる人物を成年後見人を指定したい場合には、任意後見制度の利用がおすすめです。
4-3 遺言書作成
親の認知症が軽度であれば、遺言書を作成し自分の財産を受け継がせたい相手を指定できます。
将来的に介護をしてくれる子供に対して、多めに財産を遺すように遺言書で指定することも可能です。
ただし法的に有効な遺言書を作成する際には、所定の形式を守る必要がありますし、他の相続人の遺留分を侵害しない内容で作成する必要があります。
また、遺言書の作成は認知症の症状が悪化し、判断能力が失われてしまったタイミングではできないので、ご注意ください。
遺言書の作成は自分でもできますが、ミスなく遺言書を作成したいのであれば、司法書士や弁護士といった専門家への相談もおすすめです。
4-4 生前贈与
生前贈与を行えば、親が亡くなる前に子供に財産を引き継げます。
例えば、親の自宅を子供に生前贈与しておけば、親が介護施設に入居するタイミングで子供が実家を売却できます。
生前贈与を行うと、贈与された側に贈与税がかかりますが、毎年110万円までであれば贈与税はかかりません。
また、贈与の目的によっては、控除や特例が使用でき、贈与税を節税できます。
生前贈与も遺言書の作成や家族信託と同様に、重度の認知症となったときには利用できないので注意が必要です。
生前贈与は贈与者と受贈者の合意で行えますが、司法書士や弁護士などの専門家に相談して贈与契約書などを作成してもらうと安心です。
まとめ
親が認知症かもしれない、と感じたときには早めに受診をしてもらうことが大切です。
認知症は早期診断や治療を行えば、進行を遅らせる、症状を改善できる可能性もあるからです。
親がなかなか受診をしたがらない場合には、本人の気持ちに寄り添い受診するメリットを根気強く伝えていくのが良いでしょう。
また親が認知症になったかもしれない、と感じたタイミングで将来、症状が悪化していくことも考慮して相続対策や親の財産を管理する方法を考えておく必要があります。
親が認知症かもしれないと感じたタイミングでできる相続対策は、主に下記の4つです。
- 家族信託
- 成年後見制度
- 遺言書作成
- 生前贈与
認知症の症状が進むと、できなくなる相続対策もあるので、早めに行動に移していくことをおすすめします。
自分たちでは、どんな相続対策を進めれば良いかわからない場合には、司法書士や弁護士などの専門家に相談するのも良いでしょう。
グリーン司法書士法人では、家族信託や遺言書作成、生前贈与などの相続対策に関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインの相談も可能なので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
親が認知症になったら困ることは?
親が認知症になった時に起こる可能性があるトラブルは、以下のものが考えられます。
・金銭管理や預貯金の引き出しができなくなる
・不動産売却や各種契約ができなくなる
・火の不始末により火事になる
・食生活が偏り不健康になる
・トイレができなくなり不衛生になる
・服薬管理ができなくなる
・ご近所関係で揉めてしまう
・外出時の事故や行方不明
親が認知症になったときに起こりうるトラブルを把握し、一つ一つ対処していくのが大切です。
詳しくは下記リンク先をご参考にしてください。
▶親が認知症になった時のトラブル例と対処法
親が認知症になった場合の対策は何があるの?
家族信託が認知症対策におすすめな理由は、他の生前贈与や成年後見制度で対応できないことや、発生する問題も家族信託が解消してくれるからです。
具体的には、
①認知所になっても資産が凍結されない
②贈与税や不動産取得税がかからない
③当事者の合意でキャンセルできる
④裁判所で煩雑な手続きをする必要がない
⑤ランニングコストがかからない
⑥柔軟な財産管理が行える
⑦効力発生までタイムラグがない
が理由として考えられます。
詳しくは下記リンク先をご参考にしてください。
▶家族信託が認知症対策に一番おすすめな7つの理由と具体的な解決事例