
- 寄与分とは何か
- 長年の介護による寄与分が認められるための要件
- 長年の介護による寄与分が認められにくい理由
- 長年の介護による寄与分を計算する方法
- 長年の介護による寄与分を請求する流れ
長年にわたり、相続人が被相続人の介護をしていた場合には、寄与分が認められる可能性があります。
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対し、その貢献度を考慮して、本来の法定相続分以上に遺産を取得できるようにする制度です。
ただし、介護による寄与分を認めてもらうには、様々な要件を満たさなければなりませんし、要件を満たしているという証拠を用意しなければなりません。
そのため、特定の相続人が介護をするのであれば、被相続人が元気なうちに相続対策をしてもらうことも検討しましょう。
本記事では、介護による寄与分が認められるための要件や計算方法、請求の流れを解説します。
目次
1章 寄与分とは
寄与分(きよぶん)とは、故人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対し、その貢献度を考慮して、本来の法定相続分以上に遺産を取得できるようにする制度です。
例えば、長男が長年にわたり親の事業を無償で手伝っていた場合や、長女が親の介護を長年にわたって続けてきた場合などが該当します。
1-1 特別寄与料との違い
2019年の相続法改正により、新たに「特別寄与料」という制度が創設されました。
特別寄与料とは、法定相続人ではない親族(嫁や婿、いとこなど)で、故人の財産の維持または増加に貢献した人物が、貢献に見合った金額を相続人に対して請求できる制度です。
例えば、長男の妻が長年にわたり、故人の介護を無償で行っていた場合には、特別寄与料の請求が認められる可能性があります。
寄与分と特別寄与料の違いは、請求できる人の範囲です。
- 寄与分:相続人のみが対象
- 特別寄与料:故人の親族(6親等内の血族や配偶者、3親等内の姻族)
2章 長年の介護による寄与分が認められるための要件
長年にわたり、故人の介護をしていた相続人には、寄与分が認められる可能性があります。
長年の介護による寄与分が認められるためには、下記の要件を満たす必要があります。
- 寄与行為が相続開始よりも前に行われていた
- 扶養義務を超えた貢献だった
- 故人にとって介護・看護が必要不可欠だった
- 一定期間以上にわたり介護が行われていた
- 故人から介護・看護の対価を受け取っていなかった
- 介護・看護により故人の財産を維持・増加させられた
- 片手間ではなく多くの負担をしていた
- 要件を証明できる証拠・資料を提出できる
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 寄与行為が相続開始よりも前に行われていた
寄与分として認められるためには、被相続人が亡くなる以前から、継続的に介護や看護などの寄与行為が行われていなければなりません。
例えば、相続開始後(被相続人の死亡後)に、四十九日や法要の準備などをしたとしても、寄与分は認められません。
2-2 扶養義務を超えた貢献だった
長年にわたる介護行為により寄与分を認められるには、民法上の扶養義務の範囲を超える特別な貢献である必要があります。
例えば、同居していた親の介護を日常的に行っていた場合には、介護行為が一般的な家族の扶養義務の範囲内とされることもあるでしょう。
介護行為が扶養義務の範囲を超えないと判断されれば、寄与分は認められません。
一方、下記の行為があった場合には、扶養義務の範囲を超えていたとされる可能性があります。
- 自分の生活を犠牲にして、長期間介護を続けた
- 介護保険のサービスを利用せず、自宅で無償介護を続けた
- 通院・入退院の付き添いや生活支援を毎日行った
介護行為が扶養義務を超えた貢献として認められるかはケースバイケースなので、寄与分の請求をしたい場合には、司法書士や弁護士に一度相談してみるのも良いでしょう。
2-3 故人にとって介護・看護が必要不可欠だった
寄与分が認められるには、被相続人が介護や看護を必要とする状況だったことも要件のひとつとなります。
具体的には、認知症や脳梗塞、がん末期など、日常生活に支援を要する状態であったかどうかが重要です。
要介護認定を受けていたことも介護・看護が必要不可欠だった証拠のひとつとなりますが、それだけでなく、医師の診断書や介護保険の利用履歴、ケアマネジャーによる記録なども有力な証拠となります。
2-4 一定期間以上にわたり介護が行われていた
数日から数週間程度といった短期間の介護では、寄与分として認められる可能性は低くなります。
寄与分として認められるためには、一定期間にわたり継続的に介護を行っていた必要があります。
目安としては、少なくとも数年間にわたって、介護を継続していた場合に寄与分として認められるケースが多く見られます。
2-5 故人から介護・看護の対価を受け取っていなかった
介護行為に対して、報酬や謝礼などの対価を被相続人から受け取っていた場合には、寄与分は認められません。
報酬や謝礼などの対価を受け取っていた介護行為は、契約に基づく労務とみなされるからです。
注意するべきは、対価は現金だけでなく、生活費の援助や不動産の無償使用権なども含まれるという点です。
例えば「自宅を譲るから、同居して介護してほしい」と言われて介護していた場合には、自宅の取得が対価にあたる可能性があります。
2-6 介護・看護により故人の財産を維持・増加させられた
寄与分が認められるには、単に献身的な介護を行っていたというだけでなく、その結果として、被相続人の財産の維持や増加に貢献していた必要があります。
例えば、施設入所を避けて在宅介護を継続できたことで、施設利用料や介護サービス費用が発生しなかった場合には、寄与分として認められる可能性が上がります。
2-7 片手間ではなく多くの負担をしていた
生活や仕事の片手間として介護をしていたのではなく、自分の生活を犠牲にして介護をしていた場合にも、寄与分が認められやすくなります。
例えば、仕事の合間に週1回訪問していた程度の介護では、寄与分として認められる可能性は低いでしょう。
反対に、フルタイムの仕事を辞めて、親の介護に専念していたようなケースでは、寄与分が認められやすくなります。
「自分は献身的に故人の介護をしていた」と主張したいのであれば、生活の中でどの程度の負担を担っていたのか、客観的に示せるようにしておくことも大切です。
2-8 要件を証明できる証拠・資料を提出できる
寄与分を主張するには、これまで解説してきた要件を満たしていると証明できる証拠や資料を用意しなければなりません。
相続人同士の話し合いで寄与分が認められる場合には、証拠は必ずしも必要ありませんが、調停や審判など裁判上の手続きをするのであれば、証拠が必要となるからです。
具体的には、下記などの証拠や資料を用意しておくと良いでしょう。
- 介護日誌や日記、メモ帳
- 医師の診断書や要介護認定証、ケアプラン
- 介護保険の利用履歴
- 他の相続人や関係者の証言
- 写真やメールなど、介護を行っていた証拠
証拠を用意できない場合や、感情論を主張するだけでは、裁判所に寄与分を認めてもらえる可能性は低いでしょう。
3章 長年の介護による寄与分が認められにくい理由
親の介護を長年にわたり行っていたとしても、寄与分が認められるケースは少ないのが現状です。
介護による寄与分が認められにくい理由は、主に下記の通りです。
- 要件をすべて満たすことが難しい
- 証拠や資料を用意することが難しい
- 他の相続人が寄与分を認めないことが多い
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 要件をすべて満たすことが難しい
本記事の2章で解説したように、介護による寄与分が認められるための要件は様々なものがあり、すべてを満たすことは難しいでしょう。
そのため、親の介護を行っていたとしても、寄与分の要件を満たせず、他の相続人に寄与分を請求できない可能性も十分にあります。
例えば、「介護により、故人の財産の維持・増加につながった」と主張するためには、施設入所を回避したことによって費用が削減されたなどの具体的な貢献度合いを立証しなければなりません。
単純に「他の兄弟姉妹より、親の面倒を見ていた」などの主張では、寄与分は認められないのでご注意ください。
3-2 証拠や資料を用意することが難しい
介護による寄与分を認めてもらうには、具体的な証拠や資料を用意しなければなりません。
しかし、介護をしている最中は十分に記録をつけておらず、証拠を提出できないこともあるでしょう。
- 介護をしていた当時、記録を残していなかった
- 要介護認定は受けていたが、介護保険サービスを併用していたため、寄与の程度を測定することが難しい
- 家族内の口約束や非公式なやりとりしかなく、文書化されていなかった
- 他の親族と協力して介護していたため、誰がどれだけ貢献したのか明確でない
上記のケースでは、寄与分を主張しても認められにくくなります。
3-3 他の相続人が寄与分を認めないことが多い
寄与分の認定は、相続人全員の協議によって決めることが原則です。
しかし現実には、他の相続人が寄与分を認めないケースが非常に多いのが実情です。
具体的には、下記などの理由で他の相続人が寄与分を認めないことが多くあります。
- 寄与分を認めてしまうと、遺産の取り分が減るため認めたがらない
- 同居していたことに、嫉妬や不信感を抱いている
- 「介護は当然のこと」「報酬をもらっていたのでは?」といった反論がある
また、親の介護が目に見えにくいものであった場合には、他の相続人から「そこまで特別なことをしていたのか?」と疑問視されやすく、協議がまとまらない原因となります。
一方、介護をしていた相続人からしてみれば「介護をしなかっただけでなく、寄与分まで認めてくれないのはおかしい」と感じ、相続人同士で対立が激化してしまうこともあるでしょう。
寄与分についての話し合いが相続人同士でまとまらない場合には、調停や審判を申し立て裁判所に判断してもらうこともできます。
長年の介護による寄与分を請求する流れは、本記事の5章で詳しく解説していきます。
4章 長年の介護による寄与分を計算する方法
介護による寄与分が認められた場合、寄与行為によって被相続人の財産が維持または増加した分を計算し、相続人の遺産取得分に上乗せします。
寄与分が認められたとしても、相続人全体の法定相続割合自体が変わるわけではないという点に注意しておきましょう。
原則として、介護による寄与分は「介護ヘルパーの外注費用(日当)×介護日数×裁量的割合」で計算可能です。
裁量的割合とは、家庭裁判所が個々のケースによって判断する割合です。
また、相続人が直接介護をしたわけではなく、介護費用を負担していた場合には負担していた金額を寄与分として主張できます。
介護による寄与分は、「介護や家事を外注した場合はいくらかかるのか?」といった考えをもとに計算されるため、想定していた金額より受け取れる寄与分が少ない可能性もあります。
「長年頑張ってきたのにこんなものか」と思わないようにするためにも、介護を始める段階で故人に相続対策をしてもらうことも検討しましょう。
介護をしてくれる相続人に遺産を多く遺す方法は、本記事の6章で詳しく解説します。
5章 長年の介護による寄与分を請求する流れ
寄与分を請求するには、一般的には下記の流れで進めていきます。
- 遺産分割協議で話し合う
- 遺産分割調停を申立てる
- 遺産分割審判を行う
それぞれ詳しく解説していきます。
STEP① 遺産分割協議で話し合う
まずは、相続人全員で遺産分割協議を行い、寄与分について話し合います。
寄与分を主張する相続人は、どのような寄与を、どれくらいの期間行ったのか、金銭的評価はどの程度か、という点を具体的に説明し、他の相続人の理解を求めましょう。
他の相続人が寄与分に納得しやすくするためにも、証拠や資料を用意しておくことをおすすめします。
遺産分割協議にて、相続人全員が寄与分について認めれば、決定した内容を遺産分割協議書にまとめましょう。
STEP② 遺産分割調停を申立てる
遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
調停では、調停委員が間に入り、寄与分を含めた遺産分割について相続人同士の合意を促します。
遺産分割調停を行う際にも、寄与分を主張する相続人は、介護の実態や貢献度を客観的に示す資料を提出しなければなりません。
調停委員に対しても、感情論ではなく、事実ベースで丁寧に説明することが重要です。
なお、調停はあくまでも「合意」を目指す手続きであるため、当事者間で折り合いがつかなければ次のステップである審判へと手続きが進みます。
STEP③ 遺産分割審判を行う
調停でも解決できなかった場合には、裁判所が判断をくだす遺産分割審判に進みます。
審判では、提出された証拠や各相続人の主張をもとに、裁判官が寄与分の有無や金額を決定します。
審判においては、感情的な訴えではなく、どれだけ客観的証拠に基づいて主張できるかが重要です。
遺産分割調停や審判の準備、裁判所が納得するだけの証拠や資料を用意することは難しいため、相続トラブルに詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。
6章 介護をしてくれる相続人に遺産を多く遺す方法
本記事で解説してきたように、介護による寄与分が認められる可能性は低く、認められたとしても寄与分として受け取れる金額は予想より少ない可能性もあります。
そのため、相続人の1人が介護をする場合には、被相続人が元気なうちに相続対策をしておくことをおすすめします。
相続対策には、下記などの方法があります。
- 遺言書を作成する
- 生前贈与をする
- 生命保険を活用する
- 家族信託を活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
6-1 遺言書を作成する
遺言書を作成すれば、介護をしてくれる相続人に多く遺産を譲れます。
遺言書には複数の種類がありますが、中でも信頼性が高く、原本の改ざんや紛失のリスクがない公正証書遺言を作成することをおすすめします。
被相続人に配偶者や子供がいる場合には、遺言内容が遺留分を侵害しないように注意しなければなりません。
遺留分とは、故人の配偶者や子供、両親に認められる最低限度の遺産を受け取れる権利です。
遺留分は遺言より優先されるため、介護をしてくれる子供にすべての遺産を譲る遺言書などを用意すると、遺留分トラブルに発展する恐れもあります。
相続に精通した司法書士や弁護士に相談すれば、遺留分も考慮した遺言内容を提案してもらえます。
6-2 生前贈与をする
生前贈与でも、介護をしてくれる相続人に資産を譲れます。
生前贈与であれば、相続発生を待たず任意のタイミングで、相続人に資産を譲れる点もメリットといえるでしょう。
一方、年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税が課税される可能性があるのでご注意ください。
他にも、相続人が生前贈与を受けると「特別受益」に該当し、相続発生時に過去の贈与財産も遺産分割に反映しなければならない恐れもあります。
「介護をしてくれる相続人に多く遺産を遺したい」などと考えるのであれば、生前贈与と併せて、遺言書にて特別受益の持ち戻しを記載しておくと良いでしょう。
6-3 生命保険を活用する
介護をしてくれる相続人を受取人とした生命保険に加入すれば、生命保険金を遺せます。
生命保険金は、原則として遺産分割の対象にならず、受取人固有の財産として扱われるからです。
また、法定相続人が生命保険金を受け取ると「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を適用できるので、相続税対策にもつながります。
ただし、遺産に対して生命保険金があまりにも高額すぎる場合には、生命保険金が遺産分割の対象となるケースもあるので、ご注意ください。
相続対策として生命保険に加入するのであれば、事前に相続に強い司法書士や弁護士に相談しておくことをおすすめします。
6-4 家族信託を活用する
家族信託を活用すれば、認知症対策と相続対策の両方を行えます。
家族信託とは、自分が信頼する家族に財産の管理や運用、処分を任せる制度です。
例えば、親が元気なうちに、介護をしてくれる長男を受託者とした家族信託の契約を結べば、親が認知症になり判断能力を失った後も、長男が財産管理を行えます。
家族信託では、自分が亡くなった後に信託財産を受け継ぐ人物も指定できるので、認知症対策だけでなく、相続対策まで行えます。
まとめ
介護による寄与分は、単なる感情論では認められず、法律上の要件と客観的な証拠が求められます。
寄与分が認められたとしても、相続割合自体は変わらないため、期待と結果にギャップが生じることもあるでしょう。
介護してくれる家族に確実に多く遺産を渡したい場合は、遺言書作成や生前贈与、生命保険、家族信託などを組み合わせた相続対策が効果的です。
それぞれの相続対策にはメリットとデメリットがあるので、自分に合った対策をするためにも、相続に精通した司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
グリーン司法書士法人では、相続対策についての相談をお受けしています。
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