
- 遺言書で遺産を全て相続させることはできるのか
- 遺言書で遺産を1人だけに相続させるときによくある7つの理由
- 遺言書で遺産を1人だけに相続させる場合の注意点
遺言書を用意しておけば、希望の人物に希望の財産を受け継いでもらうことが可能であり、全ての遺産を1人の人物に相続させることもできます。
夫婦の間に子供がおらず配偶者に全て遺産を相続させたい場合や、相続手続きを楽にしたい場合は、1人に全ての遺産を相続させる遺言書を作成しても良いでしょう。
ただし、1人に全ての遺産を相続させる遺言書を作成すると、遺留分などをめぐって相続トラブルが起きるリスクもあるのでご注意ください。
本記事では、遺言書で遺産を全て相続させることはできるのか、1人に全ての遺産を相続させる遺言書を作成する場合の注意点を解説します。
遺言書の種類や作成方法については、下記の記事で詳しく解説しているので、よろしければ併せてお読みください。
目次
1章 遺言書で遺産を全て相続することはできる
遺言書では、誰にどの遺産をどれくらいの割合で相続させるかを指定できます。
したがって、遺産を1人だけに相続させると遺言書で指定することも可能です。
例えば、配偶者に全ての遺産を相続させたい場合や同居してくれた子供に遺産を譲りたい場合は、遺言書を作成しておくと良いでしょう。
次の章では、遺言書で遺産を1人だけに相続させるときによくある理由を解説します。
2章 遺言書で遺産を1人だけに相続させるときによくある7つの理由
遺産を1人だけに相続させるという遺言書を作成するケースも、実際多くあります。
遺産を1人に集中させる理由として多いのは、主に下記のものです。
- 夫婦の間に子供がいない
- 遺産を譲りたくない相続人がいる
- 法定相続人が1人しかいない
- 相続人以外の第三者に遺産を相続させたい
- 相続手続きを楽にすませたい
- 同居してくれる子供・跡取りとなる子供に遺産を譲りたい
- 相続税を節税できる可能性がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 夫婦の間に子供がいない
子供がおらず、自分が亡くなったら遺された配偶者に全ての遺産を相続させたいと考え、遺言書を書かれる方も多くいます。
遺言書を用意していない場合、配偶者が遺産を全て相続できない可能性もあるからです。
法律では、相続人になれる人物と優先順位を下記のように決めています。
優先順位の高い人物が1人でもいる場合、優先順位の低い人物が相続権を持つことはありません。
常に相続人になる | 配偶者 |
---|---|
第1順位 | 子供や孫 |
第2順位 | 両親や祖父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹や甥・姪 |
例えば、子供がいない夫婦のどちらかが亡くなった場合、故人の配偶者だけでなく両親祖父母や兄弟姉妹も相続人になる可能性があります。
配偶者に全ての遺産を相続させたい場合、遺言書を作成しておきましょう。
2-2 遺産を譲りたくない相続人がいる
遺産を相続させたくない相続人がいるため、特定の1人に遺産を集中させたいこともあるでしょう。
この場合も、特定の1人に全て遺産を譲るといった遺言書を用意する必要があります。
- 過去に多額の贈与をしている
- 不仲・疎遠である
上記のように、遺産を譲りたくない事情がある場合、遺言書を用意することも検討しましょう。
2-3 法定相続人が1人しかいない
法定相続人が1人しかいない場合、遺言書を用意しなくてもその相続人が全ての遺産を受け継ぎます。
しかし、相続発生後は本当に自分しか相続人がいないかどうか、相続財産にはどんなものがあるかなどを調査しなければなりません。
相続人調査・相続財産調査を行わなくてすむようにしたいのであれば、遺言書を用意しておいても良いでしょう。
2-4 相続人以外の第三者に遺産を相続させたい
相続人以外の人物に遺産を全て譲りたい場合、遺言書を用意しておく必要があります。
遺言書では、相続人だけでなく第三者も財産を受け継ぐ人物として指定できるからです。
例えば、内縁関係にあった妻や夫に遺産を相続してもらいたい場合は、遺言書を用意しましょう。
2-5 相続手続きを楽にすませたい
相続手続きを楽にするため、遺産を管理しやすくするために、遺産を1人に集中させるケースもあります。
例えば、遺産が土地など不動産しかない場合、複数の相続人で分割して相続することが難しい場合もあります。
加えて、共有分割してしまうと活用や売却が難しくなるデメリットがあります。
このようなリスクや負担を軽減するために、遺産を1人に集中させたいと考えるのであれば、遺言書の作成も検討しましょう。
2-6 同居してくれる子供・跡取りとなる子供に遺産を譲りたい
先祖代々受け継いできた土地や事業がある場合、跡取りとなる人物に遺産を集中させることがあります。
旧民法には家督制度があり、長男が全ての遺産を受け継ぐと決められていました。
しかし、現在は家督制度は廃止されているので、特定の人物に遺産を集中させたいのであれば、遺言書を用意しておく必要があります。
2-7 相続税を節税できる可能性がある
相続税の節税を目的として、遺産を1人に集中することもあります。
例えば、相続税には配偶者控除と呼ばれる制度が用意されています。
配偶者控除を適用した場合、配偶者は1億6,000万円もしくは法定相続分まで相続税がかからなくなります。
したがって、遺言書によって配偶者に全ての遺産を相続させ、相続税を節税しようと考えることもあるでしょう。
ただし、配偶者に全ての遺産を集中させる場合、二次相続の税負担が重くなるリスクを考慮しなければなりません。
上記のイラストのように、二次相続とは遺された配偶者も亡くなり、子供だけが相続人となる相続です。
二次相続では、法定相続人の人数が少なくなる、配偶者控除を適用できないなどの理由で、一般的に税負担が重くなりやすいと言われています。
そのため、相続税の節税目的で遺産を1人に相続させようとするのであれば、二次相続でかかる相続税までシミュレーションすることが大切です。
3章 遺言書で遺産を1人だけに相続させる際のリスク
遺言書で遺産を1人だけに相続させる際には、下記のようなリスクがあります。
- 他の相続人の遺留分を侵害する恐れがある
- 相続トラブルに発展する恐れがある
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 他の相続人の遺留分を侵害する恐れがある
遺産を1人に集中させる場合、残りの相続人の遺留分を侵害する恐れがあります。
遺留分とは、故人の配偶者や子供、両親に認められる最低限度の遺産を受け取れる権利です。
例えば、長男に全ての遺産を相続させるといった遺言書は、他の兄弟姉妹の遺留分を侵害する恐れがあります。
遺留分は遺言内容より優先されるため、先ほどの例の場合、長男は次男や長女に対して遺留分侵害額相当分の金銭を支払わなければならないこともあるでしょう。
3-2 相続トラブルに発展する恐れがある
特定の人物に全ての遺産を相続させるといった遺言書を作成すると、相続トラブルに発展する恐れもあります。
遺産を受け取れない相続人が不公平感をもつこともあるからです。
場合によっては、遺言書が有効かどうかを争う遺言無効確認訴訟に発展する可能性もゼロではありません。遺産を相続できない相続人が不公平感を持たないように、遺言内容を家族に話しておいたり、残りの相続人に生前贈与をしたりすることも検討しましょう。
4章 遺言書で遺産を1人だけに相続させる場合の注意点
遺言書で遺産を1人だけに相続させる際には、遺言執行者を選任しておくなどいくつか注意すべきことがあります。
注意すべきことは、主に下記の通りです。
- 遺言執行者を選任しておく
- 生前のうちに遺言内容を家族と共有しておく
- 付言事項を設定しておく
- 予備的内容を記載しておく
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 遺言執行者を選任しておく
遺言書を作成する際には、あわせて遺言執行者も選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておけば、その人が単独で遺産の名義変更手続きを行えますし、相続人に遺言書の内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人がなることもできますが、遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を選任すれば、作成時の意図や意思も伝えてもらえます。
4-2 生前のうちに遺言内容を家族と共有しておく
遺言書による相続トラブルを防ぐためにも、生前のうちから遺言内容を家族に話しておきましょう。
家族と共有しておけば「遺言書がこんな内容だと思わなかった」と遺族が戸惑う事態を回避できるからです。
また、遺言内容だけでなく遺産を1人に集中させる理由を話しておけば、家族の理解も得やすくなるでしょう。
4-3 付言事項を設定しておく
生前のうちに遺言内容を家族と共有するのと合わせて、付言事項も設定しておきましょう。
付言事項とは、遺言書に記載できるメッセージであり、遺族への気持ちや感謝、遺言書を作成した意図を記載できます。
付言事項は遺言書と異なり、法的拘束力はないものの内容を読んだ家族が故人の遺志を尊重しようと考えることも期待できます。
4-4 予備的内容を記載しておく
全ての遺産を1人に相続される遺言書を作成するのであれば、遺言書に予備的内容を記載しておきましょう。
予備的内容とは、相続発生より先に受遺者や相続人が死亡してしまった場合、誰に遺産を相続させるか指定しておくことです。
例えば、先祖代々長男が受け継いできた土地がある場合を考えてみましょう。
自分が亡くなるより前に長男が亡くなってしまった場合、遺言書に予備的内容を記しておけば長男の子に土地を受け継いでもらえます。
まとめ
遺言書があれば希望の人物に遺産を相続させられるため、1人に遺産を集中させることも可能です。
ただし、1人に全ての遺産を相続させる場合は、遺留分トラブルや相続トラブルに注意しておく必要があります。
このように、遺言書を作成する際には、様々なことを考慮しなければなりません。
自分で漏れのない遺言書を作成することは難しいので、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
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