
- 不公平な相続が行われることはあるのか
- 不公平な相続を提案されたときにすべきこと
- 不公平な相続が発生しやすい6つのケース
父親・母親が亡くなったときに子供は相続人になります。
そして、子供たちの相続分は平等であり、長男が多く遺産を受け取れるなどのルールはありません。
そのため、子供の1人が遺産の取り分を多く主張してきたときでも、従う必要はありません。
当事者同士で話し合いがまとまらずトラブルに発展しそうな場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することもご検討ください。
本記事では、不公正な相続が発生しやすいケース、不公平な相続を提案されたときの対処法を解説します。
相続トラブルについては、下記の記事でも解説しているので、よろしければお読みください。
目次
1章 子供の相続分は平等である
本記事の冒頭でも解説しましたが、子供たちの相続分は平等です。
各相続人が受け継げる遺産の割合は、法律で決められており下記の通りです。
ケース | 法定相続分 |
---|---|
相続人が配偶者と子供の場合 | 配偶者:2分の1 子供:2分の1 ※子供が複数人いる場合は等分する |
相続人が子供のみの場合 | 子供がすべて相続する ※子供が複数人いる場合は等分する |
したがって、長男だから遺産を多く受け取れるといったルールはありません。
一方、昭和22年までは家督相続と呼ばれるルールが適用されており、長男がすべての遺産を受け継ぐとされていました。
しかし、現在の法律では家督相続は廃止されており、子供たちは遺産を等分すると決められているので、次男や長女の遺産が少なくなることはありません。
2章 不公平な相続を提案されたときにすべきこと
本記事の1章で解説したように、子供たちの相続分は平等なので、相続人の1人から不公平な提案をされても応じる必要はありません。
不公平な相続を提案された場合、下記のことに留意しましょう。
- 提案内容にすぐに応じる必要はない
- 遺言書の有効性を調べる
- 相続人全員が納得できるまで話し合う
それぞれ詳しく解説していきます。
2-1 提案内容にすぐに応じる必要はない
不公平な相続を提案されたとしても、提案内容に応じる必要はありません。
子供たちの相続分は平等なので、長男だけ遺産を多く受け取れる、同居していた相続人が多く受け取れるといったルールはないからです。
現在の法律や法定相続分について説明し、相続人全員で納得できる方法を話し合いましょう。
もしかしたら「遺産分割協議書を用意したからサインと押印だけしておいて」と言われる場合があるかもしれません。
その場合、安易に署名や押印をせず、内容に納得できない場合はその旨を伝えましょう。
遺産分割協議書に署名や押印をしてしまうと「内容に合意した」という証明になるため、後から内容を覆すことが難しくなるからです。
2-2 遺言書の有効性を調べる
相続人の1人が「故人が遺言書を用意していた」と自分に有利な遺言書を持ってくるケースもあるかもしれません。
その場合は、本当に故人が作成した遺言書かどうかの調査や遺言書作成当時の故人の判断能力の調査も検討しましょう。
認知症になり判断能力を失ったときに作成した遺言書は、無効にできる可能性があるからです。
具体的には、遺言書作成当時の医師の診断記録やカルテの収集などを行い証拠を集めると良いでしょう。
2-3 相続人全員が納得できるまで話し合う
不公平な相続を提案されたとしても、相続人全員が納得できるまで話し合いを続けましょう。
故人が遺言書を用意していなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があるからです。
遺産分割協議では、誰がどの遺産をどれくらいの割合で相続するかを話し合います。
遺産分割協議がまとまらず難航する場合は、法定相続分で遺産を分けることも提案してみましょう。
他には、遺産のほとんどを不動産を占めていて分割しにくい場合は、不動産を現金化してから売却代金を分割する「換価分割」も良いでしょう。
このように、遺産分割方法は複数あるので、当事者同士で良い解決方法が見つからない場合は、相続について詳しい司法書士や弁護士に相談してみるのもおすすめです。
3章 不公平な相続が発生しやすい6つのケース
遺産のほとんどを不動産を占めていて分割しにくい場合や相続人の1人が偏った内容の遺産分割を提案してくる場合は、不公平な相続となりやすいのでご注意ください。
不公平な相続が発生しやすいケースは、主に下記の通りです。
- 相続人の1人が偏った遺産分割内容を提案してくる
- 遺産のほとんどを不動産を占める
- 生前に亡くなった人の面倒を見ていた相続人がいる
- 相続人の1人が生前贈与を受けていた
- 遺言書の内容が偏っていた
- 喪主が葬儀費用を負担している
それぞれ詳しく紹介していきます。
3-1 相続人の1人が偏った遺産分割内容を提案してくる
長男など相続人の1人が偏った遺産分割内容を提案してくる場合、どうしても不公平な相続となりやすく揉めやすいのでご注意ください。
- 長男だから遺産を多く受け取る権利がある
- 私は兄・姉よりお金に困っているから遺産がほしい
法律的には、上記の主張を受け入れる必要は一切ありません。
自分が納得できないと感じた場合は、その旨を伝え続け遺産分割協議書にも署名・押印しないようにしましょう。
3-2 遺産のほとんどを不動産を占める
遺産が土地しかない場合も分割しにくいため、不公平な相続になりやすいです。
例えば、上記のイラストのケースでは、不動産2,000万円に対して預貯金は200万円しかないので、相続人の1人が土地を受け継ぐと残りの相続人の取り分が減ってしまいます。
不動産の使い道がない場合や売却しやすい場合には、相続不動産を現金化して売却代金を遺産分割するのも良いでしょう。
一方、遺産のほとんどを不動産を占めている場合でも、子供たちで不動産を共有分割で相続することはおすすめできません。
不動産を共有分割すると権利関係が複雑になるなど、下記のデメリットやリスクがあるからです。
- 将来、相続が発生したときに権利関係が複雑になる
- 不動産を活用、売却するには、共有名義人全員の合意が必要になる
- 共有持分の売却は難しい
遺産のほとんどが不動産であり、相続人同士では協議がまとまらない場合には、安易に共有分割を選択するのではなく、まずは相続に精通した司法書士や弁護士に相談してみましょう。
相続人や資産の状況に合った遺産分割内容を提案です。
3-3 生前に亡くなった人の面倒を見ていた相続人がいる
故人の相続人の1人が長年同居していた場合や相続人の1人が故人を長年介護していた場合も、不公平な相続となる可能性があります。
同居や介護をしていた相続人にとっては、自分の貢献度に見合った遺産を受け取りたいと考えるでしょう。
一方で、残りの相続人は自分の取り分を少しでも減らしたくないと考えることも多いはずです。
故人が同居・介護していた相続人に有利な遺言書を作成する可能性もありますし、遺産分割協議でも双方の主張がぶつかり合い、話し合いがまとまらない可能性もあります。
そのため、全員が「過去の生活・貢献に見合った公平な相続だ」と感じ納得するのが難しい場合も多いです。
当事者同士で解決できない場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することもおすすめします。
専門家からの公平なアドバイスであれば、受け入れざるを得ないと感じる相続人もいるからです。
【長年介護をしてきた相続人は寄与分を主張できる】
故人の介護を長年してきた相続人は、寄与分を主張できる可能性があります。
寄与分とは、故人の財産の維持や増加に貢献していた相続人に対し、他の相続人よりも多く財産を相続させられる制度です。
ただし、長年介護をしていても、寄与分として主張できる金額は仮にその介護を外注していた場合の実費相当分程度に過ぎず、実際の労働に見合った金額ではないと感じることも多いでしょう。
そのため、故人の介護が相続人の1人に偏りそうな場合は、故人が元気なうちに相続対策をしておくことをおすすめします。
3-4 相続人の1人が生前贈与を受けていた
相続人の1人が過去に故人から生前贈与を受けていた場合も、不公平な相続であると感じやすいのでご注意ください。
贈与を受けていない相続人は、過去の贈与も反映した上で遺産分割を行いたいと考えることも多いからです。
なお、相続人の1人が故人から受けていた特別な利益は「特別受益」に該当する可能性があります。
特別受益に該当すると、過去の贈与も相続財産に反映して遺産分割を決定しなければなりません。
過去の生前贈与が特別受益と疑われる場合、贈与を受けた相続人とそれ以外の相続人で意見がぶつかり合いトラブルに発展しやすいので注意しましょう。
3-5 遺言書の内容が偏っていた
「次男にすべての遺産を相続させる」など偏った内容の遺言書が見つかった場合も、不公平な相続になりやすいといえます。
そして、偏った内容の遺言書が見つかった場合、他の相続人の遺留分を侵害している恐れがあります。
遺留分とは、亡くなった人の配偶者や子供、両親に認められる最低限度の遺産を受け取れる権利です。
遺留分は遺言内容より優先されるため、遺言により遺産を多く受け取った人物は遺留分侵害相当分の金銭を他の相続人に支払わなければなりません。
このように偏った内容の遺言書が用意されていると、遺留分トラブルが起きる可能性も高いですし、そもそも遺言書が有効かどうかの争いも発生する可能性があります。
3-6 喪主が葬儀費用を負担している
長男が喪主になり葬儀費用を負担した場合、他の相続人と同額の遺産しか受け取れないのは不公平だと感じる場合もあるでしょう。
その場合は、相続人全員で話し合い葬儀費用を考慮して喪主の取り分を多くすることもできます。
【遺産から葬儀費用を払うこともできる】
そもそも、喪主が自分の資産で葬儀費用を払うのではなく、遺産から葬儀費用を支払うことも可能です。
その場合、遺産分割が完了していないうちに葬儀費用を払うことになるケースが多いため、預貯金の仮払い制度を利用するのが良いでしょう。
預貯金の仮払い制度とは「死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1」もしくは「150万円」を上限に、故人の口座から相続人が預貯金を引き出せる制度です。
引き出した預貯金は葬儀費用や故人の入院費用の支払いに充てられます。
ただし、引き出した預貯金も遺産であることには変わりないため、葬儀費用や入院費用の領収書、明細書は必ず保管しておきましょう。
4章 相続人の1人に不公平な遺産分割内容を提案されたときの対処法
相続人の1人に不公平な遺産分割内容を提案された場合は、相続人全員が納得できる内容を提案する、相続に強い司法書士や弁護士に相談するなどの対策が必要です。
具体的には、下記の方法で対処しましょう。
- 相続人全員が納得する遺産分割内容を提案する
- 相続に強い司法書士・弁護士に相談する
- 遺産分割調停・審判を行う
- 寄与分を請求する
- 特別受益の持ち戻しを主張する
- 遺言無効確認訴訟を行う
- 遺留分侵害額請求を行う
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 相続人全員が納得する遺産分割内容を提案する
まずは、相続人全員で遺産分割協議を行い、全員が納得できる遺産分割内容を提案しましょう。
各相続人が相続できる割合は「法定相続分」と呼ばれ、法律によって下記のように決められています。
法定相続人 | 法定相続分 | 備考 | |
---|---|---|---|
配偶者のみ | 配偶者100% | ||
配偶者+子 | 配偶者 | 1/2 | 子が複数人いる場合は均等に分配 |
子 | 1/2 | ||
配偶者+両親などの直系尊属 | 配偶者 | 2/3 | ・親が複数人いる場合は均等に分配 ・被相続人に最も近い世代のみが相続人となる。親・祖父母ともに存命の場合でも、親のみが相続人となります。 |
両親などの直系卑属 | 1/3 | ||
配偶者+兄弟・姉妹 | 配偶者 | 3/4 | |
兄弟・姉妹 | 1/4 | ||
子のみ | 子100% | ||
両親などの直系尊属のみ | 両親100% | 親が複数人いる場合は均等に分配 | |
兄弟・姉妹のみ | 兄弟・姉妹100% | 兄弟・姉妹が複数人いる場合は均等に分配 |
相続人同士で揉めてしまうのであれば、法定相続分による相続を提案しましょう。
「法律で決まっている」と話せば、相続人も納得してくれる可能性があります。
4-2 相続に強い司法書士・弁護士に相談する
相続人同士の話し合いで解決できない場合には、相続に精通した司法書士や弁護士に相談してみるのもおすすめです。
相続に強い専門家であれば、相続人や資産の状況に合った遺産分割内容を提案できるからです。
相続人の意見は聞き入れないものの、専門家の意見であれば受け入れる場合も多々あります。
なお、すでにトラブルが起きている場合は弁護士に相談し交渉してもらうのがおすすめですが、まだトラブルが起きていないのであれば司法書士に相談してみましょう。
司法書士であれば、公平な立場からアドバイスできるので、他の相続人も反発しにくい傾向がありますし、遺産分割が完了した後も相続人同士の関係を保ちやすくなります。
4-3 遺産分割調停・審判を行う
遺産分割協議がどうしてもまとまらない場合は、遺産分割調停や審判を行いましょう。
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
遺産分割調停では調停委員が間に入ってくれるため、協議よりも話し合いが成立しやすいのが特徴です。
一方、調停はあくまで話し合いであり不成立に終わった場合は、審判へと手続きが進みます。
遺産分割審判へと進んだ場合、最終的に裁判所が遺産分割方法・内容を決定します。
遺産分割調停・審判をするには必要書類を揃え申立てをする必要がありますし、遺産分割に関する資料を用意しなければなりません。
自分で手続きや準備をするのは現実的ではないので、詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。
遺産分割調停の手続き方法および必要書類は、下記の通りです。
申立てする人 | 相続人 |
---|---|
申立先 |
|
かかる費用 |
|
必要書類 |
|
4-4 寄与分を請求する
故人の介護を長年してきた場合や故人の事業を無償で長年手伝ってきた場合は、寄与分の請求を検討しましょう。
寄与分とは、故人の財産の維持や増加に貢献していた相続人に対し、他の相続人よりも多く財産を相続させられる制度です。
寄与分を請求する流れは、下記の通りです。
- 遺産分割協議で話し合う
- 遺産分割調停を申立てる
- 遺産分割審判を行う
上記のように、まずは相続人同士の話し合いで寄与分を主張しましょう。
残念ながら、寄与分について他の相続人が同意してくれなかった場合は、遺産分割調停や審判の手続きへと進みます。
遺産分割調停や審判では寄与分についての証拠が必要なので、介護をしてきた証拠や事業を手伝ってきた証拠を用意しておきましょう。
4-5 特別受益の持ち戻しを主張する
過去に生前贈与を受けた相続人がいて遺産分割内容に納得できない場合は、特別受益の持ち戻しを主張しましょう。
特別受益の持ち戻しを行えば、過去の贈与財産も反映して遺産分割を行えます。
特別受益の持ち戻しは遺産分割協議にて主張できます。
しかし、贈与を受けた相続人は特別受益を認めると遺産の取り分が減るため、認めないケースも多いです。
トラブルを避けるためには、過去の贈与が特別受益だった証拠や過去に贈与があった証拠を用意しておくとスムーズです。
4-6 遺言無効確認訴訟を行う
遺言書の内容に疑問がある場合や作成時の遺言者の判断能力に疑問がある場合は、遺言無効確認訴訟を検討しましょう。
遺言無効確認訴訟とは、名前の通り、遺言書が無効か有効かを確認する裁判です。
ただし、遺言無効確認訴訟で遺言書を無効とするためには、無効であることを証明する証拠が必要なのでご注意ください。
例えば、公正証書遺言の証人についての証拠や遺言書作成時の遺言者の判断能力に関する証拠を集めましょう。
4-7 遺留分侵害額請求を行う
遺言内容が遺留分を侵害している場合、遺留分侵害請求を行いましょう。
遺留分侵害額請求を行えば、遺産を多く受け取った人物に遺留分侵害相当分の金銭を支払ってもらえます。
遺留分侵害額請求についても、まずは当事者同士の話し合いで解決可能です。
話し合いで解決できない場合は、内容証明郵便の送付や遺留分侵害額請求調停・訴訟を起こすことを検討しましょう。
まとめ
子供の相続分は平等なので、長男だから遺産を多く受け取れる、同居していた子供が多く受け取れるといったルールはありません。
万が一、不公平な遺産分割内容を提案したとしても、応じる必要はないのでご安心ください。
遺産のほとんどが不動産を占める場合や相続人の1人が介護や同居をしていた場合、相続人が不公平感を持つリスクが上がるのでご注意ください。
不公平な遺産分割を提案され納得できないときには、遺産分割調停や審判、寄与分の主張など状況に合った方法で対処しましょう。
まだトラブルが激化していないのであれば、相続に強い司法書士に相談し中立の立場からアドバイスをしてもらい円満解決を目指せる場合もあります。
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