
- 手書きの遺言に効力はあるのか
- 自筆証書遺言の要件
- 自筆証書遺言を作成する流れ
- 手書きで遺言書を作成するときの注意点
遺言書は、法的な要件を満たした場合に限り効力を持たせられます。
遺言書にはいくつか種類がありますが、特に「自筆証書遺言」は手書きでの作成を特徴としています。
自筆証書遺言を作成する際には、すべて手書きで作成するなどの要件を満たす必要があります。
ただし、自筆証書遺言は原本の紛失や改ざんリスクがある点に注意しておきましょう。
本記事では、手書きの遺言の効力についてや、遺言書を作成する流れを解説します。
遺言書の種類については、下記の記事で詳しく解説していますので、よろしければ併せてお読みください。
1章 自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言に効力を持たせるには、遺言者がすべて自筆で作成するなどの要件を満たさなければなりません。
自筆証書遺言の要件は、下記の通りです。
- 遺言者が自筆で全文書く
- 作成日を自筆で書く
- 署名する
- 印鑑を押す
- 決められた方法で訂正する
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1 遺言者が自筆で全文書く
自筆証書遺言は、遺言者本人がすべて手書きで作成しなければなりません。
署名だけでなく、遺言部分も自筆で作成しなければならない点に注意しましょう。
例えば、下記の方法で作成された自筆証書遺言は無効になります。
- 署名のみ自筆で本文をパソコンで作成したもの
- 録音や録画で作成したもの
- 家族や専門家に代筆してもらったもの
なお民法改正により、遺言書に添付する財産目録のみは要件が緩和され、署名押印以外は自筆でなくてもよくなりました。
財産目録に関しては下記の方法で作成された場合も有効です。
- パソコンで財産目録を作成する
- 家族や専門家に財産目録を代筆してもらう
- 登記事項証明書や通帳のコピーなどを財産目録として添付する
ただし、自筆以外で財産目録を作成する場合、下記のルールを守る必要があります。
- 財産目録のそれぞれのページに署名と押印を行う
- 遺言書と同じ紙に財産目録を記載しない
1-2 作成日を自筆で書く
自筆証書遺言を作成する際には、下記のように正確な作成日を記載しなければなりません。
- 令和4年4月3日
- 2022年5月14日
「令和4年4月吉日」などといった記載方法では、正確な日付がわからないので無効になってしまいます。
なお、遺言書は法的に有効であれば、種類にかかわらず、作成日が最も新しいものが有効となります。
1-3 署名する
自筆証書遺言には、遺言者の自筆による署名押印をしなければなりません。
本人が作成した遺言書だと証明しやすくするため、署名の後に住所も書いておくことをおすすめします。
1-4 印鑑を押す
自筆証書遺言には、署名だけでなく押印もしなければなりません。
そして、印面が掠れてしまうと、遺言書が無効になる恐れがあるのでご注意ください。
印面が消えてしまうリスクを考慮して、朱肉を使用するのがおすすめです。
なお、自筆証書遺言に押す印鑑は法律によって決められていないため、認印でも法律上は問題ありません。
とはいえ、信頼性を高めるために実印を押すことをおすすめします。
1-5 決められた方法で訂正する
自筆証書遺言に書いた内容を訂正する場合、決められた方法で訂正しなければなりません。
決められた方法で訂正されていない場合、訂正が無効となり訂正前の内容が効力を持ってしまうのでしましょう。
自筆証書遺言の内容を訂正する方法は、下記の通りです。
- 訂正したい本文に取り消し線を引いて、側に訂正後の文字を書く
- 訂正した部分に訂正印を押す
- 欄外の余白に訂正内容について記載する
2章 自筆証書遺言を作成する流れ
自筆証書遺言を作成する際には、いきなり遺言書を書き始めるのではなく、事前に自分の財産を整理し遺言内容を考える必要があります。
自筆証書遺言を作成する流れは、下記の通りです。
- 自分の財産を把握する
- 各種資料を用意する
- 遺言できる事項を確認する
- 遺言内容をじっくり考える
- 遺言を書く
- 遺言書を封筒に入れて封印する
遺言内容を考える際には、自分だけで考えるのではなく、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
司法書士や弁護士であれば、家族や資産の状況にあった遺言内容をアドバイスしてくれます。
3章 手書きで遺言書を作成するときの注意点
自筆証書遺言においては、法務局による保管制度を利用しない場合、遺言書の紛失や改ざんリスクがあることなどに注意しなければなりません。
手書きで遺言書を作成する際には、主に下記のことに注意しましょう。
- 自筆証書遺言には紛失・改ざんリスクがある
- 連名で作成した遺言書は無効になる
- ビデオレター・音声による遺言は認められない
- 誰が見てもわかる内容にする
- 遺留分を侵害しない内容にする
- 法務局の保管制度を利用していない場合は検認手続きが必要である
- 遺言書に記載した財産を使用してしまっても問題はない
- 遺族の負担を減らしたいなら遺言執行者を選任しておく
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 自筆証書遺言には紛失・改ざんリスクがある
手書きで遺言書を作成する場合、法務局による保管制度を利用しないと、遺言書の紛失や改ざんリスクがあるのでご注意ください。
遺言書の紛失や改ざんを防ぎたいのであれば、公正証書遺言を作成するか、法務局による保管制度を利用しましょう。
3-2 連名で作成した遺言書は無効になる
連名で作成した遺言書は、無効になってしまうのでご注意ください。
遺言書は連名で作成することはできないので、夫婦であっても、連名で1つの遺言書を作ることはやめましょう。
3-3 ビデオレター・音声による遺言は認められない
ビデオレターや録音による遺言は無効となるので、ご注意ください。
病気の後遺症などが原因で麻痺を負い、手書きで遺言書を作成することが難しい場合は、公正証書遺言の作成も視野に入れましょう。
ただし、ビデオレターや録音データは遺言としての効力は持たないものの遺族に自分の思いを伝える手段としては有効です。
そのため、遺言書とは別にビデオレターや録音を遺しておくことは意義があるといえます。
3-4 誰が見てもわかる内容にする
相続トラブルを避けるために、遺言書は誰が見ても内容がわかるように書きましょう。
例えば「任せる」「渡す」などの曖昧な表現を使用すると、複数の解釈が考えられ相続人同士で揉める恐れがあります。
財産を受け継ぐ相手に対しては、下記の表現を使用しましょう。
- 取得させる
- 相続させる
- 遺贈する
遺言書の内容や書き方について悩む場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することもおすすめします。
3-5 遺留分を侵害しない内容にする
遺言書を作成するときには、遺留分を侵害しないように気をつけましょう。
遺留分とは、故人の配偶者や子供、両親に認められる最低限度の遺産を受け取れる権利です。
遺留分は遺言書より優先されるため、遺言書の内容によっては遺産を多く受け取った人物が遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分侵害額請求をされた場合、遺産を多く受け取った人物は遺留分侵害額相当分の金銭を払わなければなりません。
このように、遺言書の内容が遺留分を侵害してしまうと、トラブルに発展することもあります。
遺言書を作成するときは、事前に内容を司法書士や弁護士に確認してもらうのが良いでしょう。
3-6 法務局の保管制度を利用していない場合は検認手続きが必要である
手書きで作成する自筆証書遺言の場合、法務局の保管制度を利用していないと相続発生後に家庭裁判所で検認手続きをしなければなりません。
遺族の負担を減らしたいのであれば、法務局による保管制度の利用や公正証書遺言の作成を検討しましょう。
遺言書の検認手続きの方法や必要書類は、下記の通りです。
手続先 | 故人の最後の住所地の家庭裁判所 |
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手続できる人 | 遺言書の保管者・遺言書を発見した相続人 |
必要なもの |
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手数料 |
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3-7 遺言書に記載した財産を使用してしまっても問題はない
「遺言書に記載した財産は必ず、指定した人物に受け継がせなければならない」と誤解されがちですが、遺言書に記載した財産を遺言者が使用、処分してしまっても問題ありません。
老後の生活費として使用しても良いですし、「長男に財産を遺したくないから長男に遺す予定だった財産を使用する」などの理由も認められています。
遺言書に記載された財産の一部を使用した場合、使用した財産に関する内容は無効になり、残りの部分に関しては効力を持ち続けます。
そのため、年齢が若いうちから不測の事態に備えて遺言書を作成しておくことも検討しましょう。
ただし、遺言書に記載した財産のほとんどを使用、処分してしまうと遺族が遺言書を確認した際に困惑する可能性もあります。
そのため、遺言書に記載した財産と実際の財産があまりにも異なる場合は、遺言書を作り直すと良いでしょう。
3-8 遺族の負担を減らすなら遺言執行者を選任しておく
自分が亡くなった後に遺族の負担をできるだけ減らしたいのであれば、遺言執行者を選任しておくと良いでしょう。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人です。
遺言執行者を選任しておけば、単独で遺産の名義変更手続きを行えますし、相続人に遺言書の内容を伝えてくれます。
遺言執行者は相続人がなることもできますが、遺言書の作成を依頼した司法書士や弁護士を選任すれば、作成時の意図や遺志も伝えてもらえます。
まとめ
手書きで遺言書を作成することはできますが、法的な要件を満たさなければ効力を持たせられません。
また、法務局による保管制度を利用しなければ、遺言書を自分で保管する必要があるため、紛失や改ざんリスクがあります。
信頼性が高い遺言書を作成したかったり、遺言書の紛失や改ざんリスクをなくしたかったりするのであれば、公正証書遺言の作成や法務局による保管制度を利用することをおすすめします。
また、遺留分トラブルを防ぐためにも、遺言書を作成する際には、事前に司法書士や弁護士に内容を確認してもらうこともご検討ください。
グリーン司法書士法人では、遺言書の作成について相談をお受けしています。
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