遺言により不動産を譲り受けた際に行う、名義変更手続きを「遺贈登記」といいます。
「遺贈登記」といっても、
・何からはじめたらいいの?
・必要な資料や準備物は?
・どれくらい費用がかかるの?
などと、わからないことが沢山あると思います。
本記事では、このような遺贈登記に関するモヤモヤを解消するため、手続きの流れやかかる費用などをわかりやすく説明させていただきます。
遺贈登記の手続きは、相続人全員(もしくは遺言執行者)と、不動産を譲り受けた人が協力して、それぞれに必要な準備物を用意したり、自ら書類を作成する必要があります。
遺言を残してくれた人の想いを、速やかに実現できるよう本記事を参考にして頂ければ幸いです。
1章 遺贈登記とは
不動産が「遺贈」されたら、名義変更のため「登記」が必要になります。
「遺贈」とは、遺言により財産を贈与することをいい、相続人以外の第三者に財産を贈与したい場合によく用いられる方法です。
名義変更のための「登記」とは、法務局という役所で行う「遺贈による所有権移転登記」という手続きで、この手続きを一般的に「遺贈登記」といいます。また、遺言により不動産を譲り受けた人を「受贈者」といいます。
1-1 遺贈登記はいつ、どこで、誰がやるの?
遺贈登記は、いつ、どこで、誰がやるのかについて、まずは一覧で確認しましょう。
次にそれぞれ詳しく見ていきましょう。
1-1-1 死後10ヶ月以内に遺贈登記の手続きを行うことがベスト
遺贈登記の手続きに法的な期限はありませんが、死後10ヶ月以内に手続きを行うことがベストです。
なぜなら、遺言者の死後(遺贈の効力発生後)に長期間放置しておくと、さらなる相続が発生したり、相続税申告の期限を過ぎてしまい余計な税金を払うことになるなど、様々なリスクが発生する可能性があるからです。
遺贈登記は、死後10ヶ月以内に手続きを完了させることがオススメです。
1-1-2 不動産の所在地を管轄する法務局で登記申請を行います
不動産の名義変更手続である遺贈登記は「法務局」に「登記申請」する方法で行います。
不動産の所有者など公の記録を「登記」といい、登記記録を管理している役所を「法務局」といいます。遺贈により不動産の所有者が変わるため、名義変更の「登記申請」を法務局で行うことになります。
法務局は全国に約500ヶ所あり、それぞれの法務局で管轄するエリアは決まっているため、遺贈された不動産の所在を管轄している法務局で遺贈登記の手続きを行う必要があります。
所在地域が違う複数の不動産を遺贈された場合は、不動産ごとに所在を管轄する法務局で手続きを行うことになります。
1-1-3 「受贈者」と「遺言者の相続人全員もしくは遺言執行者」が共同して行います。
遺贈登記の申請は「受贈者と遺言者の相続人全員」もしくは「受遺者と遺言執行者」が共同して行う必要があります。
遺言により、不動産を譲り受けた人を「受遺者」といいます。
原則、この受遺者と遺言者の相続人全員が協力して登記申請を行うことになりますが、
遺言で遺言執行者が指定されている場合は、受遺者と遺言執行者が協力して登記申請を行うことができます。
また、遺言において、受遺者を遺言執行者に指定することもできるため、その場合は受遺者が遺言執行者として、実質1人で登記申請することができます。
遺言者はあらかじめ遺言書の中で「遺言執行者」を指定しておくことができます。
遺言執行者は、不動産の名義変更や預金解約など、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます。
遺言書に「遺言執行者として山田太郎を指定します。」というような文言があるかどうかがポイントです。
遺贈登記の概要をまとめると次のとおりです。
なお、遺言書で遺言執行者が指定されておらず、かつ相続人全員の協力を得られない時は、共同して遺贈登記の手続きを行うことができません。
そのような場合は、家庭裁判所で「遺言執行者選任の申立て」を行い、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらって、選任された遺言執行者と遺贈登記の手続きを行うことも可能です。
また、受遺者自身が遺言執行者の候補者として立候補することもでき、選任されれば実質1人で遺贈登記の申請を行うことができます。
遺贈登記の申請人の判断は少し複雑なので、以下のフローチャートで確認しておきましょう。
2章 遺贈登記の【ケース別】必要書類
遺贈登記の手続きに必要な書類は、遺言執行者がいる場合といない場合で異なります。
遺言書に「遺言執行者の指定」に関する記載があるかどうかを確認して、準備する必要書類を判断してください。
はじめに遺言執行者がいる場合の必要書類を説明します。遺言執行者を家庭裁判所で選任してもらった場合も、こちらの必要書類になります。
遺言執行者が「いる場合」の必要書類
- 遺言書
- 遺言者の死亡が記載されている戸籍謄本
- 遺言者の住民票
- 遺言執行者の選任審判書
- 受遺者の住民票
- 対象不動産の固定資産税評価証明書
- 対象不動産の登記済証
- 遺言執行者の印鑑証明書
- 登記申請書
- 委任状
次に遺言執行者がいない場合の必要書類を確認しましょう。
遺言執行者が「いない場合」の必要書類
- 遺言書
- 遺言者の死亡が記載されている戸籍謄本
- 遺言者の住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 受遺者の住民票
- 対象不動産の固定資産税評価証明書
- 対象不動産の登記済証
- 遺言執行者の印鑑証明書
- 登記申請書
- 委任状
遺贈登記の手続きには、このように沢山の書類を準備または作成する必要があります。
司法書士へ依頼すれば「遺言書」「印鑑証明書」「不動産の登記済権利証」のみ準備するだけでよく、万が一、不動産の登記済権利証を紛失している場合でも、代替手段で手続きをすすめることができます。
3章 遺贈登記にかかる費用
安心して手続きを進めるには、事前にかかる費用を想定しておく必要があります。
本章では、遺贈登記の手続きにかかる費用をわかりやすく説明したいと思います。
遺贈登記の手続きにかかる費用は「登録免許税」「必要書類の取得にかかる実費」「司法書士の手数料」となります。
内容によって費用は大きく増減しますが、おおよその目安としては以下のとおりです。
【遺贈登記にかかる費用の目安】
※譲り受けた不動産の価格3000万円の場合
パターン① 受遺者が相続人の場合 (司法書士へ依頼なし) 12~13万円
パターン② 同上 (司法書士へ依頼あり) 22~25万円
パターン③ 受遺者が相続人以外の場合(司法書士へ依頼なし) 60~61万円
パターン③ 同上 (司法書士へ依頼あり) 70~72万円
それでは、各費用について詳しく見ていきましょう。
3-1 登録免許税
法務局で不動産の名義変更を行うときにかかる税金を「登録免許税」といいます。
「遺贈による所有権移転」の登録免許税は、受遺者が法定相続人かどうかによって税率が異なってきます。
なぜなら受遺者が相続人であれば事実上「相続による所有権移転」と考えられ、相続に関する軽減税率が適用されることになるからです。
【遺贈登記の登録免許税】
・受遺者が法定相続人でない・・・固定資産税評価額の2%(1000分の20)
・受遺者が法定相続人である・・・固定資産税評価額の0.4%(1000分の4)
登録免許税の計算は「固定資産税評価額」をもとに算出します。
固定資産税評価額とは、市区町村が、不動産の価値に応じて固定資産税を課すために独自のルールで評価した不動産評価額です。
固定資産税評価額は、年に一度所有者に送付される「課税明細書」か、役所で取得できる「固定資産評価証明書」で知ることができます。
詳しい解説はこちら
仮に、遺贈を受けた不動産の固定資産税評価額の価格が2000万円の場合は次のような計算になります。
受遺者が法定相続人でない場合・・・登録免許税40万円
受遺者が法定相続人である場合・・・登録免許税8万円
3-2 必要書類の取得にかかる実費
遺贈登記の手続きには、戸籍謄本、住民票、印鑑証明書などの資料が必要になります。
それぞれの状況によって添付資料は変わりますが、一般的な目安として数千円~1万円程度はかかると考えておきましょう。
3-3 司法書士の手数料
遺贈登記の手続きを司法書士に依頼する場合にかかる費用です。
手数料は遺贈された不動産の価値や数によって変わりますが、目安としては10万円前後と考えておきましょう。
遺贈以外のケースも含め、より詳しい解説はこちらの記事をお読みください。
4章 遺贈登記の手続き方法
本章では遺贈登記の手続き方法について、書類準備から登記申請まで手順別に説明したいと思います。
まずは、遺贈登記の全体の流れを確認しましょう。
全体の流れがわかれば、次にそれぞれの手順について詳しく見ていきましょう。
STEP⓪ 公正証書遺言以外の遺言書は「検認」しよう
遺言書が公正証書遺言以外の「手書きの遺言書」や「封がされている遺言書」の場合は、遺贈登記を行う前に「遺言書の検認」という家庭裁判所での手続きが必要になります。
公証人役場で記録されている公正証書遺言と違い、このような遺言書は改ざんや破棄される可能性が高くなります。
そのようなトラブルを避けるため、家庭裁判所で遺言書の存在や内容を確認・記録しておく必要があるのです。
遺言書の検認は、法律で決まっていることなので、検認後でないと遺贈登記や相続手続きを行うことはできません。
ご自身で家庭裁判所の手続きを行うことが難しい場合は、司法書士に検認手続から遺贈登記まで一括して依頼することも検討しましょう。
遺言書の検認手続きについて詳しく知りたい方はこちら
STEP① 不動産の登記簿謄本を確認しよう
不動産には土地や建物が識別できるように、土地には「地番」、建物には「家屋番号」がつけられています。まずは、遺言書の記載内容をみて不動産の地番や家屋番号を確認してください。
遺贈された不動産の地番や家屋番号がわかれば、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得します。(登記簿謄本は全国どこの法務局でも取得することができます。)
登記簿謄本が取得できれば、遺贈された不動産の所有者が遺言者で間違いないか確認しましょう。
確認すべきポイントは①「地番または家屋番号」②「氏名」③「住所」です。
③に記載されている所有者(故人)の住所が、死亡時の住所と異なる場合は、遺贈登記の前に「住所変更登記」を申請する必要があるので、③の住所には注意しましょう。
STEP② 必要書類を集めよう
次に必要な書類を準備します。
3章で説明したとおり必要な書類は、遺言執行者がいる場合といない場合で異なります。
遺言書に「遺言執行者として◯◯◯◯を指定する」等の文言があるかどうかを確認して、準備する必要書類を判断してください。
STEP③ 登記申請書を作成しよう
遺贈登記の手続きを司法書士に依頼せず申請人が行う場合、自ら登記申請書を作成しなければなりません。
登記申請書に様式の間違いや、内容の誤記があると、登記申請を取り下げさせられたり、補正を求められることになるので、決められた様式や法律に沿って正確な申請書を作成しなければなりません。
登記申請書は、遺言執行者がいる場合といない場合で、すこし記載内容が変わりますので注意が必要です。
以下、登記申請書のサンプルになりますので、違いを確認してみてください。
次は、遺言執行者がいない場合の登記申請書のサンプルです。遺言執行者がいる場合との違いは「義務者」の表記と添付資料に「相続証明書」が追加されることです。
STEP④ 法務局へ登記申請しよう
登記申請は、不動産の所在地を管轄する法務局で「窓口持参」または「郵送」の方法で行います。
【管轄法務局の調べ方】
不動産の所在によって、市区町村単位で管轄する法務局が決まっています。
法務局のホームページにある「不動産登記の管轄区域一覧」から確認してください。
登記申請の際には、2章で説明した「登録免許税」を納付する必要があります。
一般的な納付方法は「登録免許税額分の収入印紙」を購入して、登記申請書に貼り付けて提出します。
5章 遺贈登記は司法書士へ依頼しよう
遺贈登記は以下の理由から司法書士へ依頼することをオススメします。
5-1 ミスや失敗からトラブルに発展するリスクを防止
遺贈登記は相続人全員(もしくは遺言執行者)と受遺者が共同して手続きを行う必要があるため、それぞれが必要書類を用意したり、正確な書類を作成・準備する必要があります。
当事者間に信頼関係がなかったり、険悪なムードの場合は、少しのミスや失敗もトラブルの原因となる可能性があるので、司法書士へ依頼してスムーズに遺贈登記の手続きをすすめてもらうようにしましょう。
5-2 権利書がなかったり、住所変更がある場合などのイレギュラーにも対応
相続登記の単独申請とは違い、遺贈登記は共同申請で行うため、権利書が必要であったり、登記簿上の住所と死亡時の住所が異なる場合は、事前に住所変更登記が必要になります。
(注)相続登記の義務化に伴い、相続人に対する遺贈の登記は単独申請できるようになります。しかし、原則は共同申請であることに変わりありません。
権利書がなかったり、住所変更登記が必要なイレギュラーな場合でも、司法書士へ依頼すればスムーズに手続きをすすめてもらうことができます。
5-3 遺言書の検認や遺言執行者の選任が必要な場合にも対応
遺言書の検認や遺言執行者の選任など、家庭裁判所での煩雑な手続きが必要な場合も、司法書士へまとめて依頼すれば、スムーズに手続きをすすめてもらうことができます。
まとめ
遺贈登記について、ご理解いただけましたでしょうか。
相続人が行う相続登記とは違い、遺贈登記は共同申請の形式になるため注意が必要です。
ご自身でスムーズに行うことができない場合は、司法書士へ依頼することも検討しましょう。
よくあるご質問
遺贈登記とは?
遺贈登記とは、不動産が遺贈されたときに法務局で申請する手続きです。
遺贈登記を行うと亡くなった人から受遺者に名義変更手続きを行えます。
▶遺贈登記について詳しくはコチラ遺贈の登記義務者とは?
遺贈登記は「受贈者」と「遺言者の相続人全員もしくは遺言執行者」が共同で行うとされています。
▶遺贈の登記義務者について詳しくはコチラ