「父が亡くなり共有名義の不動産の相続登記を進めようとしている。代表して私が進めることになったけれど、委任状って必要なのかな?」
結論から言うと、登記申請人本人に代わって代理人が相続登記をする場合は、原則として委任状が必要です(法定代理人・特別代理人を除く)。
※相続の状況に応じて変わる可能性があります
委任状を正しく作成すれば、共有名義の不動産であっても、相続人全員がそろって相続登記を申請する必要はありません。
ただし、一つ気になる点があります。もしかすると、共有名義のまま手続きを進めようとしているために、委任状が必要になっているのではないでしょうか。
専門家の立場から申し上げると、これはあまりお勧めできない、リスクの高い選択です。実際、安易に共有名義を選んでしまい、後になって後悔されているご相談者様は少なくありません。
【共有名義で後悔した事例】 父が亡くなり、実家を「母と子供」の共有名義で相続登記をしました。その後、母親が認知症になって判断能力を失い、老人ホームの入居を検討しました。 母親を老人ホームに入れようとしたタイミングで「誰も住まなくなる実家を売却して入居費用に充てよう」と考えても、母親の同意が得られないため実家を売却できません。 結果として、入居費用は子供が自腹で捻出しなければならず、老人ホームへの入居を断念せざるを得なくなりました。 |
共有名義は、将来のトラブルの先送りでしかありません。
今回は、相続登記の委任状の概要や必要なケース、書き方などをまとめて解説します。
「こんなはずではなかった」と悔やまないためにも、委任状の作成を検討するタイミングでぜひ、本記事をじっくりお読みください。
目次
1章 相続登記の委任状とは
相続登記の委任状とは、不動産を相続する人(登記名義人になる人)の代わりに家族や司法書士などが手続きを進めるときに必要となる書類です。
| 相続登記の委任状 | |
| 概要 | 不動産を相続する人に代わり家族や司法書士などが手続きをするときに必要な書類 |
| 形式 | A4形式であれば決まったテンプレートはない (記載事項は「3章 相続登記の委任状の書き方とポイント」でまとめています) |
| 委任者 | 登記申請人となる相続人 |
| 受任者 |
|
| 提出のタイミング | 法務局で申請をするときに申請書などと一緒に提出する |
委任状の記載例は、下記のようなイメージです。
委任状が必要なケースは、具体的に以下の3つです。
【委任状が必要なケースの例】
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例えば、相続人であるAさんが相続登記の手続きをします。しかし、高齢で手続きが負担になるので、子供であるBさんが代わりに相続手続きを進めることになりました。
このときに委任状を作成して、登記申請書などと一緒に提出することで、Aさん本人が相続手続きをしなくても相続登記を完了できます。
委任状が不要な登記申請で委任状を提出しても相続登記は認められますが、委任状が必要な場合に提出しないと、法務局から補正を求められ、補正に応じなければ申請が却下される可能性があります。
委任状が必要な場合は忘れずに用意をして、相続登記の申請時に提出できるようにしましょう。
2章 相続登記の委任状が必要なケース
委任状が必要なケースは、不動産を相続する人以外が手続きをする場合です(法定代理人・特別代理人を除く)。
| 相続登記をする人 | 委任状の有無 |
| 相続人本人が相続登記をする | 不要 |
| 不動産を共有で取得する相続人全員で申請する | 不要 |
| 法定代理人・特別代理人が申請する | 不要 |
| 遺産分割協議などで複数の相続人が不動産を共有で取得し、そのうち1人が代理申請する場合 | 委任状が必要 |
| 司法書士に依頼をする | 委任状が必要 |
| 子供や第三者が申請する | 委任状が必要 |
※申請手続きの代理や法務局に提出する登記申請書の書面の作成、相談を業務として行えるのは司法書士と弁護士のみです
法定代理人や特別代理人が相続登記をする場合は、法律や家庭裁判所の審判によって代理権を持っているので委任状は不要です。
【用語解説】
- 法定代理人:親権者や成年後見人など法律の規定によって本人を代理する権限を持つ人
- 特別代理人:未成年者と親権者の利益が相反する場合などに、家庭裁判所が選任する代理人
一方で、個人的に司法書士や弁護士に登記申請をお願いする場合は、専門家への委任状が必要になります。
また、間違いやすいのは、不動産を複数の相続人で共有名義にしたときに、その中の代表者1名が法務局で申請をする場合です。
複数の相続人が不動産を共有で取得し、そのうちの1人が他の相続人の分も代理して申請する場合は、原則として委任状が必要です。
3章 相続登記の委任状の書き方とポイント
今回は、法務局が公表している委任状の見本に沿って、記載する項目とポイントをご紹介します。委任状も他の書類と同様にミスがあると受け取ってもらえません。
どのようなことを記載しなければならないのか、確認しておきましょう。
3-1 受任者(相続登記の依頼を受ける人)
まずは、誰に相続登記を委任するのか記載します。委任状の冒頭に、受任者の住所と氏名を併せて記載する方法が一般的です。
一例として、下記のように記載するといいでしょう。
【受任者の記載方法の例】
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孫や従兄弟など個人が受任者となる場合は、住所と氏名を記載します。司法書士や弁護士など士業の方が受任者になる場合は、事務所の所在地と担当者の氏名を記載しましょう。
3-2 委任する内容
続いて、受任者にどのような手続きを委任するのか記載します。内容が不明確だと、法務局に受け取ってもらえない可能性があるからです。
一例として、下記のように相続登記の手続きから完了後の業務までを踏まえて、委任する業務を記載します。
【委任状の書き方の例】
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注意したいのは、基本的に委任状に記載した業務範囲しか受任者は行うことができないことです。例えば、登記申請後の原本の受領なども任せたい場合は、その旨を記載する必要があります。
相続登記に関する全手続きを任せたい場合は「登記の申請に関する必要な一切の権限」など、関連業務を全て任せる旨を記載するといいでしょう。
3-3 委任者の住所・氏名・印
委任する内容の下には、委任状の作成日と委任者の住所・氏名・印を記載して、誰が委任をしたのか分かるようにします。
遺産分割協議書は相続人の実印での押印が必要ですが、委任状は認印でも問題ありません。ただし、実務ではなりすまし等の防止のため、実印を使う場合が多いです。
一例として、代理人に申請を委任する相続人の住所・氏名を記載し、押印します。複数の相続人が同じ代理人に委任する場合は、それぞれの住所・氏名・印を記載します。
【委任者の住所・氏名・印の例】 〇〇郡〇〇町〇〇番地 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地 |
3-4 登記の目的・原因
ここからは、相続登記をする不動産、相続人の情報を記載していきます。登記の目的・原因は、何の登記をするのか、なぜ登記をすることになったのか記載します。
この2つの項目は、登記申請書に記載する項目と同じです。一例として、下記のように記載します。
| 記載項目 | 概要/例 |
| 登記の目的 | ・亡くなった人が不動産を単独で所有している場合:所有権移転 <例> |
| 登記の原因 | ・不動産の所有者が亡くなった日付を記載する <例> |
登記の目的には「所有権移転」もしくは「〇〇持分全部移転」と記載します。
どちらか分からない場合は、登記事項証明書の「権利部(甲区)」を確認し、亡くなった人が単独で所有していたのか、持分を所有する共有者だったのかを確認しましょう。
登記の原因には、不動産の所有者が亡くなった日付を記載します。分からない場合は、戸籍の「死亡日」を見ると、正しい日付が把握できます。
3-5 相続人
続いて、対象の不動産の相続人を記載します。「3-3 委任者の住所・氏名・印」では「誰が受任者に委任をするのか」という意味で住所、氏名などを記載しました。
ここでは「誰が相続人なのか」を明確にする意味で、相続人の住所と氏名を記載します。
一例として、()内に被相続人の氏名を記載したうえで、相続人の住所と氏名を記載します。
【相続人の住所・氏名の例】 (被相続人:田中 四郎) 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地 持分2分の1 山田 花子 |
このときに、上記の例のように相続人が複数名いる場合は住所・氏名に加え、相続する不動産の持分を記載しましょう。
3-6 不動産の表示
最後に、相続する不動産の情報を記載します。基本的には登記事項証明書(登記簿謄本)の内容を見て、転記をしていきます。
一例として、不動産ごとに下記のように記載しましょう。
| 相続する不動産の種類 | 記載例 |
| 土地の場合 | 不動産番号:〇〇〇〇〇〇〇〇 |
| 建物の場合 | 不動産番号:〇〇〇〇〇〇〇〇 |
| マンション(一室)の場合 | 不動産番号:〇〇〇〇〇〇〇〇 一棟の建物の表示 敷地権の目的である土地の表示 敷地権の表示 |
相続不動産が共有である場合は、(共有者:鈴木 一郎 持分〇〇分の〇)と持分を記載する必要があります。
委任状は意外と記載する項目が細かく定められており、自力で正しく記載することが難しいです。
相続登記を司法書士に委任する場合は、委任状の作成も任せることができます。「ここに何を書けばいいのかな?」など悩む必要もなく、相続登記の手続きをまとめて依頼することが可能です。
4章 「委任状が必要」ということは共有名義で進めようとしていませんか?安易な共有名義のリスク
「何となく共有名義にしておこう」と安易な気持ちで手続きを進めているのなら、一度立ち止まってみてください。
今、安易に共有名義で相続登記してしまうと、将来トラブルが起きるリスクがあるからです。ここでは、安易に共有名義を選択するリスクをご紹介します。
| 安易に共有名義で相続登記をするリスク |
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本当に共有名義のまま進めていいのか、確認してみましょう。
4-1 将来不動産が凍結する可能性がある
1つ目は、将来不動産が凍結する可能性があることです。不動産を売却する、貸し出すなどの活用をするには、原則として共有名義人全員の同意が必要です。
そのため、安易に共有名義にして下記のような状態に陥ると、共有名義人全員の同意が得られずに「売却したくてもできない」「必要な修繕ができない」という事態に陥るのです。
【共有名義にしたことで不動産が凍結する例】
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例えば、共有名義人のうち、誰か一人でも認知症などになり判断能力を失ってしまうと、法的に有効な同意(意思表示)を行うことができません。
実際に下記のように、母が認知症になってしまい、実家を売却できなかった事例もあります。
【母の同意が得られず実家を売却できなかった事例】 父が亡くなり、実家を「母と子供」の共有名義で相続登記をしました。その後、母親が認知症になって判断能力を失い、老人ホームの入居を検討しました。 いざ母親を老人ホームに入れようとしたタイミングで、「誰も住まなくなる実家を売却して入居費用に充てよう」と考えても、母親の同意が得られないため実家を売却できません。 結果として、入居費用は子供が自腹で捻出しなければならず、老人ホームへの入居を断念せざるを得なくなりました。 |
このように、安易に共有名義を選択すると、将来不動産を活用したいタイミングでどうすることもできず凍結してしまうリスクがあります。
ご家族の将来を見据えて「どのように相続すればいいのか」最適な経路を検討する必要があるのです。
4-2 配偶者居住権を使ってもリスクは残る
2つ目は、配偶者居住権を使ってもリスクは残ることです。
【配偶者居住権とは】 夫や妻が亡くなった後も、残された配偶者がその家に家賃を払わず住み続けられる権利のことです。配偶者は被相続人の遺言や、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)などで配偶者居住権を取得できます。 例えば、父名義の一戸建てを長男が相続すると、配偶者は家の所有者ではなくなります。しかし、配偶者居住権を取得していれば、新しい所有者である長男に使用料や家賃を支払わずに一戸建てに住み続けることが可能です。 |
参考:法務局「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」
配偶者居住権は、残された配偶者が家に住み続けられるようにと、配偶者を守る目的で設定されていますが、実際には不動産が事実上凍結してしまうケースがあります。
例えば、配偶者居住権が設定されていると、配偶者が「やっぱりこの家を売って老人ホームの入居費用に充てたい」と思っても、単独で売却できません。
家を売るためには、まず配偶者居住権を解除しなければなりません。解除手続きのための登記申請は煩雑なうえ、配偶者単独では行えず、建物の所有者と配偶者の共同申請が必要です。
配偶者が認知症などになり判断能力がない場合は申請作業を進められず、結果として施設への入居資金が用意できない事態が起きているのです。
このように「配偶者居住権を使えば共有名義のリスクを軽減できる」と考えるかもしれませんが、実際には身動きが取れなくなる原因になることがあります。
だからこそ「とりあえず共有名義」にするのではなく、さまざまなリスクを軽減する経路を見つけて相続登記をする必要があるのです。
5章 将来後悔しない相続登記をするためにグリーングループと一緒に進めてみませんか?
相続登記は「ただ名義を変えるだけの手続き」ではありません。
相続に関する相談件数が累計55,193件(2025年10月末現在)と多いグリーングループでは、相続登記の手続きだけでなくご家族にとって最適な経路を提案できる体制が整っています。
安易に共有名義にせず、ご家族の状況に応じて、将来の税金や不動産の活用までを見据えたベストな経路を設計しませんか?
私たちは、相続手続き・不動産・税務の各領域が連携し、専門知識を最大限活用しながら「将来不動産を活用するにはどうすればいいのか」「どのような節税対策ができるのか」など、課題に応じたアドバイスができます。
実際に、複数の不動産の相続登記が迫るなか、兄弟間で納得できる経路の検討をした事例があります。
| 評価額数億円の不動産の相続登記と税金の納付を実現した事例 |
被相続人が亡くなり、相続登記を進めることになりました。被相続人の子であるご依頼者様が相続財産を確認したところ、評価額の合計で数億円になる複数の土地と、預貯金約1,000万円がありました。 相続税が約1,000万円となる見込みで、納税資金をどう確保するかが現実的な問題に。相続した土地に今後も住み続けたい思いがあるので、不動産を売却して資金を作る選択肢はありません。 相続税の納付期限が迫るなかで、この状況は自分たちでは解決できないと思い、グリーングループにご相談いただきました。 <グリーングループだからこそできたこと>
不動産を売却しない意向があったため、限られた資産のなかから期限内に納税資金を捻出しなければならず、慎重な対応が求められました。 相続手続き・不動産・税務の各領域が連携しているからこそ相続と相続税申告の両方面から手続き方針を検討して解決できた事例です。 この事例は下記で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。 |
一度相続登記を完了してしまうと、簡単にやり直すことはできません。だからこそ、相続登記の手続きを進めるタイミングで、専門家に今の不安や課題をお話してみませんか。
まとめ
本記事では、相続登記時の委任状の概要や書き方、共有名義の注意点をまとめて解説しました。最後に、この記事の内容を振り返ってみましょう。
〇相続登記の委任状とは、不動産を相続する人(登記名義人になる人)の代わりに家族や司法書士などが手続きを進めるときに必要となる書類
〇委任状が必要なケースは、不動産を相続する人以外が手続きをする場合(法定代理人・特別代理人を除く)
〇相続登記の委任状に記載する項目は下記のとおり
| 記載する項目 | 概要 |
| 受任者 | 誰に相続登記を委任するのか記載する |
| 委任する内容 | 受任者に依頼する業務を記載する |
| 委任者の住所・氏名・印 | 委任状の作成日と委任者の住所・氏名・印を記載する |
| 登記の目的・原因 | 対象となる不動産を登記する目的、原因を記載する |
| 相続人 | 対象となる不動産を相続する人を記載する |
| 不動産の表示 | 対象となる不動産の基本的な情報を記載する |
〇安易に共有名義で相続登記をするリスクは下記のとおり
- 将来不動産が凍結する可能性がある
- 配偶者居住権を使ってもリスクは残る
相続登記はただ書類を作成するだけでなく、将来トラブルが起こらないようにご家族にとって最適な経路を検討することが非常に重要です。
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