相続時精算課税制度とは、2,500万円までの贈与税がかからなくなるかわりに、相続発生時に贈与された金額も相続税の計算に加える制度です。
相続税の節税効果はないものの贈与税の節税対策として、まとまった資金を一度に贈与したいケースに活用されます。
ただし、相続時精算課税制度を適用するには、贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日の間に確定申告書と相続時精算課税選択届出書を提出しなければなりません。
申告を忘れた場合、相続時精算課税制度は適用されず暦年贈与による贈与とみなされるので、高額な贈与税がかかる恐れがあります。
本記事では、相続時精算課税制度の申告忘れのデメリットや暦年贈与との贈与税の比較を解説します。
相続時精算課税制度については、下記の記事でも詳しく紹介しているのでご参考にしてください。
目次
1章 相続時精算課税制度適用時には確定申告が必要
相続時精算課税制度とは、2,500万円までの贈与税がかからなくなる制度です。
贈与税がかからなくなるかわりに、相続時精算課税制度によって行われた贈与は相続発生時に相続税がかかります。
相続時精算課税制度は贈与税を節税できる制度ですが、適用時には確定申告で贈与税を計算、納税しなければなりません。
贈与税の申告期限は、贈与を受けた翌年の2月1日〜3月15日となっています。
なお、相続時精算課税制度の適用により贈与税額が0円になった場合も申告が必要なのでご注意ください。
相続時精算課税制度の概要は、下記の通りです。
概要 | 2,500万円までの贈与税がかからなくなるかわりに、相続発生時に贈与した財産も加えて相続税を計算する制度 |
適用要件 | 60歳以上の祖父母や父母から18歳以上の子や孫へ贈与をする |
控除額 |
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申告期限 |
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これまで相続時精算課税制度を利用すると、毎年の贈与税の基礎控除額110万円は利用できませんでした。
しかし、2024年1月1日以降は相続時精算課税制度を選択した人にも毎年110万円の基礎控除額が与えられます。
相続時精算課税制度に基礎控除額が導入されたことにより、下記のメリットがあります。
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与税の申告および納税は不要
- 毎年110万円以下の贈与であれば贈与財産を相続税の加算対象に含めなくて良い
贈与者の年齢によっては毎年の基礎控除額を利用して贈与すれば、贈与税および相続税を大幅に節税できるでしょう。
制度改正により相続時精算課税制度を利用すべきかお悩みの人は、相続に精通した税理士に相談するのがおすすめです。
2章 相続時精算課税制度の申告忘れによるデメリット
相続時精算課税制度を利用するには、贈与税の申告時に必ず相続時精算課税選択届出書を添付する必要があります。
もし申告や添付を忘れると、①相続時精算課税制度を適用できなくなるや②加算税や延滞税などのペナルティが発生するといったデメリットがあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1 相続時精算課税制度を適用できなくなる
相続時精算課税制度を利用するにもかかわらず相続時精算課税選択届出書を添付しなかった、もしくは贈与があったにもかかわらず確定申告をしなかった場合には、相続時精算課税制度を適用できません。
添付書類の提出や申告を忘れていていた場合でもさかのぼって適用することは認められないので、暦年贈与で贈与をしたとみなされます。
暦年贈与とは、相続時精算課税制度を利用しない贈与であり控除額は年間110万円のみです。
相続時精算課税制度を適用した場合と暦年贈与を適用した場合の贈与税額がどれだけ違ってくるかは、本記事の3章で詳しく解説します。
2-2 加算税や延滞税などのペナルティが発生する
相続時精算課税選択届出書の添付し忘れもしくは贈与後の確定申告をしなかったことにより、納税額が不足していた場合には加算税や延滞税などの追徴課税がかかります。
相続時精算課税制度が適用されなかったことにより、発生するペナルティの詳細は本記事の4章で詳しく解説します。
このように、相続時精算課税制度を適用できないと、追徴課税のペナルティが発生します。
さらに、相続時精算課税制度を適用できず暦年贈与で課税されることによって納めるべき贈与税額も上がってしまう恐れがあります。
次の章では、相続時精算課税制度ではなく歴年贈与になったときの贈与税の計算方法を見ていきましょう。
3章 申告忘れで相続時精算課税制度が適用できなかったときの贈与税計算例
本記事の1章で解説したように、相続時精算課税制度は要件を満たせば2500万円までの贈与が非課税になる制度です。
一方で、暦年贈与の場合、毎年110万円の控除枠のみが与えられます。
以下の条件で相続時精算課税制度と暦年贈与それぞれを適用したときの贈与税を確認してみましょう。
【条件】
- 65歳の父親が25歳の子供に2,000万円の贈与をした
- 過去に相続時精算課税制度の適用をしていない
【相続時精算課税制度を適用した場合】
- 「贈与額:2,000万円<相続時精算課税制度の非課税枠:2,500万円」なので、贈与税はかからない
- ただし、確定申告および相続時精算課税選択届出書の提出が必要
【暦年贈与の場合】
- (2,000万円-110万円)×45%-265万円=585.5万円
- 確定申告が必要
上記のように、相続時精算課税制度や贈与税の申告を忘れてしまうと、納税額が数百万円も変わってしまう可能性があります。
贈与税の申告自体をし忘れていた場合は、上記の納税に加えて追徴課税のペナルティも発生してしまうのでご注意ください。
次の章では、相続時精算課税制度の申告忘れで発生するペナルティを詳しく解説します。
4章 相続時精算課税制度の申告忘れで発生するペナルティ
本記事の2章でも軽く解説しましたが、確定申告が必要なのにしなかった場合や納税期限までに税金を納められなかった場合には追徴課税が科せられます。
相続時精算課税制度の申告忘れで発生しうる追徴課税は、無申告加算税と延滞税です。
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 無申告加算税
無申告加算税とは、確定申告の期限までに申告をしなかった際に課せられる税金です。
税率は税務署に指摘されてから申告したケースと指摘前に自分で申告したケースで変わります。
申告するタイミング | 税率 |
税務調査の通知を受ける前 | 5% |
税務調査の通知を受け、実際に調査が入るまで | 50万円まで:10% 50万円を超える部分:15% |
税務調査が入った後 | 50万円まで:15% 50万円を超える部分:20% |
4-2 延滞税
延滞税とは、贈与税などの納税が遅れたときに課せられる税金です。
税率は下記のように設定されており、納付期限から2ヶ月を過ぎると税率が上がります。
時期 | 税率 |
納付期限の翌日から2ヶ月以内 | 年7.3% (令和4年末までは2.4%) |
納付期限から2ヶ月を過ぎた場合 | 年14.6% (令和3年末までは8.7%) |
相続時精算課税制度の申告忘れをしている場合、自分で申告を忘れていることに気付くのではなく、税務調査や相続発生時に税務署から指摘されて気付くケースもあるでしょう。
その場合、納税期限から大幅に期間が経っている可能性もあるので、延滞税の金額もかさんでしまう恐れがあります。
まとめ
相続時精算課税制度を適用する際には、贈与税がかからなかったとしても翌年の確定申告書と相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。
確定申告や相続時精算課税選択届出書の添付をし忘れた場合には、相続時精算課税制度が適用されず暦年贈与による生前贈与として扱われてしまいます。
結果として、数百万円の贈与税が課税される可能性もあるのでご注意ください。
相続時精算課税制度は確定申告書の作成だけでなく、そもそも制度を利用すべきケースかどうかの判断も難しい制度です。
制度利用を検討している人は、相続に詳しい税理士に相談するのがおすすめです。
グリーン司法書士法人では、相続時精算課税制度や相続対策に関する相談をお受けしています。
相続に精通した税理士を紹介することもできますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
相続時精算課税制度で申告しないとどうなる?
相続時精算課税制度の申告忘れのデメリットは、下記の2点です。
・相続時精算課税制度を適用できなくなる
・加算税や延滞税などのペナルティが発生する
▶相続時精算課税制度の申告忘れのデメリットについて詳しくはコチラ
相続時精算課税制度の無申告の時効は?
贈与税には時効が設定されており、贈与税の申告期限から6年経過すると、贈与税を支払う義務が消滅します。
なお、贈与税の申告義務を把握していて意図的に申告や納税をしなかった場合は、時効が7年に延びてしまいます。
▶贈与税の時効について詳しくはコチラ
相続時精算課税制度は毎年申告が必要?
2024年以降は相続時精算課税制度に基礎控除が設定されたため、年間110万円以内の贈与であれば、相続時精算課税制度を選択していても贈与税の申告は必要ありません。