
家族信託を検討されている多くの方は、家族信託の手続きにはいくら費用がかかるんだろう?と心配されているのではないでしょうか。
家族信託は非常にメリットの多い制度ですが相応の費用がかかります。
信託する財産の額や財産の種類・数によって費用は大きく増減しますが、一般的な相場は以下のとおりです。
信託財産に不動産がない場合・・・30~70万円以上
信託財産に不動産がある場合・・・50~100万円以上
このように一見すると高額な費用に思いますが、他の制度を利用した場合にかかる費用や家族信託にしか実現できないメリット等をふまえ、総合的に比較検討することが大切です。
たとえば認知症になって成年後見制度を利用する際、成年後見人に司法書士や弁護士が選任されると、月額2~6万円程度の報酬を支払わなければなりません。
認知症の代表であるアルツハイマー病は発症してから、平均8年間で死亡すると言われているため、仮に月額3万円の報酬がかかるとすると合計288万円もの金額になります。
これに対して、家族信託であれば、財産の管理をするのは家族なので報酬を払う必要はありません。
家族信託について相談を受けて感じることは、多くの方が「費用について心配されている」ということです。
そのような経験から家族信託について検討をすすめるには、第一に「かかる費用の目安」を知ることが非常に大切と考えています。
本記事が家族信託を迷っている方々が一歩を踏み出す機会になればと思います。
目次
1章 家族信託の手続きに必要な費用
はじめに家族信託の手続きに必要な費用の全体像を確認しましょう。
かかる費用の種類と目安は以下のとおりです。
※財産額や種類、契約内容で大きく増減することがあるため、上記一覧はあくまで目安としてご参照ください。
このように家族信託の手続きにかかる費用は信託する財産の種類や財産額などによって大きく増減しますが、信託財産に不動産を含む場合は、不動産の価値や物件数に応じて60~100万円以上、不動産を含まない場合でも30~50万円程度はかかることを想定しておく必要があるでしょう。
次にそれぞれの費用について詳しく説明していきます。
1-1 専門家のコンサルティング費用【費用相場:信託財産の1%】
司法書士や弁護士などの専門家に信託内容を設計してもらうコンサルティング費用です。
自身で信託法を勉強して信託内容を設計すれば、専門家へ支払うコンサルティング費用はかかりません。しかし、専門家の関与なく家族信託を有効に実行することは、非常に難易度が高いので現実的には難しいでしょう。
また、家族信託の手続きを進める前には遺言、成年後見、生前贈与など他の相続対策と比較して、「本当に家族信託がベストな選択であるか」を検討する必要があるため、【相続】と【家族信託】に精通している司法書士や弁護士などの専門家を探すことが一番大切であると言えます。
コンサルティング費用は各専門家によって決められているため一律ではありませんが、ここでは多くの専門家が加盟している一般社団法人家族信託普及協会が目安としている報酬基準をご紹介いたします。
このように信託する財産(現金や不動産)が1億円以下の場合は財産評価額の1%(最低額30万円)となります。
不動産は固定資産税評価額で試算することになるので、年に一度市区町村から送られてくる納税通知書に添付されている課税明細書で固定資産税評価額を確認することができます。
たとえば、この報酬基準により現金2000万円と不動産2000万円(評価額)を信託する場合は、40万円のコンサルティング費用がかかると想定しておきましょう。
1-2 公正証書作成の手続き代行費用【費用相場:10万円~15万円】
家族信託の契約書を公正証書にするには、事前に公証役場へ資料を提出し、公証人と綿密に打ち合わせしておく必要があります。その後、予約をとって委託者と受託者で公証役場へ訪問し、公正証書を作成します。
公正証書化の代行費用とは、これらの煩雑な手続きや作成当日の同行を専門家に依頼する費用です。
専門家が同行してくれれば、安心して家族信託の契約書を公正証書にすることができるでしょう。
この費用は専門家によって様々ですが【10万円~15万円】と想定しておきましょう。
1-3 公正証書の作成費用【費用相場:3万円~10万円】
公正証書の作成費用とは、公証役場で公証人に公正証書を作成してもらうために支払う手数料です。
信託する財産額や契約内容によって増減しますが【3万円から10万円程度】と想定しておきましょう。
信託契約書は原則、私署証書(私文書)で作成してもいいため、自身で信託契約書を作成し契約締結すれば効力が発生します。したがって、自身で契約書を作成すれば公正証書の作成費用等はかかりません。
しかし、公正証書で作成しておけば次のようなメリットがあるので、公正証書で作成しておくことをオススメしています。
【証拠能力が高い】
公正証書は公証人関与のもと本人の意思確認をして作成されるため、信頼性の高い契約書になります。そのため本人の意思喪失などを理由にした相続人間の紛争が起こりにくいのです。また、税務調査があったときにも、信託契約を締結したことの証拠として提示することができます。
【再発行が可能】
公正証書の原本は公証役場で保管されるので、万が一、信託契約書を失くしても公証役場で再発行してもらえます。そのため紛失、焼失、盗難など不測の事態が起こっても安心です。
1-4 司法書士への登記依頼費用【費用相場:8万円~12万円】
信託財産に不動産を含む場合には、不動産の名義を委託者から受託者へ変更する手続きを行う必要があります。自身で申請書や添付書類を作成し法務局で登記申請すれば、司法書士への依頼費用はかかりません。
しかし、家族信託に関する登記については、他の登記に比べ難易度が高いので、申請書の準備や法務局への登記申請など、煩雑な登記手続きを司法書士へ依頼することをオススメします。
司法書士に依頼する費用は信託する不動産の評価額や物件数によって増減しますが【8万円~12万円程度】と想定しておきましょう。
1-5 登録免許税【費用相場:固定資産税評価額の0.3~0.4%】
法務局での名義変更手続きの際に納付しなければならない費用がこの登録免許税です。登録免許税は固定資産税評価額を基準に以下のとおり算定することになります。
- 土地の場合・・・固定資産税評価額の3/1000(0.3%)
- 建物の場合・・・固定資産税評価額の4/1000(0.4%)
たとえば、評価額3000万円の土地を信託する場合には、9万円の登録免許税がかかります。
1-6 【ケース別】費用シミュレーション
ここではケース別に費用のシミュレーションをしてみたいと思います。
依頼する専門家や信託する財産額、種類によってかかる費用は大きく増減しますので、費用シミュレーションはあくまで目安として参考にしてください。
また、専門家へ依頼せずに家族信託を行うことは現実的に難しいため、ここでは専門家へ依頼することを前提にシミュレーションしたいと思います。
・専門家のコンサルティング費用 30万円
・公正証書化の代行費用 10万円
・公正証書の作成費用 4万円
合計44万円(税別)
・専門家のコンサルティング費用 30万円
・公正証書化の代行費用 10万円
・公正証書の作成費用 4万円
・司法書士への登記依頼費用 10万円
・登録免許税 10万円
合計64万円(税別)
・専門家のコンサルティング費用 60万円
・公正証書化の代行費用 10万円
・公正証書の作成費用 6万円
・司法書士への登記依頼費用 10万円
・登録免許税 10万円
合計96万円(税別)
・専門家のコンサルティング費用 125万円
・公正証書化の代行費用 10万円
・公正証書の作成費用 10万円
・司法書士への登記依頼費用 10万円
・登録免許税 35万円
合計190万円(税別)
※仮に信託契約書を公正証書化しない場合は、公正証書に関する費用を控除すれば費用相場になります。
2章 家族信託にかかる費用を節約する方法
ご覧いただいたとおり、家族信託を行うには最低でも数十万円の費用がかかることになります。
最も費用を節約する方法は、信託契約の内容検討から書面化、登記申請まで全てご自身で行うことです。
全て自身で行えば当然かかる費用は登録免許税などの実費だけで済むことになります。しかし、家族信託は非常に複雑な契約となるため、間違いや漏れがあると、法律上に無効になってしまう可能性もあります。
また、無効になるだけでなく、家族間(相続人間)での紛争の火種にもなりかねませんので、やはり専門家へ依頼することをオススメします。
どうしても節約もしたいと思う人は以下について検討してみてください。
節約プラン【公正証書にはせず、公証人役場で確定日付だけもらう】
この方法は信託契約書を公正証書にせず、私文書で作成し、契約書が年月日時点にあったことだけ公証人役場で確定日付の印を押してもらう方法です。これにより「公正証書化」の費用、「公正証書の作成費用」を合わせ10~20万円程度の節約ができます。
デメリットとしては私文書になるので、後日の証拠力として弱い、契約書を紛失すると取り返しがつかないということです。
まとめ
家族信託を行うには「30万円~100万円」と高額な費用を想定しておく必要があります。
したがって、家族信託を行う際には事前に成年後見や生前贈与の場合にかかる費用と比較したり、家族信託にしか実現できないメリット等をふまえ検討するべきです。
また、かかる金額の多寡だけでなく、家族の想いを実現するためには【相続】や【家族信託】に精通した司法書士や弁護士に相談することが一番重要と言えるでしょう。
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