亡くなった人が生前に遺言書を作成していなかった場合には、遺産分割協議書の作成が必要です。
遺産分割協議書とは、誰がどの遺産をどれくらい相続するかを話し合い決定した内容をまとめ、相続人全員で署名、押印したものです。
結論から言えば、相続人の一部が勝手に押印、作成した遺産分割協議書は無効になります。
ただし、「遺産分割協議書に勝手に押印されたから無効だ」と主張するには証拠が必要になり、トラブルが泥沼化しやすいです。
相続人間では解決が難しいので、トラブルになった際や不審な点がある場合には弁護士に相談しましょう。
信頼できる家族や親族から言われても、実印の管理は自分で行い、署名や押印をする際には遺産分割協議書の内容を確認することが大切です。
本記事では、遺産分割協議書に勝手に押印された、作成された場合の対処法を解説します。
その他、起きやすい相続トラブルに関しては下記の記事もご参考にしてください。
目次
1章 勝手に押印・作成された遺産分割協議書は無効になる
相続人本人が同意しない状態で押印、もしくは本人の実印を偽造して押印した遺産分割協議書は無効になり、相続手続きで使用できません。
勝手に押印、作成された遺産分割協議書は効力を持たず相続手続きに使用できない以外にも以下のデメリットがあります。
- 遺産分割協議自体が無効になるのでやり直しが必要になる
- 遺産分割協議書を偽造した人は損害賠償請求や刑事罰を受けるリスクがある
遺産分割協議書へ勝手に押印した人に生じるペナルティについては、5章で詳しく解説します。
また、遺産分割協議書が無効になるのは、勝手に押印、作成されたケースだけではありません。
次の章では、遺産分割協議書が効力を持つための条件を詳しく解説します。
2章 遺産分割協議書が効力を持つ条件
遺産分割協議書が効力を持つには2つの条件を満たさなければなりません。
詳しく解説していきます。
2-1 相続人全員が遺産分割協議に参加する
そもそも相続人全員が参加していない遺産分割協議は無効になるので、その内容をまとめた遺産分割協議書も当然、無効になってしまいます。
遺産分割協議とは、相続人全員で「誰がどの遺産をどれくらい受け継ぐか」を決める話し合いです。
なお、遺産分割協議は相続人全員で行う必要はあるものの直接会って話し合う必要はありません。
- メールや手紙
- 電話
- LINE
上記のように、様々な方法で行った話し合いも遺産分割協議として有効です。
2-2 相続人全員が遺産分割協議書に押印・署名する
遺産分割協議書は相続人全員の押印と署名が必要です。
署名と押印が「遺産分割協議書に記載された内容に同意した」という証明になるからです。
なお、遺産分割協議書への押印は実印を使用しなければなりません。
押印に使用された印鑑が実印であると証明するために、印鑑証明書も用意しておきましょう。
3章 遺産分割協議書へ勝手に押印・作成されたときの対処法
2章で遺産分割協議書が効力を持つための条件を解説しましたが、逆に言えば条件を満たした場合、遺産分割協議書に書かれた内容をくつがえすことは難しくなってしまいます。
万が一、遺産分割協議書へ勝手に押印、作成されたときには専門家や法律の力を借りて遺産分割協議書の無効を争う必要があります。
具体的には、以下の方法で遺産分割協議書の無効や作成し直しを主張しましょう。
- 弁護士に相談する
- 遺産分割調停・審判の申立てをする
- 遺産分割協議書の無効を争う
それぞれ詳しく解説していきます。
3-1 弁護士に相談する
遺産分割協議書へ勝手に押印されたときには、相続人間での解決は難しいので、弁護士に相談しましょう。
相続人間で利害が対立していますし、遺産分割協議書に勝手に押印した相続人は偽造を認める可能性が低いからです。
弁護士に相談すれば、以下の対応をしてもらえます。
- どのように対抗していけば良いか判断、提案をしてくれる
- 相手との交渉を代行してくれる
- 相手と裁判になった場合には代理人になってくれる
遺産分割協議書に勝手に押印した相続人に対し、弁護士が交渉すれば、後述する遺産分割調停や審判を行わず解決できるケースもあります。
3-2 遺産分割調停・審判の申立てをする
遺産分割協議書へ勝手に押印した相続人が交渉に応じ、他の相続人も同意すれば遺産分割協議のやり直しを行えます。
ただ、遺産分割協議のやり直しに不安を感じるのであれば、家庭裁判所へ遺産分割調停の申立ても可能です。
遺産分割調停とは、相続人全員が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法について話し合うための手続きです。
遺産分割調停はあくまでも相続人全員による話し合いであり、内容によっては話し合いがまとまらず不成立になる場合もあります。
遺産分割調停が不成立になった場合は、遺産分割審判という手続きに自動的に移り、裁判所が遺産分割方法を決定します。
遺産分割調停の申立てにかかる費用や必要書類は、下記の通りです。
申立てできる人 |
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申立て先 | 相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所 |
申立て費用 |
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必要書類 |
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3-3 遺産分割協議書の無効を争う
遺産分割調停や審判で財産の相続方法を決定するだけでなく、遺産分割協議書の無効を法的に争う場合には、以下の2つの手続きを行いましょう。
証書真否確認請求訴訟 | 遺産分割協議書が正しく作成されたかを争う訴訟 |
遺産分割協議不存在確認訴訟 | 遺産分割協議書が偽造されているかを争う訴訟 |
どちらの方法で争うにせよ、遺産分割協議書へ勝手に押印された事実を証明する必要があります。
手続きおよび裁判所での主張は法律に関する専門的な知識が必要なので、弁護士に相談するのがおすすめです。
3-4 損害賠償請求訴訟・返還請求訴訟を行う
遺産分割協議書の無効を争うだけでなく、相続人の一人に有利な遺産分割を行ったことによる「不当な利得の返還」や「こちらが受けた損害」の請求も可能です。
相手方との交渉で解決しない場合には、裁判所で訴訟手続きを行う必要があるので、弁護士に依頼し手続きおよび交渉を進めてもらうのが良いでしょう。
4章 遺産分割協議書への勝手な押印・作成の予防方法
3章で解説したように、遺産分割協議書へ勝手に押印された場合、くつがえすには法的な手続きや勝手に押印された事実を証明しなければなりません。
弁護士への依頼が必要になり手間と費用がかかりますし、トラブルが泥沼化してしまうと問題が解決した後も相続人間の関係は元に戻らないでしょう。
このようなトラブル自体を避けるために、以下の方法で遺産分割協議書への勝手な押印や作成を予防するのが重要です。
- 実印を自分で管理する
- 押印・署名時には書類の内容を確認する
- 他の相続人とのやり取りの証拠を残す
それぞれ詳しく解説していきます。
4-1 実印を自分で管理する
2章で解説したように、遺産分割協議書は相続人全員による実印での押印と印鑑証明書の提出が必要です。
納得できない内容の遺産分割協議書に押印しないように、実印は必ず自分で管理しましょう。
信頼できる親や兄弟、その他の親戚であっても実印を預けず、遺産分割協議書の内容を確認した上で実印を捺すようにすれば偽造トラブルは起きません。
4-2 押印・署名時には書類の内容を確認する
遺産分割協議書に押印、署名をする際には書類の内容を必ず確認しましょう。
相続手続きは多岐にわたり、実印を捺す機会や署名をする機会は非常に多いです。
そのため、他の相続手続きに関する書類に紛れ、よく確認しないまま自分に不利な内容が書かれた遺産分割協議書に押印、署名してしまう恐れもあります。
もちろん、「後で内容を書いておくから、とりあえず白紙の遺産分割協議書に押印と署名をして」と言われた場合も拒否することが大切です。
4-3 他の相続人とのやり取りの証拠を残す
遺産分割協議書の無効ややり直しを主張するためには、無効とすべき理由を証明しなければなりません。
遺産分割協議の内容に関する証拠を残しておくためにも、他の相続人とのやり取りはメールやLINE、手紙など文章で遺しておくのがおすすめです。
5章 勝手に遺産分割協議書へ押印・作成した場合のペナルティ
本記事の1章で解説しましたが、遺産分割協議書への勝手な押印や偽造は、損害賠償訴訟や刑事罰などのペナルティを受ける場合があります。
一方で、永久に相続権を失う相続欠格には該当しません。
遺産分割協議書へ勝手に押印した場合のペナルティを詳しく解説していきます。
5-1 損害賠償請求を受ける恐れがある
遺産分割協議書への勝手な押印によって、他の相続人が不利益を被った場合には損害賠償請求を受ける恐れがあります。
例えば、遺産分割協議書を偽造して遺産のうち不動産を独占していた場合、不動産の原状回復費用などを請求される可能性が高いでしょう。
5-2 刑事罰を受ける恐れがある
遺産分割協議書への勝手な押印は、私文書偽造罪などの犯罪に該当し、3ヶ月以上5年以下の懲役刑や罰金刑を受ける恐れがあります。
遺産分割協議書の偽造によって受ける罪は、主に下記の通りです。
名称 | 概要 | 懲役・罰金の内容 |
私文書偽造罪 | 他人の印鑑や署名を勝手に使用、偽造した印鑑や署名によって私文書(遺産分割協議書)を作成した罪 | 3ヶ月以上5年以下の懲役 |
偽造文書行使罪 | 偽造された遺産分割協議書を使用した人、使用しようとした罪 | 3ヶ月以上5年以下の懲役 |
公正証書原本不実記載罪 |
| 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
詐欺罪 | 偽造した遺産分割協議書を銀行口座の名義変更時に使用した場合に該当する | 10年以下の懲役 |
5-3 相続欠格には該当しない
遺産分割協議書へ勝手に押印した相続人に対しては「やり直し予定の遺産分割協議に参加してほしくない」「財産を渡したくない」と考える人も多いはずです。
しかし、遺産分割協議書への勝手な押印や偽造は相続欠格には該当しないので、相続権を失うことはありません。
相続欠格とは、相続に支障をきたす犯罪行為や不法行為を行った人の相続権を強制的に剥奪することです。
相続欠格に該当するケースは、法律によって以下のように決められています。
- 故人や相続人を殺害したもしくは殺害しようとした
- 故人が殺害されたことを知りながら告発・告訴をしなかった
- 故人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更・取消を妨害した
- 被相続人に詐欺や脅迫を行い遺言の作成や変更、取消をさせた
- 遺言書を偽装・変造・破棄・隠蔽した
上記のように、相続欠格は遺言書の偽装に関してのみ決められており、遺産分割協議書への勝手な押印や偽造は該当しないとされています。
まとめ
遺産分割協議書は相続人全員の署名および押印が必要であり、勝手に押印された遺産分割協議書は無効になります。
ただし、押印や署名が勝手にされたものであると証明することは難しく、当事者同士での解決は難しいでしょう。
遺産分割協議書の作成時に不審な点があった場合には、相続トラブルに詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士であれば、相手方との交渉やその後の裁判所での手続きも代理人になってくれます。
また、遺産分割協議書への勝手な押印を避けるために、書類の内容をよく確認する、実印を自分で管理するなども大切です。
相続手続きは非常に多岐にわたり、相続人のみで行おうとすると手間がかかり、後々トラブルになるリスクもあります。
トラブルを避け少しでも相続手続きの手間を減らしたいのであれば、相続に詳しい司法書士や弁護士への相談もご検討ください。
グリーン司法書士法人では、遺産分割協議書作成や相続手続きに関する相談をお受けしています。
初回相談は無料、かつオンラインでの相談も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
遺産分割協議のハンコ代はいくら?
相続人に相続放棄をしてもらった際のハンコ代の相場は、下記の2つです。
①5~30万円程度の心づけ程度
②法定相続分の一定割合
▶ハンコ代について詳しくはコチラ
遺産分割協議をしないとどうなる?
遺産分割協議が完了しないと銀行口座や不動産の名義変更などの相続手続きを行えません。
相続人が亡くなり新たな相続が発生すると、相続人が増え遺産分割協議が難航する恐れもあります。
▶遺産分割協議をしないリスクについて詳しくはコチラ
遺産分割協議書に実印を押す場所は?
遺産分割協議書に実印を押すときは署名の後と複数ページにまたがる場合はすべてのページに割印をする必要があります。
▶遺産分割協議書の書き方について詳しくはコチラ